61 中央塔への進撃 (3)

 

 思惑の違いはあれ、慎重に爆弾岩の群れの間をすり抜けようとするダイ達だったが、その前にとんだ邪魔者が現れる。
 ダイに追い払われたはずの氷炎魔団の一群が勢揃いし、襲ってきたのだ。
 この時、フレイムとブリザード達はこう発言している。

『氷魔塔、炎魔塔を砕かれ、このままフレイザード様の所へ行かせたとあっては、我らの面目丸潰れだっ』

 フレイザードの部下だけあって、彼らは『面目』を非常に重視しているようである。そして、目的を重視するあまり、無謀な行動を取る点も主君譲りのようだ。
 勇者一行を止めようとフレイムがポップに襲いかかるが、これはあっさりと避けられてしまう。

 が、フレイムの攻撃パターンは相手に飛びついてそのままダメージを与えるという単純なものであり、交わされたからといって即座に方向転換さえできないらしい。間違えて味方である爆弾岩に飛び付いてしまってからフレイム自身も慌てているが、その後の対処はできなかった。

 ダメージを受けた爆弾岩が自己犠牲呪文を唱え、フレイムもろとも自爆……ダイ大史上で1、2を争う間抜けな最後である。
 しかも、この後のフレイム達の行動がさらに馬鹿さ加減を増している。

 フレイムAを倒したとダイ達を逆恨みしているのだから、手に負えない。感情的で、激昂しやすい辺りもフレイザードに似ているようだ。本物のフレイザードならはどんなに感情的になったとしても、冷静に計算のできる判断力があるのだが、部下であるフレイム達は表層的な部分しか受け継いでいないので、劣化コピーとでもいうべきだろうか。
 当時のハドラーがそうだったように、フレイザードも部下の育成に力を注ぐ気はないのが見て取れる。

 ポップのごくもっともな指摘にもまったく耳を貸さず、問答無用で襲ってくるフレイム達に三人の反応がそれぞれ違っていて、面白い。
 ポップはひたすら爆発に怯え、来るなと騒いでいるだけだし、マァムも驚いているだけで何も反応できていない。

 だが、ここで咄嗟に反応を見せたのは、ダイだ。
 真空呪文を放ってフレイム達の動きを封じている。もともと、初歩の真空呪文しか使えないダイでは魔法だけでフレイム達を退治する程の力は無いのだが、ダイはそれを逆手に取って真空の渦にフレイム達を巻き込んでいる。

 そして、ダイはポップに声をかけ、それに応じる形でポップが火炎呪文を放ってる。
 真空呪文の流れに沿うように渦を巻いた炎はものの見事にブリザード達を全滅させ、その直後にポップとマァムが協力してはなった氷系呪文でフレイムも一掃している。
 三人が見事なまでにチームワークを発揮した戦いだ。

 これまでも一緒にはいたものの各自それぞれの判断で、バラバラに戦っていた感覚が強かった三人が、一つの目的に合わせて協力している。
 ここで注目したいのは、ダイとポップの判断の差だ。

 この時、ダイが真っ先に下した判断は、戦いの選択だ。
 怯えるだけのポップや驚いているだけのマァムと違い、ダイは危機に対する反応が速い。これは、戦場においてとても重要な資質だ。

 なにかアクシデントに遭遇した時、それに立ち向かうか、あるいは逃げるか――まず、その選択を迫られる。ただうろたえているだけでは、その機会すら失ってしまうのだから。
 ダイはここで逃げるよりも、立ち向かった方が被害が少ないと判断したのだろう。
 そのために敵の動きをまず封じ、その後の助力をポップに求めている。

 ここでブリザードを先に始末をしたのは、ポップの判断だ。
 ダイはポップに魔法を放つようにと促してはいるが、何の魔法を使えとまでは指示していない。だから、ここで火炎呪文を放ったのはポップ自身の考えによるものだ。
 そして、その後、マァムに具体的な指示を与えているのもポップだ。

