『少し、重たい秘密 ー前編ー』

 

「ポップ……?!」

 思わずそう呼びかけた自分の声が思っていたよりも大きく、心配そうな響きを帯びているのだと、ノヴァは一斉に集まった周囲の視線を見て悟った。

(しまった……!)

 内心、ノヴァは舌打ちしたい気分だった。
 知り合いに呼びかける――それは場所が場所ならば、別に何の問題もなかった。
 例えば、ノヴァの故郷リンガイアだとか、ノヴァにとっては第二の故郷とも呼べる、もう一つの帰宅先であるランカークスの森の中などであれば。

 だが、他国の城の中で素のままで振る舞うのは、いささかまずい。
 ノヴァはこれでも、リンガイア王国の将軍地位に就いている。ノヴァの年齢では大抜擢とも言える重責を背負っているのだ、それだけに他国で自分の若さによるミスを犯すのは避けたいと考えている。

 だが、今のは明らかに失敗だった。
 今のノヴァは、ロモス王にリンガイア王からの親書を渡す役割を負った、親善大使だ。 それはノヴァにはあまり向くとは、言いがたい役目だ。なにしろ、親善大使は本来ならば文官系の者が行う役割なのだから。

 通常ならば、高位の文官が護衛を伴って馬車等を使って他国を訪れるのが普通だ。
 だが……そうも言っていられない事情がリンガイアにはあった。
 一度、壊滅的な被害を受けて復興途中であるリンガイアの財政事情は、ぶっちゃけえらく厳しい。

 火の車なんて生易しい物ではなく、赤字の上に赤字を重ねてもなお足りないぐらいの苦しいにも程のある財政であり、国として成立しているのが不思議なぐらいである。 当然ながら、余分な出費にかける費用なんて物はない。

 護衛やら移送費用やらその他もろもろの雑費を省くために、白羽の矢を立てられたのがノヴァだった。
 瞬間移動呪文を使える上、ノヴァ本人が将軍という地位だ。武人ならば護衛無しで単独で訪れても、問題はないとされている。

 年齢の若さも、勇者一行の一員として最後の戦いに加わったという実績を考えれば問題はないと、判断されたのだ。
 王直々に命じられた任務とはいえ、正直、ノヴァ本人としてはあまりやりたいと思う任務ではなかった。

 将軍の地位についているとはいえまだ若いノヴァには、軍事力はともかくとして政治力は皆無に等しい。
 幼い頃から訓練を重ね、鍛えてきた軍事面に関する知識や経験ならばまだましだ。だが、ノヴァは自分が文官になる未来など考えたことすらなかった。

 他国の王の前で、遺憾なく外交術を発揮出来る力量などありはしない。
 だが、王に忠誠を誓った臣下として、また北の勇者として、ノヴァは復興のために自分にできることならば、なんでもやろうと決めていた。

 失礼のない様、他国の王族への挨拶を何度も練習してきたと言うのに、謁見室に並んでいるロモス王や重職の面々の中に、知った顔を見つけてしまったのが失敗の元だった。
 他国の王の謁見室で、王への挨拶の前に、その国の賓客に向かって勝手に声をかけるだなんて、礼儀に反している。

 ましてや、賓客の名は大魔道士ポップ……世界有数の有名人であり、各国の王達が競う様に自国に招きたがっている重要人物だ。
 宮廷魔道士見習いという名目で各国を留学している彼は、実際には戦いで荒れ果てた国々の復興のために力を貸している。

 ノヴァの祖国であるリンガイアを皮切りに、オーザム、カール、テランの国々を巡り、それぞれの復興に大きく助力したポップの功績を称える者は、大きい。
 その彼が今はロモスに留学していると知っていたし、プライベートならともかく公式の場ではそれに相応しい対応と取らなければいけないとは分かっていた。

 が、どんなに予習をしていても、咄嗟の時には素の反応が出てしまうらしい。
 いくら魔王軍との戦いを共にした仲間であり私的な友人ではあっても、人前でこんな風に馴々しく声をかけるべきではないのだが。

