『戦慄の竜闘気(ドラゴニックオーラ)』(2021.3.27)
 

《粗筋》

 バランの手刀が、クロコダインの鎧を貫く――! 
 勢いよくすっ飛ばされたクロコダインは、自分の鎧に空いた四つの穴に驚愕する。
 ただの手刀が、鋼鉄の鎧を易々と貫いたのだ。

 それは、バランの全身を覆う竜闘気(ドラゴニックオーラ)の効果だった。額の紋章が輝く時、全身に防御膜が覆い鋼鉄以上の強度をもたらす。

 それを聞いて、クロコダインはロモスでダイと戦った時のことを思い出す。ダイもまた、竜の紋章が額に浮かんだ時には信じられない強度を発揮していた。その理由を思い知るクロコダイン。

 竜闘気を全開にして戦えば、地上のいかなる生物も太刀打ちできない――絶対の自信と共に、猛烈な速さで突っ込んでくるバラン。
 それは、一見疾走していると見えるが、実際には飛んでいた。ごく低い位置で、駆けるかのような姿勢で飛翔呪文で飛ぶバランのスピードは恐ろしいまでに早い。

 だが、クロコダインはその速さに合わせ、バランの顔に拳を打ち込もうとした。
 絶好のタイミングでバランの顔を捉えたかと思えた拳は、瞬間的にバラン身を沈めたせいで躱される。そして、逆にバランの拳がものの見事にクロコダインの顔面を捉えた。

 その激しさに、思わず息をのむポップとレオナ。

 いきなりのクリーンヒットでクロコダインの頭蓋を揺らしたバランは、ジャンプで彼の頭の上を飛び越し、逆方向からの強襲を仕掛ける。激しい連打を、腕をクロスさせて耐えようとするクロコダインだが、あまりの勢いに踏ん張る足ごとズルズルと後ろへ押されてしまう。

 戦いの激しさに、ポップとレオナは瞬きすら出来ない。

 猛攻に耐えながらも、クロコダインが必死に斧を掴み、バランへ振り下ろそうとする。が、冷静にそれを見ていたバランは、手刀を軽く当てることで大斧の軌道を反らした。
 地面に深々と刺さる大斧――その隙を見逃すバランではなかった。

 クロコダインの腕を掴み、逆手にひねり上げる。激痛に、思わず悲鳴を上げるクロコダイン。
 見ていたポップが、ついにたまりかねたようにクロコダインを呼ぶ。

 だが、バランは容赦しなかった。
 額の紋章を光らせ、その光線でクロコダインの目を貫く。
 バランがクロコダインの身体から、突き放すように離れた途端、彼は地響きを立てて倒れ込んだ。
 
 血まみれで倒れるクロコダインをどこまでも冷静に見下ろしながら、バランは静かに宣言する。

バラン「これでもう……おまえは戦えない」

 それを見ていたポップは、レオナに言う。

ポップ「姫さん……ダイを頼む」

 それだけでポップの意図を悟ったレオナは、分かったと頷き、一瞬の迷いもなく湖へと飛び込んだ。それを目だけで見送ってから、バランへと警戒の目を向けるポップ。


 水に潜ったレオナは、水中で気を失ったまま漂っているダイを発見する。ギガブレイクのひどいダメージに驚きながらも、レオナはダイに勇者なのだからしっかりしてと励ましつつ、ベホマをかける。


 一方、バランはクロコダインに降伏を呼びかけていた。
 ほんのわずかな間だけ、瞑目して待つバラン。だが、彼はすぐに背負った剣に手をかけようとする。

 だが、それに「待て!」と声をかけたのは、ポップだった。
 近くの林に隠れていたメルルが、思わずのように彼の名を呼ぶ。だが、その声はポップの耳までは届かない。

 倒れたクロコダインを庇うように、杖を構えて立つ魔法使いの少年を、バランは理解できないものを見るような目で眺める。

バラン「……なんの真似だ?」

ポップ「魔法が効かねえんだから、こいつでぶったたく!」

 その発言に、バランが一瞬、目を光らせる。その言葉は、明らかにバランの怒りの琴線に触れたらしい。バランの一喝は、凄まじいまでの迫力に満ちていた。

 だが、蛇に睨まれたカエルの恐怖を味わい、手にした杖を震わせながらも、ポップはその場を引こうとしない。
 そんなポップに、バランは意外なぐらい冷静な口調で説明する。

 バランが徹底的にクロコダインを叩いたのは、彼のような力や闘気の使い手こそが一番恐ろしいからだ、と。
 ある意味で弱点をさらけ出すその説明は、ポップのような魔法使いの無力さを思い知らせるためのものだった。

