『意味深なリング ー前編ー』 

 

 古ぼけた木のテーブルを挟んで、二人の男は真正面から向かい合っていた。

「…………どうしても、嫌だって言うのか」

「当たり前だろ、嫌に決まっているじゃねえか」

「……親の言いつけでもか」

「そんなの、関係あるもんかい。嫌なもんは嫌だ!」

 会話は、弾んでいるとは言いがたかった。
 むしろ平行線と言うべきで、二人とも一歩も引かないぞと言わんばかりの気迫を込めて、睨み合っている。
 年齢は親子ほども違う――というか、実際に親子なのだが。

 むっつりと不機嫌な表情を浮かべた、いかつい顔立ちのがっちりとした中年の男に、どちらかというと女顔だが、いかにも負けん気の強い表情を浮かべた細身の少年。
 顔立ちは全く似ていないがそこは親子、同じく妙に癖の強い奔放な髪形だけは瓜二つだ。 そして、互いに互いを睨み合う強情そうなその態度もまた、よく似ていた。

 ジャンクとポップ。
 ランカークス村ではちょっとは知られた、派手な親子喧嘩では定評のある名物親子だった。

 いつもなら二人が喧嘩しそうになったり雰囲気が険悪になると、やんわりと止めるのはジャンクの妻でありポップの母でもあるスティーヌの役目なのだが、今、彼女は不在だった。

 買い物に出掛けた彼女がいない間に発生した親子の意地の張り合いは、エスカレートする一方だ。

「なんで、そんなに嫌がりやがるんだ……!?」

 なんとか落ち着いた声をだそうとしているものの、こめかみの辺りをピクピクと引きつらせながらジャンクは言う。
 そろそろ爆弾が破裂しそうな緊張感を孕ませた頑固親父に、ちょっぴり怯えた様子を見せながらも、ポップは強情に言い返す。

「嫌に決まっているだろ! だいたい、なんでおれがベンガーナデパートに指輪なんか買いに行かなきゃなんねーんだよっ!?」

「いいじゃねえか、どうせてめえはルラとかなんたらとか言う変な魔法で、どこにだってホイホイ行けるんだろうが。家出にばっか使ってないで、たまには親の役に立てやがれ」

 呪文の名前のいい加減さにカチンときたのか、ポップの顔もピクッと引きつる。

「ルラじゃなくってルーラだよ! だいたいそんなの理由になるかっ! 自分で買いに行けよっ! 仕入れは自分の目できっちりやるもんだって、いっつもえらそうに言ってるくせによぉ!」

 怒鳴るついでにテーブルをどんと叩いた息子に対して、ジャンクはさらに大きな音を立ててテーブルをぶったたく。

「オレだって、最初は自分で買いに行くつもりだったんだよっ!! でも、出来ねえんだからしかたねえだろうがっ」

 ジャンクは、その昔、ベンガーナ王国の宮廷鍛治職人だったが大臣をぶん殴り、国を飛び出したという過去を持つ。
 当然のごとく職を失い、家名に泥を塗ったとベンガーナの実家から勘当されたも同然の扱いを受け、家どころか勢いよく国を飛び出したのはもう20年以上も昔のこと。

 それっきり昔の知り合いとは音信不通を貫いているジャンクではあるが、彼にとって実は、故郷はそれほど敷居の高い場所ではない。 なんと言っても、ベンガーナはランカークスから見れば一番近い大きな町だ。しかも、広いだけあってそうそう知り合いと会う心配もいらない。

 武器屋という商売を営む以上、取り引きや仕入れの関係でジャンクがベンガーナへ行くのはそう珍しいことではない。
 さすがに城付近にまで近寄ったりはしないが、目立たないように辺境の店でそそくさと買い物を済ませ、ささっと帰るのはよくあること。
 デパートにだって、行ったことがないわけではない。

「評判のいい職人だって聞いたから注文しに行こうとしたら……まさか、幼馴染みだったとは思わなかったぜ。まったくあいつめ、あんな熊みたいな顔の分際で、いつの間に宝飾品専門の職人になってやがったんだ」