 礼儀にうるさいリンガイアの貴族達の前でこんなミスを犯せば、よくて厳重注意、最悪の場合なら降格処分ものだ。
 一瞬、どうしようかと迷うノヴァだったが、それをフォローするように明るく声をかけてきたのは、ポップ本人だった。

「なんだよ、ノヴァじゃねえか。久しぶりだな〜、元気だったか? おまえもここに用事だったなんて、奇遇だな」

 人懐っこい笑顔で、親しげに話しかけてくるポップの口調。
 ここが謁見室だなんて忘れさせるぐらい、いつも通りなポップの態度に拍子抜けするものを感じるが、それこそがノヴァの緊張をほぐす。
 そして、そんな風にノヴァを親しげに歓待したのはポップだけではなかった。

「おお、遠路はるばるよく来てくれたねえ、ノヴァ君! 一度、君には会ってみたいと思っていたんだよ、なんといっても君は『北の勇者』だと評判だからねえ」

 そう気さくに声をかけてくれたのは、ロモス王国の王たるシナナ王。
 初対面なのにも関わらず、ビックリするぐらい親しげに話しかけてくる王に、ノヴァは驚きを感じずにはいられない。

 だが、その気さくさはノヴァにとっては大いな助けになった。おかげでその後はそう緊張することもなく、命じられた書簡を渡すことができたのだから。
 シナナ王はそれを丁寧に受け取り、形式だけとは思えない口調でノヴァの苦労を労ってくれた。

「ありがとう、ノヴァ君。長旅でさぞ疲れただろうね、まずは客室でゆるりと寛ぐといい」


「あ、王様、おれもついでにここを失礼してもいいっすか? ノヴァとも、久々に話をしたいし」

 一見非常識と思えるポップのその申し出に対して、ロモス王はニコニコと人の善い笑みを浮かべながら快諾した。

「ああ、いいとも。ではポップ君、ノヴァ君、夕食の時間になったら迎えを差し向けるから、おなかを減らして待っていてくれよ」

(い、いいのかな、それで……)

 傍らで聞いているノヴァの方が心配になるような庶民的なやりとりだが、大魔道士と王の会話を聞いて眉を潜める者など一人もいなかった。
 むしろ微笑ましい光景を眺めるがごとく、にこやかに見守っている。彼らにとっては、これがすでに当たり前の出来事なのだろう。

 その辺がロモス王国の国柄……と言うよりは、シナナ王の人徳と言うものだろうか。
 王族や貴族などは、多かれ少なかれ自分を特別だと考える思考を持っており、目下の者を権高に見下す傾向がある。

 だが、シナナ王にはそんな欠点など微塵も見られない。
 極めて民衆に近い視点を持つ庶民派の王という評判は聞いていたが、噂以上だとノヴァは改めて思う。

「楽しみにしててくれて、いいよ。今日は、妻の自慢のシチューがメインだからね」

(愛妻家、というのも噂以上みたいだな)

 普通の国ならば王妃自らが厨房に立つなどとは考えられないのだが、さすがは庶民派の王の后と言うべきか。
 手放しに妻の手料理を褒め上げるロモス王に、ポップはまんざらお世辞とも思えない調子で楽しみにしていると告げ、ノヴァと一緒に退室した。

 

 


「で、おれになんか用があったわけ?」

 王間を出た回廊を歩きながら、ポップは聞く。
 王間に繋がる回廊のせいか、侍女の姿すら見えない場所だ。二人っきりで人目を気にしなくてもいいせいか、ポップの口調はいっそうざっくばらんなものになった。

「いや……」

 ――君、大丈夫なのかい?

