『闇の翼 2』 |
「……っ!?」 ポップが驚きの表情を浮かべたのは、すでにダイが態勢を整えた後だった。 上質の厚手の絨毯を敷いている執務室の床では、さして痛みも感じなかったらしい。 「いきなりなにしやがんだよ、どけよっ!」 もがくポップの手首を掴み、床に縫い止めるのはダイにとってはたやすい作業だった。ポップにとっては全力でも、ダイにしてみればどちらかといえば手加減に気を使っての、わずかばかりの力でそうしているに過ぎない。 必死で羽ばたこうとしている小鳥を、やんわり手のひらに閉じ込めるのにも似た、不思議な支配感が込み上げてくる。 「どかないよ。言っただろう、どんな手を使ったって、おまえに反対するって。絶対に、ベンガーナになんか行かせない」 自分の腕に囚われたポップを見下ろしながら、ダイは改めて確信を抱く。 ここ一年でめきめき成長して男としての体格を手に入れつつあるダイに比べれば、細身のポップは頼りないほど華奢に思える。 (本当に……っ、ポップ、なんで気がつかないんだよ?) 暇と金を持て余している貴族の中には、家督問題に絡みがちな異性との恋愛を嫌い、同性を性対象と見なす者も少なくはない。 そして、そんな連中がポップに目をつけているのを、ダイは見逃したりしていない。 鈍感なポップが、まったく気がついていないのが腹立たしく、ひやひやさせられた。 だが……ベンガーナのどこかで囚われたポップを、守る方法なんて、ない――。 「相手を殺さず、傷つけずに拷問する方法なんて、いくらでもあるんだ。やつらが、ポップにそうしないって……誰が、保障してくれるんだよ?」 まだ諦め悪くもがくポップの両手を押さえるのは、片手だけで事足りる。 肌を固く守る、高い詰め襟に邪魔をされるのが惜しいと思えるほど、木目の細かい肌は魅力的にダイを誘う。 我慢できず二度、三度と指を往復させていくごとに、それは官能を呼び起こさせようとする動きへと変わっていく。 「何、勝手なことばっかり抜かしてやがるっ!? いいかげん離せよっ!」 「いいかげんにするのはそっちだよ、ポップ。――オレの手でさえ、振り払えないくせに」 「いっくら力づくで負かしたからって、それぐらいでオレがいいなりになるなんて、思うなよ!」 相手に押し倒されてなお、少しも怯んだ様子もなくそう言ってのけるポップに、ダイは頷かざるを得ない。 「そうだね……ポップなら、そうだろうね」 大魔王バーンの圧倒的な実力を目の当たりにしても、他者を萎縮させる恐るべき覇気を前にしてでさえも、ポップは折れようとしなかった。 もし、ベンガーナ王国で待っているのが、ダイの危惧している通りの未来だったとしても、ポップは自分の意思を押し通すだろう。 「……でもさ、ポップ。こんなことされても、そう言える?」 そう言いながら、ダイはポップの襟首から指を押し入れ、そのまま一気に真下まで引っ張った。 あっけなく引き裂かれた服は、一瞬で本来の役割を放棄し、普段は固く隠されているポップの白い肌が露わになる。 「な……っっ!?」 驚き、戸惑うポップに構わず、ダイは貪るような勢いでポップの身体を味わおうとする。 夢中になって、ダイは舌を舐めはわせていく。 「な……っ、なにしてんだよっ、ダイッ!? やめろっ、やめろったらっ!」 最初の驚きが過ぎると、ポップは猛然と暴れだした。その声に混じっているのは混乱であり、強い驚きだった。 ダイにとっては、これは夢を超えた夢だ。 ポップを力ずくでも押し倒し、その身体を貪る夢――。 ポップを欲望の対象と見なして、自身の欲望を解消すべく想像した回数も、同じぐらいある。 ポップの抵抗とも言えない些細な抵抗すらもどかしく、力ずくでもポップを奪いたいと焦らずにはいられない。 「や、やめろぉーーっ」 ポップの絶叫と同時に、炎の固まりが生まれてダイの手を焼いた。 「つ……っ」 おそらくは、恐怖のあまり無意識にもっとも得意な魔法を呼んでしまったのだろう。 「あ……、悪ィ」 反射的に言ってしまったらしいポップの謝罪の言葉が少しばかり嬉しく――同時に、ダイにとっては不安と苛立ちを掻き立てる。 「何を謝るんだよ、ポップ。オレの方が、もっとひどいことしてるのに……!」 火傷を負った手で、ダイは強くポップの手を掴む。 戦場でならまだ割り切れても、日常生活にまで非情に徹しきれるような冷静さなど、持ち合わせてはいない。 現に今でさえ、ポップは強姦者であるダイから身を守るために、魔法を使うのをためらった。 「わっ!?」 まだショックを受けているポップを俯せにひっくり返し、手を捩じ上げる。おあつらえ向きなことに、ポップのバンダナは手首をまとめて縛り上げるのにはちょうどいい長さだ。 初級呪文など、ダイにとっては問題ではない。竜の騎士の肌は、呪文には滅法強いのだから。 ダイが警戒するのは、ポップだけが使えるマトリフ直伝のオリジナルスペルや、上級魔法だけだ。 