 ぶつぶつと、ジャンクが不満いっぱいにボヤきまくる。
 職人同士の世界では、実は結構横に繋がりがあるものだ。
 ジャンクの専門は武器職人だが、彼は元宮廷鍛冶職人……実用性よりも宝飾の意味を求められがちな分野でもある。

 実際に戦場に出ない王侯貴族達は、武器の飾りに宝石を求めることも多いため、専門の職人道士が協力し合って装飾に長けた武器を作るのも珍しくはない。
 まあ、ジャンクは武器に宝石をつけるのはどちらかと言えば反対派だが、それでもベンガーナ城に勤めていた頃はそんな武器を注文されたことは何度かある。

 その関係で、宝石職人と顔を合わせたこともあった。職人は家業を息子に継がせるものであるし、ベンガーナで有名な職人の子供同士は、案外幼馴染み同士だったりするものだ。

 それは別にいいのだが、家と国を飛び出したジャンクにしてみれば、さすがに直接の知り合いと顔を合わせるのは気まずいものがある。
 さらには――もう一つ、ジャンクにはためらう理由があった。

「それに……男が指輪だなんてチャラチャラしたもん、こっぱずかしくて買いに行けるか」

 ぼそっと吐きだした本音に、ポップが半眼になるのも無理はない。

「本音はソレかよっ!? そんなの、おれだって同じだよっ! つーか、いい年して不気味に照れてねえで、自分に買いに行けよ! その方が、母さんだって喜ぶに決まってんだろ!?」

 正論を申し立ててくる息子に、ジャンクは顔を真っ赤にしてがなりたてる。

「あー、うっせーうっせえ! いいから四の五のいわず、たまにはお使いぐらい行って来やがれ、この放蕩者のドラ息子めが〜っ!!」

 しまいには実力行使。
 力ずくで息子の襟首を引っ掴み、外へと叩き出してしまった――。






「ちぇっ、なんだっておれがこんなことを……」

 ぶつくさとぼやきながらも、ポップはベンガーナデパートの中を歩いていた。
 大魔王と見事に渡り合った勇者一行の魔法使いとて、親の前ではしょせんは子供に過ぎない。

 いくらパプニカ城で重職についていて、次の冬には18才になるとはいえ、親の目から見れば子供は子供のままだ。
 ましてやポップの父ジャンクは、頑固親父を地でいっているような男だ。ポップが反抗すれば、鉄拳制裁も辞さない雷親父でもある。

 未だにポップには、父親の言いつけに逆らう度胸などない。
 嫌々ながらも、宝飾品を専門に扱っている階へと足を運ぶ。
 幸か不幸か、ポップはここに来るのは初めてではない。……というよりは、不本意ながら何度となく来たことがある。

 買い物好きのレオナは、隙あらばこっそりと城を抜け出してショッピングをしたがる悪癖がある。
 その度に移動役兼荷物持ちとして損害を被るのは、大抵はポップだ。

 移動呪文ならダイも使えるのだが、どうやらダイは人間がたくさんいる場所をイメージするのがひどく苦手らしい。
 正確に場所をイメージできないと目的地から多少ずれた場所に行きがちなのは、ルーラに不慣れな使い手の特有の癖だし、ご愛嬌というものだろう。

 さらに言うのなら、レオナには新しい服やらアクセサリーを買う時、どうやら乙女ドリーム入った希望があるらしい。

『あれ? レオナ、それ、新しい服だね! 可愛いや、すごく似合っているよ』

 ダイのそのセリフをどうしても聞きたいようだが……ポップに言わせれば、虹のようにはるか遠くに存在する、遠い夢としか言い様がない。

(だいたい、あの頭の中が万年お子様がンな気のきいたセリフを言うわけねーって。つーか、防具ならともかく、そもそも服の差に気づくとも思えないんだけどよ)

 と、ポップとしては心の底からそう思うのだが、レオナは未だに希望を捨てていないらしい。
 ダイに内緒で、ポップにこっそりとショッピングに付き合わせることなど、度々だ。