 ポップ程度の力で殴りかかってきても、ダメージを与えるどころかポップの腕の方がへし折れると断言するバラン。
 しかし、それでもポップは引く気はない。

 そんなポップを止めようと、メルルが駆け寄ろうとする。ナバラは腕を掴んで孫娘を止めるが、メルルはポップが殺されてしまうと、悲痛に叫ぶ。
 ベンガーナデパートで不幸な女性を助けようとした時とは全く違う、やけに必死で感情的になっている孫娘を見て、ナバラはその心を悟ったようだった――。






 だが、ポップはそんなことは知らない。
 杖の先端を伸ばし、大きく振りかぶったポップは自分を鼓舞するように「行くぜ!」と叫ぶ。
 が、そのポップの足を掴んで止める者がいた。

 バランも、思わず目を見張る。
 片腕を砕かれ、両目をやられて視力を失ったクロコダインが、ふらつきながらも立ち上がろうとしていた。

クロコダイン「この場は、オレに任せろと言ったはずだぞ」

 傷ついたクロコダインを気遣うポップだが、まだ左腕があるとクロコダインは戦う気満々だった。
 目が失われたことすら、クロコダインの闘争心を削ぐことはない。

 かつてのロモスでの戦いで、ポップの勇気によって心の目を拭われたと告げるクロコダイン。
 自分が? と、戸惑うポップにクロコダインはロモスでの戦いで感じた、人間の素晴らしさを説く。

 ポップを高く評価し、賞賛するからこそ、クロコダインは命を懸ける覚悟がある。その覚悟に感謝し――だからこそ、クロコダインだけを死なせはしないと決意するポップ。

 クロコダインは左腕に力を込め、元々ヒビの入っていた鎧をぶち壊すほど筋肉を高める。
 最後の技を、バランへぶつけるつもりなのだ。

 しかし、バランは慌てもしない。
 今のクロコダインの攻撃なら楽に躱す自信があるし、逆にポップ達にはバランの攻撃が躱せないと分かっているからだ。
 高々と掲げた剣を見て、ポップは早くもギガブレイクを放つつもりだと察する。

 太陽を覆い隠すように、雨雲が呼び寄せられる。
 ダイが相手の時は手加減していたが、今度は手加減抜きだ。人間を素晴らしいと言うヤツは生かしておけないと、怒りを露わにするバラン。

 しかし、バランが剣を振り下ろそうとした時、高い音がその場に響き渡った。彼らはそろって、音の源を探す。
 見れば、湖に大きな波紋が生まれていた。

 そして、その中央部分から飛び出してきたのは、額の紋章を輝かせたダイだった。
 ダイの復活を喜ぶポップ。
 一歩遅れて水面に上がってきたレオナは、ベホマをかけたこと、体力だけは全開だと伝える。

 ダイはポップとクロコダインの前に立ち、バランに敵意の籠もった目を向ける。
 バランは三人まとめて吹き飛ばそうと、ギガディンを唱える。

 が、ダイは手にした自分の剣をバランの頭上に放り投げた。ちょうど、バランの剣に集まるはずだった雷は、ダイの剣に吸収され、ギガブレイクの予備動作が損なわれる。

 思ってもなかった奇手に、驚くバラン。
 ダイはパプニカのナイフを抜き、クロコダインに自分の技に合わせるようにと指示を出す。

 ダイの放ったアバンストラッシュを受け止めるバラン。が、そこにすかさずクロコダインの獣王会心撃が打ち込まれる。防戦一方になっていたバランにこれは躱せず、まともに技を食らう。

 激しい爆音と土煙が立ちこめる中、頭を抱えるポップ。
 余波だけで湖に大波を起こすその威力に、まだ湖の中にいたレオナは頭から波をかぶってしまう。そんなレオナを心配するように、寄り添うゴメちゃん。

 勝負がついたかと思ったせいか、クロコダインがふらついて膝をつく。
 クロコダインを心配して、ダイが駆け寄る。目をやられたのを心配し、レオナに回復を頼むダイ。

 だが、彼女が駆けつけるよりも早く、クロコダインの瞼にほっそりとした手が優しく押し当てられ、回復魔法の光が輝く。
 それは、メルルだった。彼女のすぐ側には、ナバラもいた。

 まだ逃げていなかったのかと呆れるように言うポップに、ナバラはメルルがダイ達を助けると主張したことを告げる。
 メルルは一瞬ポップを見て、自分にだって簡単な回復魔法ぐらい使えるという。その頬は、ほんのり赤く染まっていた。

