『仕事仲間で対談』 |
フレイザード「ヒャーッハッハッハッ、オレ様が魔王軍の切り込み隊長、炎氷魔団の軍団長、フレイザード様だっ!!」 ザボエラ「ヒッヒッヒ、ワシこそは妖魔司教ザボエラ。妖魔士団の軍団長じゃよ」 ヒュンケル「……ヒュンケルだ。不死騎士団の軍団長をしている」 クロコダイン「獣王クロコダインと呼んでくれ。百獣魔団を率いているぞ」 バラン「……バラン。超竜軍団長だ」 キルバーン「そして、ボクはキルバーン。軍団長の一員ではないけれど、彼らのサポート役を仰せつかっているとでも言おうかな? で、こちらにいるのがボクの親友のミストバーン。魔影軍団長だよ♪」 [01] 皆さんは一体どんなことをしている組織の一員ですか? お仕事内容を少し教えてください。 ザボエラ「ヒョヒョヒョ……、我らは大魔王バーン様にお仕えする魔王軍六団長よ。バーン様の命令に従って、人間共の国に攻め入るのが仕事じゃな」 フレイザード「ケケケッ、その時が来るのが楽しみってもんだぜ。だがよぉ、残念なことに今は待機中だ、ケッ……、つまんねえぜ」 クロコダイン「仕方がないだろう。 バラン「うむ、賛成だ。今は、静観の時だろう」
フレイザード「ヒュウ〜、言ってくれるじゃねえの。 フレイザードの言葉に、ヒュンケルの目つきが一段と険しくなりました。 ヒュンケル「……その言葉、そっくり返してやろう。 などと、何やら空気がいきなり緊迫してきたような気が。 ミストバーン「…………」 ――(いや、あなたってば基本的に何も喋らないのは分かってますが、こんな時ぐらいは何とかして下さいませんかっ!? お願い頼みますからっ) 内心、ひたすら祈りまくるインタビュアーの気も知らず、その場の空気を読まない脳天気な声が。 ピロロ「キャハハーッ、なんか大変だよねえ、軍団長って」 キルバーン「まったくだよねえ。なにせ、軍団長達は全てが同列の幹部だものねえ。フフフ……ってことは、誰か一人が手柄を立てれば抜きんでた地位を勝ち取るのも可能ってこと。張り合うのも無理はないだろうねえ」 ピロロ「ライバルってわけだね☆ それに比べたら、キルバーンのお仕事の方が楽なんじゃないの?」 キルバーン「その通りだよ、ピロロ。軍団長様達はともかく、ボクの仕事は気楽なものさ、裏切り者を殺すだけの簡単なお仕事なのさ!」 [02] 職場環境はどのような感じでしょう? クロコダイン「そうだな、今のところ鬼岩城を起点とした隠密行動が求められている。 ザボエラ「ひょっひょっひょ、鬼岩城にいれば別に出歩く必要も無いがの。バーン様は用意周到なお方じゃ、鬼岩城はただの拠点ではない。 ――なるほど、城から出なくとも十分に生活を送ることが出来ると言うわけですね? フレイザード「ふん、まあ、理屈ではな。だけどよぉ、あんな狭っ苦しいところに閉じこもっていちゃ、息が詰まるってもんだぜ。 バラン「……私もだ」 ミストバーン「……」 ――(な、何か言って!)あ、あの、ヒュンケルさんはどうなんでしょうか? ヒュンケル「……オレは鬼岩城よりも、別の場所にいることの方が多いから関係ない」 ――別の場所、と言うと? ヒュンケル「地底魔城だ」 ザボエラ「元ハドラー様の主城だったところじゃな。ハドラー様がバーン様の配下になった頃にはすでに不死系怪物の巣くう廃墟となっていたみたいじゃがの、ヒヒッ。 少々皮肉交じりのザボエラの言葉に、ヒュンケルはギロリと鋭い視線を向けるものの、すぐに関心なさそうに逸らしました。 ヒュンケル「あれがかつて誰のものだったかなど、関係ない。オレは地底魔城の住み心地に、満足している」 [03] 上下関係に厳しい組織ですか? キルバーン「まあ、ぶっちゃけちゃえばそうでもないよ♪ って言うよりも、明確な上下関係を作らない組織作りこそがバーン様の理想だったわけだから、少なくともこの場にいる連中はみ〜んな、対等の関係だものね」 と、どこかわざとらしく一同の方を振り向くキルバーンに対して、その場にいた6人の視線が見えない火花を散らしました。 ヒュンケル「……ああ、そうだな。『立場』は対等だな」 フレイザード「ヒュゥ〜、言ってくれるねぇ。