 そう聞きかけた言葉を、ノヴァは辛うじて飲み込んだ。
 正面きってそう聞いたならば、この意地っ張りな魔法使いがどう答えるかなんて、分かりきっているから。

「いや、なんでもないんだ。それよりさ――」

 疑問は押し込めて適当な会話をしながら並んで歩きつつ、ノヴァは気がつかれないようにこっそりとポップの横顔を伺う。
 少し、顔色が悪い様に見える。以前に比べて格段に痩せたように感じるのは、気のせいだろうか。

(……噂より、ひどいみたいだな)

 本人は余り意識していない様だが、ポップの噂は各国の王宮で簡単に耳に入る。なんと言っても勇者一行の一員であり、二代目大魔道士だ。
 その彼の言動が気にされるのは、むしろ当然だろう。
 元々、ここのところポップはあまり体調がよくないらしいと言う噂は聞いていた。

 ノヴァはそれを、単に疲れが出たせいだろうと解釈していた。
 ノヴァに言わせれば、ポップは頑張りすぎだ。各国の復興のために世界各国を留学して回っているという行動は立派だし、そのおかげでノヴァの故郷リンガイアや一度は滅びたオーザムなどは大いに助かった。

 ポップ本人は自分はたいしたことなんてしてないと言うが、彼の手柄なのは傍目からは明らかだ。
 ノヴァにしてみても、個人的な視点からでも将軍という立場から見たとしても、ポップに感謝を感じこそすれ、文句など言う気はない。

 だが、休む間もなく留学し続け、復興に関わり始めてからすでに一年近く経つ……そろそろその疲れが溜まってきても、なんの不思議もない。

「ポップ、キミ、たまには実家に帰った方がいいんじゃないのかい?」

 そう進めたのは、実家ならポップも気を緩めてのんびりと過ごせるのではないかと思ったからだ。

「んー、時々は帰ってるって」

「……嘘つきだな、キミは。言っておくけどね、その嘘はボクには通用しないよ。先週、ボクはジャンクさんと会ったばかりなんだ。キミ、ここ一年以上実家には帰ってないんだってね」

 細やかな非難を込めてそう反論すると、ポップは大袈裟に顔をしかめた。

「げっ。……なんだよー、知ってたのかよ〜。ってことは、おまえはランカークスにしょっちゅう行ってるわけ?」

「そんなにしょっちゅうってわけでもないさ。せいぜい10日に一度、それも2、3日がやっとだよ。本当はもっと頻繁に行きたいんだけど、なかなか時間が取れなくてさ」

 いくら瞬間移動呪文が使えるとはいえ、それだけで時間の余裕ができるわけではない。 将軍としての仕事は、一般の人間が思う以上に多いものである。ましてやノヴァは、最年少で将軍に着任した。

 家柄上、魔王軍との戦いの直前に騎士隊長の任に就き、それなりの実績は上げてきたとはいえ、異例の大出世には違いない。
 当然、ノヴァには敵も少なくはないし、味方はさして多くない。あまり不用意に城を長く空けることはできないのだ。

「そんだけ行ってりゃ充分だろ。で、そういやロン・ベルクさんは元気なのかよ? いまいち想像がつかないんだけどさ、鍛冶とかどんな風に教えてくれてるわけ?」

 ちょっと意外なくらい、ポップはロン・ベルクの話に興味を示して聞いてくる。それに釣られるようにおしゃべりにつきあっていたノヴァだが、ポップの足取りがやけに遅いのに気が付き、話を切り上げにかかる。

「……って、そんな話は後でもいいだろ? それより、キミの部屋はどこだい?」

 そう尋ねたのは、ポップを部屋に送っていこうと無意識に考えたせいだった。つい、ボディーガードとしての意識でこの魔法使いに接してしまう  それは、ポップがリンガイアに留学していた時に、ノヴァの身に染み付いてしまった習慣だ。
 だが、ポップはそれを全く有り難がってはくれなかった。

「あー、いや、おれ、ちょっと散歩したいから、まだ部屋には戻らないよ。ノヴァの部屋は確か北東の客室とか言っていたから、あっちだぜ」

 回廊の曲がり角でそう言いながら軽く手を振り、そそくさと立ち去ろうとしたポップの肩を、ノヴァはしっかと掴んだ。

「ちょっと待った!」

 怪しい――そんな予感が、ひしひしとする。
 それは、ボディーガードとしての直感だった。
 ポップがリンガイア留学中、少し目を離すと見張りの目をかいくぐって無茶をしでかす二代目大魔道士には多くの人が困らされた。

