『秘めておくべきこと ー後半ー』


 

「うんっ、分かったよ! これからすぐ、その洞窟に行けばいいんだね」

 ついさっき、ダイは無邪気な笑顔でそう言ったばかりだ。
 嬉しそうなダイの顔を見ると多少後ろめたさがあったが、外交術に長けたレオナはなに食わぬ調子で促した。

「ええ、お願いするわ。急な話で悪いけれど、被害が起こる前に調査を済ませたいの。じゃあ、支度をしてすぐに城門に行ってくれる? もう、馬車は用意してあるから」

 単純なダイはレオナの早急な依頼に特に不信を持つ様子もなく、あっさり承諾した。
 張り切るその様子を見て、レオナはポップの指摘の正しさを思い知る。

(ポップ君って、いつもそうね)

 少しばかり悔しさも感じるが、それは認めざるを得ない。
 誰よりも勇者を理解し、助け手を差し延べられるのは、その片腕である魔法使いだ。
 ダイが、無自覚に欲しているもの。

 それは仕事というよりは、自分の居場所を再認識させてくれるものだろう。
 戦いが終わって、平和な地上に自分がいてもいいのかどうか……ダイの中にはまだ多少の迷いが残っている。

 それを払拭するためにも、ダイの力が人々のために役に立つのだと、本人にも周囲にも知らしめる機会は必要なのだろう。決して彼は恐れるべき存在ではなく、自分達を庇護してくれる存在なのだと、誰もが納得してくれるように。

 そして、ダイ自身が、自分が人間達とともにいてもいいのだと納得できるようになるように。

「じゃあ、おれ、急いで支度してくるねっ」

 そう言ってレオナの執務室を飛び出していってから、まだ30分と経っていない。
 だが、ダイの雰囲気はそのわずかの間に、驚く程に変わっていた。

 表情の全く消えた顔の中で、目だけが冷たい光を放っている。
 いつもの彼とはかけ離れたその冷めた雰囲気に、レオナはそれ以上近付けなくなった。


「ダ…ダイ君……?」

 自分でも驚く程頼りない声が、震えているのにまた驚かされる。
 勝手に震えそうになる身体を、レオナは必死で押しとどめる。

 ダイが何者でも構わない。
 それは、レオナが強く心に決めたことだ。

 ダイが人間でもなかったとしても、自分達の仲間だと言い切ったポップと同様に、レオナだってそう思っている。
 だが、その思いに偽りはないのに、恐怖は抑えきれなかった。

(ここにポップ君がいてくれれば……!)

 思わずそう思ってしまった時、レオナの目にようやく『それ』が飛び込んできた。

「え……っ」

 レオナの位置からは、ちょうどダイの身体に半ば以上隠れてしまうため、目立たなかった人影が。

 トレードマークのように緑色の服を着た少年が、力なく倒れていた。
 ダイはそれをしっかりと抱きしめている。

 ――倒れて、ぴくりとも動かない魔法使いの少年の身体を、しっかりと抱きしめて離さない小さな勇者。
 今も胸に焼きついて離れない、思い出したくもない光景の再現がそこにはあった。

 一瞬、三年前の魔王軍との戦いの場に引き戻されたかのように錯覚に、レオナは目眩すら感じる。
 だが、それは錯覚にすぎない。

 ここはテランではない、パプニカ王宮の回廊だ。
 しかし、そこでポップが倒れ、それを抱きかかえているのがダイだと言うのは紛れもない事実。

「ポップ君……?! どうしたの?!」

 それは、ダイに対しての呼びかけだったのか、それともポップに対してのものだったのか。
 自分でも分からないが、それでもそれをきっかけにダイがやっと口を開いた。

「……分かんない。ポップが、ここに、倒れていた……」

 悄然とした口調だったが、それでもダイがやっと自分に反応してくれたことに、レオナはわずかに安堵する。
 だが、ポップに対する心配は高まるだけだった。

「嘘…っ、また倒れたの?!」

 ポップの顔色は、さっきよりもずっと悪かった。
 口許にわずかににじんでいる血に動揺を感じながらも、レオナはとっさに彼の胸に手を当てる。

 規則正しい心臓の鼓動を感じて幾分安心したが、レオナは気を緩めることなく最上級回復魔法をかけた。
 だが、それでさえポップは意識を取り戻さなかった――。

 

