エピロ−グ ぼくの親友は、リュディガー

 

 土曜日の夜、ぼくはいつものように本を読みながら、リュディガーが来るのを待っていた。

 読んでいたのは最近買ったばかりの吸血鬼の本なんだけど、正直、これはハズレだったみたいだ。だって、吸血鬼を人間離れした化け物として書いてあって、全然、ホントとは違うんだもん!

「あーあ」

 とても読んでいられなくなって、ぼくは本を放り出した。どっちにしろ、リュディガーを待っている時はあんまり本に集中できないんだ、無理に読みにくい本を読むこともないや。

 ベッドの上に寝っころがって、ぼくはリュディガー――ちびっ子吸血鬼のことを考えてみた。

 最近、思うんだけど、人間と吸血鬼ってそんなに差がないみたいだ。
 そりゃあいろいろ習慣とか常識は違うし考え方も違うんだけどさ、でも人間同士だって違う人は思いっきり違うしね。

 ぼくとリュディガーは、土曜日になると、夜、一緒に空を飛び回る。見慣れた町も、上から見るとまるっきり違って見えて、ただの散歩でもすっごく楽しいんだ。
 鬼ごっこをしたり、隠れんぼしたり、どっちが早く飛べるか――悔しいことにいっつも、リュディガーが勝つんだけどさ――競争してみたり。

 じゃなきゃ、思いきって遠出することもある。
 月がことに明るくて、まるで真昼みたいに光を放つ夜が、リュディガーのお気に入りだ。そんな日は、決まってリュディガーは遠出をしたくなるらしい。

 あ、出かけない日もあるな。
 テレビでどうしても見たい番組がある日なんかは、一緒にテレビを見たりすることもある。

 リュディガーって、わりかしジッとしてるのが嫌いなタチみたいで、テレビを見ようって言うとヤな顔をするけど、そのくせけっこう楽しんでいるんだ。
 おかしなことに、自分が吸血鬼のくせにリュディガーってば吸血鬼の映画を喜んで見ている。

 ただ、気をつけなければいけないのは、吸血鬼が杭を打たれて灰になるクライマックスのシーンの前に、チャンネルを変えることだ。
 リュディガーは作り話と分かっていても、そんなシーンを見ると本気で怒るんだもん。
 そう、相変わらずリュディガーは怒りっぽいけど、ぼくはもう、彼が怒ってもちっとも怖いとは思わない。
 だって、吸血鬼は怖くても、友達を怖がる理由なんかないもの。

 それに……リュディガーが吸血鬼だって分かっていても、一緒に遊んでいる時はそんなこと、忘れちゃっている。
 ぼくは時々思うんだ  もし、リュディガーが窓から突然やってきた吸血鬼じゃなくって、学校に転校してきた普通の、人間の男の子だったら、って?

 じゃなかったら、このマンションに引っ越してきた子でもいい。たまにママに無理やり行かせられる臨時講習の教室で、一緒のクラスになった子でもいい。
 とにかく、肝心なのはぼくとリュディガーが出会うってことだ。
 そうしたら、きっとぼくは――。

 


 ――コンコン。
 小さなノックの音に、ぼくは物思いから覚まされた。
 顔を上げると、いつものようにちびっこ吸血鬼が窓台にちょこんと腰かけているのが見える。

 いつも、土曜日にはリュディガーのために窓をほんの少しだけ開けてある。けど、ちびっこ吸血鬼はめったなことじゃ、勝手に部屋に入るような真似はしない。
 たいてい、ぼくが迎えに行くまでそうやって待っているんだ。わがままで自分勝手なようでいて、変なところで律義なんだから!

「アントン、何、ぼーっとしてんだよ?」

 いらいらと、リュディガーは窓を叩いてぼくを急かす。
 その瞬間、ぼくは確信できた。
 口が悪くて、おこりんぼで、意地っ張りなリュディガー。

 うん――たとえ吸血鬼だっていう魅力がなくったって、ぼくはリュディガーを好きになったに決まっている。
 うん、きっと、そうさ!

「なんでもないよ、リュディガー」

 ぱたんと吸血鬼の本を閉じ、ぼくは、ぼくの親友のちびっこ吸血鬼――リュディガーを迎え入れるために立ち上がった。


                                                           ENDE

 


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