DRAGON QUEST ダイの大冒険
―魔法使いが願うこと―

 
行方不明だった勇者を連れて天界から帰ってきた時、俺は信じて疑わなかった。

あの頃のように、ずっと二人で一緒に居られるんだって。


でも、現実は違った。


世界中の歓喜と祝福を受けて、仲間達が嬉しさを滲ませながら文句を言った後、
ダイの隣に立っているのは、

国を治める責任故にあいつを捜しに行くことも出来ず、
勇者の帰還を待ち続けていたお姫様だった。


 パプニカ城の昼休み。
 綺麗に木々が整えられた中庭で、ダイが姫さんと散策しているのを、俺は執務室の窓からぼんやりと眺めていた。
「今日の勉強は各地に伝わる郷土料理とか、食文化だったんだ。食べ物に関することだから、いつもより分かりやすくてさ」
「ダイ君ったら。それ、あの先生に言ったら泣かれちゃうわよ?」
俺や仲間達からすれば、友達レベルの他愛のない会話だ。でも、周囲の奴らがあの二人に向ける視線は、そう受け取ってはいない。

(姫様、ダイ様と楽しそうにお過ごしでいらっしゃる)
(ダイ様も最近、一段と背が高くなられて……姫様とお似合いですこと)
(お二人とも成人前だけど、婚約は時間の問題だろうな)

 侍女や近衛兵の噂話が、下の回廊からヒソヒソと聞こえてくる。
 大魔王を倒した勇者と、かつて彼に命を救われたお姫様――端から見れば、御伽話のような一対。アバン先生とフローラ様という前例があるだけに、パプニカ国民の期待は日増しに高まっていた。


ダイは俺にとって、唯一無二の親友だ。
自分の全てを犠牲にしてでも、この地上を、俺達を護ってくれたあいつだから。
この地上の誰よりも、幸せになってほしくて。
その太陽のような笑顔を、いつまでも見ていたくて。
可憐な姿に強い意志を秘めた妹弟子と共に、未来を掴んでほしい、
そう思っていたはずだった。

バーンと対峙していた頃は、あれほど望んでいた光景なのに。

今、楽しそうに笑うダイや姫さんを見ていると、締め付けられるように胸が苦しい。

(――あの野郎、誰のおかげで姫さんと この城で暮らせてると思ってんだ)
これが八つ当たりだなんて、自分でも分かってる。


 勇者だとか、竜の騎士だとか、そんなの俺には関係ねぇ。
 俺にとって、ダイは『ダイ』だ。
 かつてあいつに告げたこの言葉に、嘘偽りなんて無い。
 だから世界中をくまなく捜し回った。
 天界の神々に逆らってまで、地上に連れ戻してきた。


 でも、気付いてしまった。

俺は「みんな、ダイが帰ってくるのを待ってるから」って言葉を盾にして、
自分の本当の気持ちと向き合うことから、ずっと逃げてただけだったんだ。

 

 俺もダイも男で。
 俺はマァムが好きだと告白して、向こうの返事を待ってる途中で。
 姫さんがダイを好きってことも、ダイが姫さんを大切に想ってることも、分かってた。

三ヶ月という短い間だったけど、
当たり前のように一緒に居た相棒が、いきなり居なくなったから。
だから、こんなにもあいつのことばっかり考えて、落ち着かないんだって思おうとした。

この気持ちは、気の迷いか何かだって思いたかった。
 もし本当にそうだとしても、きっとあいつにとっては迷惑なだけだから
ダイには絶対に黙ってようって決めた。


 ダイが自分の意思で姫さんを選んだなら、その時は笑って祝福してやるんだって。

 俺は、あいつの選択を尊重してやらなきゃいけないんだって。

 あいつが幸せでいることが、一番大切なんだから……。


 でもそれは、結局自分をごまかそうとしていただけで。

 

(俺以外の奴が、ダイの隣にいるなんて――――嫌だ)


 それまで押し殺してきた独占欲と 俺がようやく向き合ったのは、

 朝一番に、声を掛けてくれるのも
 困ったことがあった時、あいつが真っ先に相談するのも
 色んな行事で、あいつの隣に立つのも

 全部、姫さんに代わった後だった。

 

 木々の間から俺の姿を見つけたダイが、手を振ってきた。
 俺はいつものように右手を挙げて応えながら、密かに想う。


 なぁ、ダイ。
 俺、もう一度 お前の一番になりたいんだ――。

 

 俺の願いを知らない勇者は、ただ無邪気な笑みを返すだけ。

【終】


 遠野くれあ様からいただいた、素敵SS第二段です! 前作「指定席」の続きにあたるお話で、ダイとレオナがますます仲むつまじく、なおかつポップの哀愁度がますますアップしています!

 ポップが助けたのに、ダイの一番近くにいるのは常にレオナで、それをそっと見ているだけのポジション…なぜでしょう、この要領の悪さに人魚姫の姿がポップに重なります。自分の気持ちを自覚しながらも、ダイを尊重しようと一人我慢しようとしている姿に、涙を誘われてしまいます。

 そして、悲恋風味の切なさとはまったく関係がないのですが、ダイはやっぱり食欲旺盛なイメージを持つ方が多いんだなと、しみじみ実感しました!(笑)
 本当に素敵なお話を、どうもありがとうございました!

 

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