『魔法使いのいない勇者 4』


 

「ここは……!?」

 扉の奥に進んだノヴァは、驚きに目を見張る。
 それは、ごく当たり前と言えば当たり前の光景。それでいて、異様と言えば異様な光景だった。

 本がぎっしりと詰まった本棚が幾つもあり、不可思議な道具がきちんと整理整頓されて置かれた場所。
 洞窟の中にさえなければ、賢者の書斎と思える場所がそこにはあった。

(……あの魔法使いの予想は、結局当たっていたってわけか)

 ポップは言っていた。
 この洞窟は古いようにカモフラージュされているだけで、実際には浅い物だろう、と。目的地は、まさにすぐそこにあったわけだ。

「ここは……アゾート様の家……なの?」

 不思議そうに、マァムも洞窟内を見回してみる。
 広い書斎を中心に、隅の方にはキッチンを思わせる場所も完備されている。
 人が住めるように改造された洞窟は、そこかしこに生活感の名残が感じられた。だが、それにも関わらず人影は見当たらない。

「誰か! 誰もいないのか?」

 声を張り上げ、ヒュンケルは部屋の最奥の扉に目をつける。一応、ノックをしてはみたが、反応はなかった。

「その扉は、開かないのかい?」

 好奇心が押さえきれず、ノヴァはヒュンケルを押し退けるようにドアを開ける。

「……!?」

 だが、奥の部屋の扉を開けた途端、ムッと鼻を突いたのは思わず顔を背けたくなるぐらい、嫌な臭いだった。

 それに怯んだ一瞬の隙に、ヒュンケルが素早く二人を押し退けて部屋の中に飛び込んだ。
 そして、続こうとしたマァムの鼻先で、扉は強く閉められる。

「ヒュンケル!?」

「――おまえ達は見ない方がいい」

 扉越しに、堅く、押し殺した声が聞こえてきた。

「アゾート殿は……もう、この世の人ではない。オレ達は、来るのが少し遅すぎたようだな」

 その言葉の意味を掴むまで、少しだけ時間がかかる。だが、理解した途端、ノヴァは寒気と共に悟った。
 今の嗅ぎ慣れない臭いは、腐臭だったのだと――。








『何のために魔法を使うのか。それを、忘れるべきではなかった』

 それが、かの北の探求者アゾート、絶筆の言葉だった。
 その言葉から逆に辿るように、ノヴァはアゾートの書き残した日記を目で追っていた。

 他人の日記を勝手に読むのは気が引けるが、もはや故人のものだ。それに、読まなければ見えてこない物もある。
 さすがに全部を読むのは無理で、かいつまんで関係がありそうな場所だけを拾い読みしただけだが、それでも大方の事情は分かってきた。

 小さな、几帳面な字で、細かく書き連ねられた日常の記録が、そこにはあった。

 アゾートはしばらく前から病を患い、体調が悪かったらしい。それは、日に日に悪くなっていく一方だったようだ。
 彼が最初に王宮関係者に手紙を送った頃には、もう、自力で一番近くの町に行けるだけの力もなくなっていたらしい。

 年少者を庇い、汚れ仕事を一手に引き受けた戦士は、寝室にあった遺体は少なくとも死後二週間以上は経っている物だったと、言葉少なに語った。

「どうして……! どうして、素直に助けを求めなかったのかしら……っ!?」

 心底悔しそうに呟く真っ直ぐな少女に、ノヴァは敢えて告げなかった。
 だが、ノヴァには分かるような気がする――素直に助けを求めたくはなかった、アゾートのプライドが。
 自分の弱味をさらけ出すのを、極端に嫌がる人間もいるものだ。

「この洞窟の場所を、極力知られたくはなかったのかもしれないな」

 ヒュンケルの予測も、また頷ける理由ではあった。
 この洞窟はこれ以上ないと言う程手を尽くされ、念を入れて隠されていた。

 その偽装を最後まで保ち続けていたのは、もう自分で仕掛けた結界を解除するだけの力も無かったせいか、それともそうまでして世界を拒絶していたのか――。

 今となっては、孤独な魔法使いの最後の思いを窺い知ることなど、できようはずもない。

 だが、それでも三人は思いを馳せずにはいられなかった。
 一人で隠れ家に籠もって他人を拒絶し、素直に助けを呼ばず、なおかつ孤独なままに逝ってしまった魔法使いのために、三人はそれぞれが思いを巡らせていた――。








