16 ダイvsクロコダイン戦 (3) |
獣王クロコダインは夜明けと共に雄叫びを上げて配下の百獣魔団を呼び寄せ、ロモス城へ総攻撃を仕掛けている。 この時のクロコダインの目標は、ダイだ。 移動する時だけはガルーダに運ばせているものの、いざ攻撃を始める前にはすでにガルーダがその場から飛び去っているところを見ると、これがクロコダイン本来の戦闘スタイルなのだろう。 自分自身を最強の駒として、最前線に置く戦略。 クロコダインの率いる百獣魔団は、主に動物系の怪物の系列で占められている。動物系の怪物はHPは高くて打たれ強いが、知能は乏しいという設定づけをされている場合が多い。つまり、配下に複雑な作戦を実行させるのは不可能に近いのだ。 動物系怪物のもう一つの特徴である数の多さに物を言わせて進撃をかけ、要の作戦行動は自分自身が行う 軍団長としてのクロコダインの姿勢が伺える戦略だ。 宿屋で寝ていたダイは怪物が城に向かうのを目撃した途端、武器を手に一人で飛び出している。その際、マァムが制止したのも耳にさえ入っていないダイは、明らかに一人で戦うつもりだった。 怪物を軽く蹴散らし、クロコダインがロモス王をまさに殺そうとしていた時に飛び込んでいったダイは、まっさきに王を助けることを考えた。 クロコダインにしてみれば、ダイには魔法を使えないという先入観があったためか、一度、ナイフを納めたダイのフェイントに意表を突かれ、見事にこのメラに引っ掛かっている。 ダイはこの際、王を助けるのを目的にしたためか、……あるいは下に逸れがちなダイの魔法では単にコントロール的にその方が楽だったのか(笑)、床にメラを叩き付けることでクロコダインの目を眩ませ、王から手を放させるのに成功している。 ここでダイの魔法は全くクロコダインにダメージを与えていないが、この段階でクロコダインはダイの成長速度や潜在能力を本当の意味で理解し、今のうちに倒しておかねばならない敵だと認識している。皮肉な話だが、クロコダインにザボエラとの取引に乗る最期のきっかけを与えたのは、この時のダイの魔法だった。 一応はザボエラの取引に応じる形で魔法の筒を受け取っていたものの、クロコダインにはこの寸前まで迷いがあったに違いない。 しかし、魔法の筒は本来頑丈なものであり、また呪文を唱えなければ中に入っている怪物を出し入れできないという構造なので、箱をあえて二重にする必要はない。ザボエラがなぜ、あえて魔法の筒の外装に偽造を仕掛けたかはデータにないので分析は不可能だが、クロコダインがその外装をぎりぎりまで壊さなかった理由の方は、容易に想像がつく。 クロコダインは、本来、ザボエラの策を良いとは思っていなかったし、むしろ反対の意思さえ持っていた。だからこそいつでも握り潰せる外装をぎりぎりまで放置していたのだろうし、使わないですむものなら使わずにすませたいと思っていたに違いない。
だが、そんなダイの冷静さは魔法の筒の中からブラスが出てきた瞬間、すっとんでしまう。 鬼面道士であるブラスは、アバンの残した魔法陣の敷地から出てしまえば本来の怪物の性質に戻り、凶悪な怪物として人を襲う。だが、そうだと分かっていても、育ての親であるブラスは、ダイにとっては唯一の肉親だ。 鬼面道士を倒そうと兵士達が身構えるのを見て、泣かんばかりにやめてくれと頼み、また、ブラスを止めようと闇雲に訴えるだけのダイは、すでに勇者らしさのかけらもない。ザボエラが看破した通り、ただの子供へと戻ってしまっている。 ……というか、ダイが兵士達を止めたせいで、ブラスのかけた精神混乱呪文の効果で兵士Aが暴れだし、兵士達はそれを押さえるのに手一杯になってしまい、かえって足を引っ張っているような有様である。 正気を失ったブラスは、ダイの呼び掛けには全く応じずに攻撃を仕掛けてくる。それを捌くうちに、ダイも無意識のうちに本気になって、反撃しそうになっている。だが、寸前で自分の戦っている相手が他ならぬブラスだと思うと、どうしても攻撃できないという甘さを捨てきれていない。 この時点でのダイは、まだ闘争本能と自分の感情をうまくコントロールできていないように見える。この時点では、ブラスに多少のダメージを与えてでも無力化させるのがベストと思えるが、それさえもダイにとっては禁忌だったのだろう。 親に対する強い思慕……それが、結局はダイにとっては致命的な弱点になっている。 ここは、完全にザボエラの作戦勝ちだ。 しかも、この時、ザボエラはハドラーに『クロコダインと共闘し、ダイと交戦中。勝利は目前』と、経過報告までしているというちゃっかりさ加減である。 ことあるごとにザボエラがこの話を持ち出し、恩を着せるなり、または脅し半分にさらなる取引を持ち掛けるなどして、クロコダインが前線担当、ザボエラが作戦担当と言う不公平極まりない共同作戦を今度も強いられていただろうことは、目に見えている。 だが、この後、ハドラーにも一目置かせた策士であるザボエラの予想を、遥かに超える展開が発生するのである――。
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