『恋の特効薬 4』

 

「ぃ……いやだぁあああ――っ、やめっ、やぁああっ、ちょっ、ヒュンケルッ、いつまで血迷ってやがるんだよっ、このバカヤロぉーッ!!」

 シーツの中から聞こえてくる悲鳴に耳を傾けつつもまるっと無視しながら、レオナは回復魔法の光を点した白い手で、優しくダイの癖っ毛を撫で続ける。
 だが、その合間も彼女の目は好奇心できらきらと輝きながら熱心に悲鳴の主の方に向けられていた。

 惜しむらくは、シーツにすっぽりと覆われてしまったせいで、その中にいるはずのポップとヒュンケルの姿は見えない。

 が、派手にシーツがバタバタと動きまくる点や、ヒュンケルなんか嫌いだと泣き叫ぶポップの声がどんどん切迫してくる辺り、その下でなにが進行中なのかはある程度想像できてしまう。

 だが、レオナは慌てる素振りも見せなかった。
 すでに、レオナには薬の効果やその解除方法も見当がついている。それを解くためのヒントだって、ポップに与えてあるのだ。

 後は本人次第としか、言い様がない。
 必要なのは、細やかなものにすぎない――ほんのちょっぴりの勇気と、素直さ。

(ま、鈍感でヘタレなポップ君には難度高いかもしれないけどね〜)

 内心そう思いながらも、手も口も出さない辺りは、レオナのポップへの信頼と捕らえていいものか、それとも単なる好奇心と言うべきか。
 だが、ダイはそうもいかなかった。

「や……やだぁーーっ、ダイッ、ダイッ、たすけてくれぇええっ!」

 うねるシーツの波の中からポップが声の限りに悲鳴を上げると、気絶しているはずなのにそれが聞こえたのか、ダイが目を開く。

「ポップッ?!」

 竜の騎士の本能か、あるいは持ち前の頑丈さのせいか一瞬で目覚め、起きるなりポップを助けにいこうとしたダイだが、レオナがその頬に両手を当てて制止をかける。

「はいはい、ダイ君、ストーップ! ここであなたが手を出すと余計にこじれちゃうから、もうちょっと邪魔しないであげていてねー。 はい、あーんして」

「え、こう?」

 緊急事態とはいえ、レオナに命じられるままに素直に口を開けたダイに、彼女は遠慮のない手つきで小瓶の中の液体を注ぎ込む。
 口の中に入った液体をそのままごっくんと飲み干してしまったダイを、レオナは真上から覗きこんだ。

「気分はどう?」

「え? えっと……あれ? 変、な、感じ。なんか、胸がドキドキしてるよ?」

 特に運動もしていないのに変なの、と不思議そうに首を捻っているダイの目は、まっすぐにレオナだけを見つめている。

「ひっ、姫さんっ、この非常時になにしてくれてんだよーっ?! ダ、ダイーッ?! てめーはどこまで食い意地がはってんだよっ、こんな時に何してんだーっ?!」

「そう、他人の名ばかりを呼ぶな。まったく、どこまで焦らす気だ?」

「……って、ヒュンケルッ、てめえこそ、どこ触ってんだーーっ?! いつもいつもスカした顔してるくせに、てめえ、いざとなるとどこまで手が早いんだよっ、このムッツリスケベ!
 だからてめえは嫌いなんだよーっ」

 などと喧しく騒ぎ立てるポップや妙に艶を感じさせるヒュンケルの声も、今のダイの耳には入っていない様子だ。
 だが、レオナは済ました表情でポップに――というよりは、はためくシーツに向かって軽く目配せを送る。

「ポップ君、照れ屋さんなのもいいけど、いい加減に観念して告白しちゃいなさいよ。素直にならないと、多分、いつまで経っても終わらないわよ。
 そろそろ、何がキーワードか分かったんでしょ?」

 問い掛けの形をとってはいても、レオナには確信があった。実際、ポップの声音にも弱々しいながらも、婉曲に肯定の響きが混じる。

「でっ、でもよぉ……っ?! そんなの人前で言うなんて、恥くさいじゃねーかよぉっ」

(……今更だと思うけどね〜)

 今の濡れ場一歩手前の光景の方が、よっほど恥ずかしいと思うけど――と、喉元まで込み上げてきた本音を押し殺し、レオナはさらっと言ってのけた。

「ふーん、いいの? 今、空にルーラの光が見えたわよ?
 時間はそうないと思うけど」

「いぃいっ?!

