17 ダイ一行VS親衛騎団戦(12) パーティーバトル(1)

 

 ダイ一行と親衛騎団の戦いは、ヒュンケルが腕に毒針を受けたことで、水入りの形となった。

 しかし、この一時休憩もまた、アルビナスの掌の上だ。ここで休むことさえ、彼女の思惑による行動だった。

 よろめきながらも立ち上がるヒムの姿を見て、ヒュンケルを初めとするダイ達は彼を仕留め切れなかったことを悟る。その際、ヒュンケルはアルビナスによる毒針のせいで直撃を外したと説明している。
 注目したいのは、ここで投げかけられたアルビナスの台詞だ。

アルビナス「……それは毒針です、当たり所が悪いと即死しますよ。早く手当てした方がよいのでは……!?」

 余裕たっぷりに微笑みながらこう言ってのけるアルビナスの忠告は、敵からのものにしては不自然だ。

 当然の話だが、敵に対して手当てを進める意味など無い。むしろ、相手に毒を含ませたのならそれを気づかせないように、あるいは手当ての時間を与えないように攻撃を強める方が良策だ。

 だが、アルビナスはここでダイ達に手当てするようにと誘導している。
 この誘いに、ダイは素直に引っかかっている。シグマと戦闘中だったマァムを呼び戻してまで、ヒュンケルの手当てを優先している。

 はっきり言って、ダイのこの選択は大きなミスだ。
 戦いを優先するなら、ここはダイはヒュンケルの治療を後回しにしてでも、弱っているヒムに追撃をかけ、虎空閃を仕掛けるべきだった。

 ヒムの近くにはアルビナス、フェンブレンがいるが、ポップとヒュンケルで牽制をかけて彼らの気を逸らせば、ダイの速攻でヒムを仕留められた可能性が高い。

 しかし、ダイはヒュンケルの心配を優先した。
 それが敵の思惑通りの行動な証拠に、アルビナスはマァムを追おうとしたシグマに一時集結を命じている。

 この集結には、アルビナスにとって、敵に回復の時間を与えてでも部下を呼び集める価値があったことを意味している。

 集合した親衛騎団では、まず、腕に深手を負ったヒムがフェンブレンに頼んで自分の腕を切り落としている。動かない腕なら、いっそない方が身軽だと判断した思い切りの良さにダイ達も驚いているが、ヒムへのこの応急手当に対してアルビナスは無関心だ。

 彼女にとっては、そんなことは驚くにも値しない。親衛騎団の身体能力や精神力など、リーダーとしてとっくに把握済みなのだから。
 彼女は仲間の手当てのために集結を呼びかけたのでは無く、仲間達の口から直接、ダイ達の評価を聞くことを目的としている。

 アルビナスはヒュンケルと戦いながらも、仲間達の動きに目を配っていたのは前項までにも説明したが、それだけでは情報の精度が足りないと考え、直接対決したヒム、シグマの口からダイ達の印象を聞き出している。

 これにより、彼らが元々ダイ達の情報をハドラーから聞いた上で、情報を共有し合っていたことが分かる。親衛騎団の打ち合わせはごく短いが、全員で共通認識を持とうとしているのが感じられる。

 特に、この時のシグマの評価は具体的であり、尚且つ詳細で分かりやすいものだった。

 親衛騎団全員を集結させたとは言え、ブロックは元々喋ることができない上、フェンブレンは無言、ヒムの評価は単なる感想に近いものだ。どう考えても、評価者としてはシグマが頭一つ抜けている。

 それを踏まえれば、アルビナスの目的は情報収集すると同時に、対戦相手の組み替えを狙っていたと思える。情報収集するのであれば、同じ相手と戦わせるよりも、違う対戦相手をぶつけた方がより、情報を引き出せる。

 そう考えれば、わざわざ敵に忠告を送ってまで戦いを一時中断させたがった意味が見えてくる。
 そして、ダイ達から戦いを挑んできた際、アルビナスは一切の指示を出していない。

 最初の激突の際は、直情的なヒムを諫めてまでダイと戦うようにと命じたのに、水入り後の組み合わせに対しては、彼女は全く口を出していない。

 それは、アルビナスの目的の一つ、勇者の力をヒムによって見定めさせるというミッションが、すでに終了したからだろう。先程と同じ組み合わせでの戦いとなるようなら、アルビナスも口出ししていたかもしれないが、彼女は自分の思惑通りにことが進んでいる間は、沈黙を保っている。

 冷ややかな口調での挑発も、彼女にとっては感情から出た言葉ではなく、戦いを有利に導くための作戦にすぎないのだろう。
 全ては、女王の駒であるアルビナスの思惑のままに――。

 時には雄弁に、だが、思い通りにことが運んでいるのならば沈黙を選ぶ……静かなる軍師の、本領発揮とも言えるシーンだ。

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