『闇の翼 2』

  
 

「……っ!?」

 ポップが驚きの表情を浮かべたのは、すでにダイが態勢を整えた後だった。
 ポップを押し倒す際、ダイは細心の注意を払っていた。足を引っ掛けてバランスを崩させ、倒れたところを狙って床に組み伏せる。

 上質の厚手の絨毯を敷いている執務室の床では、さして痛みも感じなかったらしい。
 自分の上に馬乗りになったダイを見て、ポップは呆気に取られたような顔をしていた。が、すぐにいかにもポップらしい、負けん気の強い表情へと変わる。

「いきなりなにしやがんだよ、どけよっ!」

 もがくポップの手首を掴み、床に縫い止めるのはダイにとってはたやすい作業だった。ポップにとっては全力でも、ダイにしてみればどちらかといえば手加減に気を使っての、わずかばかりの力でそうしているに過ぎない。

 必死で羽ばたこうとしている小鳥を、やんわり手のひらに閉じ込めるのにも似た、不思議な支配感が込み上げてくる。
 それは、ゾクゾクするような快感だった。

「どかないよ。言っただろう、どんな手を使ったって、おまえに反対するって。絶対に、ベンガーナになんか行かせない」

 自分の腕に囚われたポップを見下ろしながら、ダイは改めて確信を抱く。
 ポップは現在、21才だ。
 だが、体質のせいか、それともあまり背が伸びなかったせいか、いまだにどこか少年じみた線の細さが抜けきっていない。

 ここ一年でめきめき成長して男としての体格を手に入れつつあるダイに比べれば、細身のポップは頼りないほど華奢に思える。
 そして、ポップをそう見なしているのが、自分だけではないのをダイは知っていた。

(本当に……っ、ポップ、なんで気がつかないんだよ?)

 暇と金を持て余している貴族の中には、家督問題に絡みがちな異性との恋愛を嫌い、同性を性対象と見なす者も少なくはない。
 見目の整った少年や青年に手を出したがる貴族は、呆れる程に多いのだ。

 そして、そんな連中がポップに目をつけているのを、ダイは見逃したりしていない。
 ずっと前から、そうだった。
 パーティなどで馴れ馴れしくポップに近寄ってくる貴族達は、いつだってダイの苛立ちの元だった。

 鈍感なポップが、まったく気がついていないのが腹立たしく、ひやひやさせられた。
 それでも、まだ自分の目の届く範囲でなら、よかった。周囲の悪意から、ダイがポップを守ってやれるから。

 だが……ベンガーナのどこかで囚われたポップを、守る方法なんて、ない――。
 魔法を封じられ、無力になったポップに襲いかかるであろう悪意を思うと、それだけで神経が焼き切れてしまいそうな焦燥感があった。

「相手を殺さず、傷つけずに拷問する方法なんて、いくらでもあるんだ。やつらが、ポップにそうしないって……誰が、保障してくれるんだよ?」

 まだ諦め悪くもがくポップの両手を押さえるのは、片手だけで事足りる。
 余った手で、ダイはポップの頬から首筋に掛けてのラインを、そっとなぞる。
 滑らかな肌の触り心地が、心地好かった。

 肌を固く守る、高い詰め襟に邪魔をされるのが惜しいと思えるほど、木目の細かい肌は魅力的にダイを誘う。
 もっともっと触ってみたいと思わせる、しっとりと指に馴染む感触がたまらない。

 我慢できず二度、三度と指を往復させていくごとに、それは官能を呼び起こさせようとする動きへと変わっていく。
 だが、ポップはダイの意図に全く気がついていないのか、頬に触れる手を意識した様子もなく、相変わらず手を振りほどこうともがいている。

「何、勝手なことばっかり抜かしてやがるっ!? いいかげん離せよっ!」

「いいかげんにするのはそっちだよ、ポップ。――オレの手でさえ、振り払えないくせに」
 ダイのその言葉に、ポップが屈辱でか怒りでか顔をさっと赤らめるのが見えた。
 自分の肉体的な非力さを指摘されるのを、ポップはことさら嫌う。だが、肉体的な貧弱さとは裏腹に、ポップの意思の強さは折り紙付きだ。

