1 にせ勇者との戦い

 

 

 ダイの記念すべき第一戦は、にせ勇者一行との戦いだった。
 後々、愛すべき迷脇役として活躍するにせ勇者一行だが最初の頃は本気で小悪党であり、ゴメちゃんを誘拐した悪者として登場している。

 使用呪文から見てあまりレベルが高くないにせ勇者一行ではあったが、一般人や低レベルの怪物にとっては十分な強敵だった。

 ましてやこの時のダイは竜の騎士の力どころか、魔法の一つさえ使えないごく普通の少年にすぎない。物心ついた頃からずっと魔法使いの修行をしていたはずのダイなのに、この時点ではメラすら使えなかった(笑)

 初登場時のダイは木の剣を装備しているが、後でにせ勇者との剣の打ち合いで即座に負けたところを見ると特に強いとも言えない。……ブラスの証言によると「勇者ごっこして遊んでいる」ようにしか見えなかったそうだから、後のダイが見せた剣の才能はこの頃はまだまだ眠っていたと思った方がよさそうだ。

 元気に走り回る姿や、城に忍び込む時に塔をよじ登るなど、体力と運動神経の良さを伺わせるエピソードがふんだんに混じっているとは言え、この時のダイには『人並外れた』という形容詞は当てはまらない。元気のいい、運動が得意だが勉強は苦手な少年の域からははみ出ていないだろう。

 当時のダイが唯一持っている特殊能力と言えば、怪物と友達という力だけだ。
 だが、ダイは自分の持っている能力だけをフルに使って、見事ににせ勇者との戦いで勝利を収めている。

 この時、注目したいのがダイが行き当たりばったりではなく、きちんと作戦を考え、それにそって行動した点だ。
 ゴメちゃんを誘拐された時、ダイはにせ勇者一行と直接やりあったせいで、ダイは自分の力では彼らに勝てないと悟った。

 にもかかわらず、ダイはゴメちゃんを助けるために戦いを決意する。
 その際、ダイは島の怪物達に力を貸してくれるように頼み、同意した連中を連れてロモスへと向かっている。

 この時、ダイが目的としたのはにせ勇者を倒すことではなく、ゴメちゃんを助けることだった。
 そのためにダイは、この時はかなりの策を弄している。

 にせ勇者一行の中で最弱の僧侶ずるぽんに目をつけ、誘拐、監禁、拷問まがいのことをしてまでゴメちゃんの居場所や仲間の弱点を吐かせている。…………よく考えると、正義を目指す勇者とは思えない行動だ(笑) 目的のためなら、案外手段は選ばないタイプである。

 それが勇者に相応しいかどうかはさておくとして、ダイの思考方法は実に現実的だ。
 にせ者とは言え仮にも勇者であるでろりん達とダイとでは、この時は明確な実力差があったためそれを補うためにダイは小細工の限りを尽くしている。

 陽動作戦を使ってゴメちゃんを真っ先に助けようとし、それを邪魔されたのなら予め探っておいたにせ勇者一行の弱点をつくなど、初登場のダイは意外なまでに頭脳派な戦法を選んでいるのだ。なんせ、ダイはにせ勇者一行の弱点を聞き出す際、メモをとってさえいる!(笑)

 余談になるが、難しい字は読めないとはいえ、簡単な文字なら書くのは書けたようだ。しかし、普通なら丸暗記出来そうな事柄をいちいちメモしているのを見ると、賢そうとはとても言いがたいのだが……。

 最終的には偶然と仲間達に大きく助けられ、辛うじて勝利を収めたこの戦いは、竜の騎士としてではなくダイ本人の個人的資質が表現された戦いになっている。
 戦いの場以外では無邪気さやシンプルさが目立つせいで印象が薄いが、ダイの戦いに向ける姿勢は初登場時のこの戦いではっきりと出ている。

 途中から竜の騎士の力に目覚めて突出した攻撃力が目につくことと、レオナやポップなど頭脳面で優れたメンバーが現れたせいで目立たなくなっているが、本来のダイは力任せに戦うタイプではない。

 目的を見据え、逸れることなく全力で行動出来る意思の強さ。
 そして意思を共にする仲間と力を合わせ、相手と自分の戦力差を冷静に見切って弱点を見抜き、自分に出来る最善手を選び取る判断力こそがダイの基盤だ。

 超人的なパワーが目立つようになってからは見逃されがちになってはいるが、ダイの戦いにはこの思考が常に根底に存在している。
 覚醒前だったとはいえ竜の騎士だからこそ持てる思考なのか、ダイ本人が持って生まれた資質かは定かではないが、ダイの戦いを考察する上で忘れてはならぬ注目点だ。

 

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