《おまけ・拘り職人の怖〜いお話》


 道を究める――そう言えば聞こえはいいが、その道を究めようとするあまり、時として人は人道や倫理から外れた行動を取ってしまうこともあるようだ。

 例として、日本刀について述べよう。
 日本刀の場合、剣の柄に隠された部分に作り手の銘を刻んでおくことが多い。そこに稀に、刀の切れ味を示す目安として別の言葉が付け加えられている時がある。 

 『二胴落とし』や『三胴落とし』など記されている刀は、実際に人体を斬って切れ味を確かめましたよ、と言う保証付きの品だそうだ(こわっ)

 日本刀はすっぱりとした切れ味が特徴的な刃物なので、熟練者がふるえば文字通り肉ごと骨を断つことができる。それを実証して見せようという発想がすでに怖いのだが、まあ、武士の時代にはそれが当たり前の発想だったようだ。

 この試し切りは主に罪人の死体を利用して行うもので、生きた人間で実験するわけではない。まあ、いくら日本刀が切れる刀で、使い手がどんな達人だったとしても、抵抗する生身の人間を二、三人まとめて斬るなどできるとは思えないが。

 死体を二体まとめて斬ることができれば二胴落とし、三体なら三胴落としと、その数を記すのだ。嘘かホントかは定かではないが、最高で七胴落としの記録があると言う。

 しかし、この試し切りの絵図面をその昔見たことがあるが、相当にえぐい。
 罪人の死体と言えば聞こえがいいが、当時の死罪は大半が打ち首なので、最初から首がない死体だったりする。

 しかも、それを動かないように物干し竿じみた棒状の物で押さえつつピッタリと重ね合わせているのだから、実物はさぞや地獄絵図だっただろう(実際、簡略化された絵で見ても結構ひどい)

 なお、この刀の試し切りは専門職にしていた家柄があったらしく、ごく一部の武士しかやっていなかったようだ。

 職人と剣の使い手、この両者の拘りがあってこそ生まれた立証方法であり、これ程の背景を背負っていたからこそ日本刀は他の剣とは全く違う薄さと切れ味を誇った。

 言わば、彼等の拘りこそが日本刀を芸術品と呼べるまで昇華したと言えるが……倫理的にはどうかな〜と思ってしまうのだが。

 


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