『こぼれおちる真実 ー後編ー』 |
パプニカ城の中庭を一望できる、最上級の一室――そこは、代々のパプニカ王の執務室にあたる場所だ。 お姫様という地位に相応しくない、単調で代わりばえのない作業を根気よくこなすレオナの手を止めたのは、いささか乱暴なノックの音だった。 姫の部屋を叩くノックとしては雑な叩き方で、使用人のそれとは全く違う。 「ただいまっ、レオナッ!」 「よっ、ひさしぶり、姫さん。あーあ、相変わらず仕事、忙しそうだな」 一国の王女に対しては無礼と思える、ざっくばらんな話しかけをレオナは咎めなかった。それどころか満面の笑顔で、レオナは二人を歓迎する。 「ダイ君、ポップ君! 相変わらずなのはそちらもみたいね、どう、元気だった?」 世界を救った勇者ダイに、その親友であり、勇者の片腕として最後まで戦った魔法使いポップ。 騙し討ちも同然な急な旅立ち直後にはいささか腹を立てたものの、今となってはレオナも二人の来訪を心待ちにしている。 月に一度、ふらっとやってきては遠慮無しに王女の部屋に押しかけてくる勇者コンビを咎める者など、誰もいない。先触れよりも早くレオナの部屋に駆け込んでくるダイとポップに対して、レオナを初めとして、パプニカ城の一同全員で大歓迎するのが常だ。 「うんっ、おれもポップも元気だよっ。あのね、今回のレオナへのお土産、すっごいんだよー」 にこにこしながら、ダイが荷物の中からやたらと大きな塊を引っ張りだそうとするのを見て、ポップが驚いたような顔をする。 「えっ、まさか……?! あの時のアレ、おまえわざわざ持ってきたわけ?! おれ、やめろって言ったよな?」 (あらら。今回のお土産はハズレみたいね) 内心ではそう思いながらも、レオナの笑顔は変わらなかった。 だが、ダイは間違いなく善意で選んでいるのだし、なによりその気持ちが嬉しい。だからこそ、レオナは雑に包んだだけの変にデコボコした包みを笑顔のまま受け取りながらも、決してすぐには開けなかった。 「ありがとう、ダイ君! これはお茶の後ででも開けさせてもらうわね、そうそう、マァムからの手紙ももうきているのよ」 「え、マジかよ? いつもより早くねえか?」 ポップの顔に、またも驚きが浮かぶ。ただし、さっきと違って嬉しい驚きだ。 ダイとポップはそれに合わせてパプニカにやってくるのだが、船便というのは予定よりも遅れがちなものだ。予定日に合わせてやってきても、いつもなら2、3日待たされるのは普通だ。 しかし、レオナはテーブルの上にすでに開封された一通の手紙を取り出した。丸みを帯びた文字。上手いとは言えなくとも真面目に、丁寧に書かれたその文字は紛れもなくマァムの筆跡だ。 「そうね、今回は風向きがよかったんじゃないかしら。はい、ポップ君」 そう言いながら、レオナはその手紙をポップへと渡す。 慈愛に満ちた彼女らしく、仲間達全員に平等に呼びかけられる手紙は、名前の上がった全員で回し読みすることになる。 素早く数枚の手紙を黙読するポップだが、その表情は面白い程豊かに変化する。嬉しそうな表情になったかと思うと、ちょっと悔しそうに眉をしかめ、すぐにそれはデレッとしただらしのない笑みへと変化する。 「ポップ、何が書いてあるの? マァムは元気?」 難しい字を読むのはいまだに苦手なダイは、ポップの側にまとわりつきつつ熱心に尋ねるが、ポップの反応はいつもと同じだった。 「ああ、マァムなら元気そうだぜ。ほら」 と、ポップは読み終わった手紙をダイに渡す。ダイもポップと同じように手紙に目をやるものの、彼にはざっと黙読というのは難度が高すぎる。 「えっと? 『れおな、みんな』……ねえ、レオナ、これ、読んで、読んで! マァムはなんて書いているの?」 あっさりと努力を放棄して助けを求める勇者に、レオナはまんざらでもない様子で手紙を受け取り、ゆっくりと読み聞かせだす。 「慌てないで、ダイ君。じゃあ、最初から読むわね……『レオナ、みんな、元気かしら? ネイル村ではちょうどリンゴの収穫期を迎えたところで……』」 ダイの注意が手紙へと移った頃を見計らって、ポップはレオナに軽く合図を送り、そっと部屋を抜け出した――。
