2 パプニカお家騒動(1) |
にせ勇者との戦いから、三ヵ月後。 ロモス王に未来の勇者と認められたものの、この時のダイはまだまだ普通の少年だった。 後に、魔王軍との戦いでわずか三ヵ月の間に驚異的なレベルアップを見せたことを考えると、この時のスローペースな成長が不思議なぐらいだ。 魔法使いになるようにとブラスに毎日言われ続けていたせいか、この頃のダイは自分が魔法を使えないことに、ちょっぴりコンプレックスを覚えているような雰囲気すらある。 魔法が駄目ならば剣の腕を磨けばいいと、今後の指針となる言葉と共にパプニカのナイフを彼に与えた。このナイフは、後々までダイの宝物となり予備武器として物語の最後まで活躍することになる。 ところで、この回でダイの大冒険世界における魔法の概念が、明確にされているのは注目したい点だ。 魔法陣を使って契約の儀式を行い、それに成功すれば魔法を使えるようになる。 このシステムもまた、物語の最後までしっかりと基盤となって存在している。契約を行えるかどうかは本人の素質が問題であり、呪文を実際に使えるかどうかはレベルの問題という点も、きっちりと説明されている。 この時点でのダイは、魔法は使えないものの呪文契約は多数こなせるという、普通とは違う才能を感じさせる伏線が紹介されている。後にダイの正体が分かってからこの部分を読み返すと、すでにこの頃からダイの能力や生まれ持った力が設定されていたと確認出来て、非常に興味深い。 だが、この時はダイだけでなくレオナも彼の特異性に気がつくことなく、直後に起こった戦いに巻き込まれることになる。 後のダイのメイン武器は剣であることを考えると、彼が槍を使っていたのはこの時だけなので、非常に珍しいシーンだ。 槍が折れても挫けることなく、レオナからもらったナイフを早速使い、友達であるパピラスの力を借りて上空からさそりの背中 心臓を狙って攻撃し、見事に勝利を収めている。 魔法はともかくとして、身体を動かす能力の方は格段に進歩していたと言うべきだろう。だが、難を言えばダイの判断力や頭の働かせ方が、戦いだけに限定されている点だ。 たとえばダイは、魔のさそりがいかに危険な怪物であり、デルムリン島には本来いない怪物だと知っていた。しかし、それにも関わらず、ダイはさそりがどこから来たかまでは考えていない。バロンが本性を見せてからやっとそれを悟ったとは言え、気付くのが明らかに遅すぎた。 レオナと共に、地下洞窟落とされてしまってから分かっても、何の意味もない。 しかし、ダイ以上に未熟さが目立つのは、実はレオナの方だ。 それにパプニカ王女としての礼儀や風格を感じさせる態度は、この時はほとんど見せなかった。 戦いにおいても、魔法が効かないのにショックを受け、敵の攻撃を無防備に食らってしまって気絶してしまっている有様だった。厳しい言い方をするのであれば、この時のレオナは王女としても、勇者一行の一員としても完全に失格だ。 だが、その分、レオナはこの時は素のままの一人の少女としてダイと接し、友達として心を通わせている。レオナを守れなかったことを悔いるダイに対して、瀕死の彼女はダイを責めるどころか励ましの言葉を与え、気をひきたてようとしている。 レオナの最大の特徴である前向きな気丈さや、他人に影響を与える確かな説得力は、この頃から片鱗が見えているのだ。 |