『四界の楔 ー告白編(ヒュンケル)ー』 彼方様作 |
・ポップが女の子です。 この四点にご注意の上、お楽しみくださいませ♪
「ヒュンケル」 「マァムか」 二人が落ち合ってすぐ、パレスの一角で爆発が起こり、二人してそちらを向くと黒煙が上がっていた。 「あれは…」 「ポップだな」 ダイとハドラーの戦いでは、ああいう爆発は起きない。ハドラーは強力な魔法を使いこなすが、恐らくダイとの一騎打ちで魔法を主体として戦う事はない。 「どうした?」 「気にならないの?」 「今のあいつがシグマ相手に後れを取る訳がないだろう」 「そうじゃなくて」 先刻のポップの姿が焼き付いている。 ダイが聖母竜に連れて行かれた時。 更にマァムは、エイミがヒュンケルへ武器を渡す為に近付いた時、彼の視線がポップを追った所を見逃してはいない。 「私は正直、恋愛についてはよく解らないわ。でもヒュンケルがポップを好きなんじゃないかっていうのは何となく解る」 「そうか」 「だったら、行って」 「何故だ。今はそれよりも」 ヒュンケルなら自分の感情を優先する事はないだろうとは薄々解っていたが、その相手―――ポップには時間がない。 “私達と会えた事、信頼し合えた、心を交わした事が幸せだと言うのなら” 仲間とは違うけれど、男女間の愛情を知る事も幸せに繋がるのだと思ってはくれないだろうか。 “よく解っていない私が言うのもなんだけど” それでもポップの「幸せ」を上乗せ出来る可能性があるのなら。 「マァム?」 ひどく必死な彼女の様子に、その理由が解らないヒュンケルが怪訝な顔をする。 「ポップに何かあったのか?」 ヒュンケルの問いに、マァムがハッとしたように目を見開いた。「何かあった」とは少し違うが、「普通」ではない事は確かだ。 「お前がそこまで言うなら」 ポップとは意味が異なるが、マァムもまたヒュンケルにとって特別な、大切な女性には違いない。それに彼女の魂の力は慈愛だと言う。その彼女がこうまで言うのなら、ヒュンケルが動く理由にはなる。 「有難う」 「礼を言われる事ではないが…」 「それでもよ」 「ああ。では、また後で」 ポップの方へ向かったヒュンケルを見送って、マァムはダイとレオナ、そしてハドラーがいるだろう方向へ走り出した。 “ごめんね、ダイ” ダイがどれ程ポップを好きか位、理解しているつもりだ。ただ、ポップのダイへの接し方を見ていると、一番大切と言うのは嘘ではないだろうが、庇護対象と言うか、弟と言うか、そんな感じを受けるのだ。
“ほんと。アレさえなきゃなぁ” 群を抜いたスピードと跳躍力を誇るシグマだが、トベルーラを使えばその差は埋められる。 自分の一撃など牽制にもならないが、向こうの一撃を食らえばそれだけで致命傷だ。 「全く。切り札を持っているとは言え、それとは別にここまで動ける魔法使いも珍しい」 「『普通』の魔法使いがここまで来れるか?」 「それもそうだ」 フ、と微笑ったポップに、シグマもニヤリと笑う。 「では、続きと行こうか」 「そろそろ満足しちゃくれませんかね」 こっちはバーン戦が控えているんですけどー。 「それを考慮すると思うかね」 「いや、全く」 もしそうであれば、そもそもこの戦い自体始まる事もなかった。ハドラーの寿命はダイとの勝敗に関わらず、それ程残されてはいない筈。ハドラーの死は、イコールでシグマの死なのだから、今の機会を逃す筈がない。 “あれ?” そこまで考えて、ポップはふとある可能性に気付いた。 「俺と戦いたいってのは、あんたの意志か」 「そう言った筈だが?」 「ハドラーのことが無くても?」 「そうだ。ハドラー様の命令は私にとって都合が良かった」 「ふぅん」 これを聞いて、ポップは一段階意識を切り替えた。 “甘く見ていたつもりはないけど” 意志の力、と言うものは決して侮れない。 駆け付けたヒュンケルは、目の前にあった光景に瞠目した。 「ポップ!」 現れた戦士にシグマは残酷に告げる。 「加勢に来たのかね。