 洞窟に残された物は、日記に書かれていた故人の遺志に従ってそのまま放置すると決めた。
 もしも勇者に相応しい力量を持つ者が現れたのなら、あの扉を開けて中に入り、ここから貴重な資料や魔法道具を発見することもあるかもしれない。

 だが、それは三人にとっては関係のない話だ。
 ただ、アゾートをそのままにしておくのは忍びないからと、彼の遺体だけは洞窟の外へ運び、きちんと弔うと決めた。

 身内もいないという話だし、これほどまでに執心した洞窟のすぐ近くに埋めてやろう、と。
 中身を想像さえさえないほど丁寧に幾重にも布で包んだ荷物は、ヒュンケルが一人で運ぶと言い、その通りに実行した。

 最後に、マァムはゆっくりと、部屋を見返していた。
 確かに、蔵書や魔法道具の数は揃っているだろう。だが、魔法に疎いマァムにとってはさしたる価値も見いだせない。

 彼女の目に映るこの部屋は、単に窓もない狭い部屋で、ひどく居心地が悪そうな部屋としか見えない。
 魔法生物や魔法陣で守られているが、誰もいない無人の場所――。

「……この部屋だけが、彼が唯一安らげる場所だったのね」

 その声音には、深い同情が込められていた。それに対し、ヒュンケルの口調は淡々としたもので、突き放した冷たさがあった。

「よほど、他人が信用できなかったのだろうな。自分の力のみを頼りにし、それが尽きた時はこの場所だけが砦、か……」

 その言葉は、この遺跡で哀れな死を遂げた魔法使いに向けられた言葉ではなかった。むしろ――昔の自分に向けられた自嘲の言葉だ。

 誰も信用できず、自分の強さ以外は頼りにできなかった、愚かな過去の自分。
 この魔法使いの姿と、かつての自分の姿が重なって見えるからこそ、ヒュンケルの言葉は辛辣なものになる。

 だが、ノヴァは違った。

「魔法使いなんて、そんなものだろう」

 他者を顧みずに己に固執し、自分のみを信じる弱さ。
 それはノヴァも、持っている。過去ではなく、今も持ち続けている思いだからこそ、それを認めたくはなかった。

「魔法力以外には頼れない……魔法使いなんて、多かれ少なかれそんなものだ。魔法力を使い果たせば、赤ん坊のようなものだ。せいぜい、人の影に隠れるしかできやしない」

 足下に転がっている小物を蹴飛ばしながら、ノヴァは必要以上に強く魔法使いをこき下ろす。

 魔法使いが、そうなのだ。
 勇者である、自分は違う。
 そう思いたかった。

 だが、ノヴァのその精一杯の強がりはその場にいた二人には、不快さを呼び起こす言葉にすぎなかった。
 マァムがはっきりと眉をしかめ、何か言おうと口を開きかける。が、ヒュンケルは軽くそれを制した。