 レオナの最終警告に面白いぐらい裏返った声を上げたポップの叫びと連動して、シーツのもがきが一瞬止まった。
 だが、次の瞬間、そのシーツが大きく翻る。

「ええいっ、一回しか言わないからよく聞きやがれよ、こんちくしょう!」

 やけくそになったようにそう叫んだポップは、多分、その時シーツが大きく捲れ上がったことに気が付いていなかっただろう。
 押し倒された態勢で、逆にヒュンケルの首ったまにしがみついたポップの顔は、真っ赤だった。

 逞しい首筋にすがるような姿勢で、ヒュンケルの耳元に顔を寄せたポップの姿を見て、レオナは軽く目を見張る。
 その切羽詰まったような恥じらいの表情は、初恋を打ち明ける少女さながらだった。

「ヒュンケル、おれはな、てめえのこと――」

 恥ずかしくてたまらないのか、耳まで赤く染めて囁くポップの声は、後になるほどかすれて小さくなり、聞き取れなくなる。
 唇が動いているから、何かを言っているのは間違いはない。ヒュンケルがそれを聞いて、驚いたように目を見張るのも見えた。

 だが、もっとよく見ようと身を乗り出すレオナの目の前で、これで幕とばかりに、ふわっと宙に舞った白いシーツが二人の上に降り懸かる。
 そして、またも白いシーツに包まれた二人は、そのままの格好で動かなくなった――。

 

 

「……ねー、レオナ。こっち、見てよ」

 甘えるようにダイに言われるまで、レオナはその光景に見入ってしまっていたらしい。


「あ、ごめんね、ダイ君。ちょっと、面白すぎる見せ物だったから、ついね」

 慌てて視線をダイへと戻しながら、レオナは笑いを堪えるのに必死だった。肝心なところが聞こえなかったのが残念だが、めったに見られないような面白いショーだったのには違いない。

(遅いのよね、ポップ君って。ほーんと、自覚がないんだから)

 ポップは何度となくヒュンケルを嫌いだと繰り返したが、二人を知っている者ならば誰だって、それが彼の本心だと思う者などいやしないだろう。
 兄弟子に対してやたらと反発し、いつも反抗的に振る舞っているポップは、自分の気持ちを分かっていないのだ。

 あるいは心の奥底では理解していても、認めたくないのか。
 口では文句ばかり言っていても、ポップがヒュンケルを兄のように思い、好意的な感情を持っているのは一目瞭然だ。

 大戦後、再起不能に陥っていたヒュンケルの身体を、命懸けの治療を施して治したのもポップだし、だいたいついさっきだって気絶したヒュンケルを心配してわざわざ手当てしようとしていた。

 好きか、嫌いか。
 シンプルにそれだけを考えれば、キーワードが何なのか自ずと分かると言うものだ。

「……全く、最初から素直に言えば、それで済んだ話なのにねー」

 くすくす笑ってそう呟きながら、レオナはダイが望む通りに彼に向き直る。

「え、えっと……レオナ……? おれさ……なんか、変、なんだ」

 どこか戸惑った様子でそう訴えながらも、ダイはレオナをじっと見つめたままだ。
 いつになく熱っぽいその視線をくすぐったく感じながら、レオナは落ち着いた声で静かに問い掛ける。

「ねえ、ダイ君。あたしに、何か聞きたいことがあるんじゃないの?」

 レオナの問いにダイは少し考えるような素振りを見せてから、やっと思い出したとばかりに目を輝かせる。

「あ、うんっ、そう言えば……あのさ、レオナ……おれね、レオナが好きだよ! レオナは?」

 答えを知りたくてたまらないのか身を乗り出すように尋ねてくるダイを、レオナは微笑みながら見つめ返す。

 ――その際、ほんの少しだけ悪戯っ気が起きなかったと言ったら、嘘になる。このまま答えを焦らしてしまったなら、この小さな勇者がどんな反応を見せてくれるだろう、と好奇心が疼く。

