『こぼれおちる真実 ー前編ー』

 

「ん……っ」

 ナイフを身構え、マァムは無意識に呼気を吐きだしていた。
 勇者一行の一員であり、僧侶戦士から武闘家に転職してその道を究めた彼女は、今や世間では拳聖女とさえ呼ばれている。

 だが、今、マァムが手にしているナイフは、敵と戦うためのものではなかった。
 なにしろ、今、マァムが四苦八苦しながらナイフを片手に格闘している相手は、リンゴなのだから。

「けっこう、難しいわね、これ」

 力仕事は得意なマァムだが、手先の器用さが要求される家事はいささか苦手だ。
 持ち前の怪力を活かしてリンゴの収穫では大活躍したものの、そのリンゴの皮を剥く作業ではマァムはなかなか貢献できない。

 一生懸命やっているのは傍目からでもよく分かるが、マァムの剥いているリンゴはいささかデコボコしているし、皮の幅も一定せずにやけに厚く幅広い部分もあれば、逆に今にも千切れ落ちそうに細くなった部分もある。
 そんな娘の奮闘ぶりをすぐ隣で見ながら、レイラは笑う。

「もっと肩の力を抜きなさいな。そんなに力を入れるとかえってケガをしやすいし、上手くも剥けないものよ?」

 たどたどしいマァムの手つきに比べると、母親であるレイラの手つきはさすがだ。
 マァムがやっと一個のリンゴの皮を剥く間に、倍の早さで二個以上のリンゴの皮を剥いてしまう。しかもその手並みは早いだけでなく、正確で美しかった。

 まるでリボンを解くようにするすると剥けたリンゴの皮は、とぎれることはない。幅までそろった、一本の紐となる。
 その手並みは、マァムに比べれば驚く程に見事だった。

「すごいわね。……私、とても母さんみたいにはできないわ」

「こんなのは、慣れよ。長年やっていれば、自然に上手くもなるわ」

 いささかしょんぼりしている愛娘の姿が、レイラの目には微笑ましく映る。
 マァムは上手くできないと恥じているようだが、それも仕方がないことだ。幼い頃から男手の少ないネイル村の数少ない働き手として活躍し、16歳の時に勇者一行として旅だったマァムは、普通の少女の様に母親から家事を習うだけの時間はなかった。

 あの時は戦い以外のことを考える余裕などなかっただろうし、戦後も様々な混乱や後始末が長らく尾を引いたのだから。
 だが、魔王軍との戦いが終わり、すでに二年半の年月が流れた。

 行方不明だった勇者ダイが半年前に無事に見つかったのを最後に、戦いに一区切りがついたと言えるだろう。
 勇者一行の全員が平和を実感し、楽しめる時代になったと言える。それは、マァムも例外ではなかった。

 仲間達を手助けするためにとしょっちゅう村を空けていたマァムが、こんな風に親子そろって肩を並べ、レイラと料理をできるようになったのはつい最近のことだ。
 今まで覚えられなかった分を取り戻すように、家事や料理に興味を示しだしたマァムに、レイラは多少戸惑いつつも喜んで自分の知識を教えてやっている。

 18歳になったマァムは、普通の村娘としての生活を満喫していると言えるだろう。
 まあ、たまにロモス城から緊急の呼び出しがあったり、パプニカ王国を初めとする世界各国から便りが来たりするのが普通の村娘とは違う点だが、その頻度も前に比べれば明らかに減ってきた。

 母子が肩を寄せ合って暮らす、細やかだが幸せな毎日――それにレイラは心から満足している。

 だが、それを永遠にと望みはしないつもりだ。いつまでも手元に置き娘に家事を覚えさせるだけが、母親の役目ではない。
 年頃の娘を持つ母親なら、しなければならない役割もある。

「知っているかしら、マァム? こうやって一本に剥いたリンゴの皮だけでできる、占いがあるのよ」

 悪戯っぽく笑いながら、レイラは紐状になったリンゴの皮を軽く手でまとめ、ぽいっと肩越しに後ろに放ってみせる。
 後ろも見ずに投げたその皮は、狙い済ましたように開けっ放しの窓から外へと飛び出し、地べたに落ちた。