「うむ、体調はいたって良好。特に問題はなさそうですな。――ああ、もう服を着て下さって結構ですよ」 もっともらしく頷きながら、侍医は診療記録にさらさらと流暢な文字を書いていく。 「そりゃ、ここんとこずっと体調いいもん。もう、診察なんかいらないぐらいだって」 「いえいえ、姫様たっての命令ですからな。それにいくら回復が順調とは言え、禁呪のダメージは侮れません。完全に治るまでには、数年はかかります。くれぐれも無理は禁物ですぞ」 慎重な侍医の念押しにポップはおざなりにはいはいと頷き、そそくさと服を整えると逃げるように医務室を抜け出した。 (やれやれ、毎度のことだけど面倒くせえよなぁ) 月に一度、侍医の健康診断を受けるようにとポップに厳命したのはレオナだ。 しかし、侍医の診察を受けるのも一苦労だ。 他人への思いやりがあり、人一倍責任感の強い小さな勇者は、戦いや勇者捜索のためにポップの体調が悪くなったと知れば自分のせいだと思い、自責の念にかられるだろう。 が、ダイはいつもポップの側にいる。 結局、ダイの目を盗むためにポップはマァムからの手紙を利用している。 その間はレオナにダイの面倒を見てもらい、ポップはささっと診察をしてもらうのがいつものパターンだ。 マァムの手紙を読み、なおかつ自分も手紙を書くというダイにとっては難作業の後は、ご褒美もかねてみんなでお茶をするのが習慣だ。 「なんだよ、姫さんだけか? ダイは?」 「ダイ君なら、まだお手紙を書いている最中よ。アポロに見てもらっているから、心配ないわ」 そう答えながら、レオナは優美な手つきでお茶の支度を始める。 「でも、まだ時間がかかりそうだから、先にお茶でもいかが? これ、マァムから送られてきた特別なお茶なのよ。ポップ君の体調を心配して、特に送ってくれたの」 「へえ、マァムが?」 意中の少女の名に、ポップは素直にレオナの向かいのソファにストンと腰を下ろす。差し出されたお茶は、いささか匂いも味も変わっていた。 「なんか、これ薬みたいな味だなー」 「そうね。でもマァムっていつもそうじゃない? ポップ君を心配して体調を聞いてくるし、手紙に添える荷物もあなたへのお見舞いみたいな品が多いでしょ。 そうくすくすと笑ってから、レオナはすっと眦睚(まなじり)を正す。飲み終わったポップのカップを眺めながら、レオナはゆっくりと言った。 「――と、ずっと思っていたんだけど……ね〜え、ポップ君。 そう聞かれた時、ポップは内心、ギクリとする。 「え…、えーと、そうだったっけ?」 ポップの返事に、レオナは朗らかな笑顔を見せた。 「いやあね、忘れちゃったの? それとも、忘れたふりをして惚けているだけ?」 「ははっ、な、何言ってんだよ、姫さんっ、もちろん、忘れたふりして惚けているだけだよ……って、ええっ?!」 自分で自分の発言にびっくりし、目をパチクリさせるポップに向かって、レオナが相変わらずニコニコしながら話し続ける。 「まあ、やっぱりそうだったのね。 その時になってから、ポップはようやく気がついた。 「だ、だってよ、それはっ ……マァム……にだけ……は、本当のことは知られたくなか、ったから。だから、マァムをごまかそうとして姫さんもついでに騙して……ってっ、くそっ、なんでっ?!」 慌てて自分で自分の口を押さえるポップだが、それにも関わらず自分の言葉を抑えることはできなかった。本来だったら決して教えるつもりのない言葉が、勝手に口から溢れだしてしまう。
と、窓際に向かって話しかけるレオナの言葉に応じるように、カーテンがゆらりと揺れる。