「そんな魔法使いは、確かにいるな。だが、オレはそうではない魔法使いも知っている」

 静かな言葉には、はっきりとした力強さが込められていた。

「魔法力が尽きて傷を負ったとしても、戦う勇気を失わない。無鉄砲過ぎて、見ている方がハラハラするような……そんな魔法使いだっているさ」

 かすかに苦笑しながらの言葉。
 それが誰を指しての言葉なのか、ノヴァにさえはっきりと分かった――。








「そうだったの……ご苦労様。悪かったわね、嫌な仕事をさせちゃって」

 戻ってきた三人の報告を受けて、レオナは形の良い眉を寄せて俯く。おそらくは、責任を感じているだろう姫を、慰めたのはマァムだった。

「仕方がないわ、確かめるまで分からなかったんだもの。ところで、ダイ達は?」

「ダイ君なら砦の裏の空き地で、訓練するとか言っていたわ。案内しましょうか?」

 指揮官として忙しいはずのパプニカ王女は、返事も待たずにいそいそと立ち上がり、先に立って案内し始めた。

「ポップ君はずいぶん疲れていたみたいだから、休むように言ったわ。多分、もう寝ていると思うけど……」

「あ、寝ているのなら起こさなくていいわ」

 寝室の前で立ち止まって説明するレオナに、マァムは軽く首を振る。
 その気持ちは、三人とも共通だった。
 起こしてまで、伝えるほどの話ではない。

 魔法使いの眠る部屋をそのまま通り過ぎ、彼らは砦の裏口から外へと出る。
 元々、森の中に紛れるように建っている砦の裏手には、ちょっとした空き地があった。

 そこで鞘に入ったままの剣を振るっているのは、紛れもなくダイだ。
 素振りというには大ざっぱで勢い任せな振り回しだが、機敏な動きは見事なものと言えるだろう。

 そして、人の気配を察知したのか、ダイは声を掛けられるより早くレオナ達に気がついた。

「あ、おかえり、みんな!」

 稽古の手を止め、ダイは笑顔で一同を迎えた。

「思ってたより早かったね、どうだった?」

 期待を込めてのダイの質問に、一同はすぐには返事をできなかった。

 先ほど感じた、暗く沈んだ気持ちはまだ払拭されていない。特に、マァムの表情は沈んでいた。

「……? 何か、あったの?」

 仲間の微妙な変化を感じ取ってか、ダイは心配そうに一同を眺めやる。

「いいや、何もなかった。何も、な……」

 素っ気ない口調ながら、ヒュンケルは真実を口にする。

「収穫もなかった。あそこはただの、臆病な魔法使いの隠れ家だった」

「隠れ……家?」

 理解できない言葉を耳にしたように、ダイがきょとんと聞き返す。

「魔法力が尽きた時に、安全に身を休められる場所よ。魔法使いは、魔法力が尽きた時が最も無力だから……」

 レオナの説明に、ダイは分かったような分からないような顔で、さらに首を傾げる。

「休むだけの場所に、あんなに厳重なしかけがあったの?」

「別に、珍しい話でもないだろう? あそこまで厳重ではなくても、部屋に呪文をかけたり、魔法陣でガードしたり、とかな」

 口を出す気はなかったが、あまりにも分かっていないダイに苛ついて、ノヴァは思わずそう言っていた。
 ダイに対する反発心から、ついついつっけんどんな言い方になってしまったが、ダイはまるで気に留めなかった。

「へえ、そんな話、初めて聞いたや。ノヴァ、物知りだなあ」

 手放しの感心ぶりに、レオナはむしろ不思議そうに眉をひそめた。

「初めてって……ダイ君は、ずっとポップ君と旅してきたんでしょ?」

「うん」

 こっくりと、ダイは素直に頷いた。

「でも、おれ、ポップがそんな用心すんの、見たことないもん。今だって、あそこで寝ているし」

 ダイが指差した先には、木の根元に寝っ転がって、すーすー寝息を立てているポップがいた。

 魔法陣もなにも……ただ、ごろっと横になって寝転んでいる格好は、見ている方がハラハラする程に無防備だ。
 そのあまりの無防備さに、ノヴァは一瞬、眩暈すら感じる。

 勇者であり、ある程度剣が使えるノヴァでさえ、魔法力が完全に尽きた時はもう少しは警戒するものだが。

(……勇者も勇者なら、魔法使いも魔法使いだな)