 

 ポップの側に寄りそうダイに、かける言葉など思いつかなかった。
 自室へと連れ戻し侍医の治療を受ける間も、ポップは目を覚まさないままだった。そんなポップの側から、ダイは離れようとしない。

 まるで、ほんの一瞬でもポップから目を離せば、そのまま彼を失ってしまうとでも思っているかのように――。いつもの彼とは別人のように暗い表情で押し黙っているダイは、レオナのかける言葉にもほぼ上の空だった。

 言葉が上滑りするような空しさに、レオナはダイとポップの強い絆を思い知らされると同時に、自分の無力さを感じずにはいられない。

(あの時と、同じだわ……)

 魔王軍との戦いの最中の、バランとの戦い。
 あの戦いは、今も深い傷となって参加した全員の心に刻まれている。
 あの時以上に自分の無力さを悔いた時など、レオナにはなかった。

 あの時、ダイを引き止める手段など、レオナにはなかった。
 それに成功したのはポップであり、そのポップを助けることさえもレオナにはできなかった。

 必死で死者蘇生魔法を唱え、それでも力及ばなかったあの時の苦々しさはいまだに胸に残っている。

 倒れ伏したポップに、何もできなかった。
 嘆き悲しむダイに、言葉すらかけられなかった。
 あれから三年も経つのに、まだ、自分は何もできないのだろうか――。

「失礼します、姫様、ちょっと……」

 エイミの耳打ちを受け、レオナは心を残しつつも席を外す。
 廊下で待ち受けていたのは、侍医だった。

「姫様……少し、お話があるのですが」

 そう話しかけられた段階で、嫌な予感を感じた。
 侍医がこんな風に話を切り出してくるのは、初めてではない気がする。ずっと前に感じた不安感を、レオナは漠然と思い出しかけていた。

「実は、ポップ殿のことで是非、お耳に入れておきたいことがあるのです」

「……!」

 不意に、記憶が蘇った。
 あれは……まだ、レオナがほんの子供の頃。
 侍医が同じ切り出し方で話しかけた相手は、レオナではなくて父王に対してだった。

 当時、軽い風邪で寝込んでいた妃について、お話がある、と。
 その時、人払いをして部屋に籠った侍医と父親が何を話したのか、レオナは知らない。
 だが、それから一月と持たずに母親は身罷り……成長してから、あの時の会話の意味を知った。
 その頃は、レオナに本当のことを教えてくれなかった侍医や父親を恨んだりもした。

 だが、――今なら分かる。
 こんな、聞く前でさえ胸を締めつけるような嫌な予感を感じさせる話を、自分に聞かせなかった二人の愛情が。

 だが、今のレオナに耳障りな言葉から守ってくれる保護者などいない。国の最高責任者として、レオナは事実は事実として知り、それに対して判断を下す義務がある。
 しゃんと姿勢を正して、レオナは言った。

「その話は、別室で聞きます。ここで話せるような話ではないのでしょう?」

 否定してくれれば、どんなに気楽だっただろう。
 だが、侍医は沈痛な表情で頷いた。

 

 

「ポップ殿の容体なのですが……色々と不審な点があるのです」

 厳重に人払いを済ませた部屋の中で、侍医は重々しく切り出した。

「まず、最初にお断りしておきますが、私の診断では今のポップ殿の体調はさほど悪いものとは思えません。過労気味なのは確かですが、とても吐血する程の重症とも思えません。にも関わらず彼は血を吐いた。これが、どういう意味を持つかお分かりですか?」