 ヒュンケルがそうだったように、抑えきれない情熱のまま自分に迫ってくれるだろうかと思うと、期待じみた思いさえ込み上げてくる。
 好意を持った相手が、情熱的に自分を求めてくれる――それはなかなかに悪くない光景だ。

 それだけで心地好く自尊心を満たしてくれるだろうし、場合によってはその熱心さに絆されてこちらもその気になるかもしれない。
 実際、そこそこレベルに好きな程度の相手なら、この薬を飲ませたことでこちらの気持ちも大きく動かされそうだ。

 そんな風に流されるのをきっかけに、生まれる恋だって悪くはない。
 だが、そのまま流されるにはレオナはあまりにも聡明だったし、純粋だった。

 なにしろレオナの目の前にいる勇者は、少しばかり恋心を抱いた相手なんかじゃない。本気で好きな相手だからこそ、小細工で自分に振り向かせたいとは思えない。
 だからこそレオナは、素直に自分の本当の気持ちを伝えた。

「もちろん、あたしもダイ君が好きよ」

 その答えを聞いた途端、ダイの顔から上気した赤みはあっさりと消えた。
 そして、事情が分からないとばかりにぽかんとした表情を浮かべる。
 だが、それはそう長い時間ではなかった。何度かの瞬きの後、ダイはすぐにハッとしたように飛び起きた。

「そっ、それよりポップはっ?!」

 さっき、レオナに答えをねだったのとは比べ物にならない勢いで、ダイはポップの方へ向かう。
 すでにレオナを振り向きもしないダイを見送りながら、彼女は苦笑する。

「……やっぱり、役に立たないホレ薬よねー、これ」

 

 


「ポッ……」

「ポップーッ、ヒュンケルーッ、大丈夫?!」

 心配そうにポップの元に駆け寄るダイを遮る形で、ドドドと地響きすら響かせて走ってくるのはマァムだった。

 その背後には、呆れたような顔でぷかぷかと宙に浮かんでいるマトリフがいる。空に浮いているのは彼の魔法力だろうが、マトリフの長衣をがっちりと掴んで引っぱっているのはマァムの仕業のようだ。

 制止する兵士さえ追いつけない速度で駆け付けてきたマァムは、目茶苦茶に壊れたリネン室を前にして目を真ん丸くして立ちすくむ。
 が、すぐに真ん中のシーツの固まりが怪しいとふんだのだろう。

「ポップ、そこなのっ?!」

「あっ、いやっ、ちょっ、待……っ」

 慌てた声で制止をかけると同時に、ポップが中側からシーツを抑えに掛かったのか不自然な皺が寄るが、そのぐらいの防御は元武闘家の前ではなんの意味もない。
 勢いよくシーツがはぎ取られ、その中の光景が白日の下に晒された――。

「ポップ、その格好……っ?!」

「あ……っ、あの……っそのっ、これには理由が……っ?!」

 辺りに散るシーツより蒼白な表情になったポップがなんとか言い訳をしようとするが、いかにポップが口車に長けていようともそんなものでなんとかなるような状況じゃない。 半裸になるまで服を破かれた少年の上に、男がのし掛かるような姿勢のままで重なり合っている。

 そんな光景を見れば、10人中10人が特定の犯罪行為を連想するだろう。犯罪とまでは思わなかったとしても、それでもある種の危うさを感じ取ること疑いなしである。

 やたらと焦っているのが押し倒されたポップの方で、ヒュンケルの方はぼうっとした様子で自失しているのが妙といえば妙だが、それだけに色々と妄想だのあらぬ予測をかき立てる光景と言える。
 だが、慈愛の使徒の発想は、常人とはまるっきり違っていた。