 なにせ相手は世界を救ってくれた英雄の一人だ、注意をするなんてためらわれるのか、大抵の者は遠慮をしてしまうらしい。
 かと言って、ポップの好きなようにさせておくと、彼は自分の命に関わる様なとんでもない無茶を繰り返す。

 しかし元仲間の誼で、ノヴァはポップに正面きって注意をしたり、文句を言ったりするのに抵抗がなかった。
 そのせいでノヴァはいつの間にか、ブレーキ役どころかポップの専任のボディーガードの役目を押しつけられることになり、大いに閉口したものだ。

 ポップのリンガイア留学が終わると同時に正式な任務は終了したはずだが、だからと言ってその意識まで完全に消滅するわけではない。

「いったい、どこに『散歩』に行く気なんだい? っていうか、キミが出かけることをロモス王や護衛兵達はちゃんと知っているんだろうね?」

 詰問気味に問い詰めると、ポップが微妙に目を泳がせる。

「え、ああ、もちろん」

「……それも、嘘だろ。まったくキミって人は……! いったい、どこまで散歩に行くつもりなんだい?
 まさか、またこっそり死の大地へ行ったりするような『散歩』じゃないだろうね?」

 ポップがリンガイア留学中にやらかしてくれた騒動を苦々しく思い出しながら皮肉を言うと、彼はあからさまにギクッとした。
 どうやら、図星だったらしい。
 だが、それでも往生際悪く食い下がる辺りがいかにもポップと言うべきか。

「い、いや〜、死の大地みたいなヤバいとこに行く気はないって! ただ、ちょーっと一人で見に行っておきたいところがあるんだよ。それにちゃんと夕食までには戻るからさ、なっ、見逃してくれって」

 などと言いながら窓の方へとこそこそと後ずさるポップを、ノヴァは当然のことながら素直に見送る気なんかなかった。

「そんなわけにはいかないだろ! いったい、どこに行く気なんだい?」

 ポップの腕を掴み、しっかりと彼の目を睨み付けながらノヴァは尋ねた。素直に答えなければ只ではおかないぞとの気迫を漲らせたその問い詰めに、ポップは溜め息を一つ付いてから肩を竦めた。

「だから、別に危険な所に行くわけじゃねえって。ただ、見物しておきたい廃坑があるだけだよ。
 ちょっと、古文書を調べたら気になることが書いてあったからさ」

(……なんか、廃坑って物自体が安全とは言えない気がするけどね)

 一抹の不安を感じつつも、ノヴァはポップの言葉を吟味するようにじっくりと考えていた。
 オリハルコン製の武具を複数所有していたことからも分かる様に、森の王国として名高いロモスは鉱物に恵まれた国でもある。

 使われなくなった廃坑や、それにまつわる古文書の数は多いだろう。
 見た目によらぬ頭脳を持つポップは、意外にも古文書を読むのが得意だ。現在よりもずっと魔法技術や知識や優れていた古代の記録には、傾聴すべきものが多い。

 実際、ポップは古文書を読みあさった知識を元に、カール王国で一度は戦火のせいで失われたパデキアを見事に復活させた。

 その功績を考えれば、ポップの意見は軽視すべきではないと思える。だが、ポップ一人が単独で動くのは賛成できなかった。
 ゆえに、ノヴァの意見は折衷案になる。

「だったら、先に陛下に奏上して正式な許可をもらってから調査すればいいじゃないか。 キミ一人で調査するよりもその方が効率的だろう?」

 宮廷魔道士見習いの留学が名目ではあっても、各国がポップへ期待していることは実質的な国の復興への手助けだ。
 それだけに、ポップの望みはかなりのレベルで優遇される。