 レオナは黙って首を横に振る。
 回復魔法を使えるレオナは、医療にはさして詳しくはない。

 基本的な知識はあるものの、それは簡単に習った程度のものであり、魔法の補助的な知識に過ぎない。

「では、姫はポップ殿が最近、頻繁にテランより薬草を取り寄せている事実をご存じですか?」

「え?」

 それは、初耳だった。
 回復魔法の質においては世界屈指であるパプニカ王国は、その反面、あまり薬草学や医学には力を注いでいない。

 薬草学において、世界で最も優れているのは疑いもなくテラン王国だろう。
 自然豊かな国土は、他の地方ではめったに見られない薬草の宝庫である上、戦いや武器を極端に厭うテラン国民は、魔法よりも薬草に頼る傾向があるからだ。

 パプニカでは入手が難しいような特殊な薬草でも、テランではなんなく手に入る。
 その意味で、ポップがテランから薬草を取り寄せたいと思っても不思議はない。

「ポップ殿は個人で使うものだからと言って、何度となく自費で注文をしています。ちょっとした研究に使うだけだと言っていましたが……姫は、それをご存じでしたか?」

「いいえ……!」

 不安が強まるのを感じながら、レオナは頭(かぶり)を振った。
 医師顔負けの知識を持つアバンと、驚く程多岐に渡る知識を備えたマトリフの師事を受けたポップは、今やそこらの医師や薬師並の知識を持っている。

 彼なら侍医の力を借りずとも、自分で薬も調合できるはずだ。
 だが、普段のポップは、そんな真似などしやしない。基本的に怠けたがるポップは、必要に迫られない限り物事をやらない傾向がある。

 第一、そんな時間の余裕など、ないはずだ。
 宮廷魔道士見習いとは言え、ポップが魔法や薬草の研究をすることはない。
 彼の一日の大半は、レオナの執務の補佐に費やされている。

 なのに、レオナすら気づかない内にこっそりとそんな真似をしていたことが、ショックだった。
 なにより問題なのは……なんの目的のためにそれを使っているか、だ。

「いったい、ポップ君は何の薬草を手に入れているの?」

 侍医が上げた薬草の名前の数々はひどく珍しいものであり、レオナには聞き覚えのないものだった。

 だが、その種類の多さだけでも目眩を感じる。
 普通の病気にならば、これほどの数の薬草を必要とはしないのだろう。

「これらの薬草は主に鎮痛効果が非常に高い薬の材料ばかりなのですが……正直、あまり感心できませんね。これらは、通常の医師ならばまず使わない劇薬の類いです」

「劇薬……ですって?」

「はい。確かに痛みを抑えはしますが、効き目が強すぎて肉体にかかる負担が少なからず出てしまうのです。使用する分量を間違えれば逆に命を縮めかねない程の劇薬なのですから。それに適量だったとしても、貧血に似た症状や、絶え間のない咳、喉の粘膜からの出血などの副作用は免れません」

 その症状に、思い当たることがあった。
 ありすぎた。
 ここしばらく、ポップはやけに咳きこんでいる時が多かったのだから。

「他に……心臓の発作を抑える薬草も複数ありますが、こちらも劇薬なのに変わりはありません。これらの薬は、本来は……もう助からない患者の末期の苦しみを抑えるのに使われる薬なのですよ」

 嫌な予感が、ゆっくりと浮上してくる。
 それは、考えたくもない最悪の可能性を示唆するものだった。

「ポップ君が……その薬を、使用しているというの?」

 誰にも打ち明けないままで。
 一人でこっそりと、寿命を縮める劇薬と知りながら――?
 背筋の震えを、レオナはどうしても抑えられなかった。

「残念ながら、それは私には判断致しかねます。もし、薬を使用している場合、発作やその他の症状は抑えられてしまうので、通常の診断で判別はできなくなってしまいます。本人が自覚症状を全く口にしてくれない以上、痛みの有無を判別するのは非常に困難ですから」

 できるだけ早い時期にことの真偽を確かめた方がいいと言う侍医の忠告を、レオナは愕然としたままで聞いていた――。

 

 

 

「ポップ〜ッ、ちゃんと聞いてる?!」

(あ……ダイ、君?)

