『いつか、繋がる物語 9』 |
「おお、勇者アバンよ! 今回のそなたの働きは、誠に天晴れであるぞ! よくぞ子供達を助けてくれた、我が国を代表して礼を言わせてもらうぞ」 パプニカ城の王間にて、パプニカ王はアバンへの賛辞と感謝の念を惜しみ無く与えていた。 15年前に魔王ハドラーを倒した後、当時の王族らからの降るような誘いを断り、人知れず旅に出たという伝説の勇者の名前だ。 だが、若い頃にカール王国に留学経験を持つパプニカ近衛隊長は、実際の勇者を目撃した経験があった。 本来なら、国を挙げて大々的に祝しても良かったのだが、派手な出迎えを嫌ったアバンの意志を尊重して、内々に呼び寄せるにとどめたのだ。 「いえいえー、そんな大袈裟な。私の弟子を助ける必要があったから、この事件に関わったまでのことです。そんなに褒められると、かえって照れちゃいますねー」 茶目っ気に溢れる口調や、王からの褒美を辞する控え目さは、ますますアバンの好印象を高める。 「さすがは勇者、なんと高潔な……。ところで、そなたを見込んで一つ頼みがあるのだが。聞く所によると、アバン殿は現在は後人の教育に力を注がれているとか。それならば、ぜひ、あなたに教育を頼みたい人材がいる」 「おや。生徒の斡旋ですか?」 「うむ。ここよりはるか南、怪物のみが暮らすデルムリン島と言う小島に、未来の勇者に相応しい少年がいるのだ。まだ子供ではあるが、彼ならば勇者に相応しいと余もロモス王も考えている。 王のその言葉を聞いて、嬉しそうな少女の声があがる。 「ダイ君のことね!?」 そう言ったのは、王座の隣、本来ならば王妃が座するべき場所に座っていた少女だった。彼女こそは、パプニカ王と、今は亡き王妃の間に生まれた一粒種、パプニカ王女レオナ。まだ年は若いものの、賢者の資質を持つと噂に高い美姫である。 「これ、客人の前で話に割り込むなどはしたないぞ」 「ごめんなさい、お父様」 父親にたしなめられて、悪びれた様子もなくぺろりと舌を出す辺り、なかなかお転婆なお姫様である様だ。 「いいえ、いいんですよ。姫はその少年と面識があるのですか?」 「ええ、前にデルムリン島に行った時に、ダイ君に命を救われたの! 少しばかり背が低いのが難点だけど、彼こそ未来の勇者だとあたしは思うわ」 とびっきりの笑顔で生き生きとそう言うレオナに、アバンは微笑みを誘われる。 「そうですか、二人の王のみならずお姫様にまでそうまで言わしめるとは、なかなかの勇者のようですね。 「うむ、そう言われるとありがたい。それでは、皆の者は退出する様に。姫も、下がる様に」 「ええ〜? 本物の勇者様と対面できるなんて、めったにない機会なのに」 人払いを命じられたレオナは明らかに残念そうだったが、そこはさすがに王家の姫というべきか、王の命令が絶対だと承知している。 「いやはや、娘が余計な口を叩いてお恥ずかしい。そろそろ年頃なのに、まだ子供っ気が抜けなくて困っておりましてな」 少しばかり照れくさそうにそう言うパプニカ王に、アバンはにこやかに返事をした。 「いえ、強い意思をお持ちの素晴らしい姫だと思いますよ」 確かに、お淑やかな姫とは言いがたいかもしれない。だがレオナの闊達さや、物怖じせずに自分の意見をはっきりと口にする点は、アバンには長所に思える。 「ところで……人払いをしたのは他でもない。アバン殿、あなたは魔王復活についてどうお考えになりますかな?」 ついさっき、愛娘について話していた時とは段違いの引き締まった表情を見せるパプニカ王に、アバンはわずかばかり驚く。 パプニカ国王には1年余りとはいえマトリフが宮廷魔道士として助力していた。 そして、マトリフの教えを受けたであろうパプニカ王の聡明さと慎重さも、信頼のおけるものだ。 「はい……王にその覚悟があるのでしたら、お話ししやすくなります。実はこの度の誘拐事件は、さしたる問題ではありません。