H.7.10.16 (月)No46 『誰がための勝利』

   

 ダイの見事な戦いぶりを、バーンは称賛した。
 竜の騎士の力に目覚めだしたダイ――自分でもはっきりとは自覚してはいないが、それがすごい力だとは分かる。

 戦いから思考がそれてからやっと、レオナの存在を思い出し彼女を心配するダイだが、レオナは無事だった。ずいぶん疲れたように見えるが、レオナは自分の心配はいらないから戦いに集中しろと忠告する。

 ダイはバーンと互角の力を持ち始めた……だが、バーンはそんなダイの幼い認識を笑う。 バーンと互角ということは、すなわち、天を左右できるほどの力だと言うこと。だが、それにも関わらず、それほどの力を何に使うかも考えていない無欲さを、バーンは笑った。


 それに、その強さを惜しくも思っている。
 バランの強さを受け継いだダイは、紛れもなくバーンの会った中で最強の男。自分のレベルに接近した者に対して、バーンは武器を収めて、自分の配下にならないかと問う。

 バランがYesと答えた問い――バーンは、身勝手な愚かな人間の心を説き、ダイを説得する。
 バーンに勝ったとしても、人間は半分魔物の血を引くダイを迫害する、と。

 そんなことはないというレオナだが、バーンはそれを個人的感情と決めつける。個人の感情で国は動かせないと言うバーンに対して、王女であるレオナは何も言えなくなってしまう。

 だが、バーンは人間とは違う。たとえ自分に反旗を翻したとしても、バランやハドラーに対して以前と同じ敬意を持つバーンは、種族で差別はしない。
 無益と分かっている勝利のために生命をかけるか、自分の価値を知る者のために働くか  答えを迫るバーンに、ダイはしばし、沈黙する。

 ダイの選んだ答えは、Noだった。
 甘い幻想にすがりつくわけではない。人間の身勝手さは百も承知だし、バーンの言うことも嘘じゃないと思える。

 だが、それでもダイは人間が……ダイを育ててくれた地上の生き物、全てが好きだ。
 もし、本当にバーンの言う通りになり、地上の人々全てがそれを望むなら……バーンを倒してこの地上を去ってもいい――。

 ダイの答えに、目を見張るレオナ。
 その選択を残念がり、人間を業の深い生き物だというバーンは再び武器を取る。

「…思い知らさねばならんっ!!
 そんな連中に肩入れしたのが……おまえの最大の不運だということを…っ!!」

 互いに身構えて退治する二人を見つめるレオナの目には、涙が流れていた。彼女は、ただ、ダイの勝利を祈る。
 他の誰のためでもなく、ダイ自身のために……。

 そして、レオナと同じように――だが、レオナとは全く違った面持ちで、二人の戦いを物陰から見守る者がいた。
 キルバーンの使い魔、ピロロだ。

 彼の目に写るものは、アバンと戦っている最中のキルバーンにも伝わっていた。
 勝負を焦りだしたキルバーンに、アバンは決着の時が迫ってきたのを感じ取っていた――。


《タイムスリップな感想》

 うわぁ、ひさびさの感動っ。
 物事をあんまり考えてないと思っていたダイが、まさかあんなに真剣に、深いことを考えていただなんて……っ(<-微妙に失礼)

 思った以上にダイは自分が人間ではないことを気にしていて、どうしたらいいのか考えていたんだろうな。
 ダイの人間観には、ポップが大きく影響を与えていると思う。

 もし、世界の全ての人がダイの追放を望んだとしても、ポップだけは最後まで反対し、ダイの味方になりそうな気がする。

 ところで、ピロロの見ていることを見ることができるキルバーンを見てて、疑問が一つ。前から薄々思っていたけど、キルバーンとピロロって実は逆の立場なのかもしれない。ピロロが本体で、キルバーンが操り人形か使い魔みたいな感じで。
 ま、それがあたっているかどうかはさておき、アバン戦の決着が楽しみっ♪

 


《時を超えたおまけ》

 この292話は実は、ダイの大冒険のパーフェクトガイドを作るために読者からのファンレターを大募集した回でもありましたっ。
 そのため記念に表紙を残してありましたよ。

 この時はまだ本の正式タイトルが決まっていなかったみたいで、仮題は『スペシャルムック』になってますね(笑)
 この回の表紙は、旧コミックス32巻の中表紙、穏やかな表情のダイのアップだったんですが、この回の表紙の文は

『時には愚かしく、時にはやさしい…。
 そんな人間だからこそ、ボクは守りたい!!』

 に、なっています♪
 ダイの普段の一人称は『おれ』なんですが、この時は『ボク』を使っているのがぴったりな感じだなぁと思ってましたが、後に公式ブックで知った事実があります。

 本来、ダイワールドでは、子供のうちはひらがなで、大人はカタカナでの一人称を名乗っているんですよね。余談ながらうちのサイトではこの法則を重視して、成長にあわせて一人称を使い分けています(まあ、ほとんど書き手にしか分からない拘りですが)

 つまり、まだお子様なダイやポップは『おれ』で、ヒュンケルやラーハルトは『オレ』、年齢はダイ達とあんまり離れていないけど、もう大人気分で背伸びしまくりのノヴァは『ボク』という風に。

 と言う事は、この答えをだした時、ダイはまだ子供でも精神的には大人の域に達していたと見なして、『ボク』だったんじゃないかなと、連載が終わってからずいぶん経ってから思ったことがあります。
 
 

次へ続く
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