 今のところ、レオナの企みは連戦連敗記録を更新中なのだが、彼女は屈するという言葉など知らない。
 不屈の闘志もこんな時には迷惑だと思いつつも、やっぱり彼女に逆らうのも怖くてできない。

 などと、勇気の使徒にあるまじき感想を抱きつつ、ポップは宝飾売り場の目立たない場所にひっそりとある店に辿り着いた。

 置いてある品物は、なかなかのものだ。だが、数が少ないし、なにより他の売り場と違って愛想のいい女性店員ではなく、熊のような髭もじゃの大男がいるのが難点な店だった。これじゃ流行らないのも当然かなと思いながら、ポップは店員に声をかけた。

「えっと……すいませーん、指輪の注文をお願いしたいんですけど」

「あー、はいはい。少しお待ちください」

 と、男が振り返ってから始めて、別の客らしき人がいたことに気がついた。男の巨体に隠れて見えなかった先客は、ポップに気がつくと愛想良く笑いながら手を振ってくる。

「おやおや、お久しぶりです、こんな所でお会いするとは奇遇ですね! 君もこの店のご贔屓とは知りませんでしたよ、お目が高いですな。
 ほうほう、なかなかに凝ったデザインですな……なるほど、黒髪のご婦人に似合いそうな品ですね〜。ん〜っ、トレヴィアン! 実に素晴らしい!」

 挨拶どころか、図々しくも手に持っていたメモまで覗き込まれ……やっと、ポップは驚きから立ち直って叫び声を上げる。

「なっ、なんであんたがここにっ!?」

 絵の具汚れのついたスモック姿に、ちょこんと乗せたベレー帽。
 きらきらと光り輝く金髪を、マッシュルームカットにした中年男がそこにいた。
 美人、美少女画に関しては世界一の腕と豪語する、ベンガーナが誇る天才画家、ムッシュ・カタール。

 最初、彼に理想のモデルだの何だのと声をかけられた時は、正直言ってポップは全然信じちゃいなかったが、後で確かめたところそれは事実だったから驚きだ。
 ただし、天才は天才と評価が高いが、奇人変人ぶりでも世界に名を轟かせていると聞いて、納得したものだが。

「おや、なんでとはご挨拶ですな。もちろん、素敵なマドモアゼルに贈るプレゼントを買いに来たに決まっているではないですか! だいたい、アクセサリー店に男が他に用事があるとでも?」

 と、よりによって彼に常識を語られるように諭されると、なにやらどっと疲れるのを否めない。

「つい先日、めでたく一枚の絵が完成しましてね。こちらから無理にモデルをお願いした相手ではありますし、お礼とお詫びを込めて何かプレゼントをしようと思いましてね」

 聞いてもいない事情をペラペラと喋るムッシュは、ひどく上機嫌だった。
 その腕前から、世界各国から自薦他薦を問わず美女達に肖像画を望まれている売れっ子画家だが、モデルが気に入らないと描かないことでも有名である。

 そのせいもあり、彼の絵のモデルを務めるのは王侯貴族の間では一種のステータスにさえなっている。
 ムッシュ・カタールの目に留まり、モデルに選らばれることを望まない女性はいないと言っても過言ではない。ある程度以上の身分のある娘ならば、誰もが一度は見る夢だ。

 特に年頃の娘にとっては、彼の肖像画を持つのはそれだけで嫁入り道具の箔になる程の価値がある。
 が、そんな貴族間の思惑とは無頓着に、この芸術家は己の美学を追及するタイプの男でもあった。

 相手が気に入れば、身分や年齢も関係がない。彼が関心を持つのは、己の絵心を触発する素材かどうか、だ。
 モデルが気に入れば、ムッシュはとことん相手を絶賛し、絵を描かせてくれないかと言葉の限りを尽くして頼み込む主義だ。