そして、いくら瞬時に呪文を唱えられるポップとはいえ、中級以上の呪文を唱えるには多少の溜めは必要だ。 悲鳴にも似た音を立て、ズボンが引き裂かれる。気が焦って、とてもゆっくり脱がせるような余裕など今のダイにはない。 「やっ……、やめろっ、ダイ!」 ポップが焦った声で制止するのも、歯止めにすらならなかった。ダイの意識は、新たに暴かれた部分に釘づけだった。 日に全く焼けていない、白い太股が目を射る。むき出しになった尻が、ひどく扇情的に思えてならない。破けかけた服がホップの細い身体にまとわりついている様でさえ、奇妙なくらいの興奮を誘う。 「ポップ……全部、見せてよ」 無意識に生唾を飲み込み、ダイは嫌がって暴れるポップを再びひっくり返した。手を後ろ手にされているため、腰を突き上げるような姿勢になっているのが、たまらない。 しぐさや表情を、一瞬足りとも見逃したくないと思いながらも、ダイの手は操られたように勝手に動く。 「ダ、ダイッ!? どこ触ってんだよっ、やめろっ!!」 動転しきった声を聞きながら、ダイは迷いもせずポップの中心を手で嬲る。 自分のものと同じなだけに、どういじれば快感を引き出せるかは、よく分かる。 強制される興奮に、色白の肌が次第に色付いて赤くなっていく――その反応が嬉しくて、ダイはもっと大胆に振る舞いたくなった。 いっそ、食べてしまいたい。 「ひっ!?」 ビクッと、ポップが身体を跳ねあげた。 矛盾する思いに身悶えしているポップを、そのまま一気に絶頂まで導いてやる。だが、それでもダイはポップを手放す気はなかった。 (もっと……もっと欲しいよ、ポップ) 猛り狂うような自分の中の欲望は、強まっていくばかりだ。 自分を受け入れさせる準備をするために――。 「は…はぁうぅ……ん…っ」 弱々しい声が、ポップの喉から漏れる。だが、すでに何度も、無理やり強制的な絶頂へと追い込まれた前の部分からは、吐きだされるべきものがない。 「まだだよ、ポップ。まだ……全然、足りない」 顔どころか耳まで真っ赤に染まったポップが可愛くて、囁くついでに耳をちょっとかじると、甘い声が上がった。 「ぁあ……っ!?」 途端に指を強く締めつける、肉壁の感触がたまらない。それだけで自分の欲望の先端から漏れる感触に震えながらも、ダイは指を動かしてポップに刺激を与えるのをやめなかった。 「そんなに締めつけちゃダメだよ、ポップ。もっと、ちゃんとほぐさないと……ポップが壊れちゃうよ?」 少しばかりゆとりを見せてそう言えるのは、今のダイがポップを完全に支配している実感があるからだ。 ポップを後ろから抱きしめ、前後から責め始めてからどのくらい経ったのか、ダイには分からなかった。 だが、時間などどうでもいい。 もう、ダイを制止するだけの理性もなく、過剰なほどに与えられる快感に身を震わせているポップを、貪りたい。 今、ダイの中にある欲望は、暴れ馬にも似ている。一瞬でも手綱を緩めれば、制御できずにどこまでも走り出さずにはいられない衝動。 吹き荒れるような嗜虐心を辛うじて抑え込もうとは、努力している。 ポップに、優しくしたい。 ポップが、欲しい。 同じ比率で高まっていく自分の中の相反する欲望に引きずられるまま、ダイはポップを弄んでいた。 「はぁ…、やっ!?」 ダイの指が、ポップの中のある一点を強く刺激すると、急にポップの反応が変わった。 度重なる刺激のせいでいささか反応が緩慢になっていたポップが、再び身を震わせてもがきだす。 「ポップ……ここ、好き?」 「ひ…っ、……ちが…っ」 首を横に振ろうとするものの、ダイはそんな自由さえポップに与えない。首筋に唇を当てて刺激を与えると、それだけでポップは首を振るだけの力も無くす。 最初は嫌がっていた行為を、快感と感じ取れるようになるまで、ダイは根気よく刺激を与え続けた。 「…あ…ぁ……っ」 とろんと目を潤ませ、惚けたように吐息を漏らすポップを、ダイは休ませなかった。 「そうだよね、さっきからここをいじる度に、前をぐちゃぐちゃにさせているもんね。もっと、いじってあげようか?」 ほとんど思考を無くす程責められたポップでさえ、その言葉は聞き逃せなかったらしい。 「…や…だ…っ、やだっ、やだぁ……っ! ……もう……や……っ!」 幼い子供のように泣きじゃくるポップを、ダイは強く抱きしめる。 「――もう、やめて欲しい?」 「……ッ、……!」 言葉にはならないものの、ポップは涙を零しながらこくこくと頷いた。真っ赤に染まったままの頬を流れる涙を舌ですくいあげながら、ダイは今度は刺激を与えないようにポップの耳に囁きかけた。 「それなら……黒の核晶の在り処をオレに教えてよ、ポップ」
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