「どうしたのよ、ヒュンケルとケンカでもしたの? やだ、こんなに服をビリビリにしちゃって……ケガとか、していない?」

 心底不思議そうに、なおかつ心配そうに二人の側に近寄ったマァムは、なんのためらいも躊躇もなくヒュンケルを抱き起こしてポップの上からどかす。
 成人男性、しかも見た目以上に筋肉がついているヒュンケルは重いはずなのだが、彼女の手に掛かるとあっさりと動く。

 そして、何事もなかったかのようにかいがいしく二人の手当てを始めたマァムを見て、レオナは眉間に指を当てて嘆くように呟いた。

「……………………マァム。
 時々、あなたの天然っぷりって、国宝指定をして博物館にでも陳列すべきじゃないかと思う時があるわ」

「え? それって、どういう意味?」

「……いーのよ、なんか、もう手遅れって感じだし。
 忘れていいわ、どうぞ、続けてちょうだい」

 ますますきょとんとするマァムの後ろでは、偉大なる初代大魔道士が腹を抱えて笑い転げていた――。

 

 

 

「やれやれ、オレもとんだとばっちりをくらったもんだぜ。せっかく来てやったっていうのに、面白いところは全部終わっちまってるんだからよ」

 まだおかしくて堪らないとばかりに、ニヤニヤと笑いながらそう言ってのけるマトリフは至って機嫌良さそうに茶を一口飲む。
 ここにポップがいたのなら、あれだけ面白がって笑っていたくせによく言うよと文句をつけていただろうが、彼はここにはいない。

 あの騒動のショックの後で気が抜けたせいか、はたまたここ数日の寝不足のせいか、ひっくり返ってしまったのだ。
 倒れたと言うべきか、熟睡してしまったというべきかは実に微妙にラインだが、とにかく寝込んでしまったポップは速やかに自室へと運ばれることになった。

 その際、ポップが心配だからとダイとマァムがそろって後をついていったので、この客間に戻ってきたのはレオナにヒュンケル、マトリフの三人だけだ。

「もう、ずいぶんと昔の話だがな。
 惚れた女がいて、相手の方も憎からず思ってるって按配だったのに、なぜだか本心を打ち明ける気配がない奴がいてな。
 見ている方がもどかしくなっちまうんで、ちょっと相手の背を押してやろうかと思ったことがあったんだよ」

 まあ、結局は、馬に蹴られかねないようなおせっかいな薬なんざ作っても仕方がないと思って、お蔵入りさせたんだがよと笑うマトリフの説明を聞いて、レオナもヒュンケルも改めて納得する。

 レオナはその聡明さで、そして身体でその効力を味わったヒュンケルは、だいたいのところポップの作った薬の効力は理解していたが、大魔道士の口から直接説明を受けると説得力が違う。

「最初から、なんだか変だと思っていたけど、そんな意図で作られた薬だったなんてね〜」


 この惚れ薬は、最初から飲ませる相手をどうこうするための薬なんかではない。というよりも、そこまでの効力はないのだろう。
 飲まされた相手の気持ちを、動かすためのものなどではない。

 むしろ、薬を使う者の覚悟と気持ちをはっきりさせるための、いわば背中を押すための薬なのだろう。
 それに気が付かず、『ホレ薬』の名前に目が眩んで作ってしまう辺りがポップのそそっかしさと言うものだろう。

 世界有数の腕を持つ薬師でも二の足を踏むような難しい調合をこなせる癖に、変なところで抜けているところが、らしいといえばらしい。

「でも、あの効き方はマトリフ師のおっしゃったものより、ずっと強かったみたいですけど?」

「ケケケッ。そりゃ、あの馬鹿の自業自得ってもんだろ。
 あの馬鹿はまだまだお子様過ぎて、恋ってもんが分かってねえんだよ。おまけに極め付けに、鈍いときていやがる。
 恋の駆け引きってもんを、知らねえのかねえ?
 追えば逃げる、つれなくされりゃ燃えるってのは、恋愛の基本だろうによ」