 が、ダイはメルルに逃げるようにと言う。
 戸惑うメルルに、クロコダインも重ねて逃げるように言い、メルルの手をやんわり握って回復魔法を止めさせる。
 二人には自分達の戦っている相手の強さが、嫌と言うほど分かっていた。
 
 しかし、戦士じゃないポップはその辺の察しが悪いのか、いくらなんでも片づいただろうと楽観していた。
 だからこそ、剣を地面に突き立てて現れたバランに、驚愕する。
 全身から闘気をみなぎらせて立っている男を、ダイはやっぱりと受け止めている。

 竜闘気を全開にして、耐え凌いだのだ。
 二人分の必殺技を食らっても無傷なバランを見てポップは弱気になるが、ダイは冷静にバランの傷を見ていた。

 額から赤い血を流しているバラン――竜の騎士が怪我を負ったことに、誰よりも一番驚いたのはバラン自身だった。
 額を指で触れ、信じられないように自分の血を見つめるバラン。

 予想以上のダイの力を、バランはようやく認める。
 だが、その力はダイだけのものではない。ダイの仲間達の力が、ダイの実力を数倍にも高めている……ダイと仲間達の絆を重視したバランは、それを断ち切ることを決意する。

 一方、バランがそんなことを考えているとは知らないダイ達は、さっきと同じように自分達の技を全力でぶつけようと考えていた。
 しかし、バランは二度と同じ手は食わないという。

 そして、ダイの可能性を考え、ダイの力の根源を奪うと宣言した。
 額の紋章を光らせ、気迫を高めていくバラン。
 だが、その光は突如として消える。闘気が消えたことに驚くクロコダインとダイ。

 再び、バランが紋章を光らせた時、ダイの額の紋章も光り輝いた。
 自分の意思とは無関係に紋章が輝いたことに、驚くダイ。
 しかし、バランが畳みかけるように紋章を光らせると、ダイは頭を抱えて呻き出す。

 響き渡る共鳴音は、ダイだけでなくポップ達をも苦しめていた。
 二人の竜の紋章の共鳴――それがもたらす苦痛に、ダイはその場に膝をつく――。

 激しい頭痛に耐えるダイ。
 だが、その時、ダイはブラスの姿を見る。なぜ、ブラスがここにいるのかと思うダイの目の前で、ブラスの姿は消えた。
 しかし、それに変わってゴメちゃんを初めとした島の仲間達の姿が映し出される。

 次々に思い出されるのは、島での生活。
 そして、レオナに会ってからの出来事、今まであった人々が次々と頭に浮かぶ。

 バランの気合いのこもった吠え声と同時に、それらの思い出はガラスのように崩れ落ちる。
 その瞬間、ダイは白目を剥き、倒れてしまった。

 それと同時に共鳴音も止んだため、耳から手を離したレオナはすぐに倒れたダイのそばにしゃがみ込む。

 だが、何かが地面に落ちる音に振り向くと、バランもまた、肩で息をしながら地面に膝をついていた。
 何をしたのかと問うクロコダインに対して、バランは息子に不要なものを奪ったという。

 力を使いすぎたバランは、いずれまたディーノをもらいに来ると宣言し、その場からルーラで去った。
 急な展開に戸惑い、助かったのかと呟くポップ。

 その時、ダイが小さくうめいて目を覚ました。
 だが、目を覚ましたダイはぼーっとしているだけだ。どうしたんだと話しかけたポップに対し、ダイは周囲を見渡しながら尋ねる。

ダイ「きみたち、だれ?」

 驚くポップ達。しかし、ダイはどうして自分がこんな所にいるのかと、不思議そうに呟くだけだ。呆然と、そんなダイを見つめる仲間達。
 静かに降り出した雨が、その雨脚を強めていった――。






 その光景を、悪魔の目玉を通してハドラー達も見ていた。
 なぜ、バランはあの場から去ったのか――ザボエラのその問いに、ハドラーも疑問を隠せない。

ハドラー「痛み分けとも思えん……」

 だが、キルバーンはさも自分だけは分かっているとばかりに、含み笑った。

キルバーン「フフッ、そういうこと」





 そして、テランの森の中の小さな小屋。
 雨の中、買い物籠に布を被せて歩いているのは、メルルだった。周囲を気にしながら進むメルルが小屋に着く前に、扉を開けて迎えたのはポップだ。

 小屋に入ったメルルは籠にかけていた布をはずし、食料や薬草などと手に入れてきたと告げる。
 それに感謝し、国中大変だっただろうと労うポップ。

 しかし、メルルはそれは逆だという。
 テランの人々は家に閉じこもり、神に祈ることしかしない……同国人への不甲斐なさを嘆くようなメルルの言葉に、ポップは驚く。あまりの消極的さに、呆れや怒りすら感じている様子だ。