それよりも魔王軍が実在する可能性が高いことが、大きな問題かと……」 ザムザが得意げにひけらかした、魔王軍という言葉をアバンは重視していた。 だが、魔王が現れた場合は話が別だ。 「やはり、か……。実は、ここ数週間の間に怪物達の行動が活性化してきたと言う報告例が、ワシの耳に届いてきている。 温厚そうなパプニカ王の眉間に、深い皺が刻まれる。 だが、魔王が行動を開始した場合、例外なく怪物は魔王の邪悪な意志の影響を受け、凶暴化する……! 「まだ、人々は気付いておらぬが、魔王が実在するならば、近い将来に必ずや未曾有の危機が人々を襲う……! 真剣な表情で、パプニカ王はしっかりとアバンの手を握り締める。その力強さこそが、パプニカ王の内心を現していた。 「分かりました、約束いたします。次なる世代を守るために、私も力の及ぶ限り努力しましょう」
渋面を通り越して、怒っているとしか思えない顔でギロリと自分を睨みつけてくる老魔道士を、アバンは少しも恐れなかった。 「いえいえ、どうというわけではありませんがね、ただ、耳に入れておいてくれるだけで、充分ですよ。 海岸の洞窟でこっそりと隠れ住んでいたいと望む友人の考えを、アバンは尊重している。それに、老齢の上に体調が完全ではないマトリフが、現役時代のように自由に動けないことも、だ。 マトリフにパプニカ王国を助けてほしいとは、アバンには積極的には言えない。だが、この老魔道士の卓越した知恵と深い人間観察力があれば、なにか有事が起こった時に必ず多くの人を助けられるとも確信している。 だからこそ、アバンはパプニカ王から聞いた話や自分の知った話をマトリフに伝え、後は彼の判断に任せようと思う。 「まあ、魔王はさておくとして、一つお聞きしたいんですが、これが何なのか分かりますか?」 そういってアバンが取り出したのは、小石ほどの大きさの丸い固まり……ザムザが子供達に与えた金色の石だった。 「子供達の話によると、誘拐犯に渡されたそうです。 子供達の反応は、アバンには解せないものだった。子供達は一人残らず、誘拐犯にいい印象は持っておらず、ひどく怖がってもいた。 呪いの効果があるのかと思い、シャナクをかけるなどして破壊したものの、正体が掴めないだけに不安がある。 「ふぅん」 気がなさそうに石を手に取ってじろじろとみたマトリフは、それをぽいっと放り出して洞窟奥のタンスの辺りをごそごそと探し出した。 「こいつを見てみな」 と、マトリフが取り出したのは古びたベルトだった。もっとも上質な皮を使っているのか、見た目の古さとは裏腹に皮はしなやかだった。 それに刻まれた模様は、どう見てもマトリフの顔に似せたふざけたデザインだったが、それを手にしたアバンはハッとせずにはいられない。 その石は、アバンの持ってきた石と同じものだった。それも、単に偶然似ているというレベルではない。 「ふん、やっぱりな。 おまけにどうやら探知魔法に反応しやすくできているみたいでな、この石を持った人間を見つけるのは簡単なんだ。それも、高い魔法力を持った者ほど見つけやすくなる。 「……悪辣ですね」 穏やかなアバンには珍しく、その顔に遠慮なしの怒りが浮かぶ。 何も知らない子供がこの石を見たら、喜んで拾い、友達に自慢して見せびらかすだろう。その中で、石は魔法力の高い者の手へと渡る。そういう性質を備えているのだから。 「まったく、卑怯な上に気の長い罠だぜ。ま、魔族ってのは寿命が長いからこんな真似ができるんだろうけどな。 「な……っ!?」 予想を超える数に、アバンは思わず腰を浮かし掛けた。 「慌てるなって。当時の魔誘石は、もうとっくの昔に全部回収して破壊ずみだよ。オレがあの時、なんのために王宮魔道士になったと思っていやがるんだ?」 だが、そんなアバンの驚きが楽しくてたまらないとばかりに、マトリフはニヤニヤ笑う。 