『三人旅は、二人と一人 ―後編―』 


 

4 戦闘!

(ど、どうすれば……!?)

 下で始まった戦いに、ポップは迷う。
 本人は自覚していなかったが、その迷いはいかにここから逃げるかという迷いではなかった。

 少し前までなら当然のようにそう考えていただろうが、今のポップにはダイやマァムを置き去りにしたいなんて思考は微塵もない。
 ここからどう戦いに参加すればいいのか……、その迷いが心を揺らす。

 ポップには、ダイのようにここから飛び下りられるような度胸も運動神経もない。かといってこの状況では、地道にマストを伝って降りるなんて、論外だ。
 こんな状況ではしごにしがみついて降りるなんざ、はっきり言って自殺行為だ。手がふさがる分ロクな魔法も使えないまま、集中攻撃を食らうのがオチだろう。

「ピ……ピイ〜?」

 不安そうな声と共に、柔らかいものがポップの肩に飛び乗ってくる。

「ゴメ……おまえ、まだここにいたのか? 危ないだろ」

「ピイ……、ピピ、ピッピ!」

 小さなスライムの言葉は、ポップには分からない。だが、この小さな仲間が自分を心配してくれていることだけは、理解出来る。
 ピーピー泣いてばかりのこの泣き虫スライムは、怖がりなくせに仲間のためになら危険な場所にも踏み留まれるのだから。

「ありがとな、ゴメ。でも、おまえはどっか安全な隠れてろよ」

 優しくスライムを撫でてから、ポップはそっと、目立たないように見張り台から外へと押しやる。
 そのついでに、ポップは真下の状況を見定めた。

 上からの位置は、状況把握にはもってこいだ。
 船室に入ろうと攻撃をするガーゴイルらを、ダイとマァムが追い払おうとしているのがよく分かる。

 が、2対4で、しかも相手が飛べる上にこちらは船を気遣っているとあっては、勝負にもならない。
 さらに言うのなら、狡猾なガーゴイルはそれに気がついている。ダイとマァム、二人を常に引き離すように飛び回っているのが、なによりの証拠だ。

(調子に乗りやがって……っ!)

 ポップが眼下の戦況を把握し、考えを組み立てて迷いを捨てるのに、そう時間は掛からなかった。
 杖を腰の後ろから引き抜くと、ポップはダイの背後から襲いかかろうとした一匹に向かって魔法を放つ。

「ギラッ!」

 上から下への光が閃いた。
 高熱エネルギーを放出する閃熱呪文は、炎を上げずに閃光としてガーゴイルを焼く。

「ウギャアッ!?」

 不意を食らったガーゴイルが一瞬避けるが、それは致命傷とは程遠い威力だ。すぐに頭上からの伏兵の存在に気付き、怒りに満ちた威嚇の声を上げる。
 それと同時に、ダイとマァムの視線も上へと向けられた。

「ポップ!? なにやってんだよ、まだそんな所にいるなんて!?」

 ギョッとしたように、ダイが叫ぶのが聞こえる。
 それもそうだろうと、ポップも思う。
 実際、足場のほとんど効かないマストの上で戦闘だなんて、無茶もいい所だ。

 逃げようにも逃げ場はないし、敵の方は自在に空を飛んでこちらを襲い放題だ。
 さらに言うのなら、ガーゴイルの得意呪文はマホトーン……、知能の高い怪物なだけに、防御の弱い魔法使いを狙うだけの判断力がある。

 しかし、普通に考えれば不利にしかならない戦闘条件でも、要はやり方次第だ。
 生き残っていた4匹が一斉に自分に向かって飛んで来るのを、ポップは割に冷静に見据えていた。

「ポップッ!?」

「ポップッ、危ないっ!」

 二人の悲鳴が聞こえてくるが、ポップは意識を集中して最大パワーで魔法を放った。

「メラゾーマッ!」

 杖の先から、炎の塊が踊りだしてガーゴイルを焼いた。ポップの得意の、火炎系最大呪文だ。
 できるだけ一丸となった集団の真ん中を狙ったつもりだが、さすがに全部を飲み込むほどの威力はない。

