エピローグ |
「インディも物好きだね」 肩に乗せたミュアが、半ばあきれたように言う。 「なにがだよ」 ぼくは人にぶつからないように、注意して歩きながら答えた。 人々は戸惑い気味で、まだ不安げだ。 「だって、キミがその気なら、なにもこんな一般人に混じってパレードを見なくっても、貴賓席で間近に見ることも参加することもできるのにさ」 「いいんだよ、これで」 ミュアもそれ以上は反対せず、黙り込む。 だけど、今のぼくは剣はマントの下に隠してあるし、服もハミ王国風じゃなくていつもの格好に戻ってるからだろう。
フードからはらりとこぼれた、金の髪。鮮やかな水色の瞳。
――わあっ、素敵、素敵! すごいわ、あなた、本当に魔法が使えるのね――
わがままで、とんでもないお嬢様で……初めて会った時は、なんて女の子だろうと思ったものだった。
――あら、あたし子供でもないのよ。こう見えても、先週14才になったもの――
14才も年上の王子と結婚するフレイヤは、ぼくとは半年と違わないのに……。
――それでね、この人! インディにもついてきてもらおうと思うの。なにかと便利だし――
ぼくを物扱いして。本当にわがままで、手がかかる女の子で。でも、時として、まったく違う大人びた顔を見せた。
――……そんな言い方、するものじゃないわ。だって、インディはこれからがあるじゃない。いくらでも伸びることができるわ――
砂漠でのあの時、そう言ったのはフレイヤかどうかは、ちょっと自信がない。 そんなのはミュアに聞けば一発で分かるけど、ぼくにはなぜかそうする気になれなかった。
――インディ、やめてっ! もうやめよう、アマフトはほうっておけばいい! もう、いいの! あたしはこのままでも……だから、やめて、お願いっ――
そう叫んだのは、ミュアの姿をしたフレイヤだった。 ニッフルニーニョ大先生も、さすがにあの状況でジュジュ=フレイヤとフレイヤ=ミュアを入れ替えることはできなかったかもしれないけど、ミュア=ジュジュとフレイヤ=ミュアを入れ替えることはできたかもしれない。 そうしたら……フレイヤはジュジュの体で、ごく普通の女の子として生きていけたかもしれない。
その老人の厳めしい顔にもかかわらず、行列が近づくにしたがって、はれやかな歓声が波のように広がっていた。 ぼくにくれた飾り櫛の代わりに、白い花の髪飾りをつけているが、それがよく似合っている。 少し、頬が染まっている。その微笑みに、誰もが惜しみのない祝福の声を上げる。 だけど、もし人々の心から不安や恐れを取り除く力があるとしたら、フレイヤは魔力の代わりにそれを備えているに違いない。 ハッとフレイヤが、かすかに顔色を変えるのが見えた。 「…………」 行列は、ぼくの前を通り過ぎる時だけ、足を速めたのだろうか?
「……もう行こうよ、インディ」 ミュアが肩の上で座り直した。
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