14 ダイVSザムザ戦(1) |
正体を現したザムザは、ロモス王に向けて攻撃魔法を放っている。 彼自身は今回の計画のメインは魔王軍のための実験体集めだと言い、ついでにロモス王の命も奪えるのなら尚良しと言っていたが、その割には彼の行動は一貫性に欠ける。 そもそもロモス王を殺したかったのであれば、正体を暴露してから殺す必要などない。人間の振りをしていたザムザは、王のすぐ隣で話をしていた。つまり、王の側にいることを許される程の信頼を勝ち得ていたと言うことになる。 ならば、暗殺をするには絶好の条件が整っていたと言える。 ザムザは明らかに自分の正体を暴露し、魔王軍の存在や超魔生物への説明を高らかに説明することを最優先にしている。自己の虚栄心を満たすのを目的としているとしか思えない行動を第一としているせいか、ザムザの行動は非常に場当たり的だ。 ロモス王へ魔法を放つ際、ザムザは会場の人間諸共に死ねと言っているが、こう言っては何だが彼の攻撃魔法にそれ程の威力は無い。事実、飛び込んで来たダイによって簡単に防がれている。 ダイの防御力が並外れて高いことを考えれば、ダイを倒せなかったからと言ってザムザの魔法の腕前がたいしたことがないとは言えまい。 しかし、突然飛び込んで来たダイの顔を判別できなかったのは、魔王軍の一員としてはいささか甘かったようだ。少なくとも、六団長は全員会う前からダイの顔と名前が一致させていた。 勇者ダイの討伐命令が出ていた以上当然と言えば当然だが、六団長にとってはダイは倒すべき敵として意識されていたと言っていい。ザボエラなどは、特に手柄を立てたかったのかダイのみならず彼の仲間であるポップやマァムの顔や名前まで把握するほど熱心だった。 だが、ザムザはダイの名前は知っていたが、肝心の顔までは記憶していなかった。 ダイが竜の騎士の息子だと認識し、特別な能力を持ち合わせていると言う知識は持っておきながら、ロモス王がダイとポップの名を呼ぶまで突然現れた少年の正体に気がついた様子もなかった。 つまり、ザボエラとザムザの情報にはズレが感じられる。 親子という関係でありながら、ザボエラの方にはザムザと手を組むという意識はなかったのだろう。また、ザムザの方にもダイを倒して魔王軍の中で名をあげたいという意識がないようだ。 知識として、竜の騎士の存在を意識していたザムザにとって、ダイは『勇者ダイ』としてではなく、『竜の騎士』だという認識が強い。 超魔生物の研究を行っているザムザにとって、複数の種族の長所を併せ持った生物兵器の竜の騎士は絶好のサンプルとしか映らなかった。そのため、驚きから立ち直ったザムザの意識は、ダイへと向けられることになる。もう、この時点でザムザはロモス王への関心すらなくしているように見える。 ダイの登場に有頂天になったザムザは、超魔生物の研究に対してさらに嬉しげに語っているのだが、彼の行動は見れば見るほど優先順位があやふやだ。 どうしてもこれだけはやり遂げるという意思が、ザムザにはない。 これは、ザムザが戦士ではなく研究者だからこそ発生してしまう矛盾だろう。 六団長達が例外なく戦士の心得を持っているのに対し、ザムザには戦士としての覚悟も意識もありはしない。 ザムザにとっての目的は超魔生物の研究の完成のみで、魔王軍や魔王軍内での序列などの関心はごく薄い。ザボエラの息子と名乗り、妖魔士団を我が物だと協調して名乗るザムザの関心は、魔王軍にまで及んでいない。 この辺りは、バランの配下の竜騎衆によく似ている。 研究熱心と言えば聞こえがいいが、ザムザの考え方や行動は教授から実験テーマを与えられた学生と大差は無い。実験の成功を疑いもせず、最終的にその実験テーマを果たせばいいと考えているからこそ、ザムザは途中過程には無頓着だ。 ロモス王を確実に殺そうとしないのも、彼の存在は人間界攻略には重要でも超魔研究には何の関係もないせいだろう。 逆に、チウがマァムを助けようと生体牢獄に触れた時には、本気で彼を殺そうとしている。超魔研究を邪魔されるのは、ザムザにとっては最大の激怒ポイントだと思ってよさそうだ。
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