 ポップとメルルが連れだって隣の部屋に行くと、レオナがクロコダインの目に回復魔法をかけている最中だった。
 彼の目は治ると保証するレオナだが、言葉を濁してベッドの方に目をやる。

 そこには、ぼうっとした様子でベッドの上に座っているダイと、しょんぼりとしているゴメちゃんの姿があった。

 ピイと呼びかけるゴメちゃんに対し、ダイはまるで初対面の相手にでも対するように話しかけ、友達になろうと手を広げる。
 それを聞いて、ゴメちゃんは大粒の涙をこぼし、泣きながらダイの胸に飛び込む。

 それを受け止め、なんで泣くのかと尋ねながらあやすダイは、ゴメちゃんの気持ちには全く気づいている様子はない。

 完全な記憶喪失――バランは竜の紋章の共鳴を利用し、ダイから人間としての記憶を奪ったのだと説明するクロコダイン。ダイが赤ん坊同然の白紙になったことや、次のバランの攻撃を危惧するクロコダインだが、レオナはいつになく取り乱した様子で、ダイの記憶が無くなったことを嘆く。

 ダイの両手を掴み、自分を思い出せないのかと迫るレオナ。必死なレオナに対して、ダイは少し引き気味だ。
 みんなに呼ばれている『ダイ』と言う名が自分のものだという自覚すら、今のダイにはない。
 
 デルムリン島や、勇者という言葉を反芻した途端、ダイは頭が痛いと両手で押さえ込む。額の紋章が浮かび上がり、血が一滴たらりと垂れた。
 それを見て、レオナはハッとしたように身を引いた。
 悲しげに俯くレオナ。

 それとは逆に、ポップは額のバンダナを外しながらダイに近づき、包帯代わりに額に巻いてやる。

ダイ「ありがとう、お兄ちゃん」

 だが、その感謝にポップは一瞬、傷ついた表情を浮かべた後、烈火のごとく怒り出す。ダイの襟首を掴み、自分やアバンのことまで忘れたのかと怒鳴りつけるポップ。

 今にも殴りかかりそうな勢いのポップをレオナやクロコダインが諫めるが、ポップはダイを引きずって外へと連れだし、放り出す。
 雨の降る地べたに、尻餅をつくダイ。
 ポップは手にした剣を突きつけ、必殺技を思い出せと怒鳴る。

 しかし、ダイはそんなのは出来ないと怯えるばかりだ。
 ダイにこれまでのことを話し、剣を手に取るように強要するポップを、他の仲間達は沈んだ表情で見守っていた。
 
 剣を無理矢理押しつけ、泣かんばかりに叫ぶポップ。
 だが――ダイは剣を放り出し、泣きながらレオナの元に逃げ込んでしまう。反射的のようにダイを抱きかかえるレオナにしがみつき、あのお兄ちゃんが怖いと訴えるダイ。

 そんなダイの様子に、ポップは崩れ込むように地べたに膝をついた。
 絶望するポップを、悲しそうに見つめるメルル。クロコダインは無言のまま、だが、ポップ辛めを反らさずに見ていた。

 そんな中、ダイを悲しそうに見ていたレオナは一度目を閉じてから、決意したようにきっぱりという。

レオナ「行きましょう、ダイ君」

 レオナにしがみついて泣いていたダイは、戸惑ったように目を開けた――。






 一方、鬼岩城ではハドラーは荒れ狂っていた。
 ダイ奪還に失敗したのに連絡も無いバランに苛立つハドラーだが、ワインを片手に優雅にチェスを嗜んでいたキルバーンはバランを褒める。

 あれは、見事な手だと。
 ダイと仲間達の絆を断ち切り、無力化させたと褒めるキルバーンの興味は、すでに次の段階に映っている。
 バランが次こそは全力でダイに向かうだろうと、予測しているキルバーン。

 まさかと否定しようとするハドラーだが、その時、悪魔の目玉がバランの居場所を報告する。
 アルゴ岬で体力の回復をした後、三色の篝火を焚いているバランの姿が悪魔の目玉に映し出される。

 それは、バランが竜騎衆――自分の最強の配下を呼び出そうとしている証だった。
 単独でも十分に強いバランだが、彼は海・空・陸・海の竜を操る屈強の竜使いを配下に持っており、彼らがバランの指揮下についた時は破壊力を増すのだと説明するハドラー。

