14 ネイル村長老の修行

 

 ネイル村で、ダイは自ら望んで苦手な魔法の修行を志願している。
 正直、パーティの総合戦力という意味では、この決意はあまり意味のあるものではない。火炎系の最大呪文であるメラゾーマが得意な魔法使いがいるのであれば、わざわざ勇者がメラを覚えても、たいした意味はない。

 後にマトリフの修行の際に教えを受けたように、パーティのメンバーがそれぞれ自分の得意分野で力を磨き、協力し合う方が効率的だ。
 だが、この時のダイはそこまでは考えていない。

 とにかく強くなりたいと言う一心でいっぱいで、がむしゃらに修行したいと望んでいるところだ。
 ところでここで面白いのが、ダイがずっと一緒にいたポップではなく、会ったこともないネイル村の長老に修行を頼んだ点だ。

 初登場の時のマァムが使用した魔弾銃の攻撃呪文は、メラやギラなどの初級呪文に限られている点から推察すれば、少くとも攻撃魔法においてはポップの方が上だろう。
 だが、腕が立つのと教師として優秀というのは、全く別の話だ。

 ポップが教師役として向いているかどうかは作品中では明らかにされていないが、少なくともこの時点の彼には無理があるように思える。
 そもそもポップは修行初日に、アバンからこれからは兄弟子としてダイの面倒を見てあげるようにと言われたにもかかわらず、一向にその役目は果たそうとしていない(笑)

 ポップのダイに対する態度は弟と言うよりは、対等の相手に対するものであり、ダイを教え、導いてやろうとするものではない。だいたい、戦いも嫌い、修行も嫌い、面倒なことも嫌と、わがまま放題な上に割合に短気な性格なのだ。

 なまじ自分が飲み込みが早いタイプなだけに、魔法そのものを苦手とするタイプを理解できるかどうかも怪しい。
 ここで、ダイがポップではなく見知らぬ長老に教えを受けようとしたのはある意味で正しい判断かもしれない。

 確かに、ネイル村の長老は魔法使いとしてはさほど腕が立つとは言えない。
 それは長老本人も自覚しているようで、ダイに修行を依頼された時、自分にはアバンの使徒に教えを授ける程の力はないと一度は断ろうとしている。

 だが、この長老はなかなかの人物だ。
 ダイからアバンの死亡を聞かされたにも関わらず、それを周囲に漏らさなかった点と言い、ダイの紋章の話に思い当たることがあった点と言い、沈黙の重みを心得た聡明さが伺える。

 それでいて気さくな印象で、人当たりのいい老人だ。
 彼はどうやら褒めて育てるタイプの教師のようで、ダイの下手な魔法に呆れることなく、優しく修行に付き合っている。

 ダイはネイル村で三日間修行していたが、自力で火炎系呪文ができるようになったとは言え、覚えたのはやっと初級火炎系呪文……メラだけである。
 しかも、かなりの力技と言うか、生み出した炎を自分の手で投げつけるという荒技っぷりだ。

 敵以上に、本人の手のひらへのダメージが大きいのではないかと不安になるような魔法の使い方である。

 ポップなどはあれでは成功に入らないと呆れていたが、長老はダイの無茶さも完全肯定している。要は、敵に当たればいいのだと、自分の弱点を自力で補った点を長所として認めてあげている。

 余談だが、ダイはどうやら褒めて伸ばした方がいいタイプのようだ。
 アバンも褒めるタイプの教師だが、ダイは彼の教えを受けて一気にレベルアップしている。それとは全く逆に、叱るタイプであるブラスの魔法教育はダイにあまり効果をもたらしていない。

 同じく、叱るタイプのロン・ベルクとの特訓も、さしたる成果はなかった辺りを見ると、ますますそう思える。

 それはともあれ、前述した通り、ダイのこの修行はパーティの総合戦力としては無意味な行動だ。
 しかし、ダイはこの修行で魔法への苦手意識を幾分かでも解消でき、強くなったという自信を持つことができた。

 ダイが自分の力で呪文を唱えられるようになったことで、魔法と剣を組み合わせた技を使えるようになるので、その点では大きな意味を持っている。
 そして、ダイの頑張りが長老の心を打ち、自分でも頑張ろうと思う心に繋がった。

 長老が村の守りを保証してくれたからこそ、マァムの旅立ちを後押しできたのだから、彼とダイの修行は無意味なものではなかった。
 また、こちらも余談になるが、この長老はマァムがアルビナスと戦う際、回想シーンの中に登場して間接的にマァムを助けている。

 ネイル村の長老は目立たない脇役ではあるが、味があって意外とダイ一行に影響を及ぼした人物である。

 

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