「それに、この石も役に立たなかったわけでもねえぜ。おまえ、パプニカ城に行ったんなら、若い賢者や僧侶、魔道士らが多くにいたのに気がつかなかったか?」 「そう言えば……」 パプニカ王の側にいた、三賢者と名乗った若者達や彼らに並んでいた僧侶や魔法使い達を思い出す。 それにも拘わらず、パプニカの賢者はまだ20才そこそこの若い青年や娘ばかりだった。 「魔誘石を探して回収するついでに、才能がありそうなガキどもを十数人ほど発見したんで、そいつらに修行させるようにと王に推薦しといたんだよ。 ケケケと笑ってみせるマトリフに、アバンも釣られて笑ってしまう。 「まったくあなたには適いませんね、マトリフ」 マトリフの最大の長所は、卓越した魔法力でもなければ、抜群の魔法センスでもない。深い人生経験に裏打ちされた、抜群の洞察力。常に冷静さを失わず、状況を見事なまでに見切って最善の手段を選択する精神力にある。それを誰よりも良く知っているアバンは、今度は安心して尋ねることができた。 「ところで、今回の犯人と大戦中にその石を配ったのは、同じ人物だと思いますか?」 「多分、違うんじゃねえのか? 確信ありげに、マトリフが断言する。 長期に亘る罠を張って、表に出ようとしない15年前の魔誘石の犯人とはやり方が違い過ぎる。 「ま、だが、こんな奴は気にする価値もねえだろうな。どうせ、警戒するのなら魔王に注意しとくんだな。
一際小柄で貧相な体格の魔族は、それを隠そうとするかのようにことさら胸を張り、目の前にいる魔族を見下ろす。 そのザボエラの目の前で、長身の身体を折り曲げるように、目一杯に縮こまって跪いているのは、ザムザだった。 「…………それで、おまえは目的も果たせずにノコノコと戻ってきたと言うわけか」 ザボエラの声はひどく冷たく、息子に対するものとはとても思えない程、そっけない響きのするものだった。 その声はザムザにとっては、叱責よりもひどく身に堪えるものであり、心を切り刻まれる。 「も、申し訳ありません。ですが、まさか、よりによってあの勇者アバンが邪魔をしてくるなどとは思いも寄らず……っ」 必死になって、ザムザは言い訳をしようとした。今度のことは想定外の邪魔者が入り、しかもそれがあまりにも大物であったがゆえに不運だ。 せめて、自分が父親の命令に忠実に従い、命令を果たそうと努力したことだけでも知ってもらいたいと思う。 「呆れたものじゃな。たかが、人間の子供を誘拐する……それさえもできないとは、飛んだ役立たずじゃな」 ザボエラの決め付けに大いに恐縮するザムザは、知らない。 ザボエラの考えでは、それは撒き餌だった。 数百という石を手にした子供の中で、高い魔法力を持つ子供だけはその石を持ち続け、選別される。 そう考えていたのだが、その後、ハドラーの死亡をきっかけに魔族の地上からの一時撤退などが相次ぎ、長い間放置したままだった。 だが、あれほどバラまいたはずの石が、すべて壊され反応を見せなくなっている事実に、ザボエラがどんなに焦ったことか。 成功すればそれでよいし、失敗したとしてもそれはそれでよい――最初からそのつもりだったのだから。 「のう、ザムザ。ワシは常々言っておるじゃろう……? 役に立たぬものなど、ただのゴミじゃと」 「わっ、私は、父上のためにお役に立てます! 父上のご命令なら、どんなことにでも従いますから!」 父親の関心を失うまいと自分から罠に飛び込んできた健気な息子に向かって、ザボエラはほくそ笑みながら声を掛けた。 「そうか、その覚悟があるのなら話は早い。 絶望の表情を浮かべる実の息子を、ザボエラは何の躊躇もなくモルモット用の部屋に連れて行くようと、配下に命じる。 「ま、待ってください、父上っ!?」 まだ、何か言おうとする息子の声を聞こうともせずに聞き流しながら、ザボエラの関心は机の上に置いた水晶玉に移っていた。 