プロローグ アントン君の自己紹介

 

 え、なに?
 いきなり自己紹介しろだって? 困ったなあ、ぼく、こんなの苦手だよ。
 どうしても、しなきゃダメ? ……分かったよ、やるよ。

 えっと、はじめまして。
 ぼくの名前はアントン=ボーンザック。……あ、笑わないでよ、ぼくの名字がボーンザック(豆袋)なんていうのは、ぼくのせいじゃないんだから!

 うーんと、それから……ちぇっ、話すことなんて、ほとんどないんだよな。ぼくって、割と平凡な小学生だし。なにか特別な生い立ちとかあればカッコいいんだろうけど、残念ながらぼくはごく普通の街のマンションで両親と一緒に暮らしている、ごく普通の子供。
 

 両親が共働きで一人で留守番することが多いけど……これもそんな珍しくないよね。
 運動も勉強もまあまあで特に良くも悪くもないし……、あっ、ぼくの趣味は怪奇物の映画や本を見ること!

 お母さんは悪趣味だって言うけど、ぼくはそれが大好きなんだ。
 狼男からフランケンシュタインまで、怪奇物のヒーロー達はみ〜んな大好きだけど、やっぱり一番好きなのは吸血鬼!!

 夜にしか活動できない、人間の血を吸う不老不死の生き物――なぜかすっごく気にいってるんだ。お父さんやお母さんはそんなの作り話だって言うけど。でも、本当に吸血鬼はいるんだよ。

 だって、ぼくのいっちばんの親友は、吸血鬼なんだから!
 あいつの名前は、リュディガー。
 100年以上も前に死んで、吸血鬼として生きて(?)きたリュディガーは、とってもワガママでいばりんぼ!

 すっごく生意気でさ、そのくせ、妙に寂しがり屋で臆病なとこもあるんだけど……おっと、ぼくがこんなことを言っていたのは、リュディガーにはナイショだよ。

 とにかく、リュディガー=フォン=シュロッターシュタイン(ガタガタ石)っていう名前のちびっこ吸血鬼とその妹のアンナは、本当に本物の吸血鬼なんだけど、そのことを知っているのはぼくだけ。

 この町の共同墓所にリュディガーの家族が――もちろん、みーんな吸血鬼だよ――住みついているのも他の誰も知らないんだ。
 ……あ、まてよ。ぼくの他にもう一人だけ、それにうすうす感づいている人がいるんだっけ。

 彼の名前は、ガイヤーマイヤー。
 共同墓所の墓守りをしているんだけど、これがいい年をした大人のくせに、吸血鬼がいるって、本気で信じているんだよね〜。

 三度三食にニンニクをたっぷりきかせた料理を食べて、大きな銀の十字架を胸に下げ、夏でも着ているコートの下には木の杭を隠し持っている彼のことは、さすがの吸血鬼達も苦手にしている。
 奴がリュディガー達の隠れ家に気づいてないのが、救いといえば救いだけど。

 でも、吸血鬼を信じているぼくが言うのもなんだけどさ、普通の人って吸血鬼がいるなんて、信じないよね。

 うちのお父さんとお母さんもそうなんだ。二人とも、リュディガーやアンナと会ったことがあるくせに、二人が吸血鬼ごっこに夢中な子供だって思ってるんだもん、バカバカしいったらありゃしない。

 まあ、二人が本当のことに気づいてないからこそ、ぼくは両親の出かけた夜に、リュディガーと一緒にこっそりと窓から抜け出していろいろと遊べるんだけどさ。

 でも、これはホントにとっておきの秘密!
 ぼくの両親にリュディガーの正体がバレてもまずいけど、リュディガーの方だって親や親戚連中に人間と友達になったなんてバレたらただじゃすまないんだから――。

 ……う〜ん、自己紹介のつもりが、なんかリュディガーの紹介になっちゃったな。でもまあ、いいや。どうせ、ぼくの話はほとんどがリュディガーと  それから、アンナの話だもの!

 

1に続く→ 
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