 呆れ半分にそう思ったのは、あながちノヴァだけでもなかったらしい。
 沈痛な面持ちで頭を抱えた後、レオナ姫はつかつかとポップの所まで歩み寄り、声を張り上げた。

「ちょっと、ポップ君!」

「ひゃあっ!?」

 いきなりの大声に驚いたのか、ぴょこんと飛び起きたポップは、きょろきょろと周りを見回し、声の主を悟ったらしい。

「……なぁんだ、姫さんかぁ。驚かさないでくれよ、せっかくいい夢見てたのに」

 寝ぼけ眼で目元をこすりつつ、ポップはボヤく。が、レオナの方が不満や文句は大きかったようだ。

「なんだじゃないわよ、全く、何をやってるのよ、こんな所で寝てるなんて! ちゃんとゆっくり部屋で休むようにって、言ったでしょうにっ!?」

「そうよ、危ないじゃない。いつ、敵が来るかも分からないのに!」

 レオナばかりでなく、マァムも一緒になってのW攻撃に、ポップはたじたじになったものの、まだ眠気はとれないようだ。

「な、なんなんだよ、二人とも。だいたい、マァムは洞窟を調べに行ってたんじゃ……?」

 日の高さと、戻ってきた一行の表情を見比べて、詳しい事情を聞くまでもなくポップは答えをみいだしたようだ。

「――こんなに帰りは早いとこみると、あれ、やっぱハズレだったのかよ」

 律義にヒュンケルが頷くのを見て、ポップは大きなあくびをした。

「……なら、別にいいじゃん。悪いけど、眠らせてくれよ。おれ、さっきので魔法力が完全にすっからかんなんだよ、少し眠んなきゃ」

「眠るんだったら、もっと安全な所で眠ったらどうだ? キミは魔法使いにしては、少し不用心すぎるんじゃないかな?」

 皮肉交じりのノヴァにも、眠そうなポップは応じなかった。怒りもせず、とろんとした調子で返事をする。

「おれは……安全な所で眠っているんだ、ほっとけよ……」

 目を閉じながら、ポップはいった。

「先生は……いつも言っていた。魔法力が尽きた時に、一番安全なのは――仲間の側だって……」

 ポップにしてみれば、何気なく言った言葉。
 だが、ダイを除く一同はハッと息を飲んだ。
 ポップはそのまま寝入ろうとしたが、ヒュンケルはその肩を掴んでゆさぶった。

「……なんだよ? おれ、ねみいんだって」

 目を閉じたまま、ポップはかったるそうに答える。

「『魔法をなんのために使うか?』と問われたなら、ポップ、おまえならどう答える?」

 その問いが、眠りからポップを引き戻したらしい。

「なんだ? 謎かけか?」

 眠そうに目を開け、ポップはぽりぽり頭を掻きながらも、体を起こした。もっとも、完全に立ちあがるまでの気力はないのか、上半身を起こして、背中を木に軽くもたれさせている。

 それでも、答えを探すように黙り込んだわずかな時間に見せた表情は、真剣そのものだった。

「……修行で得た力は、他人のために使うものだ。――おれは、先生にそう習った」

 その声は、静かで、落ちついた。
 単に受け売りの言葉を並べるだけでは、その深みは出ない。ポップ自身がその考えに賛同し、同じ結論に達しているからこそ出せる説得力があった。

「魔法使いは無数の呪文と知識をもって、仲間の危険を払うのが役目。魔法使いの魔法は、仲間を守るためにある――師匠は、そう教えてくれた」

 そこまで真剣に言ったかと、ポップは急に力を失ったように、ぐたっと木にもたれかかった。ずるずるとそのまま崩れ落ちるように寝転がり、自棄気味のように怒鳴る。

「さあ、答えたぞ、もう起こすなよ!」

 それだけ言うと、ポップは本気で眠ってしまった。呆れるぐらいあっさりと、寝入った弟弟子を前にして、ヒュンケルは苦笑を浮かべる。

「仲間のために、か……」

 レオナもマァムも、満足したように顔を見合わせ、小さく頷きあう。

「……ポップ君ってば、もう眠っちゃったみたい。呆れちゃうわね」

 口先では貶しながらも、レオナの表情は柔らかいものになっていた。

「あの魔法使いも、ポップのように考えられればよかったのに……」

 少し、悲しそうに呟くマァム。
 そんな少女の肩に、ヒュンケルは優しく手を置いた。

「ポップが昔、習った言葉があるように……オレも、習った言葉がある。それを、思い出したよ」







 眠っているポップの姿を見ていると、今はもういない、懐かしい人の言葉が蘇る。

 あれは、もう何年……いや、十何年も前のことだろうか。どのくらいの年月が経ったのかすら、すでにあやふやだ。
 だが、それでも鮮明に覚えている言葉があった。

『もし、魔法使いが仲間にいるのなら、他の人を差し置いても魔法使いを庇っておあげなさい。魔法使いは体力も腕力も人並みですから、戦いの中では不利ですし、敵にも狙われやすいですからね』