「いっくら力づくで負かしたからって、それぐらいでオレがいいなりになるなんて、思うなよ!」

 相手に押し倒されてなお、少しも怯んだ様子もなくそう言ってのけるポップに、ダイは頷かざるを得ない。

「そうだね……ポップなら、そうだろうね」

 大魔王バーンの圧倒的な実力を目の当たりにしても、他者を萎縮させる恐るべき覇気を前にしてでさえも、ポップは折れようとしなかった。
 たとえどんな尋問や拷問を受けたとしても、それで屈するようなポップではあるまい。

 もし、ベンガーナ王国で待っているのが、ダイの危惧している通りの未来だったとしても、ポップは自分の意思を押し通すだろう。
 ――だが、そんな未来などダイには認められなかった。

「……でもさ、ポップ。こんなことされても、そう言える?」

 そう言いながら、ダイはポップの襟首から指を押し入れ、そのまま一気に真下まで引っ張った。
 鎧並みの強度を誇るパプニカ製の布とはいえ、ダイの力の前では紙屑も同然だ。

 あっけなく引き裂かれた服は、一瞬で本来の役割を放棄し、普段は固く隠されているポップの白い肌が露わになる。
 破け目を押し広げ、ダイはポップの色白の肌に顔を寄せた。迷わず、ダイは一ヵ所だけ色の違う小さな固まりに舌をはわす。

「な……っっ!?」

 驚き、戸惑うポップに構わず、ダイは貪るような勢いでポップの身体を味わおうとする。
 敏感な部分だけではなく、綺麗にくぼんだ鎖骨から、薄いながらもそれなりに筋肉のついた胸板も、贅肉なくへこんだお腹も、慎ましくくぼんだお臍も。

 夢中になって、ダイは舌を舐めはわせていく。
 ポップの全てが、ダイを惹きつける。
 舌だけでは足りず、片手なのがもどかしいと思いながらも、手でもねっとりとポップの身体を確かめていく。

「な……っ、なにしてんだよっ、ダイッ!? やめろっ、やめろったらっ!」

 最初の驚きが過ぎると、ポップは猛然と暴れだした。その声に混じっているのは混乱であり、強い驚きだった。
 その暴れぶりや、度を超えた混乱ぶりに、気遣う余裕などダイにはない。

 ダイにとっては、これは夢を超えた夢だ。
 今までずっと我慢に我慢を重ねていただけで、頭の中では何度も夢に見ていたことが本当になろうとしている、夢のような瞬間だった。

 ポップを力ずくでも押し倒し、その身体を貪る夢――。
 罪悪感を覚えつつも、夢精を伴うそんな夢を何回、見たことだろう?
 しかも、夢の中だけではない。

 ポップを欲望の対象と見なして、自身の欲望を解消すべく想像した回数も、同じぐらいある。
 それを押しとどめていた理性が壊れた今、ダイが行動にためらう理由などなかった。

 ポップの抵抗とも言えない些細な抵抗すらもどかしく、力ずくでもポップを奪いたいと焦らずにはいられない。
 だが、その性急さはポップを怯えさせるだけだった。

「や、やめろぉーーっ」

 ポップの絶叫と同時に、炎の固まりが生まれてダイの手を焼いた。

「つ……っ」

 おそらくは、恐怖のあまり無意識にもっとも得意な魔法を呼んでしまったのだろう。
 全くの不意打ちだっただけに、ダイも思わず苦痛に顔をしかめる。途端に、ポップの表情に罪悪感が浮かんだ。

「あ……、悪ィ」

 反射的に言ってしまったらしいポップの謝罪の言葉が少しばかり嬉しく――同時に、ダイにとっては不安と苛立ちを掻き立てる。

「何を謝るんだよ、ポップ。オレの方が、もっとひどいことしてるのに……!」

 火傷を負った手で、ダイは強くポップの手を掴む。
 ポップは、ひどく人がいい。
 そして、詰めが甘い。

 戦場でならまだ割り切れても、日常生活にまで非情に徹しきれるような冷静さなど、持ち合わせてはいない。
 傷ついた敵でさえ見過ごせない性格では、知り合いに魔法で攻撃できるかさえ怪しいものだ。

 現に今でさえ、ポップは強姦者であるダイから身を守るために、魔法を使うのをためらった。
 そのポップの甘さは、きっと敵国では付け込まれる隙になるだろう。
 そして、ダイもまた、ポップのその怯みを見逃す気はなかった。