 竜騎衆のことを知らなかったザボエラは素直に驚くが、キルバーンの口調は何処までも軽く、からかい混じりのものだ。
 ハドラー君の最後の望みも消えたね、と楽しげにいいながら、キルバーンはチェスの駒を軽くつつくと、駒はあっけなく崩れ去った――。






 その頃、アルゴ岬では、篝火から空高く上がった三色の光の球の周辺に暗雲が立ちこめていた。
 バランは目を閉じ、何かを待つように佇んでいる。

 と、遠くから聞こえる雷鳴にも似た音を聞いて、バランは竜騎衆の接近を悟る。
 走るドラゴン。そして、光る雷鳴。

 真っ先にやってきたのは、金色の竜に乗る鳥人系の魔族だった。
 空戦騎・ガルダンディー見参。
 部下の登場に、わずかに笑みを見せるバラン。

 続いて、海から大渦の中央から出現したのは、海戦騎・ボラホーン。
 そして、森を爆破する勢いで茂みを蹴散らし現れたドラゴンから、颯爽と飛び降りたのは、銀色に輝く異様な槍を持った魔族。陸戦騎・ラーハルト。

 三人はそろって、バランの前に並ぶ。
 
ラーハルト「いざ、ご命令を」

 自分に忠実な部下達を、バランは静かに見返した――。

 
 

《感想》

『竜騎衆、ついに見参っ』
 今回の最大ポイントはなんと言っても、これっ。
 旧アニメで心底望みつつ、結局果たされないまま終わってしまった夢が、ついにっ! うわー、感動ですっ。

 それはそうと、バランの手刀の威力、余波が背中まで突き抜けているのが通背拳っぽいなと思いました。
 クロコダインが転げるところまでは繰り返しなのですが、まあ、多分ここは二度やった方がいい大事なところなんでしょう、きっと。

 バランがクロコダインに挑むシーン、原作では一足飛びで距離を詰めたかと思っていましたが、アニメではめっちゃ飛んでいました! バランパパン、トベルーラも得意みたいですね。

 後、嬉しい改変がクロコダインがストレートを放ってきたこと! 原作ではバランの勢いに対応しきれず、無防備のまま一発食らっていますが、アニメでは敵わぬまでも抵抗している感がいいです。

 バランがクロコダインを殴る構図、原作と似てはいるんですが、原作では打ち下ろしの右パンチに見えますが、アニメではむしろ下からぶん殴ったアッパーに近い感じですね。
 二人の身長差や、バランがダッキングでクロコダインのパンチを躱したことを考えれば、下から上への攻撃なのは自然だと思います。

 で、頭を揺らしてめまいを起こさせた直後に、反対側に回り込んでラッシュを仕掛けるとは、プロボクサーも真っ青の詰めですね。原作ではクロコダインの頭上をジャンプして飛び越えるシーンはないのですが、アニメでは素晴らしくメリハリのある動きになっていました!

 が、原作で棒立ちになって殴られまくっていたクロコダインが、もしレフェリーがいたらスタンディングダウンを取られそうだったクロコダインが、アニメでは両手を交差させて少しでも攻撃を弱めようと頑張っていましたっ。
 ハッ、これは……クロスアームブロック!? つーか、バランパパンの止まらない嵐のような連打が、デンプシーロールに見えて仕方が無いのですが!

 って、なんだか、リメイクアニメ版、ちょいちょいボクシングな動きをぶっ込んできているような気が(笑) 

 バラン対クロコダイン戦で、ちょくちょくポップとレオナのカットが入っているのも、嬉しい改変。戦いに目を奪われて、どうしても見てしまうという感じがします。

 クロコダインの必死の大斧攻撃、原作では普通に躱されていましたが、アニメではバランが軌道を反らしていなしているアクションをつけているのもいいですね。徹頭徹尾、バランがこの戦いを支配している感じがします。

 バランがクロコダインの目を潰すシーン、クロコダインの目のアップに緑色の血が画面一杯に広がるという描写は良かったです♪
 原作の写実的なまでの残酷さが目立つカットと違って、隠すべき所を隠しながら、衝撃を伝えている感じですね。

 また、このシーンでゴメちゃんが羽で目を隠しているのは原作もアニメも同じなんですが、ポップとレオナの表情が微妙に変わっているのも嬉しい点。
 原作では、ポップは驚き+恐怖、レオナは驚きの表情をしている風なのですが、アニメではレオナは驚きが強く、ポップはどこか辛そうな表情に見えます。

 多分、ポップの方がクロコダインと付き合いがある分、彼の痛みを想像してしまったという解釈なんでしょうね。 

 しかし、クロコダインがうつ伏せに倒れるシーンを見て思ったのですが……クロコダイン、お尻が思ってたよりおっきいな!? 尻尾の盛り上がりと太さが、めちゃくちゃこんもりしていますよっ。

 そして、目をやられた出血シーン! 血の色が緑だと思って、派手にやり過ぎじゃないでしょうかね!? 赤くなければ流血OK? ますますニチアサ基準に悩みます。

 ポップがこの場に残ると宣言するシーン、アニメのセリフを削りつつ信頼関係を表すテンポの良さは気に入りました♪
 レオナがすぐに頷くのではなく、一瞬、驚いたように息をのんでから頷く間を取ってくれたのが嬉しいです!

