『天の川、地上の川 ー前編ー』

 

(先生ってば……おれのこと、まだガキだと思っているのかな〜?)

 溜め息混じりに、ポップはアバンの手紙とそれに添えられていたものを眺めやらずにはいられない。
 はるばるカール王国から、オーザム王国に留学中のポップへとわざわざ届けられた一通の手紙。

 もちろん、師からの手紙は歓迎だ。
 二度に渡る魔王との戦いに大きく貢献し、実に15年の時を経てやっと故郷に帰ることができた、大勇者アバン。

 想い人と結ばれたばかりのアバンをポップは心から祝福していたし、こんな風に手紙をもらうのだって嬉しい驚きだ。

 自分から望んで世界各国への留学を願い出たとは言え、復興の手助けのために忙しい毎日を送っている上、不慣れな城での生活や礼儀に苦労しているポップにとって、師からの手紙はいい息抜きになった。

 カール王国の復興のために女王フローラの補佐を勤めるアバンは、それこそポップ以上に目の回るような忙しさだろうに、手紙からはそんな忙しさは微塵も感じ取れない。
 ユーモアに満ちて、軽妙でいながら暖かみを感じさせる文章は、まさに普段の彼の語り口調そのままだ。

 遠く離れていても弟子を変わらずに気遣かってくれる心は、素直に嬉しいと言える。しかし、アバンから届けられた手紙と一緒に添えられていたのは、一枚の短冊だった。
 それは、あまり有名では無い幻の国での慣習だ。タナバタと呼ばれる日に、短冊に願いを書いて笹に吊せば、願いが叶うと言われている、昔ながらのおまじない。

 もっとも子供ならいざ知らず、ある程度成長してしまえば本気でそんなおまじないなど信じるわけがない。

 良い子にプレゼントをくれるというサンタクロースと、同じような物だ。そこそこの年齢になってしまえば、サンタクロースにプレゼントをねだるのなんて恥ずかしくなるように、今のポップも短冊に願いを書くのなんて子供っぽすぎるように思える。

 だからこそ手紙は繰り返し読みはしたものの、短冊はそのまま机の隅に置いたままだった。

「失礼します、大魔道士様。本日は、火はお入り用でしょうか?」

 ノックの後、控え目に入ってきたのは、薪を持ってきた兵士だった。

「ん、今日は別にいらないよ」

 最初の頃は少なからず戸惑ったが、毎日のことなのでポップもすでに慣れた。
 たとえ真夏であろうとも夜には必ず暖炉の点検をし、火を入れるかどうかを検討するのは、オーザム特有の習慣の一つだ。

 世界でもっとも北方に位置するオーザムは、その気温の低さで知られている。真夏であっても、夜間は底冷えするのは珍しくもない。
 まあ、一般市民などは慣れもあるし、薪代を倹約してよほどのことがなければ夏場は暖炉を燃やしたりはしない。

 だが、貴人や年配者や病弱な人間などに対しては、真夏であっても暖炉の支度は欠かさない物だ。
 二代目大魔道士を最上級の客人として遇しているオーザム王宮は、ポップがこの国に来て以来、一夜足りともその問いを欠かしたことはなかった。

「さようですか。
 おや、大魔道士様。まだ短冊を書かれておられないのですか?」

 挨拶の後、兵士がポップの手元を見て何気なく尋ねる。

「え? あんたら、タナバタを知ってんの?」

 一瞬驚いたものの、ポップはすぐに納得する。アバンと一緒に旅をした経験や、後に文献で調べた経験から言うと、東方伝説は一定の地域にのみ残っている伝説ではない。
 ひどく広範囲にほそぼそと語り継がれている、眉唾物の御伽話である。どちらかといえば辺境と呼ばれるような地方でこそ、よく聞く話だった。

 それを考えれば、極寒の地であるオーザムに、東方伝説が色濃く残っていても不思議はない。

「ええ、この地では短冊は願いを書いた後、船の形に折り畳んで川に流す習わしがあります。
 見ている間、その船が沈まないまま川を下っていけば、その願いは必ず叶うと言われていますよ」

