29 最期の最期でどんでん返し!! キルバーンの真の姿

  

 バーンとの死闘を終えダイがみんなの元に戻ってきて、物語がハッピーエンドで終わりそうだと思った時――奴は、現れた。
 ご丁寧にも切られた首を抱えているという、どこか芝居掛かった死神の登場である。

 アバンとの死闘で首を切り落とされ、完全に死んだはずの男の再登場に一同が驚くのも無理はない。

 が、彼が最期に明かした事実は、キルバーンというのはただの人形であり、いつも肩に乗せていた一つ目ピエロこそが本体だと言う驚愕の事実だった。
 だが、分かってみればそれは頷ける。

 キルバーンの攻撃や必殺技は闘気や魔法を利用した物は、一つもない。
 彼の決め技は、決まって武器やアイテムを利用したものばかりだ。回復魔法をかけていたのは常にピロロの方であり、ルーラをつかう時も常に小悪魔は側にいた。

 知性もほぼない小悪魔として常に振る舞い、相手から戦力外と思わせることで身の安全を図りつつ、自在に動かせる人形を操って他者を殺害する。
 ――まさに罠使いの本領発揮というべきか。実に嫌な戦法である。

 さらに、キルバーンが隠し続けていたのは自分の正体だけではない。
 バーンが本体を隠していたように、キルバーンもまた長年隠し続けていた本体を持っていた。

 元々、キルバーンはバーンの元に送り込まれた、冥竜王ヴェルザーの配下。
 バーンの手助けをせよという命令の影に、隙あらば暗殺を実行せよとの密命をおって彼の片腕として活動し続けていた。

 バーンへの忠誠は当然のことながら真実の物ではないが、だからといってヴェルザーへの絶対の忠誠を持っているというわけでもなさそうだ。

 なにしろ、自分の主君に対してキルバーンはいささかからかいめいた軽口で『人間のように欲張り』と評しているぐらいだ。ミストバーンとバーンのように、密接な信頼関係があるとは思いにくい。

 ヴェルザーにしてみれば、元々二心を持つキルバーンは捨て置くには惜しいが、身近に置くには危険な存在だからこそ、キルバーンを風変わりな遊撃兵として活動させていたのかもしれない。

 キルバーンの行動は、本気からは程遠い。
 まるで遊びを楽しんでいる子供のような無責任さを随所に感じていたが、本体があれだったのならある意味納得だ。

 ……まあ、魔族である以上、見た目が子供っぽいからといって年齢は保証の限りではないが。
 なにせ、少なく見積もってもキルバーンは数百年はバーンに仕えていたのだから。

 どちらにせよ、キルバーンにとってはバーンに従うのも、地上壊滅作戦についても、本気で実行する価値のある任務ではなかった。
 主君の望みが地上にある以上、むしろその逆こそが目的といえるだろう。

 だが、キルバーンは遊びが過ぎた。
 バーンの油断の源が若さと老いならば、キルバーンの首を絞めたのは遊び心。

 単にヴェルザーからの任務を果たすつもりなら、ダイ達があの場からいなくなった後で黒の結晶を誘爆させればそれで済むことだった。
 実際にそうしていたのなら、ダイ達には全く打つ手がなかったのだから。

 が、バーンとは違い、人間を高く評価しすぎて関わりを持ちたいと思う気持ちが強かったキルバーンの遊び心は、結果的にダイ達に反撃の機会を与えた。

 真剣さとは程遠い遊び心こそが彼の魅力だったとはいえ、ある意味で自業自得な末路と言えるだろう。


  

 

28に戻る
三章目次に戻る
解析目次に戻る

inserted by FC2 system