「え? なに、それ?」

 きょとんとしているマァムに、レイラはわずかに声を潜め、とびっきりの秘密でも打ち明けるかのように囁いた。

「恋占い、よ。こうして投げたリンゴの皮は、将来結ばれる男性のイニシャルの形になるって言われているの。そのリンゴで作った料理を、その相手に渡せばさらに威力は倍増するそうよ」

 結婚し、子供も生んだ今のレイラから見れば、それは他愛のない占いだ。
 いや、占いというよりも、自己暗示と言った方がいいのかもしれない。
 地面に放り出されたリンゴの皮は、不規則な形を作りだすだけだ。その決まりのない形から、若い娘達は自分の心の中に浮かぶ人のイニシャルを読み取ろうと腐心する。

 角度を変えて眺めては、ああでもない、こうでもないと友人達と騒ぎ合ったのは、今となってはいい思い出だ。
 その占いに納得できなければ、次こそは理想の人の名前が描かれることを期待し、娘達はより熱心にリンゴを剥くことになる。

 そして、男性を射止めるのなら、まずは胃袋から攻めるべしというのは鉄則だ。手作りの料理をせっせと差し入れる娘の存在は、相手の心を大きく動かすだろう。

 穿って解釈すれば、若い娘の結婚への夢を利用して、自主的に料理の腕を磨かせるようにするための言い伝えにすぎない。
 だが、初めてその占いを聞いた若い娘に、そこまでの裏が見えるはずもない。

「……?!」

 自分の手元にある一本のリンゴの皮を見ながら、マァムの頬がまさにリンゴのように赤く染まる。
 それを微笑ましく見つめながら、レイラは娘をからかう。

「あら、マァム、その皮を放り投げてみないの? 楽しみね、Pの字が浮かぶかしら? それとも、Hかしらね?」

「か、母さんったら!」

 照れ隠しのつもりか、リンゴの皮を慌てて一纏めにしたマァムは、それを放り投げずにぎゅっとごみ箱に押し込もうとする。
 それは、いかにもマァムらしからぬ行動だった。

 小鳥の餌が乏しくなってくるこの時期、果物の皮は庭の決まった場所に置くか、地面に投げ出しておけば、小鳥達の良い餌場になる。 心優しいマァムは普段はそれを決して忘れないのだが、今はそれさえ意識していないらしい。

「そ、それより、早くアップルパイを作りましょうよ。そろそろ、オーブンが熱くなった頃でしょう?」

 どう聞いてもごまかそうとしているとしか思えないマァムの言葉に、レイラは笑いを堪えながら立ち上がる。

「はいはい。ポップ君やヒュンケルさんへの差し入れにするアップルパイを、焼きましょうね」

「ち、違うわよっ?! これは別にっ、ポップ達にだけってわけじゃなくって、みんなに食べてもらうつもりなんだから!」

 無駄な足掻きを見せる娘の照れを楽しみながら、レイラは軽く窓の外を見やった。地面に不規則な形に落ちたリンゴの皮は、特に何の文字とも言えないような形にすぎない。

 しかし……そう見えるといいと願う心こそが、リンゴの皮から亡き夫のイニシャルを浮かび上がらせる。
 それに満足して、レイラは娘が先に向かったオーブンの方へと進んだ――。

 

 

(まったくもう、母さんったら最近、あんなことばかり言うんだから!)