「へえ、それってちょっと面白いな」

 初耳の習慣に、ポップは興味を動かされた。
 ポップがアバンから習ったのとは違う形での祈りの習慣が、この地にはあるらしい。

「特に、この城の近くの川には不思議な伝説があるんです。
 タナバタの夜、深夜に天の川と地の川の光が重なる時、異界への扉が開かれん――私も子供の頃、よく聞かされましたっけ」

「異界への扉?」

 聞き捨てならない言葉に、ポップは耳をそばだてる。

「ええ、そうです。なんでも、異界の扉を潜り抜けた者は、恐ろしい怪物のいる闇の世界へ迷い込んで、二度と帰れなくなってしまうのだとか。
 子供の頃は、本気で怖がったものです」

 そう言って笑う兵士は、すでに子供時代に聞かされたおとぎ話など、とっくに信じてなどいないのだろう。
 だが、ポップは真剣な目をしてそれに聞き入っていた。

 この世界は三つの界が存在すると言うのが、古くから伝わる伝承だ。
 人間達の住む地上の世界、神々の住まう天界、そして、地中深くに存在しているとされる魔物が住まう魔界。

 しかし、そのうち天界と魔界は、ただの伝説だと思われている。古い時代の文献には資料として残っているが、信頼性、現実性が薄いというのが学者達の共通の意見だ。
 だが、ポップは知っていた。

 魔界は存在する、と。他ならぬ大魔王バーンが教えてくれたのだ……地上の下に、太陽が決してささない魔界が存在するのだと。
 しかし、そこへの行き方は困難極まりない。
 そう言う意味では、存在が証明されようとも魔界は遠い異界だ。

 様々な文献を調べてみても、人間が魔界へ実際に行ったという公式記録など残されていない。
 だが、伝承や言い伝えというのは案外侮れない。

 テランに伝わる竜の騎士の伝説のように、古くからの伝承には思いも掛けない真実に隠れている時がある。
 偶然、異界へと迷い込んでしまった人間の伝承は、世界各地に散らばっている定番のものだ。

 偶然からこの世のものとも思えない美しい世界へと行ったのはいいが、ほんのわずかの時間しか過ごさなかったのに、彼が村に戻ってくると百年の時間が過ぎ去ってしまった――妖精の国に関する伝説は数多い。

 その次に多いのが、迷いこむ先が怪物が無数に存在する闇の世界という伝説だ。あからさまに魔界を連想させる伝説を、ポップは軽視するつもりはなかった。

「まあ伝説はともかくとして、城の近くの川は願いを掛けるのには丁度いいところです。流れが穏やかで蛍がたくさん住んでいる、とても綺麗な川ですよ」

 そんな風に、少し自慢げに教えてくれる兵士の話を、ポップは興味深げに聞いていた――。

 

 

 

「へえ……確かに、こりゃあ見事だな」

 感嘆の声を漏らし、ポップは光の溢れる川を見つめる。
 もう夜も遅いせいか人が全く見当たらない川辺には、数えることもできないぐらい多くの蛍が飛び交っていた。

 兵士から話は聞いてはいたが、実際に目にするとそれは予想以上に見事で、幻想的な光景だった。
 タナバタの夜に相応しく、降るような星空には天の川が一際美しく見える。それに優るとも劣らない美が、地上の川を輝かせていた。

 星の輝く天の川に、無数の蛍が飛び交う地の川。
 伝説になるのも頷ける幻想的な美しさに、ポップはしばらくの間、何をしにきたのかも忘れて思わず見惚れてしまう。

 だが、川辺を吹く風の冷たさにポップはぶるっと身を震わせた。
 世界でも最も北方にあるオーザムの夏は、短い。
 昼間こそは暑く感じても、夜になればガクンと気温が落ちて肌寒さすら感じるのは珍しいことではない。