 レオナがゴメちゃんに話しかけるシーンがなくなったのは残念でしたが、高飛び込み選手のごとくピンと姿勢の伸びたレオナの飛び込みには見惚れましたとも!

 うっわ、レオナ、まさかあんなに泳ぎが巧かったとは(笑) パプニカのマーメイドと呼ぶべきか、あるいはパプニカのトビウオと呼ぼうか、一瞬迷いました。

 それはさておき、レオナが湖に飛び込むところを確認するように一瞬見やってから、あらためてバランに向き直るポップのカットは、アニメの改変ですね。

 ダイが湖の底近くでぷかぷかと漂っているのも、改変されています。原作ではダイの足が岩場に挟まれていて、レオナがそれを外すシーンがあったのですが。

 でも、何にも無いのに浮き上がりもしないとは……ひょっとして竜の騎士って全身筋肉の塊で浮力がないんでしょうかね?(笑) 
 レオナの水中ベホマシーンは美しかったですが、原作のようにしっかりと抱きしめている感がなかったのが残念!
 
 バランパパンの降伏勧告の台詞、やたら短くカットされているっ。しかも、三つ数えるか数えないかと言う速さで、無言で剣を抜こうとしていますよ、早い早い!(笑)
 いや、せめてテンカウントぐらいは待ってあげてっ。

 ポップがバランに杖を片手に立ち向かうシーン、台詞は短くカットされていましたが、その分、気迫のこもった演技に満足しました。
 なにより、バランが金色の目を光らせるシーンがかっこよかったです! 竜の騎士ならではの怒りの表現って気がしますね。

 ダイもそうですが、バランも竜の紋章が輝くと目が金色に変化するので、人外感が強まって見応えがありますね。

 また、旧コミックス、文庫版以降で違っていたバランの台詞が、アニメ版でも改編されていました。

旧コミックス「気がふれたか!? 小僧ッ!!」
文庫版以降「……ふれたか!? 小僧ッ!!」
アニメ「血迷ったか、小僧ッ!!」

 旧コミックスのままだと放送禁止用語になるし、かといって文庫版以降だと意味不明だと思っていたのですが、アニメでは類語を持ってきましたね。差別にならない程度の侮蔑セリフがやっといい感じに収まって、ホッとした気分です。

 バランとポップの会話も、良かったです〜♪ ガクブルしているのに「弱点をペラペラしゃべっちまっていいのかよ」と、強がる口調と表情がたまりませんでした! 怖いけど、ハッタリをしかけている感があります。
 
 ポップを心配して駆け寄るメルル、メルルが可愛すぎるっ。なんて健気で可憐なんだ……っ。が、見逃せないのはその次のシーン。

 ナバラがメルルの腕を掴み、引き戻そうとするのですが、腕を引かれたメルルが痛そうに顔をしかめて身体を半回転させています。……えー、ナバラさん、やっぱり武闘派占い師?(笑) メルルの方が背が高いのに、ナバラさんの方が力が強いっぽいですよ!?

 クロコダインがポップに語った人間賛歌、ロモスでの戦いが回想としてながされていたのがいいですねえ。ポップの服が違っているのを見て、初期のポップの服が明るい黄緑色で、メインの服がそれよりも濃い緑色だとあらためて実感しました。

 クロコダインの言葉に感動するポップの表情の変化が、また良かったです!
 そこまで自分を評価してくれるなんて信じられない……的な表情から、目を一旦ぎゅっと瞑り、決意と共にパッと目を開くという表情の細かい変化が、実にいいです!