まるで、実力だと違うと言わんばかりじゃねえか、ええ?」 ヒュンケル「(不敵な笑みを浮かべつつ)なんなら、立証してもいいが?」 バラン「面白い……その自信が、どこまで持つかな?」 ミストバーン「…………」 まさに一触即発の空気が張り詰めた中、太く、張りのある笑い声が響き渡ります。 クロコダイン「ハハハッ、覇を競い合うのも悪くはないが、今日は別件のために集まったのだろう? せっかくのインタビューを終わらせもせず、戦いで終わらせてしまうのはちと無粋じゃないのか?」 クロコダインのその言葉で、その場の空気が弛緩します。 ――あ、ありがとうございますっ、たすかりました。 と、インタビュアーが心の底から頭を下げまくっている傍ら、部屋の隅でこっそりと不吉なことを呟く老人が……。 ザボエラ「(誰にも聞こえないように、こっそりと)ヒヒヒッ、互いの覇を競う? 正面切って正々堂々と戦うなどとは、愚の骨頂というものよ。どれ程強くとも、暗殺されればそれで終いというもの……要は、最後まで生き延びた者が勝者じゃよ……!」 ――(き、聞こえなかったことにしとこう……っ) [04] お仕事に最も真面目に取り組む方は…? ザボエラ「それは間違いなくワシじゃっ! こればかりは、誰にも違うなどとは言わせないぞっ!? フレイザード「ケッ、ただの点数稼ぎじゃねえか」 ヒュンケル「しかも、別に命令されているわけでもないしな」 ザボエラ「ええい、だまらんかい、若造共がっ!! 全く、普段は寄ると触るといがみ合っとる癖して、こんな時ばかり息を合わせおって! クロコダイン「まあ、それを認めるのは吝かではないが」 バラン「異議はないな」 ミストバーン「………………」 いつも通りの無言のままと思わせて、ミストバーンはさりげなく、さりとて見逃されることのないはっきりとした動きで、キルバーンに視線を送ります。 キルバーン「(おどけて両手を広げながら)え、ボクが何か文句を言うとでも? まさか! ピロロ「キャハッ、そーだよー、ボクも情報収集にかけては負けてないよっ。そしてね、魔王軍を裏切る者が現れたのなら、キルバーンに教えちゃうのさ、キャハハッ!」 キルバーン「そうとも、ピロロ。それからが、ボクのお仕事と言うわけだよねえ。 仮面の奥の目をギラリと光らせ、キルバーンは指で首を掻ききる仕草をしてみせます。 キルバーン「だけど、幸いにも今のところ、誰もが魔王軍のために熱心に働いてくれているみたいで、ピロロからの報告は聞いていないけどね。 [05] 反対に、気分次第でお仕事をされている方はいますか? この質問を投げかけた途端に緊張感が走り、その場にいた全員が探り合うように互いの顔を見合わせます。 ――い、いえ、その、何か仰って頂かないと困るのですが……。 ヒュンケル「それなら、あいつだろう」 と、ヒュンケルが指さした先にいるのは、フレイザードでした。 フレイザード「ハァ? てめえなんぞにそんなことを言われる筋合いはねえな、だいたいそう言うてめえこそ復讐なんて個人的な感情で魔王軍に入ったんじゃねえか。 ――(ああっ、この二人はいつもいつもどうしてっ!?)そ、それは貴重な御意見をありがとうございましたっ、そ、それでは、この質問はこれぐらいということでっ。 [06] ここだけの話、報酬はどのくらい貰えますか? また、報酬の違いはありますか? ヒュンケル「……くだらん質問だ」 フレイザード「へっ、人間なんぞと意見を同じくするのは気にくわねえが、その通りだな」 クロコダイン「オレも報酬なぞどうでもいい」 ミストバーン「……」 ――(って、誰も報酬に興味なしっ?)あ、あの、あなたはどうでしょうか? バラン「……私は報酬など、望んだことはない。強いて言うのなら、魔王軍の目的こそが私の望みだ」 ――ま、魔王軍の目的と言えば、もしや…… バラン「人間の殲滅だ」 ――は、はぁ。お、お答え頂き、ありがとぉございますです(いえ、私も人間なんですが……よくもまあ、そこまできっぱりと言えますね) ザボエラ「フヒヒヒッ、報酬はそりゃあもう、人間ごときには想像もつかない ――(……何やら、この俗物っぷりがかえって落ち着けるのはなぜ?)