 しかし、一匹が一瞬にして羽を焼かれ、浮力を無くして海へと落下する。
 それぐらいで死ぬほどやわな生き物ではないが、ポップは追い討ちをかけようなどは思わなかった。
 とどめなど刺さずとも、襲ってこなくなればそれでいい。

「チィイッ!!」

 舌打ちを上げ、ガーゴイルがパッと散開した。まとまっていれば攻撃魔法の的だと悟ったのだろう。

 さっきダイやマァムに対して行ったように、バラバラの方向からの波状攻撃をかけようとしているのだろう。

 マホトーンをかけようと口を開きかけたガーゴイルに向き合いながら、ポップは大声で叫ぶ。

「ダイは一番下の奴だ! マァムはおれの後ろの奴を任せたっ!」

 下を見なくても、それで意図は伝わったと信じられる。
 船の上ならば、ダイもマァムも遠距離攻撃など放てない。三次元的な攻撃を仕掛ける敵に、翻弄されるばかりだ。

 が、それならこちらも『上』を利用してやるまでだ。
 甲板と違い、船の上部に広がるのはなんの障害もない空だけなのだから――。
 背後に迫る風を感じながら、ポップは再びメラゾーマを解き放つ。

 それとほぼ同時に、一風変わった轟音が背後に響く。
 背に感じる熱の正体を、ポップは知っていた。
 マァムの魔弾銃だ。

 師であるアバンから譲られた、魔法を弾に込めて自在に打ち出せるマァムだけの武器。その弾にポップ自身が詰めた、メラゾーマの効力だ。
 ポップの前後から、同じように火に包まれたガーゴイルが錐揉みしながら落下していく。 そして、ダイの声が聞こえた。

「海波斬――っ!!」

 猛スピードにより炎をも切り裂く剣撃がガーゴイルを一刀両断し、その余波は帆を切り裂いた。

「わわァっ!?」

 見張り台にまで響く振動に足を取られて、ポップがたたらを踏む。

「わっ!? ポップ、危ないっ!」

 ダイの声が聞こえるが、だからといってどうにもできない。
 だが、落ちそうになったポップを突き飛ばす勢いで、胸元に何かが飛び込んできた。

「うわっ!?」

 そのせいで見張り台の中側によろけて尻餅を突いてしまったが、外に落ちる危険性を思えばそのぐらいですんだのは御の字というものだろう。

「いちち……」

「ピピー? ピッピ!」

 心配そうにポップに呼びかけるのは、小さなスライムだ。

「なんだ、ゴメ……逃げてなかったのかよ? でも、おまえのおかげで助かったよ、サンキューな!」

 

 

5 三人の結論

「ポップ、大丈夫だった!?」

 マストを降りてきたポップを、ダイとマァムが先を争うように迎える。

「大丈夫か、じゃねえだろ。ダイ、もうちょっと方角考えて攻撃しろよ!」

 憎まれ口を叩きながらも、ポップも本気で怒っている訳じゃない。三人で力を合わせて敵を撃退したという喜びや高揚感の方が強くて、抑えようとしても笑みが零れる。

「にしても、やったよな、おれ達! いいコンビネーションじゃん!」

「そうね、いい感じだったわ」

「うんっ」

 三人で手を取り合って喜びながら、三人が三人とも、同じことを思う。
 二人だけに任せず、自分も加わってよかったと。
 三人でなければ、きっと勝てなかった。
 これからも三人で力を合わせれば、どんな敵にだって勝てるだろう――。

「ピーピピピッ、ピッ!」

 自分を忘れるなとばかりに鳴くゴメちゃんを見て、三人は声を立てて笑った。

「そうだよな、おまえだって大活躍したもんな!」

 ポップに撫でられて、ゴメちゃんは誇らしげに反っくり返り、その様子がおかしいとダイやマァムが楽しそうな笑い声を立てた――。





 二人なら仲間、三人なら仲間じゃない。
 そんな言葉など、当てはまらない。
 仲間外れなど、いやしない。
 これは、三人と一匹の旅――。


                                      END
  


 《後書き》
 クロコダイン戦の後、三人でロモスに向かう途中の船旅でのお話〜。初期の頃のこの三人って、懐かしのDQ?を思い出して好きだなぁ。……にしても、よく死んだよなあ、サマルトリアの王子(遠い目)体力ない上、すぐにMP切れしたし……誰かに似ている(笑)
 

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