 戦いの中でうっすらと開けられた、クロコダインの右目、赤くなっているのがリアルですね。目を開けきれなくて細く開いている辺りも、格好いいです。

 レオナが湖にぷはっと上がってくるシーンがちゃんと再現されたのは、嬉しい限り! でも、ポップの「さっすが賢者の卵!」の台詞はカットされちゃいましたね。割と好きな台詞だったので、ちょっと残念です。

 アバンストラッシュと獣王会心撃の合わせ技も、迫力満点。原作と違い、ポップとレオナがちょいちょい爆風のダメージを表現するキャラとして、カットが挟まれていますね。
 嵐の日に、傘を持ってふらついている女子アナウンサーポジションでしょうか(笑)

 メルルの回復魔法シーン、なんだか神秘的な雰囲気が強いですね。そしてそして、ポップの顔を見た後、顔をちょっと赤くしているところがめっちゃ可愛いですよ〜。

 ついでに、レオナ、泳ぎは見事ですが走るのは結構遅いですね(笑) スポーツ万能ってわけでもなさそうです。

 ダイの台詞も、改変発見。

原作ダイ「いけない! そんなことレオナに任せて逃げるんだ!」
アニメダイ「いけない! 回復はレオナに任せて逃げるんだ!」

 ……言っていることは両方とも同じなんですが、原作のダイの方がデリカシーがないように感じるのは、気のせいでしょうかね?(笑)

 バランがダイの力の源が仲間にあると見抜くシーン、ダイの背後に仲間達の幻影が見えるシーンは好きです♪ 原作では横長だったコマでしたが、アニメではゆっくりと上から下へ流れる形になっていて、新鮮な感じでした。

 よく見れば、登場するキャラや表情はほぼ原作通りなんですが、レオナがすごく可愛い感じに改変されていました♪
 後、ポップとマァムが横向きなのも原作通りですが、二人がほぼ同じ大きさにそろえられ、背中を向け合っているような構図になっているのが妙に嬉しくって。

 原作だと同じく横顔同士でも、ポップの顔の方が大きく書かれていて、マァムは後ろの方の位置にあったから、おそろい感がなかったんですよねー。
 でも、このカットはなんとなくポプマっぽいです!

 頭痛に耐えるダイがブラスの幻に会うシーン、ダイの瞳が金色に変化していました! つまり、古い記憶を目の当たりにするのも、竜の騎士の特殊能力の一つってわけなんですね。能力発揮中は、目の色が変わる演出はわかりやすくていいです。

 ブラスの思い出シーン、マァムがアバンを思い出す時と同様に、草の生えた地面部分だけを描写し、背景を白くすると言う手法なのがいいですね。
 回想シーンでのデルムリン島、原作のメンバーになっていました! アニメで増えた仲間達はでてきてませんね(笑)

 そして、回想シーンがめっちゃ凝っていました!
 写真をばらまいたようにこれまでの思い出のシーンが並び、ダイが回転しながら吸い込まれるように小さくなっていくという感じで。

 背景の思い出は、止め絵と動画を交えて次々変化していましたね。原作の題の混乱を、巧く表現していると思いました!
 最後に、それらの思い出がガラスのように砕けるのが実に綺麗でした。

 記憶を失った直後のダイ、レオナの手を振り払うシーンや額から血が流れるシーンがカットされていましたね。
 そして、雨が原作よりも早く降り始めています。

 魔王軍視点のカットも、ここで新しく挿入されていますね。アニメではとにかく、リアルタイムでの動きに力を入れているみたいです。
 しかし、ザボちゃんとハドラー、察しが悪い(笑)

 雨の中のメルルのお買い物、籠にちゃんと布が被さってるのに感動! なんたる女子力の高さ! 原作ではパンが水浸しになってましたね、そう言えば(笑)

 ポップがちょうどいいタイミングでドアを開けたのも、嬉しいところ。
 多分、窓からずっと見て帰りを待っていたんでしょうね。原作ではポップがドアを閉めてすぐに鍵をかけた描写がありましたが、アニメでは鍵が見当たりませんでした。

 代わりに、ポップが外の様子をよく確かめてから、ドアを閉めるシーンが追加されていましたね。
 メルルの髪がちゃんと濡れた描写が加わったことも、嬉しいです!

 メルルのテランの民への細やかな非難、原作ではポップは呆れ気味でしたが、アニメでは信じられないとばかりに怒った様子を見せたのと、半眼になって無理もないとぼやく表情が実に良かったです。
 ポップの表情変化が、原作だけに縛られず豊かさを増した感じがします♪

 クロコダインの治療、原作では済ませた後でしたが、アニメでは治療風景を見せていますね。

 記憶を失ったダイが、すっごく可愛い系ショタにっ。いきなりゴメちゃんをナンパしとりますが(笑)
 うるうる目で泣いているゴメちゃんが、これまた可愛いですね。ダイが笑顔であやしても、ずっと泣きそうな顔をしているゴメちゃんがいいです。