 翌日、マァムはぷんぷんに怒りながらもバスケットを片手に、森の中を歩いていた。
 マァムが目指しているのは、ロモス城だ。
 小さな村にすぎないネイル村だが、距離的にはロモス城のすぐ近くにある。直進すれば、ほんの半日の距離にすぎない。

 だが、ネイル村周囲を覆う深い森は、昔から怪物の多さで知られている。魔の森の異名で知られたその森は、旅人どころか猟師でさえもさける難所だ。
 魔王がいなくなった今でさえ、怪物が多く存在するのは変わりがないのだから。

 ろくな道もない上に、怪物にでっくわす危険が大きいということで、近付く者はほとんどいない。
 しかし、マァムにとって魔の森は自分の庭も同然だ。大戦以前から、魔の森の驚異からネイル村を守って戦ってきたマァムにとっては、そこは故郷の森にすぎない。

 たとえ怪物と遭遇しても追い払える自信があるからこそ、マァムの足取りは揺るがない。恐れる様子もなく正確な足取りで、一路、城を目指す。
 こんな風に月に一度ロモス城に向かうのは、半年前からのマァムの習慣だ。

 大戦中は一時的に途絶えたものの、パプニカ王国とロモス王国の間には定期的な交易や交流が行われるようになった。
 今では1ヵ月に一度は必ずパプニカから定期便が送られてくるし、数ヵ月に一度は友好のための特使が派遣されることになっている。

 その時期に合わせてマァムがロモス城を訪れるのは、仲間達からの手紙が目当てだ。村でおとなしく待っていたとしても、ロモス城から兵士が運んでくれるだろうが、マァムは一度もそれを待ったことがない。

 一刻も早く仲間達からの連絡を知りたくて、自分から城へ向かうのが常だった。
 特に、今回は特使が来るということで、足取りが自然に早まる。

 特使と言えば堅苦しいが、勇者一行としてパプニカ王家と協力してきたマァムにとっては、レオナに近しい王宮の人間は大半が顔見知りだ。
 手紙のやり取りも嬉しいが、やはり、人を介して直接話を聞く方が詳細に話を聞ける。
 

(今回の特使って、誰かしら? レオナは会ってからのお楽しみって、書いてあったけど)


 きっと、びっくりするわよと思わせぶりに書いてあった文章を思い出しながら、マァムは久しく会っていない仲間達を思い浮かべる。
 前回はエイミが特使として、バダックがその護衛として訪れたが、レオナの手紙の書き方からすると違う人選なのだろう。

 可能性がありそうな人が複数いるのは承知しているが、その中でどうしても期待してしまう人がいる。
 一人は、ヒュンケルだ。

 ヒュンケルは本人の希望もあり、パプニカ王国の正式な近衛騎士となったと聞いている。特使、もしくは特使の護衛として訪れるには、申し分のない身分だ。
 だが、身分以上に、マァムにはヒュンケルが定住する意思を持ってくれたことが、なによりも嬉しい。

 過去に拘り、自分の贖罪ばかりを考えて自分自身の未来をないがしろにしていた感のあるヒュンケルが、前を向いてくれたようで心が温まる。
 そして、もう一人、別の人物が同じくらいの強さで浮かんでくる。

(ポップは……どうしているかしら?)

 どうにも憎めない、お調子者の魔法使いを脳裏に思い浮かべながら、マァムは彼と会えなくなってからの日数を数えてみる。
 およそ半年近く、彼とは会っていない。こんなに長い間ポップと会えないのは、実は初めてのことだ。

 皮肉な話だが、ダイが行方不明中だった頃の方がポップにはちょくちょく会えていた。 瞬間移動呪文の使い手でもあるポップは、その気になれば自分の知ってる場所にならどこへでも飛べる。

 その移動力を利用して、ポップはマァムの所にちょくちょくやってきた。それこそ寂しいとか、そろそろ会いたいとか思う間もない程度の頻度で、ポップはいつだって不意打ちに現れた。

 しかし、ポップがマァムの所に来なくなって半年――寂しいと思わないでもなかったが、仕方がないことだとは思う。
 マァムが最後にポップに会ったのは、半年前、ちょうどダイがパプニカに戻ってきた時のことだ。

 ひどく体調を崩して昏睡状態にまで陥ったポップには、ずいぶんと心配させられたものだ。
 魔王軍との戦いの最中からさんざん無茶をやらかしたポップの身体が、いささか弱っていたこと――その事実を、マァムはその時に初めて知った。