 方針を決めるダイに、その方針に対して最適な作戦を立てることのできるポップ……二人の役割が、この時にはすでに明確になっている。

 グループを組んで行動する際、重要とされるのはリーダーとサブリーダーの存在だと言われている。
 物事の方向性を決め、みんなを引っ張っていくのがリーダーの役割ならば、そのリーダーの決めた方針に沿って動きやすいように周囲に働きかけるのがサブリーダーの役目だ。


 主導権を持つリーダーに、それに従うサブリーダーが存在するか否か――集団においては、この組み合わせがきちんと機能しているどうかが要となる。

 リーダー候補が主導権を握りたがって自分を主張してばかりでは集団はまとまらないし、逆に判断力は高かったとしても根本方針を決めることのできないサブリーダーだけがそろってては、その集団は舵を失って迷走するだけだ。

 その点、勇者一行はダイがリーダーとして方針を決め、ポップがサブリーダーとしてその補佐をする、という形ができた。
 その意味は、大きい。

 初期の頃には目立たないが後期になればなる程、ダイとポップの組み合わせによる戦闘の要となる役割分担である。


《おまけ》

 ところで、筆者は炎魔塔と氷魔塔の襲撃方法に別案を考えたことがある。
 特に発表する場がなさそうなので、ここでおまけとして書いてみたい。
 まず、メンバーが4人+1というのを変えない前提で、まず、ダイとポップはタッグを組んで派手に戦いながら、氷魔塔へと向かう。

 ダイの剣の破壊力や、ポップが魔弾銃の弾を使用して誘爆を狙えば、爆弾なしでも充分に塔を破壊出来ることを考えれば、爆弾はいるまい。だが、ダイが塔を攻撃するのが目的ではない。ダイの役割は、囮としてハドラーの気を引きつけることだ。

 言うまでもなく、ハドラーの目的はダイ抹殺だ。
 彼にしてみれば塔の守護よりもダイを倒す方が優先事項であり、なんと言っても総攻撃の最高責任者なのだから、生真面目に目的重視はしないだろう。

 性格的にも感情的になりやすく、挑発に弱いところがあるから、ダイの振る舞いによっては充分にハドラーをおびき寄せることができる。

 戦いを派手に行うことで、ザボエラがダイの首か、もしくは手柄を狙って助力にくる可能性が高いので、ここはダイには目一杯派手に戦ってもらう。ポップは目立たないようにサポートするか、できるのなら伏兵として隠れていることがお薦めだ。

 ダイ達とは別に、マァムとバダックに一つずつ爆弾を持たせ、二人を氷魔塔へと向かわせる。ただし、馬鹿正直に堂々と進むのではなく、目立たない様に隠れながらだ。また、ゴメちゃんはこちらに加わる予定とはいえ、彼は戦力外として計算している。

 ついでに言うのなら、マァムとバダックは決して一緒に行動はしない。
 できるならマァムが目立つ様に、氷魔塔を襲撃する。もちろん、ザボエラとミストバーンが待ち受けているので彼らが現れたら、塔の爆破に失敗したふりをして全力で逃げる。本命はバダックの方であり、彼に氷魔塔を爆破してもらうのが目的なのだ。

 氷魔塔の破壊を確認してからポップが魔弾銃の弾に魔法をぶつけて誘爆させ、炎魔塔を破壊。

 この時点でルーラの利用が可能になるので、後はダイとポップが一緒に中央塔へ移動してハドラーやザボエラ達を振り切る。時間の問題で彼らも中央塔にやってくるだろうが、その前に勝負を付けるのが目的だ。

 フレイザードに奇襲を仕掛け、速攻で勝負を付けてレオナを救助し、そのまま逃げ出す――というスピードにメインをおいた救助作戦を考えたことがあった。

 しかしこのネタ、原作リメイク物ぐらいでしか使えそうもない上、成功すればヒュンケルとクロコダインの出番がまるっきりなくなってしまうという代物なので、つかいどころもなく封印したネタだったりする(笑)

 

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