それらも早くも壊されたことは分かっていたが、一つの石だけは違っていた。無事なのは分かっているが、魔法を弾く聖なる結界を張られたのか、居場所が特定できない。 (ふむ、ザムザの話からして今回の魔誘石を手にしたのは、おそらくは勇者アバンか……) 狡猾なザボエラは、素早く様々なリスクや利益を計算し始める。 だが、かつてハドラーを倒した勇者と正面きって戦うなど、御免だった。それよりももっと楽で、もっと効果的な手段がある。 (そういえば、あのハドラーめがずいぶんとアバンを恨んでいた様子じゃったな……) ハドラーにアバンの居場所を進言すれば、復讐心に駆られた彼は自ら勇者を倒しに向かうだろう。 「フッフッフ、これはいいわい……!」 哄笑するザボエラの顔が、水晶玉に歪んで映っていた――。 話を終えて、洞窟の外までアバンを見送りにきたマトリフは、いささか不思議そうに尋ねる。 「それはいいがよ、アバン。おまえ、例の弟子はどうしたんだ?」 「ああ、あの子なら今は宿屋に預けていますよ。あなたに預けようかと思ったのですが、やっぱり止めることにしましたので」 「やめたって……。おいおい、今になってから、日和ったのかよ?」 「と、いうか、少し先延ばしにしてもらっていいですか? 「それなら、なおさらここに置いていった方がいいんじゃねえのか? その方が面倒がねえだろうによ」 教育のやり方に、王道というものはない。 「ええ、そうとも思いましたが……あの子にとっても、これはいい機会になると思うんですよ」 自分に憧れて、家を飛び出してきたポップに、アバンは様々な知識を与え、魔法を教え、新しい世界を見せてやってきた。 同じ年頃の、友達。 だが、旅暮らしを続ける以上、別れは付き物だ。 「共に修行を受けた仲間や、兄弟弟子というのは、やはり特別な存在だと思いますよ。 「ふん……」 不貞腐れたように外方を向くマトリフの真意を、見抜けないアバンではない。 その頃、共に修行していたのに夜逃げした弟弟子が、マトリフにはいる。毒舌家で、人間嫌いを気取って世捨て人のように暮らしていたマトリフが、珍しく漏らした過去の話をアバンは記憶にとどめていた。 大半が根性なしの弟弟子をけなすような口調だったものの、その割にはマトリフが未だに彼を気にとめているのは一目瞭然だった。 意外と照れ屋なところのあるマトリフは決して認めようとはしないが、彼はいまだに弟弟子を心配し、機会があれば会いたいと願っているのだろう。 「それに、今回の事件のおかげで、見えてきたこともありますから――」 無意識の状態でこそ、人の本質は如実に表れる。 ポップはあの時、パペットマン達が自分自身の檻を近付いたのを見ても、何の反応もしなかった。実際に運ばれた時でさえ、ポップは抵抗はしてはいない。 だが、それでいてポップは、パペットマン達が子供達の檻に近付くのを見た途端、行動を開始した。 前から思ってはいたが、ポップの闘争心はそう高くはない。武闘家や戦士の多くがそうであるように、無意識状態でも敵を求めて戦おうとする気概はまるでない。 無力な弱者を守るためにこそ、ポップは動いた。 自分自身の身を守ることより、他人を思い、庇おうとする資質。 自分よりも、弱いものを守りたいと思って勇気をふり絞る――思えば最初に出会った時から、ポップはそうだった。 それは自分よりも強い師に守られたままでは、開花しにくい資質だろう。 「ふん、本当に甘い男だな。時には弟子を突き放すのも、師匠の役目ってもんだろうによ」 呆れたようにそう言いながらも、マトリフはそれ以上文句を言わずに肩を竦めて見せる。 それは暗にアバンの意見を肯定し、受け入れてくれたのだろうと、アバンは解釈した。 「すみませんね、マトリフ。 「ああ、それを楽しみにさせてもらおうか。だが、あんまり長く待たせるなよ、オレももう年なんだからよ」 「またまたそんなことを。あなたなら、私よりもずっと長生きしますよ。では、約束を覚えておいてくださいね」 軽口めいたその言葉を残し、アバンの姿が軌跡を描いて空へと舞い上がる。 それを、マトリフは黙って見送っていた――。