 はっきり言って、これは善し悪しだろう。
 確かに彼の申し出を光栄と受け止める女性は多いが、そうでない人も中にはいる。

 貴族ならいざ知らず、そこらの農村の娘に向かって泥まみれで働く姿が美しいから是非、描かせてくれなどと言ったところで、変人扱いされるのが落ちだろう。
 だが、ムッシュは実にめげない男であった。

「これがまあ、今時珍しいほどに淑やかで、実に美しく可憐な方なのですが、たいそう遠慮深い娘さんでしてね、自分は絵を描いて頂く程の者ではないから、と、慎ましく辞退され続けていたんです。いやあ、口説くのに苦労しましたよ」

 そう言いながら、ムッシュは鼻歌交じりに真珠をあしらったアクセサリーを選んでいるようだった。
 それを眺めつつ、ポップは心の中で合掌する。

(誰だか知らないけど、その娘も気の毒に……)

 と、のんきに同情していられるのも、短い時間だった。

「というわけで、今は手が空いておりましてね。次回作の予定はまだでして、いいモデルを求めている最中なのですが……ポップ君には、お時間はありませんかね?」

 ちらちらと流し目を送りつつ、そう尋ねてくるムッシュに対して、ポップはピシッと断る。

「言っとくけど、おれはあんたのモデルなんかやらねーからなっ! それに、おれは忙しいんだよっ」

 ポップの母、スティーヌは若い頃、ムッシュ・カタールの最初のモデルとなった。
 その事実にも驚いたものだが、若き日の母の絵の前で偶然ムッシュと出会い、モデルになってくれと切望された日には、運命とやらと呪いたくなったものである。

 母親似の外見はポップにとっては密かにコンプレックスのもとだったりするのだが、あの時ほど遺伝の気紛れさを恨んだことはない。
 おかげでそれ以来、ポップもまた、本人にはまったくその気がないのに、ムッシュの審美眼に適ってしまった不幸な一人になったらしい。

 そもそも、ポップは自分の肖像画などを描いてもらいたいとは思ってもいない。
 ましてや女装して絵のモデルなど論外だと何度も断っているのに、ムッシュはことあるごとに勧誘をしかけてくる。

「おや、それは残念ですな。では、また次の機会にご勧誘させて頂きます」

 諦めは悪いが、ムッシュ・カタールは無理強いをする男ではない。その点では、彼は紳士だった。

「はいはい、それで注文はこちらでいいんですね? ところでこれはエタニティリングのご注文と理解して、受けてもいいんですかね? メモからすると、ハーフエタニティに近い気がするんですが」

 ムッシュの奇行になれているのか、まるっとスルーして宝石店店主は事務的に話を進めてくる。
 ……ある意味、立派なものである。
 だが、ポップはうろたえずにはいられなかった。

「え、えっと……?」

 なまじ自分の注文でないだけに、聞かれたことにどう答えていいのか分からない。おまけにアクセサリーなんて物はポップにとっては全くの未知の分野の代物だ、質問の意図さえ分からないときている。
 戸惑うポップに対して、ムッシュはごく当たり前のように割り込んできた。

「よろしければお手伝い致しましょうか。えーと、だいたいこんなイメージではないですかね?」

 と、頼むどころか止める前に、ムッシュはスチャッとどこからともなくペンを取り出し、勝手にサラサラとメモに描きこみだした。
 文章だけの武骨なメモの横に、見る間に優美な指輪のデザイン画が描かれていく。その手際の良さと、巧さや早さはさすがに画家と言うべきか。

「あ、ああ、まあ、そんなんだと思う、よく分かんないけど。それでさ、いつ出来あがるかな? 今月末までに必要なんだけど」

 ポップの問いに、店主は色々と字の書き込まれたカレンダーを見て首を捻る。

「まあ、いけるとは思いますが……あ、ですが、お客様は配送サービスはご利用になりますか?」

 ベンガーナデパートでは、近年、配送サービスを開始したばかりだ。
 料金別払いになるが、買った品を自宅まで確実に届けてくれるこのサービスは好評で、ポップも何度となく利用した覚えがある。