だが、少し遅かったようだ」 言葉と主に勝者の顔で彼を見遣ったシグマは、しかし、彼の表情が絶望にも悲哀にも染まらないのを見て、メドローアの直撃を受けた筈のポップを振り返った。 「何!?」 そこにはメドローアの光に包まれたまま、消滅せずにいるポップの姿。しかもその光の中、更なる輝きを放つ光が生じている。 「まさか!」 「―――この勝負、俺の勝ちだ」 放たれた「本物」のメドローアは、シグマの胴体を貫き五体を分解した。 「やはり君自身が勝利の女神になるのではないかな」 「そんな上等なものになれれば、な」 「フフ…君と言う存在と戦えた事を誇りに思うよ」 「ああ、俺も」 もうすぐ爆発するから離れろと言うシグマに、逆らう理由もなく素直に従う。 「で。お前、何しに来たの」 処刑台上の時とは真逆に冷たく問われ、ヒュンケルはバカ正直に答えた。 「マァムに言われて」 「――――はぁ?」 不審と不満と苛立ちが入り混じった声が出る。 「ポップが好きなら、行って来い、と。そう」 「はぁ…?」 今度は何となく気が抜けたような怪訝な声。 「幸せになれと言っただろう?」 「え?ああ」 それとこれと何がどう繋がるのか解っていなさそうなポップに、内心苦笑する。長く男として生きてきたせいか、どうにも恋愛に対する感性が鈍いようだ。 「オレの幸せには、お前の存在が不可欠だ」 「ふぇ?」 それでもピンとこない様子のポップに、ヒュンケルはその細い手首をそっと掴むと自分の方へと引き寄せた。 「ヒュ、ヒュンケル?」 それ程強い力ではない。いや、ポップでも多少力を込めれば抜け出せる程度の緩やかな抱き方だ。にも拘らず、ポップは硬直したように動かない。何というか、内心は既にパニック状態だ。 「ダイと同じ気持ちだと言えば、解りやすいか?」 「は…いや、え?えぇ!?」 驚愕のままに、不自由な体勢で顔だけを勢いよく上げる。 「え、だって…何で」 殆ど意味のある言葉が出てこないパニック状態を見て、そこまで驚かれるとは思っていなかったヒュンケルも少しばかり驚く。 「お前が一番大切で、一番好きだ」 ダイにも劣らない、真っ直ぐな告白。 「え、でも…マァムやエイミさん…」 ヒュンケルを救ったのはマァムで、想いを伝え続けているのはエイミ。自分はヒュンケルにこんな事を言われるような事をしたか? 「何故ここで二人が出てくる」 「だって俺…お前に好かれるような事、した覚えは」 「感情を理詰めで考えるな」 頭が回りすぎるのも考えものだと呆れる。 「いや、その…俺よりあの二人の方がずっと“いい女”だろ?」 「オレにとって“いい女”はお前だ」 自覚しないまま、ヒュンケルは次々にポップの逃げ道を塞いでいく。しかしパニック状態を脱したらしい今になっても、ポップはヒュンケルの腕の中から逃げようとはしない。 「お、れ…みたいな男女(おとこおんな)の何処が…」 「そう思っているのは、お前だけだと思うがな」 事実、今のポップが男のようだと言えるのは言葉遣い、特に一人称位だと言っていい。 「すぐに返事をくれとは言わん。ただ、忘れないでいてくれ」 「あ、ん…わ、かった」 それこそ全く予想外と言うか、想像もしていなかっただけに、ポップはまともに対応出来なかった。ダイにしたようにスルーする事すらままならなかった。 “何時、何処でそんな知識を仕入れやがった、このバカは!” 心の中では思いっきり罵倒していた。 彼方様から頂いた、素敵SSです! そして、声を大にして言いましょう……この話は限りなくヒュンポプっぽく見えますが、それでもダイポプです! ええ、作者様に確認を取りましたので間違いありません、ダイポプです!!(大事なことなので、二度言いました♪) 登場してくるキャラというキャラがヒュンケルとポップの方がカップルっぽいと判断し、あまつさえ二人の仲を応援しているような有様で、レオナやクロコダインでさえ中立でダイの恋を応援していませんが、それでもダイポプ! ……だそうです♪
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