 そう言えば、原作では記憶喪失ダイの着ているシャツの色は黄色だったのですが、アニメでは白になっていました。イメージ的に白の方がいいなと思っていたので、これは嬉しいカラー選択ですね。
 ふむふむ、必ずしも原作のカラーに忠実なわけでもないみたいです。となれば、ザムザの配色が今から楽しみ♪

 クロコダインが記憶喪失の解説をしている間も、ゴメちゃんを両手で揺すってみたり、高い高いしながら笑いかけたりと、ダイはマイペースなお子様っぷりを発揮しています。

 でも、レオナに迫られた途端、これまでの笑顔は何処行ったんだって感じにドン引き状態になっていますが。……レオナが不憫。
 レオナが必死に訴える時、アニメではレオナが泣いているのに注目したいです! 原作では必死にはなっていますが、ここでは泣いていなかったので。
 取り乱すレオナも可愛いですね♪

 ポップがバンダナを外すアクション、きっちりと描かれていたのに感動しました! バンダナを外す際、頭をちょっと振る動きとか、シュルッとバンダナがほどける動きとか、滑らかでいいですねえ。
 その代わり、ダイの頭に巻き付けるシーンは一瞬でしたが(笑)、どちらかと言えば外すアクションを見たかったので不満はないです。

 ダイがポップを「お兄ちゃん」と呼ぶシーンで、ポップが怒る前に傷ついた表情が入っていたのは、嬉しい改変でした。

 でも、ポップがダイを外に引きずり出すシーン、襟首を引っ張ったままなのが残念。原作では、ポップはダイの首に腕を絡めるような感じで引っ張っていて、普段じゃれている時の動きと同じだったのが気に入っていたのですが。

 ダイがポップから逃げてレオナに抱きつくシーン、原作ではレオナはほぼ棒立ちなのですが、アニメでは抱き返していますね。
 そう言えば、ポップの腰のナイフ、原作ではこの時点ではもう持っていなかったはずなのに、アニメではまだ持っています!

 っていうか、シーンにより、持っていたりいなかったりしていそうな気がしますね(笑) 

 ポップを見つめるメルルの表情が、切なげで実にいいです! 無言のまま、まだ赤い目でじっとポップを見ているクロコダインもいいですねえ。
 原作ではクロコダインもメルルと同様にポップの名を呟いているのですが、アニメでは無言なままで雨音とダイの嗚咽を被せることで、雰囲気を高めている感じです。

 そして、レオナだけはポップではなく泣くダイを見つめているのも、いい改編ポイント。
 ダイをなぐさめたり、なだめないのがいいですね。
 レオナが「行きましょう」と、きっぱり言うシーンは原作にはないですが、いかにも彼女らしくていいですね。

 荒れるハドラーと、ふてぶてしいキルバーンのシーンには笑いました。
 仮にも魔王軍総司令の前で、酒を片手に座っているとは図々しいにも程がありますね(笑)

 東西を問わず、目上の人の前で勝手に腰掛けるのは無作法というのが常識ですが、キルバーンは知らん顔……と言うより、知っててからかっているパターンに思えますね。
 そもそも、そこ、ハドラーの椅子な気がするんですけど(笑)

 バランの竜騎衆召喚のシーン、思っていた以上に格好良かったです! なんと言っても、自信たっぷりなあの声がいいですね。
 ハドラーの解説する、ほぼシルエットな竜騎衆らも凄みがあってよかったですし♪

 しかし、キルバーン! 彼にはもの申したいっ。
 ハドラーをからかう節回しや、チェスの駒をつつくだけで崩し去ってしまう演出はいいんですよ、控え目に言って最高ですし。
 
 でも、チェスの配置がひどすぎっ。
 そもそも、黒と白で駒の形が思いっきり違いまくっているのも納得できませんが、原作だとちゃんと黒のキングが白のナイトに盤面の端に追い詰められているのに、アニメでは中央付近にキングがいますよ。

 なぜ、キングが最前線に!?(笑) どういう打ち方したんですか。しかも、ナイトの位置が一個向かいのマスなので、これでは次の手で追い詰められないのですが!
 筆者もチェスに詳しいわけじゃないですが、せめて原作の盤面を再現してもいいと思うんですけどっ。

 竜騎衆の登場シーンにはワクワクしました!
 それにしてもラーハルト、ドラゴンが走るカットが度々挿入されたり、森を破壊して登場するなど、演出が派手になっていますね(笑)
 他の二人は原作通りの演出というイメージだったのに、彼だけ別格に贔屓されている感じがします。

 予告では、いきなりダイが牢屋に閉じ込められる不穏な雰囲気から始まっているのはいいんですが、ガルダンディーに痛めつけられるポップが映っていて、すでにポップのピンチが約束されちゃっていますね(笑)

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