 予想を超えた衝撃的な話に、レオナは自分で思った以上のショックを受けていたらしい。 侍医との話が終わった後、無意識にふらふらと歩いていたのか、気がつくとレオナはポップの部屋の前までやってきていた。

 だが、何をどうしていいかも分からないほどの動揺の中に耳に飛び込んできたのは、ダイの声だった。

 珍しく怒っていると言うか、少し拗ねたような、どこかしら甘えを感じさせる声。
 さっきまでの冷たい無表情さとはそぐわないその声に、レオナは惹きつけられる。

「ん? ああ、聞いてるって。で、次は何の字を聞きたいんだよ? 面会謝絶か?」

 ちょっとふざけた調子で返す声は、ポップのものだ。
 それはいつもと同じ、二人のごく普通のやり取りで――レオナの心をも和ませ、落ち着かせてくれる。

 それはかつて、一度は失ってしまったものだ。
 ポップが死んでしまった時の絶望を、ダイが行方不明になってしまった時の虚無感を、レオナはいまだに忘れてなどいない。

 だからこそ、レオナはその大切さが痛い程よく分かる。
 それは、とても大切なもの――。

 かつて、大魔王バーンは言った。
 英雄となっても、いずれ人間ではないという理由でダイが迫害されるだろう、と。
 そんな未来を無理に迎えるよりも、我が配下にならないかという誘惑に対し、ダイは答えた。

 お前を倒して、地上を去る、と――。
 人間をこよなく愛し、だが、自分が人間ではないと承知しているからこそ、ダイはその選択をした。

 レオナには止められなかった、ダイのその選択……それを止められるとしたら、ポップしかいまい。

 ダイを人間の世界に引き止めたいのならば、ポップの存在は必要不可欠だ。
 あの二人は、そろって一緒にいなければならないのだ――。

(ダイ君……ポップ君……)

 ほんの少しの間だけ、扉に寄り掛かって心を落ち着けてから、レオナはきちんと姿勢を正す。
 そして、いつものように規則正しくノックをして、部屋の中に入り込んだ――。

 

 

「……ふうっ……」

 部屋から出た途端、溜め息が漏れる。その際、つい零れ落ちそうになった涙を、レオナは慌てて拭った。
 泣いてなど、いられない。

 そんな暇など、レオナにはない。大切なものを引き止めるために、レオナがやらなければならないことはたくさんある。

(本当に分かってないんだから、ポップ君は)

 他人のことに関しては敏感で、人の心を汲み取れるのに、自分に関してはとてつもなく鈍感で、分かっていない魔法使い。
 そう、ポップはいつだって自分の価値に気がついてなどいない。

 だから平気で自分をないがしろにし、他人の心配ばかりをしてしまう。
 今だって、そうだった。

 ダイをなだめ、元気を取り戻させるだけでなく、物言いいたげなレオナに気付いて、ダイに席を外させてまで話を聞いてくれた。レオナの不安や怯えを、持ち前の調子のよい明るさできれいさっぱりと拭い、心を軽くしてくれた。

 いつだって周囲を助けてくれる明るさを振りまく魔法使いを、今度はレオナが助ける番だ――。

「あっ、レオナ!!」

 元気のいいダイの声に、レオナはそちらを向いた。
 両手で大切そうにマグカップを抱えて走ってくるダイを見て、レオナは自然に微笑んでしまう。

 ついさっきまでの変化が嘘のように、ダイはいつものダイに戻っていた。
 楽しそうに笑い、レオナに話しかけてくる彼は、申し訳なさそうに謝ってさえくれた。


「そういえば……レオナ、さっきはごめんね。きつい言い方して、悪かったよ」

「ううん、いいのよ。謝るのはこっちだわ……ごめんなさいね、ダイ君」

 そう答えて、レオナはその場を立ち去った。
 ともすれば走り出しそうになる足を、レオナはあえて抑えるように努める。
 いつも通り――そう、いつも通りに振る舞わなければならない。

(ごめんなさい、ダイ君……)

 さっき、自分はいつも通りに笑えただろうか?
 自信は無かったが、そうしなければならない。

 ダイは、勘はとてもいい。本能的とも言える鋭さで、他人の感情の変化を感じ取ってしまう。
 レオナが沈み込んでいれば、彼はその原因に遠からず気がついてしまうだろう。

 だが、それでは駄目だ。
 この疑惑を、レオナは決してダイには打ち明けないだろう。
 このまま胸に秘めておく――それが、決定的な事実として白日の下に晒されるまでは。