 特に、禁呪と呼ばれる魔法がポップに与えたダメージは深刻であり、身体を蝕むものだったのだと。
 そう言われれば、マァムには思い当たる節があった。強い魔法をつかった直後、ポップはよく苦しそうに胸を抑えたり、よろけたりしていた。

 なのに戦いの最中も、その後も、ポップはその事実を直隠しにしようとし、行方不明になったダイを探すために無茶を繰り返していたのだ。

 それを知った時の激しい憤りを、マァムは決して忘れないだろう。そんな大事なことを、なぜ自分に隠していたのかと文句を言いたい心境だったし、実際にポップが起きてから文句を言ったりもした。

 そんなマァムを宥めてくれたのは、レオナだった。
 今まではともかく、ダイをやっと見つけたのなら、ポップが今後無茶をすることはなくなるだろう、と。

 幸いにもポップの病状は致命的なものではなく、魔法を極力使わない生活を送れば、数年程度で健康体に戻れるだろうと診断されたことも教えてくれた。
 事情を知っていたレオナはダイが見つかるずっと前から、ポップのためにパプニカ城に部屋を用意していた。

 数年と言わず、ポップが望むのならいつまででもそこでゆっくりと身体を休めることができるようにと言う心遣いだ。
 実際、ダイが帰還した後、ポップはその部屋で休んでいたし、当分……まず、半年程は強制的にでも安静にさせるつもりだとレオナは宣言していたものだ。

 それを聞いたからこそ、マァムはポップを心配しながらも自分の村に戻った。
 ポップの体調が戻ったのなら、また以前のように自分の所にも来るようになるだろうと思ったから。

 だが、ポップは定期便の度に短い手紙をくれるものの、一向に尋ねてくる気配が無い。 ポップだけでなくダイやレオナからの手紙を見る限り、ポップの体調は順調に回復しているように思える。

 三人の中で、最も手紙を書き慣れているのはレオナだ。
 レオナはいつも、自分の近況の他にダイやポップとのちょっとしたエピソードを面白おかしく書いてくれるほかに、ポップの体調を詳細に教えてくれる。

 ポップは月に一度、パプニカ城の侍医に診断を受けることになっていて、レオナはその診察結果を掻い摘まんでマァムに伝えてくれるのだ。
 時々、急に体調を崩す時もあるようだが、ポップの回復は基本的に順調な様子で、マァムは毎回それを見る度にホッとしている。

 レオナに比べると、ダイの手紙は情報源としての手紙としては少々頼りない。
 字の読み書きが苦手なダイは、簡単な文章を書くだけで精一杯なのだから。
 それこそ小さな子供が書いたような文字の拙さや、唐突かつ独創的すぎる文章は微笑ましくはあるものの、内容的としては頼りないにも程がある。

 今日はポップと一緒におやつを食べたとか、魚釣りに行ったとか、二人ともレオナに怒られたとか、そんなものだ。
 ダイの手紙で分かるのはただ一つ、ダイがいつもポップと一緒にいるということぐらいのものだ。

 ポップの手紙も、情報源としてはダイと似たり寄ったりである。
 字や文章の上手さはダイとは比較になら無い程高いはずなのに、ポップが書く手紙は挨拶程度のごく短い短文にすぎない。

 近況報告という意味ではダイよりも書いてあることが少ないぐらいだが、それでも確かにポップの字で書かれた手紙が交じっている意味は大きかった。
 それらを見る限り、少なくともポップは日常生活にはなんの問題も無いぐらいに回復したと思えるから。

 だが、まだ会えないのは――多分、魔法を使える程にはよくなっていないせいなのだろう。
 それなら自分から彼に会いに行ってもいいのだが、ポップは本当に体調が悪い時こそ強がる癖がある。

 特にマァムの前ではその傾向が強く、調子が悪くても平気なふりをするのが分かっているからこそ見舞いに行くのもためらわれ、結局まだ一度も尋ねていない。
 マァムにできるのは手紙を書くことと、それに添える品に凝ることぐらいだ。