 ちょっとの間だけだからと、部屋着のままの格好で外に出てしまったことをポップは今更ながら後悔した。
 留学して約二ヵ月が経ち、そろそろこの土地にも馴染んできたつもりだったが、やはりなにもかもと言う訳にはいかないようだ。

 だが、ここで部屋に戻るわけにも行かない。
 なにせ、見張りにバレないようにこっそりと抜け出してきたのだ、下手に出入りを繰り返しては夜中の外出は危険だと引き止められるか、無理やり護衛をつけられてしまう。
 それでは、意味がないのだ。

 幻想的な光景を惜しく思いながらも、ポップは地面を蹴って空中へと飛び上がった。高い位置から川を見下ろしながら、ポップは何か普通と変わった部分はないかと注意深く目をやる。

 天の川と地の川が重なる、という意味が今一歩分からないが、視点を変えて眺めることでなにか変わった部分が見つかるかもしれないと考えたのだ。
 そして――それに、気が付いた。

「あれは……っ」

 不規則に飛ぶ、蛍の群れ。
 川辺にいる限り、その動きは何の法則性もない無秩序なものとしか見えなかったが、上空に上がって初めて分かる不自然さを発見した。

 川が一番太くなっている中州の上辺りで、そこだけ規則的に動いている蛍の群れがあった。
 その蛍達が描いている形は、どう見ても魔法陣だった。その大きさと見事さに、ポップは目を見張る。

 以前、レオナが生み出した大破邪呪文に匹敵する輝きが、そこにはあった。
 何匹……いや、何十匹もの蛍達が規則的に動くことで、残光による五芒星の魔法陣が生み出されている。

 あまりにもはっきりと出現した『扉』に、ポップが戸惑ったのは瞬き数回程の間だけだった。
 すぐに、ポップは『扉』に向かって全力で下降する。

 文献では決まって、『扉』は長く持つ物ではないとされている。
 人間界と異界は、そもそも相容れない存在であり、繋がってはならぬものとされている。それを無理やり繋げることは、本来はあってはならないことなのだ。
 その力が働くせいか、偶然から生み出された『扉』は、長くは持たない。

 魔法儀式にとって生み出された物ならともかく、偶然が生み出した『扉』はひどく不安定で、いつまで持つかという保障なんかない。
 手を取り合って一緒にいた恋人達が、ほんのわずかの差のせいで別々の世界に飛ばされて生涯会うことができなかったという伝説もあるぐらいだ。

 偶然のもたらす、ほんの一瞬の奇跡――それを逃せば、異界への扉は閉ざされる。
 その恐怖の前では、闇の世界へ行けば二度と戻れないという兵士の不吉な言葉など、すでに頭からすっぽりと抜けていた。

 いや、覚えていたとしても、行動は同じだっただろう。
 もしかすると、ダイと再開できるかもしれない機会をポップが無視できるはずがない。どんなに危険でも、また当てのない一方通行の物であっても、試さずにはいられなかった。
 ほぼ全速力で魔法陣へと突っ込んだポップの身体は、その瞬間、光の輝きと共に消滅していた――。

 

 


「うわぁっ?!」

 悲鳴じみた声を上げ、ポップは地べたに転がった。
 叩き付けられるという程の高さでも痛みでもなかったが、予想とまるっきり違う感触に戸惑わずにはいられない。

 なにしろ、ポップは『川』に向かって飛んだのだ。
 全速力での魔法陣突入と引き換えに水面に突っ込む覚悟はできていたのだが、まさか地面に叩き付けられるとは思わなかった。
 苦痛に呻きながら、ポップはなんとか周囲を見回す。

「……な、なんだよ、こりゃあ?」

 世界は、一変していた。
 というより、ついさっきまでとは全然違うところへ来てしまった、と言うべきか。
 そこは、やけに暗い世界だった。

 夜だとしても、ついさっきまでいた明るい夜空とは比べ物にならない。
 空を見上げても星すら見えず、明かりの一つも見ることはできない。陰鬱な闇に覆われた荒野が、そこにはあった。