「……ご尤もですわね。
 ホント、ポップ君ったらあれだけ政治的な駆け引きもできる頭を持っている癖して、なんだって恋愛にはあんなに鈍いのか、理解に苦しみますわ」

 感心しているんだか、呆れているんだか、今一歩分からない調子で言う姫君に、大魔道士は重々しく頷く。

「そこは同感だな。
 ま、どっちにしろあんたにとっちゃ災難だったな」

 からかいの響きを込めた声でヒュンケルに呼び掛けるマトリフに反応したのは、レオナの方だった。

「全く災難だったわね〜、ヒュンケル! ね、ところでポップ君が何を言っていたのか、本当に覚えていないの?」

 レオナ直々の所望に対して、その忠義っぷりには定評のある近衛隊長は短く答えた。

「残念ながら」

「これっぽっちも? 残念ね〜、あの時、ポップ君がどんな告白をしたのか、聞いてみたかったのに」

 心底残念そうに、あれを聞き逃したのは一生の不覚だったわ、これをネタに一生からかえたのに、などとぼやくお姫様はどう見ても本気に見える。
 そんなレオナに対して、ヒュンケルは武骨ながらも誠実に頭を下げた。

「申し訳ありませんが、さっきも言った通り何も覚えておりませんので」

 お茶を飲んだ時から記憶が途絶え、マァムに回復魔法をかけてもらうまで、何も覚えていない――正気に戻ったヒュンケルがそう言ったのを聞いて、レオナはあからさまに落胆を、ポップは心底ホッとしたような顔をしていた。

 もちろん、レオナはすぐさまポップ本人にもなんて言ったのか問い詰めたのだが、ポップはそんなの覚えてなんかないと言い張って口を割ろうとはしなかった。
 だが、ヒュンケルなら自分の詰問には素直に答えてくれるだろうと言う読みが、レオナにはあった。

 なのにその当てが外れてしまってレオナは少なからずがっかりしたようだが、すぐに気を取り直す。
 元々、切替えの早い性格なのだ。
 そんなレオナを尻目に、マトリフは残った茶を飲み干して立ち上がった。

「さて、ダイにもヒュンケルにも薬の副作用もないみてえだし、オレはもう帰るぜ。ああ、あの馬鹿が目を覚ましたら、説教があるから後でうちにこいと伝えといてくれや」

「ええ、必ず伝言しますわ。ヒュンケル、マトリフ師をお見送りしてくれる?」

 ヒュンケルに後を任せ、レオナはいそいそとした足取りでポップの部屋へと向かう。その頭の中には、ポップが目を覚ましたらいかにからかうかという計画とともに、今回の騒動で壊された物の弁償金額が算段されていた――。

 

 


 かくして、二代目大魔道士ポップの作った『ホレ薬』騒動は一応の終焉を見た。
 そして、さすがのポップもホレ薬に再び挑むことは、それっきりなかったと言う――。
                                   END



《後書き》

 380000hit 記念リクエスト、「(おそらく)王道とも言えるネタ、ホレ薬ネタをヒュン&ポップでお願いしますv
間違ってか、意図的にかポップが作ったホレ薬を、誤ってヒュン兄さんが服用してしまい、ポップに惚れるという感じで。

 …設定の時点でどたばたコメディしかありえないと思いますが(笑)、意外な方向で、愛のないH込みのドロドロ地下展開でもOKです♪
 書きやすい内容でいいのでお願いしますv こちらのサイト様の、決してヒュン×ポップではないヒュン&ポップがとても好きなのです!」でした!

 自主的には決して書かないテーマなので、書けば書く程自分でも思わぬ方向に話が転ぶ感じで、すっごく楽しかったです♪ 素敵なリクエストを、ありがとうございました。
 さて、ポップがいったいなんと告白したのか――それは、ポップとヒュンケルだけが知っている永遠の秘密だったりします(笑)

 ポップがはっきりと告白するシーンって、ダイやマァム相手でもまだなかったりするので、直接の言葉には出さないようにさんざん考えて、シーツ越しの告白シーンになりましたv