 レオナが頼む品も、特注品が多いせいか仕上がりまで待たされることは何度となくあった。
 いくらルーラを使えるとは言え、忙しい時期には日を改めて出直すのも手間だ。時期的に出直しが難しそうな時は、配送してもらった方が楽だ。

「そうだな、月末だしその方が楽かなぁ。えっと、ランカークスまでだと、どのくらいで――」

 書類の整理上、月末には仕事が必ず詰まることを考えて配送を考えたポップだったが、そこまで言ってハタと気がついた。

「あっ、やっぱいいやっ! うん、出来あがる頃に直接取りにくるよ!」

 いつもの感覚でつい頼みそうになったが、危ういところでポップはそれを差し止めた。 スティーヌにバレないように、こっそり――それが、ジャンクがポップに要求した条件だった。

 直接この人が配達にくるわけではないだろうが、ジャンクは昔の知り合いに自分の居場所を知られるのをひどく嫌ってもいた。
 配送など頼んだら、バレバレもいいところ……ジャンクにめちゃくちゃに怒られるのは請け合いである。

 いい年をして情けないとは思うが、未だに父親が怖いポップとしては、手間はかかってもやはり安全策を取るしかない。
 が、ここで思わぬ横やりが入った。

「ふぅむ、ふむふむ、なるほどね……」

 ピンと尖らせた髭を捻りながら、カレンダーと自分自身の描いた指輪の絵を見比べたムッシュは、唐突に聞いてきた。

「時に、ポップ君。つかぬことをお伺い致しますが、もしやお母君のお誕生日は今月末なのですか?」

「は? 違うけど」

 きょとんとしつつも、簡単に答えられる質問なだけにポップは思わず即答してしまう。途端に、ムッシュは手を大きく打ち合わせて、にこやかに言った。

「なるほど、それならばこれも何かの縁です! わたくしがその指輪の配達をお引き受けいたしましょう!」

「はぁ?」

 と、ポップが呆気に取られるものの、ムッシュはこれ以上ないアイデアを思いついたとばかりに、一方的に話を進めていく。

「いやあ、ちょうどテランの方へ行く用事があるんです。そのついでに山の方で少しばかりスケッチなどもしたいと思っていましたし、ついでにちょいと足を伸ばすにはいい場所ですな」

「い、いや、ベンガーナからテランに行くんなら、ランカークスに寄れば遠回りになるだろ、どう見ても……」

「いえいえ、お気になさらずに。芸術は衝動的なものですゆえ、大丈夫ですとも! 
 では、何日に取りに来ればいいですかな?」

「いっ、いやっ、ちょっと待ってくれよ!? おれ、まだ頼むだなんて……っ」

 急展開に焦るポップに対して、ムッシュは勿体ぶって首を振って見せる。

「いえいえ、ご心配なく、こう見えてもわたくしは約束には義理堅い男でしてね。それに自分の口で言うのも何ですが、身元だってしっかりしておりますし、間違っても盗難騒ぎなど起こしませんよ。商品の運搬には責任を持ちますとも」

「いや、そんなのは元から心配してないけど……」

 ポップも詳しく知っているわけではないが、高名な画家であるムッシュの絵が高額なのは有名だ。
 こんな指輪一つを盗むだなんて、最初から疑うわけがない。

「おや、ご信頼いただけているとは嬉しいですな。
 これはわたくしのほんの善意ですので、お礼など言うには及びませんとも!」

「だから、話を勝手に進めるなよっ!? つーか、聞けよ、人の話をっ」

「あ、ですがどうしてもそれでは気が済まないとおっしゃるのであれば、絵のモデルになっていただけるとありがたいのですが」

「誰が礼をしたいと言ったんだっ!? どさくさ紛れてモデルに勧誘なんかするなーっ!?」

 どこまでも噛み合わない会話に、しまいにはポップは我慢しきれなくなって絶叫を轟かせていた――。

 


                                    《続く》
  

後編に進む
小説道場に戻る
トップに戻る

inserted by FC2 system