眠い目を無理に押し開け、真っ先に見えたアバンの姿に安堵する。 「……先生、ここ、どこですか? ってか、なんで海の上っ!?」 良く見れば、アバンとポップは小さな船に乗って大海原にいた。さすがにこの変化に焦ってきょろきょろと辺りを見回すポップだったが、アバンは常と変わらぬ態度でにっこりと笑う。 「やっと、本格的に意識が戻ったみたいですね。気分はどうですか、ポップ?」 「どうって、別に何ともないですけど。……えっと、先生? おれ……いったい、どうなってたんですか?」 ポップにしてみれば、今までのことは断片的で、しかも夢のように朧気な記憶しかない。自分が誘拐されたことや、他にも掴まった子供達がいたことは、ぼんやりと覚えてはいるものの、それはあやふやすぎる記憶だ。 だが多少の戸惑いは感じても、ショックや恐怖が少ないのはすぐ目の前にアバンがいるおかげだ。 そして、アバンと一緒にいるのなら、不安を感じる必要などない。師に絶対の信頼と思慕を抱くポップにしてみれば、たとえ見知らぬ場所であっても、アバンと共にいるのなら危険とは思わない。 ただ、あまりに急な展開についていけず、きょとんとした顔で首を捻るばかりだ。そんなポップを見て、アバンは荷物の中からサンドイッチとジュースを取り出して薦めた。 「何があったのかは、これからゆっくり話してあげますよ、ポップ。
最初は食欲がなかったのか水だけ飲んでいたポップだったが、一度口に物を入れると空腹を思い出したのだろう。 ポップ本人は自覚も記憶もないだろうが、ポップが最後に食事を取ってからすでに三日近い日付が経っている。 おそらく、薬物が抜けるまでの時間に身体も心も休養を必要としていたのだろう。 その間、ポップの面倒を見てくれていたのは、宿屋の主人だった。決して彼のせいではないのに、自分の宿屋から子供が誘拐されたのを悔いていた主人は、自分からポップの面倒を見させてほしいと頼み込んできた。 だが、魔王の存在が明らかになった今、アバンには急ぐ理由ができた。だからこそ、ポップの意識が戻る前にアバンは旅だった。 「ほらほら、あまり焦って食べると喉に詰まらせますよ、ポップ」 「ふぁい。ほれで……デルムリン島へはいつ着くんですか?」 ごくりと口の中の物を飲み込み、ポップは興味津々という雰囲気で聞いてくる。 「そうですねー、ここからだと後、数時間と言ったところですかね?」 大海原のど真ん中に位置する、大灯台まで瞬間移動呪文で飛んだおかげで、ずいぶんと時間と距離を稼いだ。 「あっ、先生っ! あっち! あっちに、島が見えますよ! あれですか?」 「ああ、そうみたいですね。 「えー、おれが漕ぐんですかぁ?」 肉体労働の嫌いなポップがちょっと文句を言うが、意外と素直に交替したのは島への興味があるせいだろう。 「怪物だらけの島か……勇者候補の少年って、どんな奴なんだろうなぁ」 期待に胸を膨らませているようなポップに比べ、アバンは奇妙な胸騒ぎを感じていた。なにか、良くない事が起こりそうな……そんな漠然とした予感を抱きながら、舳先に立って少しずつ近付いてくる島を見つめる。 魔王の復活は、これよりほんの少しだけ未来のこと……だが、まだ、アバンもポップもそれを知らない。
《後書き》 やっと書きあがりました、123456hit 『アバンとポップの話』でしたっ。 それに加えて、前々からアバンがデルムリン島に来たタイミングが解せなかったもので、辻褄のあう説明を求めていたんですよ。
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