ポップにとって見慣れた武闘家姿ではなく、ごく普通の村娘っぽい簡素な服装を着て、髪を自然に肩に流していても見間違えるはずもない。 「うふふ〜、じゃあ、そろそろ邪魔者は退散するわ。後は若いお二人さんにお任せするわね♪」 自分の方が年下なのにそんなことを言いつつ、レオナはそそくさと退出する。 「まっ、待ってくれよっ、姫さんっ?!」 そう叫んだポップの目の前でパタンと扉はしまり、マァムとポップだけが取り残された。 妙に思い詰めたような目をしてこちらを睨んでいるマァムを前に、ポップは最大の気まずさを味わっていた。 こんな風に無言の沈黙を見せるなんて、彼女らしくもない。はっきりとした性格のマァムは、怒る時もからりとしている。陰に籠るタイプではなく、直接的に文句を言ったり、ぶん殴ったりするタイプだ。 そんな彼女がいつになく沈み込んだ様子を見せている図は、ポップにはいたたまれない。これなら、まだレオナに面白半分に尋問された方が増しなぐらいだ。 「あ、あのよ、マァム、おれはおまえを騙そうとしてたってわけじゃなくって、その、これには訳があって――」 なんとか言いくるめようとするポップの言い訳を遮って、マァムは案外と静かに問い掛けてくた。 「教えて。なぜ、旅に出たの?」 「ダイと、一緒にいたかったから」 考えるよりも早く、するりとポップは答えていた。 「別に、おれは旅に出たかったわけじゃねえよ。あいつがパプニカにいるってんなら、おれも姫さんの手伝いでもしながらパプニカに居候でもしようかなって思ってた。 自分でも驚く程すらすらと、ポップは本音を打ち明けていた。誰にも――そう、ダイにさえ打ち明けるつもりのなかった本音を。 「おれは、あいつと一緒にいたいんだよ。 頭では、黙っておきたいと思っていても、ポップはどうしても自分の口を押さえることができなかった。 「……嫌な夢、なんだ。 「ポップ、そんな話は一度もしなかったじゃない!」 驚き、憤りながら怒鳴るマァムを前にしても、それは変わらなかった。 「だって、言えるわけないだろ、んなみっともない話なんか。いい年こいて夢が怖いんです、なんてガキじゃあるまいしみっともねえ……!
「ポップ……それって、どんな夢なの?」 その声音には、ポップを気遣う響きが感じられた。怒りよりも心配を全面に見せ始めたマァムに耐えきれず、ポップは目を逸らす。 「夢の中で……。おれはまだ――あいつを探しているんだ」 目を逸らしてもなお、マァムが小さく息を飲む音が聞こえた。それから逃れるように、ポップはマァムに完全に背を向ける。 「おかしな話だよな。夢の中のおれは、夢の中なのに目を覚ますんだ。 言いながら、ポップはさっきマァムが出てきたカーテンにしがみつく。それに隠れようとするかのように半ば埋もれながら、ポップはうわ言のように告白を続けていた。 「おれはまだ、ダイを探す旅をしている途中で……でも、ダイの手掛かりなんかまるっきりなくて、どうすればいいのか分からない。 縋るようにカーテンを握り締めながら、ポップは自分で自分の告白に耐えていた。 「分かってるんだ。こんなの、ただの夢だって。 夢の中で、それが夢か現実か見極めるのは困難だ。だからこそポップはそれに何度も引っ掛かるし、悪夢の印象はいつまでたって薄れない。 「そんな時はいつも、世界が色を失うみたいな感じがする。 そんな時に、起きて、ダイの顔を見るとすっごく安心できるんだよ。 自分でもバカみたいだって思うけど、実際にダイの面を見て、あいつを小突いたり、馬鹿話の一つもしてからやっと、こっちが現実なんだって実感できるんだ」 言いながら、ポップはわずかに赤面するのを感じていた。 「ダイと一緒にいると、安心していられるんだ。夢も少しずつだけど見なくなってきているし、そのうちこんなの笑い話になるだろうって思っている。 そこまで白状してから、やっとポップの『告白』は止まった。ホッとしたのと、『告白』に抵抗しようとした分、精神に負担が掛かった疲労感が一気に襲いかかってきて、ポップはその場にペタンと座り込んでしまう。 (あー……おれ、今、すげえみっともねえ) 立ち上がるだけの気力もなく、気が抜けたようにカーテンに寄り掛かるポップの背中から、か細い声が聞こえてくる。 「……分かるわ。 その声はどこか悲痛で、ひどく痛々しい印象があった。今にも泣き出しそうな声音に、ポップは一瞬、マァムが泣いているのではないかと思う。 「でも、それじゃあ、私は? 叩きつけられるような『質問』に、ポップの身体がビクンと震える。 「マァムは………………」 勝手に答えを紡ぎだしそうになる衝動に、ポップはカーテンにしがみついて耐えようとした。 (嫌だ……っ) 感情が、訴える。こんな形で、マァムへの想いを告げたくはない、と。 「…………お、れはっ……マァム……を……くそっ……ちくしょう……っ」 まるで溺れかけているような息苦しさに喘ぎつつ、ポップは抗う。しかし、ポップの抵抗はすでに壊れてしまった堤防を素手で塞ぐようなものだった。 それでもかろうじて我慢しようとするポップの背後で、何か音が聞こえた。そんな些細なことが、ポップの中の最後の抵抗を破る。 「おれは……マァムと一緒にいると――落ち着かないんだよっ!」 怒鳴るように一度叫んでしまうと、もう抑えが効かない。流れ出す本流のように、ポップは一気にまくし立てていた。 「だいたい、落ち着けるわけねえよ……おまえ、会う度にどんどん女っぽく、きれいになっていくんだからよ……! だってよ、しかたがねえじゃないか! おれはおまえが好きだし、前に告白した返事だって聞きたいし……っ! すでに顔を真っ赤にしながら、ポップはマァムへの想いを告白していた。 正直、ポップにとってその待ち時間は苦痛だし、時折せっつきたくなる時もあるのだが、そうしたくはなかった。 ポップにだって、男としての見栄がある。 「おまえの答えを聞きたいし、一緒にいてほしいけど――でも、無理強いはしたくねえんだ。 ギュッと目を閉じて、ポップはカーテンにほてった顔を押しつける。そうやって一瞬だけでも堪えようとしたが、ポップの口はポップを裏切ってマァムには決して教えたくない真実を告げる。 「いまのおれが旅に出るなんて言えば心配させるのは分かってたし、おれの夢のことを知ったら……おまえ、ほっとけないって思うだろ? 質問をする形になったポップの言葉に、マァムは返事を返さなかった。だが、確かに背後で息を飲むような気配を感じる。 「弱みにつけこんででも、おれの側に縛りつけたいって思う時もあるけど……おれは、マァムにそうまでさせたくねえ。そんなこと、してくれなくっていいんだ。 本心から、ポップはそう言っていた。 「近くじゃなくってもいいんだ。おれのためじゃなくってもいい。おまえが、この世界にいてくれる……それだけで、いい。
ようやく止まった『告白』の後、ポップは放心したようにカーテンにしがみついたままじっとして動かなかった。 (……言っちまった……! 言っちまったよ、おれ……っ) 一生言うつもりもなかったことをそのまま口にしてしまった……しかも、普段だったら絶対に言わないような気障ったらしいことまで言ってしまった事実に、ポップは身悶えしたいような羞恥心を味わう。 今すぐにでも逃げ出したいような不安感と、万一を望む期待感が同時に胸を苛む。 「……あのさ。それって、マァムに言った方がいいと思うんだけど」 その声に、ポップは全力で振り返る。そこにいたのは、予想通りの人物だった。 「ダイッ?! な、なんでおまえ、ここに……っ?!」 きょとんとしたような顔でそこに突っ立っているのはダイだけで、肝心要のマァムはどこにもいない。 「なんでって、お手紙を書き終わったからお茶を飲もうと思って。なのにレオナはいないし、ポップはカーテンに向かって話してるし」 素直にそう言うダイに悪気は微塵もなかっただろうが、ポップの顔はなお赤くなる。あの告白を聞かれただけでも恥ずかしいが、それをカーテンに向かって話していたと思われるとは屈辱にもほどがある。 「だっ、誰がカーテンに話したっ?! 「な、なに怒ってるんだよ、ポップ? それより、ポップの夢って、何?」 「やかましいっ! んなもん、なんでおまえに教えなきゃいけないんだよっ?! そんなの、もう一生、誰にも言うもんかっ!」 力一杯に天然勇者様を怒鳴りつけた後で、ポップは『告白』への衝動がきれいさっぱり消えていることにやっと気がついた――。