 ダイが、心から望んでいるもの。
 それが、失われるかもしれないなんて、とても言えない。

 言うわけにはいかない。
 後でどんな罰を受けるとしても、このことは秘めておくつもりだった。

(ごめんね、ポップ君)

 心の中で、レオナはもう一度謝罪を繰り返す。
 ポップが、隠そうとしていること。
 それを、レオナは暴き立てるつもりでいる。

 どうせ、正面きって聞いたところで、あの意地っ張り魔法使いが正直に言うはずも無い。
 なにより、今のレオナはポップを問い詰めることなんて、できそうもない。

 ポップを失いたくない、助かって欲しいと思う気持ちが強すぎるから――ポップの口から何を聞いたとしても、その真偽を冷静に見定めるなど不可能だろう。
 多少の不自然さも捩じ曲げ、彼特有の優しい嘘を信じてしまいたくなるだろう。

 それでは、駄目だ。
 そんなことでは、ポップを助けることはできない。

 ポップを助けたいのなら、彼がどんなに隠そうとしていたとしても、真実を見つけ出ださなければならない。
 それが、たとえ受け入れがたい残酷なものだったとしても――。

 

 

「お願い、急いでね。これは、とても大切な手紙なの」

 優しく言いながら、レオナは鳩の背を軽く撫でた。
 王宮間で緊急連絡を取るのに、使われる方法は幾つかある。
 パプニカで一番多用するのは、気球による使者での連絡だ。

 気球を所持しているのはパプニカ王国一国だけであり、目立つことから先触れも必要のない通信手段として、昔から愛用されている。

 その他に、ここ1年程の間ですっかり定着したのが、大魔道士ポップによる瞬間移動呪文での緊急連絡だ。

 どこの国にも瞬時に飛べる上に、各国の王達と親交の厚いポップは、使者としては申し分ない存在だ。
 その上、気球よりもずっと早い。

 だが、今日、レオナはその二つの連絡方法を選ばなかった。
 世界的には一番ありふれている方法――王宮間の緊急連絡に使われる伝書鳩に、書簡を持たせる連絡方法を選んだ。


 普段なら書記官に口答で命令を伝えるだけですませるところを、今回はレオナが手ずから手紙を書き、鳩の足にくくり付けるところまで自分で行った。
 それは、カール王国の国王、アバンへの親書だ。

 現状を伝え、助力を頼むための手紙。
 ポップからも頼まれたのは意外だったが、たとえ彼が拒否したとしても、レオナはアバンとマトリフに助力を頼んだだろう。

 大魔王バーンに知力戦を挑んで打ち勝ったポップが、本気で隠そうとしているものを暴くにはレオナ一人では難しい。
 彼の上手を行く、二人の師の助けが必要だった。

 迷惑と思われても、構わない。
 普段なら、師弟ではあっても、カール王国とパプニカ王国の癒着を他国から疑われるのを恐れ、必要以上は連絡をしないように互いに気を使っているが、今はどうでもいい。

 多少、後で無理な外交で苦労することになったとしても、今は優先すべきものがあるのだから。

「さ、行って! 頼んだわよ」

 空に向かって放たれた鳩は、矢のような勢いで飛び立った。
 青空に吸い込まれるように、見る見る内に小さくなっていく。

 だが、それでさえまだ遅く感じてしまうのは、焦りが強いせいなのだろうか。
 飛び立った鳩を、レオナはじっと見送っていた――。
                                    END


《後書き》
 『決めていること』『信じていること』に続く、レオナバージョンのお話。実は、これ、この後にヒュンケルバージョンもあります(笑)


 ぜんぜん終わってないじゃん、と突っ込んでいただいて結構です、ええ。
 魔王軍との戦いの時、レオナが勝てるかどうか不安を抱えながらも、それは絶対口に出さずに気丈に振る舞っている姿って、すごく好きでした。自分の中に秘密を秘めておきながら、前向きに頑張るレオナに萌えですっ。
 
 
 

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