「わっ!?」

 まだショックを受けているポップを俯せにひっくり返し、手を捩じ上げる。おあつらえ向きなことに、ポップのバンダナは手首をまとめて縛り上げるのにはちょうどいい長さだ。
「ポップは、甘すぎるんだよ」

 初級呪文など、ダイにとっては問題ではない。竜の騎士の肌は、呪文には滅法強いのだから。
 普段の状態でさえ、通常の人間の何倍もの耐性を持っている。

 ダイが警戒するのは、ポップだけが使えるマトリフ直伝のオリジナルスペルや、上級魔法だけだ。
 腕を後ろ手に封じてしまえば、大掛かりな呪文は封じられる。

 そして、いくら瞬時に呪文を唱えられるポップとはいえ、中級以上の呪文を唱えるには多少の溜めは必要だ。
 そのために集中する時間も、ダイはもうポップに与えるつもりはなかった。

 悲鳴にも似た音を立て、ズボンが引き裂かれる。気が焦って、とてもゆっくり脱がせるような余裕など今のダイにはない。
 ポップに怪我をさせないようには気をつけるものの、ダイは布地には一切の容赦などしなかった。あっという間に下着ごと破り捨て、下半身が露わになる。

「やっ……、やめろっ、ダイ!」

 ポップが焦った声で制止するのも、歯止めにすらならなかった。ダイの意識は、新たに暴かれた部分に釘づけだった。
 普段のポップなら絶対に見せることのない、直に目にする肌の色合いが、ダイを誘惑してやまなかった。

 日に全く焼けていない、白い太股が目を射る。むき出しになった尻が、ひどく扇情的に思えてならない。破けかけた服がホップの細い身体にまとわりついている様でさえ、奇妙なくらいの興奮を誘う。

「ポップ……全部、見せてよ」

 無意識に生唾を飲み込み、ダイは嫌がって暴れるポップを再びひっくり返した。手を後ろ手にされているため、腰を突き上げるような姿勢になっているのが、たまらない。
 恥ずかしいのか、顔を赤くして身をよじらせるポップを、もっと見ていたいと思う。

 しぐさや表情を、一瞬足りとも見逃したくないと思いながらも、ダイの手は操られたように勝手に動く。

「ダ、ダイッ!? どこ触ってんだよっ、やめろっ!!」

 動転しきった声を聞きながら、ダイは迷いもせずポップの中心を手で嬲る。
 他人の性器に触れるのはダイにとっても初めてだが、全く嫌悪感も違和感もなかった。 むしろ、触れるだけでゾクゾクするような妖しい興奮が込み上げてきて、もっと触りたいと思ってしまう。

 自分のものと同じなだけに、どういじれば快感を引き出せるかは、よく分かる。
 最初は柔らかく頼りないものが、芯を通したように固くなってくるに連れ、文句を言い続けるポップの声が次第に間遠になり、代わりに声を押し殺そうとする息が荒くなってくる。

 強制される興奮に、色白の肌が次第に色付いて赤くなっていく――その反応が嬉しくて、ダイはもっと大胆に振る舞いたくなった。

 いっそ、食べてしまいたい。
 その欲望のままに、ダイは手でいじり回すだけでは足りず、口でポップ自身をくわえ込む。

「ひっ!?」

 ビクッと、ポップが身体を跳ねあげた。
 理性が、同性の口に欲望を吐きだすのを阻むのか嫌がっているようだが、肉体の方は与えられる快感に敏感に反応している。

 矛盾する思いに身悶えしているポップを、そのまま一気に絶頂まで導いてやる。だが、それでもダイはポップを手放す気はなかった。

(もっと……もっと欲しいよ、ポップ)

 猛り狂うような自分の中の欲望は、強まっていくばかりだ。
 だが、それを衝動のままにぶつけては、ポップが壊れてしまうだろう。その思いが辛うじてダイにセーブをかけ、今は、ポップの身体を弄ぶにとどめている。

 自分を受け入れさせる準備をするために――。
 熱を吐きだしたばかりの欲が再び力を得て膨らむまで、ダイは熱心に口淫を続けながら、ポップの秘められた孔へ指をはわせだした――。