 ところで、おまけとしてヒュン兄さんとマトリフ師のちょっとした会話を、さらなるおまけとして『ホレ薬』設定を思い付いたので、この後に載せておきます。


『おまけ…芽生えない種』

「おい。おまえさんも、なかなかの役者だな、お若いの」

 と、マトリフはニヤリとした笑みをヒュンケルに投げかける。
 無人の回廊をわずかに先導する形で歩いていたヒュンケルは、マトリフの一言を聞いて足を止めた。

「……なんのことでしょうか」

「はん、おとぼけなんざ止めときな。
 オレも、さすがに自分で作った薬の処方箋を忘れるほどにゃ老いぼれてはいなくてな……おまえさん、記憶なんざなくなっちゃいないんだろう」

 質問でさえなく、確かに確信を込めてきっぱりと言い切るマトリフに、ヒュンケルはほとんど表情を動かさなかった。だが、並外れた観察眼を持つマトリフには、無表情の様に見えるこの青年がわずかに眉を潜めたことなどお見通しだった。

「――やっぱりな。
 どうして、そんな嘘をついたのか聞いてもいいか?」

 答えなど承知している癖にそう尋ねるマトリフに、ヒュンケルは予想通りの答えを返す。


「……オレが覚えていたら、ポップが嫌がるでしょうから。それに……」

 あいつはオレの弟弟子ですから――とそれだけを答える若い剣士に、マトリフは苦笑を隠せない。

「おまえさんも、やっぱりアバンの弟子だな」

「……どういう意味ですか?」

 不思議そうに問い返すヒュンケルに、マトリフは笑うばかりで答えなかった。
 ――ヒュンケルは、自覚していないのだろう。
 薬による強制的な高揚だったとはいえ、あの薬の効力はあくまで増幅するだけだ。元々、相手に対してゼロやマイナスの感情しか持っていない者に対しては、なんの効力もない。


 それは裏返せば、あのホレ薬の効果があったということは、元となる感情が存在するということ。
 それが恋愛とは程遠い淡い感情であれ、相手に対する『情』には違いない。

 そして恋とは、己の心で暖め育むものだ。
 あの薬をきっかけに、相手を意識して感情を膨らませていくのも、一つの道。

 だが、老魔道士は知っていた。
 あえてそうしないのも、また一つの道なのだと。

「まあ、好きにすりゃあいいさ。どっちにしろ、今更他人の色恋沙汰に首を突っ込む程オリャア若くもねえしよ」

 その言葉を残して、マトリフは回廊をひょいっと抜け出して瞬間移動呪文を唱える。
 あくまで兄弟子といたいと望む不器用な剣士を残して、そのまま青空へと飛び上がっていった――。
                                         END


《おまけ2・『ホレ薬』設定》

 『ホレ薬』は大魔道士マトリフが考案した薬で、飲まされた者の感情を増幅させ一時的な恋愛感情をもたらす効果があります。
 ホレ薬を飲んだ者は、薬を与えた者に対して疑似的な恋愛感情を抱くようになり、自分の気持ちを積極的に伝えて相手の気持ちを知りたがるようになります。

 相手の気持ちを告げられた段階で薬の効果は消滅しますが、その際、本心からの言葉でないと解除されません。
 おまけに、本心と逆に言葉を口にすると、かえって相手を暴走させる恐れがあるという厄介な副作用があります。

 作品中でもマトリフが言っていた通り、この薬は主に『飲ませる側』の本心を強く自覚させるために作られたアイテムなので、『飲まされた側』にはあまり効力がありません。 ところでこの薬の効果は、実は飲ませる側の人間の魔法力を利用するタイプの薬なので、魔法の素養の薄い人の場合はたいした効き目にはなりません。

 せいぜいがところ『なんとなく気になる』というレベルであり、おまじない程度の効き目にしかならないのです。
 レオナの場合はそこそこ効きましたが、たとえばマァムやエイミだった場合はあんまり効かない可能性が高いでしょう。

 ポップの場合は、彼の魔法力がやたらと強いために本来の効力以上に発揮され、さらにポップが本心とは違う言葉を言いまくったせいで暴走気味になっちゃっています(笑)

 結局のところ、この薬は使い手がすごく限定されてしまう上に、自分の気持ちを素直に口にする者にしか効果がでない仕組みになっています。
   が、最初から惚れた相手に好意を口にできる人には、こんな薬なんて必要ないので、全くの無意味……そんな理由で封印された魔法薬です。


 

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