60 中央塔への進撃 (2)

 

 一致団結して中央塔まで進んだダイ達は、塔に潜む危険を感じ取っていた。
 もっとも、フレイザードが手ぐすねをひいて待ち受けていることを自覚しながら、ダイの思考はいたってシンプルだ。

 レオナが危ないから一気につっこうもうとするダイに、同じ考えのマァム――正義感が強くて、困っている人がいれば無条件で助けたいと思う……そんな点で、ダイとマァムは良く似通っている。

 それに比べると、ポップはこの時はあまり乗り気なようには見えない。
 ダイがそう言うのなら仕方がないという感じで、それに付き合っているという風に見える。
 それは、彼らの考え方の違いがベースにあるせいだろう。

 ダイやマァムが弱い人を助けたいと思う正義の心が強いのだとすれば、ポップは身近な人を助けたいと思う気持ちの方が強い。純粋にレオナを助けたいと考えるダイや、それを正義と考え協力しているマァムに比べ、ポップの焦点はレオナにはないように見える。

 もちろん、レオナを助けるために志願した以上、その目的を忘れているわけではないだろう。だが、ポップにとってはあくまで、レオナはダイが助けようとしている女の子であり、直接目的ではない。ポップにとって身近に感じる二人の仲間……ダイとマァムへの無事を第一に考えているからこそ、彼らに協力する形で参戦している。

 そのせいか、フレイザード戦でのポップはモチベーションがかなり低めだ。
 三人そろって中央塔へと進むダイ達は、塔の周囲に多数の爆弾岩が転がっているのを発見する。

 しかし、この時のポップの行動はお調子者っぷりを発揮しまくりである。
 相手が爆弾岩だとも知らずゴンゴンと気楽に蹴飛ばしておきながら、マァムからその正体が爆弾岩と聞いた途端、青ざめてへたりこんでいる。怯えきったポップは、この後、どうすればいいのかという判断までマァムに委ねてしまっている。

 同じ先生から授業を受けていても、こうも反応が違うものかと思うぐらいポップとマァムの差は大きい。
 実際、この時のマァムの優等生ぶりは見事なものだ。

 この時の発言や態度から見て、ポップもマァムもそしてダイも、爆弾岩を見たのは初めてだったようだ。授業で習っていたとはいえ、実際に怪物と出会うかどうかは本人の行動範囲の広さや経験によって左右される。

 実際に怪物と出会った時、今まで蓄えた知識の中からその特徴と一致する物を探し当て、対処方法を探る――口で言うのは簡単だが、実行するのはかなり難しい。

 その点、マァムの対応は実に適格だ。
 初めて見る怪物に対して、自分の知識を探り、なおかつ慎重に対処する――これは、彼女の経験で自然に身に付いた対処方法だろう。

 ネイル村を怪物からたった一人で守ってきたマァムは、既知の怪物への対処については完璧であり、優等生と言っていい。
 それに比べると、ポップの行動はダメダメと思える。

 変な怪物を見つけてとりあえず害はなさそうだからと言って、ガンガン蹴飛ばすという行動はどう考えても無謀だし、その特徴を思い出した後の豹変ぶりの情けなさときたら目も当てられない。この場合ポップも知っている怪物なのだからもう少し冷静に対処すべきだとは思うが、ポップの行動自体はそう悪い物とは思わない。

 未知の怪物に対して積極的に観察し、反応を確かめようとする――この精神は意外と大切な物だ。
 野生の動物の大半は、子供時代は決まって好奇心が強い。

 特に鳥類は種族的特徴として、『見慣れないものを見たら、とりあえずつつく』という本能が備わっている。一見、危険で無謀極まりない行動のように思えるが、実際に自分の経験として相手の反応を記憶することで、安全な物と危険な物を見分ける知能を蓄えて成長していく。

 筆者が最初にこの知識を得た時はそれでいいのかと呆れたものだが、実際のところ、この経験というのは侮れない効果がある。

 野生動物と動物園にいる動物で考えてみると、この効力は分かりやすい。
 人間の飼育化にある動物よりも、野生動物の方が危険に敏感であり、生存本能に優れているものだ。
 この知識を踏まえた上で、ポップとマァムの対応を見直してみよう。

 確かに現時点では、優等生のマァムの方が評価は高い。
 だが、マァムの対応は言わばマニュアル対応であり、知識以外の怪物が現れた時には弱い。実際、マァムはゴメちゃんに初めて会った時には、敵と即断し、魔弾銃を突きつけたこともある。

 結果的には問題なかったとはいえ、一歩間違えればマァムは自分達の最後の切り札となる存在を抹殺、もしくは追い払ってしまいかねない行動をとっていたのである。
 敵とは言いきれない怪物には効果的な対処にはなりにくいのが、マニュアル対応の弱みだ。

 それに比べ、ポップの行動は未知の怪物や相手に対してこそ、効果が高い。
 自分自身で相手の本質を確かめたいと望む好奇心は、先々、ポップの知識を高めていく可能性は極めて大きい。ポップの判断力や洞察力の高さを考えれば、将来、ポップとマァムの怪物への知識や対処方法の差が逆転することは大いにありえる。

 だからこそアバンは、ポップのこのお調子者っぷりを特に矯正しなかったのではないかとさえ、筆者には思える。

 雛鳥に好奇心のままに行動させて経験を積ませ、困ったり甘えてきた時にだけ力を貸してやる親鳥のように、ポップがいつか自力で羽ばたける日を気長に見守っていたのではないか、と――。

 ところで、両極端なポップとマァムに比べ、この時のダイはあまり反応を見せていない。自己犠牲呪文を唱えるという点に驚きは見せたものの、特に怯えている風でもない。
 この辺は、怪物島育ちというのが大きな強みとなっていると言える。

 初めて見る怪物であっても、怪物だというだけで特に恐れる理由はダイにはない。
 敵対心を見せない怪物に対しては、ダイは基本的に無関心だ。

 島でのダイは島中の怪物と友達だった。そのせいで、ダイは怪物に対して特に愛情を持っているように思われがちだが、実際にはそうではない。ダイは襲ってくる怪物と戦うことにためらいはないし、逆に怪物だからといって特に肩入れするわけでもない。
 そういう意味で、ダイは実に公平だ。

 少なくとも、この時点ではダイの中で人間と怪物の区別はついていなかった。
 ダイの思考は、ある意味で野生動物に似ている。敵ならば戦い、仲間や家族なら仲良くするが、それ以外の相手には特に干渉しないのが、野生のルールだ。

 人間ならば、危険な牙を持つ獣が近くにいるのは危ないから危害がでる前に殺そうなどと考えるかもしれないが、野生動物はそうは考えない。
 後々のことを考えて、現在敵対心を見せない相手と戦うなんて発想はしない。ゆえにダイの判断も、気にせずに通り過ぎるという選択になる。

 敵とは言えない怪物への対処方法一つとっても、細かく見れば各自の反応や考え方の差は表れるものである。

 

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