「は…はぁうぅ……ん…っ」

 弱々しい声が、ポップの喉から漏れる。だが、すでに何度も、無理やり強制的な絶頂へと追い込まれた前の部分からは、吐きだされるべきものがない。
 ほぼ透明なものがわずかに滴り落ちるだけ……だが、ダイはその部分をなぞり上げながら、ポップに囁きかけた。

「まだだよ、ポップ。まだ……全然、足りない」

 顔どころか耳まで真っ赤に染まったポップが可愛くて、囁くついでに耳をちょっとかじると、甘い声が上がった。

「ぁあ……っ!?」

 途端に指を強く締めつける、肉壁の感触がたまらない。それだけで自分の欲望の先端から漏れる感触に震えながらも、ダイは指を動かしてポップに刺激を与えるのをやめなかった。

「そんなに締めつけちゃダメだよ、ポップ。もっと、ちゃんとほぐさないと……ポップが壊れちゃうよ?」

 少しばかりゆとりを見せてそう言えるのは、今のダイがポップを完全に支配している実感があるからだ。
 与えられる刺激に翻弄されているポップは、魔法を使うどころか、ろくな抵抗すら示さない。

 ポップを後ろから抱きしめ、前後から責め始めてからどのくらい経ったのか、ダイには分からなかった。
 指一本でさえ拒み、容易に受け付けなかった処女地を時間を掛けてほぐし、多少強引ながらも指を三本くわえさせるまでには、結構時間が掛かった気がする。

 だが、時間などどうでもいい。
 ポップの見せる痴態こそが、今のダイの全てだった。

 もう、ダイを制止するだけの理性もなく、過剰なほどに与えられる快感に身を震わせているポップを、貪りたい。
 ポップに触れれば触れる程に膨れ上がっていく欲望は正直暴発寸前で、いまだに我慢できていることの方が不思議なぐらいだ。

 今、ダイの中にある欲望は、暴れ馬にも似ている。一瞬でも手綱を緩めれば、制御できずにどこまでも走り出さずにはいられない衝動。
 だからこそ、ダイは手綱を手放すのを恐れた。

 吹き荒れるような嗜虐心を辛うじて抑え込もうとは、努力している。
 だが、欲望は留められない。

 ポップに、優しくしたい。
 ポップを、苛めたい。

 ポップが、欲しい。
 そして――ポップを、壊したい。

 同じ比率で高まっていく自分の中の相反する欲望に引きずられるまま、ダイはポップを弄んでいた。

「はぁ…、やっ!?」

 ダイの指が、ポップの中のある一点を強く刺激すると、急にポップの反応が変わった。 度重なる刺激のせいでいささか反応が緩慢になっていたポップが、再び身を震わせてもがきだす。

「ポップ……ここ、好き?」

「ひ…っ、……ちが…っ」

 首を横に振ろうとするものの、ダイはそんな自由さえポップに与えない。首筋に唇を当てて刺激を与えると、それだけでポップは首を振るだけの力も無くす。
 首筋や胸、太股など、ポップの身体の至る所にダイが与えたキスマークや歯形が散っていた。

 最初は嫌がっていた行為を、快感と感じ取れるようになるまで、ダイは根気よく刺激を与え続けた。
 そのせいか、敏感になったポップは、白地の肌に赤い跡を新しくつける度に声を漏らすようになった。

「…あ…ぁ……っ」

 とろんと目を潤ませ、惚けたように吐息を漏らすポップを、ダイは休ませなかった。

「そうだよね、さっきからここをいじる度に、前をぐちゃぐちゃにさせているもんね。もっと、いじってあげようか?」

 ほとんど思考を無くす程責められたポップでさえ、その言葉は聞き逃せなかったらしい。

「…や…だ…っ、やだっ、やだぁ……っ! ……もう……や……っ!」

 幼い子供のように泣きじゃくるポップを、ダイは強く抱きしめる。

「――もう、やめて欲しい?」

「……ッ、……!」

 言葉にはならないものの、ポップは涙を零しながらこくこくと頷いた。真っ赤に染まったままの頬を流れる涙を舌ですくいあげながら、ダイは今度は刺激を与えないようにポップの耳に囁きかけた。

「それなら……黒の核晶の在り処をオレに教えてよ、ポップ」
  


                                     《続く》
  
  

3に続く
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