『三人旅は、二人と一人 ―後編―』 |
4 戦闘! (ど、どうすれば……!?) 下で始まった戦いに、ポップは迷う。 少し前までなら当然のようにそう考えていただろうが、今のポップにはダイやマァムを置き去りにしたいなんて思考は微塵もない。 ポップには、ダイのようにここから飛び下りられるような度胸も運動神経もない。かといってこの状況では、地道にマストを伝って降りるなんて、論外だ。 「ピ……ピイ〜?」 不安そうな声と共に、柔らかいものがポップの肩に飛び乗ってくる。 「ゴメ……おまえ、まだここにいたのか? 危ないだろ」 「ピイ……、ピピ、ピッピ!」 小さなスライムの言葉は、ポップには分からない。だが、この小さな仲間が自分を心配してくれていることだけは、理解出来る。 「ありがとな、ゴメ。でも、おまえはどっか安全な隠れてろよ」 優しくスライムを撫でてから、ポップはそっと、目立たないように見張り台から外へと押しやる。 上からの位置は、状況把握にはもってこいだ。 が、2対4で、しかも相手が飛べる上にこちらは船を気遣っているとあっては、勝負にもならない。 (調子に乗りやがって……っ!) ポップが眼下の戦況を把握し、考えを組み立てて迷いを捨てるのに、そう時間は掛からなかった。 「ギラッ!」 上から下への光が閃いた。 「ウギャアッ!?」 不意を食らったガーゴイルが一瞬避けるが、それは致命傷とは程遠い威力だ。すぐに頭上からの伏兵の存在に気付き、怒りに満ちた威嚇の声を上げる。 「ポップ!? なにやってんだよ、まだそんな所にいるなんて!?」 ギョッとしたように、ダイが叫ぶのが聞こえる。 逃げようにも逃げ場はないし、敵の方は自在に空を飛んでこちらを襲い放題だ。 しかし、普通に考えれば不利にしかならない戦闘条件でも、要はやり方次第だ。 「ポップッ!?」 「ポップッ、危ないっ!」 二人の悲鳴が聞こえてくるが、ポップは意識を集中して最大パワーで魔法を放った。 「メラゾーマッ!」 杖の先から、炎の塊が踊りだしてガーゴイルを焼いた。ポップの得意の、火炎系最大呪文だ。 しかし、一匹が一瞬にして羽を焼かれ、浮力を無くして海へと落下する。 「チィイッ!!」 舌打ちを上げ、ガーゴイルがパッと散開した。まとまっていれば攻撃魔法の的だと悟ったのだろう。 さっきダイやマァムに対して行ったように、バラバラの方向からの波状攻撃をかけようとしているのだろう。 マホトーンをかけようと口を開きかけたガーゴイルに向き合いながら、ポップは大声で叫ぶ。 「ダイは一番下の奴だ! マァムはおれの後ろの奴を任せたっ!」 下を見なくても、それで意図は伝わったと信じられる。 が、それならこちらも『上』を利用してやるまでだ。 それとほぼ同時に、一風変わった轟音が背後に響く。 師であるアバンから譲られた、魔法を弾に込めて自在に打ち出せるマァムだけの武器。その弾にポップ自身が詰めた、メラゾーマの効力だ。 「海波斬――っ!!」 猛スピードにより炎をも切り裂く剣撃がガーゴイルを一刀両断し、その余波は帆を切り裂いた。 「わわァっ!?」 見張り台にまで響く振動に足を取られて、ポップがたたらを踏む。 「わっ!? ポップ、危ないっ!」 ダイの声が聞こえるが、だからといってどうにもできない。 「うわっ!?」 そのせいで見張り台の中側によろけて尻餅を突いてしまったが、外に落ちる危険性を思えばそのぐらいですんだのは御の字というものだろう。 「いちち……」 「ピピー? ピッピ!」 心配そうにポップに呼びかけるのは、小さなスライムだ。 「なんだ、ゴメ……逃げてなかったのかよ? でも、おまえのおかげで助かったよ、サンキューな!」
5 三人の結論 「ポップ、大丈夫だった!?」 マストを降りてきたポップを、ダイとマァムが先を争うように迎える。 「大丈夫か、じゃねえだろ。ダイ、もうちょっと方角考えて攻撃しろよ!」 憎まれ口を叩きながらも、ポップも本気で怒っている訳じゃない。三人で力を合わせて敵を撃退したという喜びや高揚感の方が強くて、抑えようとしても笑みが零れる。 「にしても、やったよな、おれ達! いいコンビネーションじゃん!」 「そうね、いい感じだったわ」 「うんっ」 三人で手を取り合って喜びながら、三人が三人とも、同じことを思う。 「ピーピピピッ、ピッ!」 自分を忘れるなとばかりに鳴くゴメちゃんを見て、三人は声を立てて笑った。 「そうだよな、おまえだって大活躍したもんな!」 ポップに撫でられて、ゴメちゃんは誇らしげに反っくり返り、その様子がおかしいとダイやマァムが楽しそうな笑い声を立てた――。 二人なら仲間、三人なら仲間じゃない。
《後書き》 |