17 ダイvsクロコダイン戦 (4)

 

 倒れたダイにとどめを刺そうと、斧を投げるクロコダイン……だが、そのダイをすんでのところで助けたのが、マァムだ。
 このクロコダイン戦は、マァムの判断力は高いようでいて実はそうでもないと露見する戦いでもある。

 初期のダイ、ポップに比べれば、確かにこれまでのマァムの判断力は突出していた。誰かを守るために行動するという一点に置いては、マァムの判断は素早いし適格だ。
 だが、敵味方の判別に迷うような少し複雑な状況になると、マァムの判断や分析力は俄然落ちてしまう。

 例えば、マァムは傷ついているロモス王の回復に専念するあまり、ダイへの手助けが遅れている。ロモス王が自分はもう大丈夫だからと後押しするまで、ダイを気にしつつも援護を行えないままだった。

 ロモス王の怪我はたいしたものではないのだし、この場で優先すべきはダイを援護してクロコダインを倒すことなのだが、マァムの優しさがここでは悪い方向に働いてしまっているのだ。そして、マァムは魔弾銃で反撃しようとするものの、ブラスを思って泣くダイに心を動かされ、攻撃を止めてしまう。

 だが、だからと言って代案が浮かぶわけでもない。
 家族を思うダイを思いやるからこそ戦いへの対策が見つけられないマァムは、行き場のない気持ちを八つ当たるように、クロコダインへの怒りを露にして糾弾している。

 しかし、この時のマァムの言葉は、説得ですらない。
 自分の信じる正しさをはっきりと口にする  それがマァムの魅力の一つであり、ポップやヒュンケルに対してはプラスの方向に働いたが、この場合はあまり意味がない。

 まず第一に、この作戦を考えたのはクロコダインではない。クロコダインがその作戦に従って行動しているのは事実だが、彼自身がこの卑劣な作戦に賛成しているわけではないのだ。だが、人質をとるというクロコダインの卑劣さに怒るマァムには、相手の心の葛藤や複雑な事情までは見えていない。

 自分のしていることの卑劣さを知りつつ、それでも開き直ろうとしているクロコダインに対しては、マァムの言葉はむしろマイナスの方向に働いている。自尊心を傷つけられ、だからこそムキになって怒鳴るクロコダインは余計に意固地になり、己の行為を正当化するような台詞をはいている。

 つまりマァムの糾弾は、クロコダインの不本意な戦いへの意思を固めさせただけという結果に終わっているのだ。

 その後、ブラス救出作戦を提案したのも、ダイの方だ。
 マァムがブラスを押さえている間に、ダイがクロコダインが腰に付けている魔法の筒を奪い、ブラスを筒に封じ込める  それが、ダイの考えた作戦だ。

 自分では作戦を思いつかなかったマァムはそれにあっさりと賛成しているが、実はここでマァムが異議を唱えれば、また、話の展開は違っていたかもしれない。
 ブラスを最優先で守り、怪我を負わせない方向で助けたいと思うあまりダイの作戦は、見透かしやすく、単純なものになっている。

 おまけに、さっきまともに食らったメラミのダメージのせいでスピードが半減してしまったダイは、クロコダインの蹴りに阻まれてしまう。
 ダメージを受けて動けなくなったダイに向かって放たれたのが、クロコダインの最大必殺技、獣王痛恨撃である。

 初見参のこの技は、闘気を集中して竜巻のように一気に放つという表現をされている。その威力は凄まじいものであり、床や壁を抉って大きな穴を開けている。ダイどころか城の広間にいた全員を竜巻に巻き込んで、大ダメージを与えていた技だ。
 その技でダイもマァムも生きてはいたものの、身動きできないダメージを負ってしまう。


 それでも比較的傷の浅かったマァムは、クロコダインがダイにとどめを刺す前になんとかダイを回復させようと、魔弾銃に回復魔法を詰めて打とうとしている。自分の回復を後回しにしてでも仲間を先に助けようとした、マァムの優しさ――だが、これも見事に裏目に出ている。

 悪魔の目玉を通じてずっと見張っていたザボエラが、触手でマァムを捕らえ、身動きを封じてしまったのだ。マァムが自分自身の体力を回復させていたのなら、この触手をふり払うことができたかもしれないが、力尽きたマァムはそのまま拘束され、無抵抗状態にされてしまう。

 ついに魔弾銃を手から落としてしまった瞬間、マァムはこの戦いから事実上脱落している。

 このクロコダイン戦では、マァムは誰を守ればいいのか決心がつかないまま戦っていたと言う印象が強い。
 だからこそ彼女は、本来の力を発揮できなかったのではないかと考えられる。

 ダイを守りたいという気持ちはあっても、マァムにはダイが大切に思っている怪物に感情移入できかった。

 ブラスがダイの家族とは聞いても、洗脳されて恐るべき敵として襲ってくる怪物を、仲間や家族同様にどうしても守りたいという気持ちになれなかったとしても、マァムを責めるわけにはいかないだろう。人がよくて優しいブラスを予め知っていたのならともかく、敵として襲ってきた姿こそが初対面なのだから。

 それに、この戦いの直前にマァムはポップと決別に近い言い争いをしており、それが精神状態に影響を与えていなかったとは言い切れない。仲間想いのマァムにとって、仲間だと思っていたポップに幻滅し、切り捨てるのは相当の覚悟や辛さがあったはずなのだから。


 彼女がポップのことを気にしているなによりの証拠として、魔弾銃を落とす際、ポップの名を呟いている。
 マァム自身は自覚していないかもしれないが、無意識下ではポップの存在を強く意識しているのだと推察できる、1シーンである。

 

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