28 完全無欠の大魔王! 真バーン、降臨!! 

 

 無尽蔵の魔法力を持ち、付け入る隙などほぼ見えなかった、老バーン。
 たった一人で、しかもお遊び半分の戦いにも関わらずダイ一行を全滅寸前にまで追い込んだ老バーンだが、それでさえバーンにとっては実力を半分も出していない仮の姿に過ぎなかった。

 自分の力を衰えさせないように、知力と魔法力を老人の身体に、若さと力を若い身体へと別けて分身をつくりあげる。さらに若い身体には凍れる時の秘法を自らかけ、不老不死に近い時間をも手に入れていた。

 普段は老人の姿で過ごし、いざ強敵との戦いともなれば分身体を一つに束ねて絶頂期の身体を取り戻して、真の実力を持って戦う。
 それこそが、バーンの戦法だ。

 無尽蔵の魔法力に加え、老人の身体とは比べ物にならない頑強な身体能力に加え、どんな強敵の必殺技も跳ね返す『天地魔闘の構え』という奥義を持ったバーンは、まさに完全無敵。

 しかも、長年封じていた『若さ』はバーンにとって、戦闘意欲をかき立てる存在でもあるらしい。

 どこまでも余裕に満ち、戦いなど歯牙にもかけぬ雰囲気を感じさせる老バーンに比べ、若さを取り戻した真バーンはより好戦的な性格となる。
 バーンにとって真バーンの姿とは、まさに戦うために用意した最適状態の切り札だった。
 だが――面白い物で、バーンの致命的の失敗こそは、彼が最強と信じて長年大切に保管し続けたその『若さ』の中にあった。

 戦いを楽しみたいという思い、そして自分こそ最強だと信じる傲慢とも言える思い上がり。
 人間という生き物を見下しきって、切り札を温存しようとした考え。

 老バーンの深い英知を持って、自分以上の敵に対して備えていたその慎重さをダイ達に最初から向けていたのならば、おそらくバーンは望みとおり魔界に太陽をもたらすことができただろう。

 だが、バーンはダイ達を侮っていた。
 まあ、実力差を考えればそれを傲慢と呼ぶには値しないが、その隙こそがポップの挑発に乗る原因になった。

 自分の感情を抑えきれず、己の可能性に過信を抱く傾向――それを若さゆえの過ちというのなら、バーンはまさに自分の若さに負けたと言える。
 そして長い時を生き過ぎた老人としての奢りも、そこにはある。

 元々、バーンは挑戦者だった。
 強敵を相手にしながらも魔界での熾烈な戦いを勝ち抜き、さらなる強敵と戦うことを計算に入れてバーンパレスや鬼岩城を作り上げ、数千年という時を準備に費やしたバーンはいつしか忘れてしまっていたのだろう。

 切り札を二重、三重に隠し持つバーンの細心さは、明らかに自分よりも強い存在に挑むためのものだ。作品中では触れられていないが、バーンの最終目標は地上消滅などではなく、神々への復讐……天界への挑戦にあったように思えてならない。

 そうでもなければ、地底に存在する魔界の神になるものがわざわざ空を飛ぶ移動要塞の城を作った説明が付かない。
 だが、バーンは長らく、王者でありすぎた。

 数千年先の視点を持つがゆえに挑戦者の気構えを忘れてしまったからこそ、彼は今、この一瞬以外は目もくれない人間の底力を侮ってしまった。

 バーンが必勝の策と信じて長年大事にしてきた、『若さ』と『老い』……それこそが、バーンの敗因となったと思えてならない。ダイとの最期の戦いでやっとバーンは全てを投げ出して捨て身になる戦いを行ったが、おそらくはその勝利を得るためになりふりを構わない一途さこそが、バーンの原点だったのだろう。

 ダイに敗北し、石となって破れさった彼が最後に何を思ったか――それが描かれなかったのが残念だ。
 

 

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