「マトリフおじさん。これ、やっぱり返すわ。これは、使わない方がいいと思うの」 きっぱりとそう言ってから、マァムは小さな小瓶をマトリフへと手渡した。 「そうか。じゃあ、この後はどうするつもりだ?」 その問い掛けに、マァムは考えもせずに答える。 「まず、ポップに謝りにいくわ。本当に……ひどいことを、してしまったと思うから」 沈痛な表情は、彼女の反省の深さをそのまま現わしていた。 それをはっきりと自覚したのは、ポップに自分のことをどう思っているかと問い掛けた時のことだった。 「薬の力で無理やり人の本音を聞き出そうとするなんて、卑怯だったわ。もう、こんな薬なんか二度と使わない……!」 自分自身に誓うように俯いてそう言った後、マァムは顔を上げてきっぱりと宣言する。
そこだけは譲らないぞとばかりに身構える生真面目なその表情を見ながら、マトリフは苦笑じみた笑みを浮かべる。 「やっぱり親子だな。変なところだけ、似ていやがる」 二代の勇者一行に関わった老魔道士は、自分の助力が断られ、自作の薬を否定されたのに少しも不快な様子を見せない。むしろ、喜んでいるかのような表情を浮かべていた。 「レイラも昔、そう言っていやがったぜ。ロカの心を知りたくって、たまらなかった癖によ。 心は、目には見えない。 だからこそ、人の心を知りたいと思う――それは、誰もが思うこと。ましてや、恋する者ならばなおのことだ。 そして、恋は盲目だ。 だが、それでも相手の心を知りたいと望むのが、恋という感情だ。 「ま、それもいいだろうよ。 ニヤニヤと笑いながら、初代大魔道士は軽く肩を竦めてみせる。 「余さずに全部ぶちまけさせるだけが、いいってわけじゃない。 その昔、黒髪の僧侶の娘にくれてやったのと同じ忠告を、赤毛の武闘家の娘へと与えてやった後、マトリフは軽く手を伸ばす。 「ほれ、そうと決まったらとっととあのバカ野郎のところにいってやりな」 そこでマァムの背を押してやるのなら、非の打ち所のない忠告者で終わっただろうが、マトリフの手はからかうようにマァムの背中ならぬお尻を押す。 「きゃっ?! もうっ、マトリフおじさんったら!」 いろいろと台無しにしてくれるセクハラっぷりに、マァムは怒り顔を見せるものの殴るまでには至らなかった。 一度だけ振り返って文句を言った後、マァムは押し出された勢いのままに走り出す。本人は意識はしていないだろうが、ほんのわずかの時間すら惜しんで駆けていくマァムの足取りは弾んでさえいる。 とても、謝罪のために走っているようには見えない。彼女の行く先には、彼女が望んでいる大切なものがあるのだと、傍目からでも一目で分かるような――そんな、どこか楽しそうな走りっぷりだった。 「へ……っ、若いってのはいいねえ」 マトリフの位置からは、マァムの顔は見ることはできない。 孫娘にも等しい少女が自分の愛弟子に会いに行く姿を、マトリフは洞窟の外でたたずんだまま見送っていた――。
4周年記念アンケート企画、11のお題挑戦の一つ…そして、これが最後のお題です! しかし、結局の所ポップの告白って肝心なところは届いていませんね。 もしかして、ひっそりと隠れて盗み聞きしていた(かもしれない)レオナが、一番しっかりと彼の告白を聞いていたのではないかとの疑いすら浮かんできます。 ところで作中に出てくるりんご占いは、西洋では結構種類があるりんご占いの中でももっとも有名な一つです。
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