 そう言われた当時は、反発しか感じなかった。
 自分の身くらい自分で守れないような役立たずな奴など、なぜ守ってなんかやる必要があるのかと、言い返した覚えがある。
 そんな分からず屋できかんきな弟子に、アバンは穏やかな笑顔で教えてくれた。

『なぜなら――魔法使いこそが、あなた達を守ってくれるからですよ』








「……とても先生らしい言葉ね、それ」

 呟くマァムの言葉には、実感がこもっている。
 ポップやヒュンケルに次いで、アバンを良く知っている彼女が味わっている感慨には及ばないだろうが、ダイやレオナにとってもそれは久々に味わうアバンらしい教えだった。
 ましてや、ヒュンケルにとっては懐かしさも感慨もひとしおだ。

「ああ。……先生が正しかったな」

 聞かされた当時は、どうしても納得できなかった、あの言葉の正しさ……それが、今は身に染みるほどによく分かる。幼い頃、ヒュンケルを救い導いてくれた師は、亡くなった今でさえ彼をはるかに引き離した場所にいる。

 それが――不思議なくらいに嬉しかった。
 師の教え通りだ。
 魔法使いは、仲間を守ってくれる。
 側にいる、いないにも関わらず。

 敵ですらない、見えざる悪夢でさえも事も無げに払ってくれた。
 猜疑に取りつかれ、孤独の中で死んでいったあの魔法使いの洞窟で感じた後味の悪さを、ポップは何も知らぬままで一蹴してくれた。

 魔法使いを中心に、そこに佇む勇者一行の表情は柔らかく、温かいものだった――。








(あれが、勇者の魔法使い、か……)

 少し離れた場所から、ノヴァはそんな彼らを見ていた。
 ほんのわずかの距離を、実際の距離以上にひどく遠く感じてしまうのは、心の持ちようのせいだろうか。

 万能の『勇者』であることに固執し、師匠や仲間を求めなかったノヴァには、彼らと同じ連帯感や感慨を味わうことは出来ない。
 それに疎外感を抱きつつも、今のノヴァの心に浮かぶのはダイに対する競争心や劣等感ではなく、憧れに近い素直な感情だった。

 あんな風に同じ先生に学び、仲間と呼べる存在が自分にもいたのなら――今までは何の関心も持たなかったことが、途方もなく羨ましくさえ思える。
 そう思うのは、己のプライドに拘り、孤独のままに死んでいった北の探求者の最期を知ってしまったせいか。

『何のために魔法を使うのか。それを、忘れるべきではなかった』

 長々と述べられる述懐以上に雄弁な後悔が込められた、かの魔法使いの書き残した最後の言葉。

 それが、消えることなく脳裏に残る。
 北の探索者は、北の勇者の魔法使いにはなってくれなかった。だが、彼は傾聴に値すべき忠告を、ノヴァに残していってくれたのだ。

(何のために――か)

 ノヴァは複雑な思いを噛み締めて、ダイとその仲間達をただ見つめていた――。








 これより、数日後にノヴァは知る。
 ダイ達が先生と呼ぶ人物が、実は15年前世界を救った大勇者アバンである事実を。

 そして、ポップが師匠と呼んでいたのが、アバンの仲間であり、全ての魔法使いの頂点に立つと言われた大魔道士マトリフである事実を。

 彼ら4人がアバンの使徒と言われるに相応しいだけの実力と、意思を受け継いだ者達だと心から納得できた後のことだった――。


                                     END


《後書き》
 ノヴァ君主人公の、無理やり隙間捏造話〜(笑)
 いや、このお話はハドラー親衛隊と初対決直後の設定なんですが、原作では親衛隊との戦いが終わってすぐ、ポップやヒュンケルはチウ救出に向かっているんですよね。 つまり、こんな事件など起きるだけの時間的余裕がないんです(笑)


 が、せっかく思い付いたエピソードを、原作に合わないからという理由でお蔵入りさせちゃ、二次創作作家の名折れっ!
 よく考えたら、時間的にはもっと無理のある『勇者になりたい!』のエピソードも書いちゃってるし(笑)、このさい矛盾が一つや二つ増えても同じ!(<-大ざっぱな結論だなぁ)
 と、ゆーわけで、とりあえず魔王軍編のエピソードとして、upしてみました!
 
 

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