 まるで吸い込まれるような一面の闇――それなのにポップが周囲を見ることができるのは、魔法陣の光のおかげだった。
 上空に光る魔法陣は輝かしい光を放っているし、その余波のせいかポップ自身の身体にも淡い燐光が残っている。

 そのおかげで、ランプもないのに周囲の様子を見るのはたやすかった。
 雑草すらもろくに生えていない、岩だらけの荒野は死の大地を思わせる。
 一度、滅亡に追い込まれたとはいえ、オーザムの荒野でさえここまで荒廃はしていない。
 何より、空気が違っていた。
 

 北方特有の、冷えきった乾燥した空気とは打って変わった、肌にまとわりつくような湿気と熱気の混じり合った不快な大気はどこか息苦しかった。
 明らかに別世界に来たのだと、肌で自覚できる。

(ここが、魔界……なのか?)

 さすがに緊張して、ポップは改めて周囲を見回す。
 文献や伝聞だけだが、一応はポップも魔界の知識はある。太陽がなく、人間にとって有害な大気で満たされた世界。

 それは別にいいが、ダイと再会する前に瘴気で身体をやられては話にならない。まずは毒素の解除と防御をしようと、解毒魔法を唱え掛け――ポップは気付いた。

「……っ?」

 まるっきり効果のない魔法の反応で、ポップは自分が毒素に犯されていないと知った。ということはすなわち、この空気には毒素が全く混じっていないということになる。
 ここが魔界なら、それは有り得ないことだ。

「………………ってことは……なんだよっ、せっかく覚悟を決めて飛び込んだのに、無駄骨かよっ?!」

 憤慨して思わず絶叫してから、ようやくのように自分の今の行動がちょっとばかり無謀だったかな、と思い返す。
 だが、それ程不安感はなかった。

 あの兵士は二度と戻れないと言ったが、本当に戻ってこれなかったとしたら、伝承自体が伝わらないはずだ。
 戻ってくる者がいたからこそ、あの伝説が生まれたのだろう。

 気分を落ち着けてみれば、空にある魔法陣から充分な魔法力が放たれているのが分かるし、今の自分からもそれと同じ輝きや感覚を感じる。

 おそらく、この光が消滅するまではあの魔法陣は有効と考えていい。
 対策や方法が立てば、落ち着けるというものだ。――となると、持ち前の好奇心がむくむくと沸き上がる。

(なら、時間ぎりぎりまでここを調べてみるか。魔界ではなさそうだけど、異界には違いなさそうだし)

 危ないから危険なことはよそうとか、念を入れて早目戻った方がいいとか、そんな風な殊勝な思考などポップには一切なかった。
 ここでは魔法が使えないというのなら考え直したかもしれないが、魔法は普通に使えるのだ。

 まずは地形を把握とばかりにふわりと空へと飛び上がったポップは――耳を貫く奇声に顔をしかめた。

「な、なんだっ、なんだ?!」

 驚いて目をやった先に、見たこともない形をした怪物がいた。それも一匹ではなく、数匹が。
 耳障りな奇声をあげ、怪物は小柄な獲物を追いかけていた。

 先頭を走る小柄な影が人間だと気が付いた途端、ポップはそっちに向かって飛んでいた。
 事情など何一つ分からないが、怪物が人間を襲っているのを見過ごす気なんてない。ましてや、走っているのは明らかに子供だ。

 なかなかに早いが、怪物とは歩幅が違い過ぎる。クロコダインを遥かに上回る巨体の怪物達に追われている少年は、哀れな程小さく見えた。
 とにかく、助けないと  そう思って飛ぶポップだが、彼らまでは距離があり過ぎた。 おまけに走っていた少年が不意に身体を捻って、背後を振り返る。

(あっ、バカッ、だめだっ!)