フレイザード「そりゃあ、決まっているぜ。敵をぶっ殺した時ほどスカッとすることはないぜ! てめえらだって、そうだろう?」 ヒュンケル「……おまえと一緒にするな」 フレイザード「ヘッ、何を今更いい子ちゃんぶっているんだよ? オレァ、知っているんだぜ……いつだってスカした面をしているてめえが、戦いの時だけ目を輝かせていることをよっ! ――(い、いえ、その……、もう少し、穏便に……) クロコダイン「フレイザードの言い方はなんだが、一理あるな。戦いに血がたぎるのは、戦士としては当然の話だ。別に、恥じることでもあるまい」 バラン「同感だ」 何とか、クロコダインのおかげで話がまとまったと思う傍ら、部屋の隅の方でコソコソと話している二人組が。 ザボエラ「(こっそり)ヒョッヒョッヒョ、いい子ちゃんなことで。ワシとしては、敵と戦うよりも、罠に嵌めた時の方がよっぽどワクワクするがのう……!」 キルバーン「(こっそり)賛成だよ、ザボエラ君♪ あれは一度やると癖になるよねぇ〜、罠に落ちたと知った者が浮かべる絶望感に溢れた表情が、またたまらないんだよねぇ〜♪」 [08] 今までやった仕事の中で、一番辛かった内容を教えてください。 この質問に対して、表情を僅かに曇らせたのはヒュンケル、バラン、クロコダインの三名でした。が、残りのメンバーは特に気にした様子もなく、陽気に話し始めます。 ザボエラ「まあ、基本的に今のワシらの仕事は待機じゃから、さして辛いという程の物でもないが、表だって動けないのは少しばかり困るものじゃわい。 ――そっ、それは、ご苦労をなさっているのですね……(と、言っていいのか、これ?) フレイザード「それはオレも同感だぜ。オレはモルモットなんぞはいらねえが、今のままじゃおおっぴらに人間達を襲うこともできやしねえ。ケケッ、魔王軍が動き出す日が今から待ち遠しいぜ……!」 ミストバーン「……」 ――(相変わらず、この人は黙りか。まあ、もう諦めたけれど)残りの方、オフレコで構いませんので何かありますか? クロコダイン「では……正直言えば、オレは弱い者を敢えて踏みつぶす様な真似はあまり好まない。 囁くようなクロコダインのその言葉を聞いたのか、それとも聞こえなかったのか、バランは静かに瞑目しました。 ヒュンケル「オレは……ッ! そうなったとしても、それが辛い仕事などとは思わない!!」 そう怒鳴った後で、ヒュンケルは一瞬の激情を悔いるかのように口を閉ざし、黙り込んでしまいました。 [09] 自分はこの職業に向いていると思いますか? もしこの職業についていなかったら、今何をしていると思います? フレイザード「はん、オレ様が向いてないはずがねえだろ? なんと言ってもオレは、軍団長になるために作り出された分身体なんだからよぉ。 バラン「向く、向かないは考えたことはない。バーン様との利害が一致しただけだ、と言っておこう。 クロコダイン「それはオレも同じだな。オレは、ハドラー様に会わなかったら魔王軍に入っていたとは思わんな。 ザボエラ「ワシもハドラー様にスカウトされて、魔王軍に入ろうと思った口じゃよ。 ――ところで、ミストバーンさんは何かありますか?(どうせ、返事はないんだろうけど) ミストバーン「……今の仕事に、私以上に向く者などいない……!」 ――さ、さようですか(うわっ、正直ビックリしたっ) ヒュンケル「知らん」 ――は? ヒュンケル「自分が今の仕事に向いているかどうかなど考えたこともないし、どうでもいい。それに、別に仕事につくつもりもない。
ザボエラ「そうじゃな、そうさせてもらうつもりでいるぞ。ヒッヒッヒ、研究には時間は必要じゃからのう」 フレイザード「ハン、休みなんぞオレには必要ねえがな」 ヒュンケル「オレも別に休息などいらん」 キルバーン「いやいや、お休みは重要でしょ? たーっぷり休んでこそ、いざという時に十分な働きができるってものだしね」 ピロロ「キャハハッ、そうだよねー、キルバーンはしばらく前からずーーっとお休みしてるもんね。もう、十分すぎるぐらい……だね♪」 バラン「……いずれにせよ、我らが動くのは時間の問題だな」 クロコダイン「そうだな、そう遠い日の話ではないはずだ」 ミストバーン「……全てはバーン様のお心次第だ……」 ――……(えーと、自分で無責任に励まして置いてから言うのもなんですが、頑張ってもらっていい仕事なのでしょうか、これは?) [――] お疲れさまでした。 キルバーン「フフフフ……ッ、なかなか面白い軍団になってきたとは思わないかい、ミスト? ミストバーン「…………」 キルバーン「だんまりかい? まあ、キミにとってはどちらでも同じなのかも知れないけど。 そう言ったかと思うと、キルバーンの身体は沈み込むように地面に吸い込まれていき、やがて完全に姿を消しました。それを見届けたかのようなタイミングで、ミストバーンの身体も霧のように薄れていき……気がつくと、そこにはもう、誰一人としていませんでした――。 |