16 ダイ一行VS親衛騎団戦(11) ヒュンケルとアルビナス |
ヒュンケルはこの戦闘に入る前にハドラーがいないことを確認し、その上でリーダーが誰かをダイに問い、敵のリーダーであるアルビナスと戦いを決めている。 この言動には、ヒュンケルのアバンの使徒としての長兄意識が垣間見える。 が、これは飽くまで兄弟子としての意識であり、パーティーを束ねるリーダーとしての考えではない。 リーダーは、必ずしもその集団で最強であるわけではない。 この時点で、ヒュンケルの判断はリーダーとして失格だ。 これは、たたき上げのワンマン社長などによく見受けられる傾向だ。 それに比べると、敵であるアルビナスは全体を俯瞰して指示を出すタイプのリーダーだ。常に冷静さを保ち、部下への指示を的確に出す点も指揮官として評価が高い。 彼女自身も戦ってはいるが、彼女の本分は戦士としての力ではない。 相手の実力を図るためには、その感情を揺さぶって本気を引き出す必要がある。そのためにわざと相手を怒らせるようとしているのだと、推察出来る。 しかし、相手を怒らせるという点では、アルビナスの口調はあまりにも丁寧すぎる。慇懃無礼さで苛立ちを誘えるかも知れないが、相手の感情を揺さぶるにはあまりにも淡々とし過ぎているし、知的さが勝ちすぎている。 同じように相手を見下すタイプでも、ザボエラのように相手に不快感を与えて怒りを掻き立てる言動ではない。良くも悪くも、アルビナスは感情に関するコントロールが強すぎるため、自分だけで無く他人の感情も動かしにくいキャラと言える。 そのせいか、ヒュンケルとアルビナス戦は淡々とした印象が強い。 しかし、アルビナスは駒に性別はないと断言し、ヒュンケルを挑発しつつも彼の攻撃を避け続けている。 この時のアルビナスの戦闘スタイルは、回避一択だ。 もし、ヒュンケルが冷静ならば、アルビナスの言動は時間稼ぎに他ならないと気づいたはずだ。 ただし、アルビナスの狙いは敵リーダーを倒すことでは無く、敵リーダーの動きを封じて連携を取らせないようにすることにあったのだろう。ノヴァに対してはいきなりニードルサウザンドという必殺技をぶつけた彼女は、ヒュンケルに対しては徹底した逃げに徹している。 残念なことに、この時のヒュンケルはそんなアルビナスの狙いに気づいている様子はない。 アルビナスの頬に掠り傷を負わせ、強気に言い返すシーンはあるものの、目先の戦いや自分の感情に集中してしまっているヒュンケルは、戦い全体の把握が甘い。 ダイが自分の剣を抜けずに苦戦している様は見ていても、アルビナスを倒すことを優先し、仲間の援護や救援はしていなかった。これも、リーダーとしては少し問題ありな判断である。 ダイが剣に固執するのを止めて竜闘気でヒムと五分の戦いに持ち込んだ際になってから、初めてヒムに止めを刺すために共闘を呼びかけている。とどめが刺せそうな敵から狙うのは定石とは言え、目前の戦闘相手を放置して別の敵に気を取られた瞬間を、アルビナスは見逃さなかった。 毒の含み針をヒュンケルの腕に飛ばし、その動きを減速させている。 さらに、アルビナスはヒュンケルに毒針だと教えることで、手当てをするように誘導している。 これにより、ダイも親衛騎団も一時戦闘を中断し、仲間同士で集まる相談タイムを取ることになる。だが、同じ行動を取っているが、ダイ達にとっては意図せぬ中断だったのに対し、アルビナスにとっては彼女自身が望んだタイミングでの中断である。 つまり、この集団戦闘の前半戦は、全てがアルビナスの思惑と指示によって操縦されているのだ。言ってしまえば、ダイ一行は彼女の掌の上で踊らされているのである。 アルビナスとヒュンケルの戦いは、一見、派手に攻めているヒュンケルがそこそこ善戦しているように見えるが、リーダー対決では明らかにアルビナス優位である。 戦士として自分で戦うことに拘るヒュンケルに、元々がリーダーであり仲間達を駒として動かすことにためらいのないアルビナスでは、リーダーとしては格段の差がある。 戦闘でも、アルビナスはヒュンケルを引きつけるのに終始し、ヒュンケルが他に攻撃しかけた時のみ、攻撃を仕掛けている。彼女の狙いは戦いそのものではなく、集団戦闘におけるバランス調整にすぎないとよく分かるシーンだ。 |