 ポップが願い出るのであれば、本来なら時間が掛かるような申請でも優先されるだろう。だが、ポップは首を横に振った。

「それは後で、きちんとやるって。でもさ……正式な調査団を組む前に、一つだけ確かめておきたいことがあるんだ」

 それは小さな呟きにすぎない。だが、やけに真剣なその表情には、ノヴァは見覚えがあった。

 仮にも、勇者一行の一員と見なされているノヴァは、世間で言われる二代目大魔道士ではなく、勇者ダイの隣に常にいた魔法使いだった頃からポップを知っている。
 ダイと一緒に戦うポップも、また、ダイを失った後のポップの姿も見てきた。
 だからこそ、分かることもある。

 強い渇望の感じられる目。
 どんな些細なチャンスでも逃さないとばかりに、貪欲なまでに書類や古文書を見つめていたポップを、ノヴァは何度となく見た。

 本人は、自覚はないかもしれない。
 だが、行方不明のままの勇者ダイの調査に関わる時、ポップは決まってそんな目をしていた。
 その目の意味することは、一つだ。

『ダイに関係あることなのかい?』

 聞くつもりだった言葉を、ノヴァは自分の中へ押し込める。
 行方不明のダイを探すための手掛かり――それを手に入れるためだというなら、話し合うだけ無駄だとノヴァはすでに知っていた。

 たとえ、どんなに可能性が薄かろうと、どんなに危険が待っていようと、関係がない。 勇者の魔法使いは、勇者を助けられる可能性がごくわずかにでもあるのなら、手間や苦労を厭わずに自分自身で確かめようとするだろう。
 それが分かっているからこそ、ノヴァは説得を諦めた。

「――分かったよ。本当に、夕食までに戻るんだね?」

 念を押すと、ポップが意外そうに目を見開く。

「え……っ、い、いいのかよ?」

「だって、キミは止めたってどうせ聞かないだろう?
 なら、止めるだけ時間の無駄だよ」

 もし、ここでノヴァが無理やりにでもポップを止めたとしても、同じことだ。
 そうなれば、ポップは誰にも行く先を言わずに、一人になれる時間を狙ってこっそりと無茶をするだけの話なのだから。

「いやー、おまえ、なんか、しばらく会わないうちに話が分かるようになったじゃん!
 じゃ、そーゆーことで、後はよろしく!」

 と、軽く手を振るついでにノヴァの手も振り払おうとしたポップの腕を、ノヴァはがっちりと掴み直す。

「ちょっと待て。後を引き受けるつもりはないよ。
 だって、ボクもついていくんだから」

 どうせ止めることができない上に、勝手な行動をさせたならさせたで、その安否が気になって仕方がない相手――それぐらいなら、まだ自分も一緒についていった方がいい。
 ノヴァにしてみればごく当たり前の発想のつもりだったのだが、ポップにしてみれば予想外だったのかさっきよりも驚きが大きかった。

「ええーっ?!」


「何、嫌そうな顔をしているんだ。相変わらず失敬だな、キミは。
 ほら、行くなら行くで、さっさとルーラをしてくれ。バレたら、お互いにまずいんだから」

 急かす様に背を押すノヴァに、ポップは戸惑いを隠せない。

「お、おいおいっ、おまえ、性格変わってるんじゃねえ?!」

 いつになく慌てた風に見えるポップがおかしくて、ノヴァは内心、こっそりと笑いを噛み殺す。

(別に、そういうわけでもないんだけどね)

 実際、ノヴァの個人的な感情や考えに従うなら、規則に則ってポップに抗議し、引き止めていただろう。
 だが、そうしないのは、基本とした考えが規則や常識ではないからだ。

 ノヴァの頭に浮かんだのは、今はここにいない小さな勇者。
 ダイがもしここにいたのなら、やりそうなことをしているだけにすぎない。
 だが、北の勇者はそんなことはおくびにも出さず、勇者の魔法使いを急かす。

「さあ、時間があまりないんだ。急いでくれよ」

「あ、ああ。……しゃーねえなぁ」

 苦笑を一つ浮かべ、ポップはノヴァの手を掴んで瞬間移動呪文を唱えた――。
                                    《続く》

 

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