 内心、ポップは叫ばずにはいられなかった。
 追われているという恐怖から、後ろを見たくなる気持ちは理解できる。だが、その行動は走る速度を遅らせるだけであり、敵に追いつかれるだけだ。

 怪物もそれが分かっているのか、好機とばかりに爪を振り上げる。少年の胴を遥かに上回る豪腕から繰り出されるその一撃は、一掠りで彼の命を絶つだろう。
 しかし、目の前で起こったのは、半ば予想していた惨劇とは大違いの出来事だった。

「はぁぁあっ!!」

 気迫を込めた叫びと共に、少年が全身をフルに使って腕を振り上げる。その手に、ナイフが握られているのを見たは、怪物の腕がバッサリと切り落とされた後だった。

「え……っ」

 器用にも、空中で一瞬硬直してしまったポップの目の前で、少年は信じられないような力強い動きで次々とナイフを振るう。
 その度に悲鳴を上げ、傷つくのは怪物の方だった。

 すでに体格差や、獲物の差など問題ではなかった。狩っているのは少年の方であり、怪物達は怯えた動物のように悲鳴を上げ、四方八方に散っていく。
 ポップが気を取り直した時には、少年はすでに自力で怪物達を追い払っていた。

(なーんだ、わざわざ来るまでもなかったじゃん)

 拍子抜けにも程のある出来事に驚きながらも、ポップは一応、少年の側へと下り立った。 助ける、という目的は無駄になったものの、異界でせっかく人に会えたのなら、話ぐらいは聞いてみたい。

 それに怪物を追い払ったとはいえ、少年も全く無傷という訳ではないのか、苦しそうに肩で息をしているのを見たせいもあった。

「おい、おまえ、大丈夫か? ……って、あんだけすごいことをしたヤツに聞くのも、変な気がするけどよ」

 その声かけに、少年はハッとしたように振り向いた。
 何の気なしに声をかけたポップの方が驚くような、攻撃しかねない程の勢いだ。険しい目で、ナイフを身構えたままの少年は、ポップよりも少しばかり年下のように見えた。

 だが、小柄ながらがっちりとした体格や、戦士としての経験を感じさせる身構えは、並の少年離れしている。
 まだ血の滴る、赤い宝玉のついたナイフを握り締めたままの少年――その姿を見て、ポップは息を飲んだ。

「…………?!」

 ポップにとっては初めて見る、風変わりな仕立ての青い服を着ているのが違いと言えば違いだが、他は見慣れたものだった。
 意思の強さを感じさせるしっかりとした眉に、真っ直ぐに人を見つめる大きな目。
 頬に刻まれた十字の傷まで、記憶と寸分変わりはない。

 さっき空中で硬直した時のように、ポップは再び金縛りにされていた。目の前にいる少年に目を釘付けにされ、瞬きすら自由にできない。
 込み上げてくる熱い塊のせいで息が詰まって、胸が苦しいぐらいだ。

 だが、その苦しさよりも、どうしても目が熱いもので滲んでしまって、せっかくの少年の顔がよく見えないことの方が辛かった。
 驚きに目を見張り、口をあんぐりと開けているあの間抜け顔を、気が済むまで見たいと思うのに――。

「ダイ……ッ、探した……ぜっ」

 やっと出た声は、自分でも情けなくなるぐらい震えていた。
 だが、それを聞いたダイも、また、震えだす。

「……ポッ……プ…?」

 呼び掛けられた声に、目眩すら感じる。
 忘れるはずもない。
 紛れもなく、ダイの声だった。
 それを聞いた途端、我慢しきれずにどっと涙が溢れだす。

 そのまま、ポップはダイに抱き付こうとした。疑いもせず、それはダイも同じだろうと思っていた。

 だが。
 ポップに向かって伸ばされた手には、怪物の血に塗れたナイフが握られたままだった。 そして、敵意に満ちた声が投げつけられる。

「近よるなっ!!」

 殺気すら感じる気迫に、ポップはこの日一番の驚愕を味わっていた。棒立ちになるポップに、ダイは敵に対する目を向ける。

「聞こえないのか?! それ以上近付けば、容赦なんかしないぞ……!」
                                    《続く》

 

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