 ――マァムはそっと、バスケットに手を添える。
 バスケットの中には、仲間達に向けて書いた手紙と、昨日焼いたばかりのアップルパイが入っている。

 ある程度、日持ちがするように焼き上げた菓子だからパプニカまで郵送できる。だが、日持ちだけを考えるのなら有効な菓子は他に幾らでもあるのに、マァムが今回アップルパイを選んだのには理由がある。

 ポップが前に好きだと言っていたのを、覚えていたからだ。
 それに、りんごは健康にいい果物だ。きっと、ポップの健康回復のために役に立ってくれるだろう。
 それを楽しみに、マァムはロモス城へと向かった――。

 

 

「よぉ、元気か?」

 気軽な口調で話しかけてきた『特使』を見て、マァムはレオナの予告通りに驚かずにはいられなかった。

「……!」

 思わず息を飲むマァムの代わりのように大声を上げたのは、もう一人……というか、もう一匹の特使だった。

「バカモノォっ! マァムさんに向かって、そんなぞんざいな挨拶をする奴がいるかぁっ! 失礼にも程があるぞっ」

 ジャンプして飛び上がってまで相方に鉄拳をくらわせた大ネズミは、フンと鼻をならした後にマァムに向き直る。
 その途端、いきなりでれっとした表情に変わる豹変ぶりはものすごかった。

「お元気そうですねっ、マァムさんっ。お変わりないようでなによりですっ、あ……っと、そうじゃなくって」

 弾んだ声でそう挨拶した後、大ネズミは慌てて服のポケットを探って一枚の紙切れを引っ張りだす。

「え、えーと、コホン、『前よりもずっとキレイになられましたね。時はあなたに魔法をかけたようですね』」

 カンニングペーパーを見ながらたどたどしくお世辞を述べるチウの言葉を、マァムはろくすっぽ聞いていなかった。
 悪いとは思うけれど、つい笑ってしまう。
 そして、それ以上に久しぶりに仲間に会えた嬉しさの方が勝っていた。

「本当に久しぶりね、ヒム、それにチウ。まさかあなた達が来るだなんて、思いもしなかったわ。
 元気だった?」

 

 

「それじゃ、二人はレオナやアバン先生の頼みで親善特使になったわけなのね?」

 マァムの問い掛けに対し、チウとヒムの反応は両極端だった。
「はいっ、その通りです、マァムさんっ! ぜひにと頼みこまれましてね、そこまで言われては断れませんからね、わははっ」

「頼まれたっていうか、いつの間にか口車に乗せられてたっていうか、ま、そんな感じだな。
 いや〜、あのお二人さん、王様よりも詐欺師の方が向いてるんじゃねえのかね?
 クロコダインとラーハルトの野郎も、コンビであちこちの国を回ることになったぜ。……クロコダインもつくづく気の毒だな」

 苦笑混じりのヒムのぼやきを、マァムは嬉しく、そしてどこかしら誇らしく思いながら聞いていた。
 人間と怪物の共存を理想とするレオナの政策を、マァムはずっと前に聞いたことがあった。

 それを素晴らしいと思いながらも、マァムにはそのための具体的な手段など思いつきもしなかった。
 だが、レオナは確実に理想のために手を打ち、少しずつ進めているらしい。

 その話を聞くのも嬉しかったし、仲間達の近況を聞くのはそれ以上に嬉しくて心が弾む。なにせ久しぶりに会った仲間から聞ける仲間の話なのだ、盛り上がらないわけがない。
 マァムは、この上なく上機嫌だった――その質問を、投げかけるまでは。

「ところで二人とも、ダイやポップに会った?」

 その質問の返事が戻ることを、マァムは疑いもしなかった。
 ダイとポップは勇者一行の中心と言える二人だし、パプニカに行った仲間なら必ず彼らに会うと確信していたから。
 だが、ヒムは軽く肩を竦めて答えた。

「いや、会わなかったぜ。あいつらなら、旅に出ているって話だったし」

「え……?!」

 思いもしない返事に、マァムの笑顔は一瞬で凍りついた――。
                                        《続く》

 

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