『一瞬にすべてを』(2021.6.19)
  
 

《粗筋》

 マァムへ襲いかかろうとするザムザ。
 そんなマァムに対して、ポップは腹に一撃を与えてダイを助けるようにアドバイスを送る。

 迫るザムザを落ち着き払って待ち受けたマァムは、ザムザの攻撃を食らう一瞬に上空に跳び上がり、その落下速度を利用してザムザへと蹴りを食らわせる。

 その蹴り足を、がっちりと捕まえるザムザ。
 だが、蹴りはフェイントだった。足をつかまれながらも、マァムは閃華裂光拳をザムザの腹に叩き込む。

 突き上げるパンチの衝撃にザムザは大きくのけぞり、ダイは腹の口から飛び出してきた。マァムも後方に回転飛びをしつつ回避し、最終的には身構えた姿勢でピタリと着地を決める。
 苦しみ、コロッセオをの壁にぶち当たってその辺を壊すザムザ。

 ポップはチウの肩を抱いてダイの無事を喜び、マァムは軽く息を吐いて、呼吸を整える。
 油断なくザムザの方を見やるマァムだが、ザムザは壁の下敷きになったのか、土煙が上がるばかりで動く気配はなかった――。

 倒れているダイは、身体中に緑色の粘膜がついているものの、生きていた。新しい服のおかげかもと考えたポップは、マァムにダイの無事を伝える。
 マァムは目だけで後ろを確認し、チウに手持ちのアイテムでダイの回復をするように指示を飛ばす。

 チウの元気な返答を聞いたマァムは、きりっとした表情を前へと向ける。
 よろめきながら起き上がろうとしていたザムザは、一度、失敗して尻餅をつく。
 再生が始まらず、腹の花弁がまたも崩れ落ちる。

 自分の不死身の肉体の変化に戸惑い、なぜだと吠えるザムザに、マァムが雄叫びを上げて殴りかかってきた。
 痛打に思わず踏ん張ったザムザの足が、地面を削って交代するほどの勢いの乗った拳が、蹴りが、二度、三度と打ち込まれる。
 特に、閃華裂光拳の宿った拳は、ザムザの身体を容赦なく砕く。

 その様子を見て、思わずどよめいたのは武術大会の決勝進出者達だった。
 兵士の手を借りて待避しつつも、彼女の戦いから目を離せない彼らは、感嘆せずにはいられなかった。

 マァムの動きから目を離せないのは、ポップも同じだった。
 ザムザを蹴った直後に後ろに回り込み、背後からの強烈な一撃で彼をつんのめらせる――桁違いのマァムの強さ、必殺技の威力に驚くポップ。

 そんなポップに、チウは反っくり返るほどに胸を張り、武神流のすごさを我がことのように自慢する。特に、彼が自慢するのは武神流最大の奥義、閃華裂光拳のことだった――。






ブロキーナ「そう……閃華裂光拳だよーん」

 キラリと光るサングラスに、きちんと膝をそろえて正座するマァムとチウの姿が映る。

 そこは、ロモスの山奥。
 ブロキーナは正方形の岩の上に乗り、マァムの修行の習得の速さ、見事さを褒め称えていた。後は奥義を授けるのみだが、病弱な彼には実演することは出来ない。

 咳き込むブロキーナに、チウは何の病気かと他図蹴る。

ブロキーナ「お尻ぴりぴり病じゃ」
チウ(お尻ぴりぴり病でなぜ咳を……)


 珍妙な病名と咳がどう結びつくのか……マァムも困ったような表情でため息をつく。

 ブロキーナはマァムになら必ず習得できる、と断言する。
 しかし、呪文と組み合わせた技と聞き、攻撃呪文が使えないマァムは不安そうな表情を見せる。

 だが、ブロキーナは攻撃呪文だけが敵を倒す呪文ではないと言う。
 使う呪文とは、ホイミ――指で自分の座っていた岩をつつくと、薄皮一枚剥がれるように岩が崩れ落ち、一枚の絵が張ってあるのが見える。

 彼は岩の上からひょいと飛び降り、ホイミについて説明する。
 ホイミとは、人体の生体機能を促進する魔法……しかし、過度に回復魔法をかけすぎると人体を逆に破壊してしまう。
 それをマホイミと呼び、古代の僧侶や賢者が対怪物戦の切り札として使用していた。

 しかし、マホイミはホイミの数倍の魔法力を消費するため、いつしか廃れてしまった……。ブロキーナはホイミと武神流拳法を組み合わせることにより、マホイミの効力を持つ奥義、閃華裂光拳を編み出した。
 敵の身体に致命的なダメージを与える、必殺技……その恐ろしさに、身震いするマァム。

 恐ろしい技だからこそ、その恐ろしさが理解できる者にしか伝授できない……教えてもいいと思えたのは、マァムが最初だとブロキーナは語る。
 アバンがマァムを信じて魔弾銃を授けたように、ブロキーナもマァムを信じ、技を教えると言う。

 それを聞いたマァムは、地面に手をつけ、深く頭を下げる。
 感心した目で二人のやり取りを見ていたチウだが、ブロキーナがふざけた口調で

ブロキーナ「わしってしぶい?」

 などと聞くので、思わずコケたりしたのだった――。
 





 コロッセオの石の床を蹴散らし、ザムザが走る。
 豪腕から繰り出されるパンチを、マァムは鮮やかに後方にとんぼを切って避ける。数回転してコロッセオの反対端へ距離を取り、身構えるマァム。

 かと思うと、マァムは一瞬でザムザの頭上まで跳び上がり、強烈な脳天蹴りを食らわす。目を狙って手を打ち込んだ後、空中に身を躍らせたマァムは強烈な回し蹴りでザムザを再びダウンさせた。
 倒れ伏すザムザと違い、マァムは華麗に着地を決める。毅然とした後ろ姿から、マァムは振り返る。

 大の字に倒れたザムザの身体のあちこちが、再生されていく。細められたザムザの目が、カッと見開かれた。






 マァムの戦いを感心しきって見ていたポップとチウだが、ダイが起きたのに気づいて彼に近寄る。
 助かったのかと聞くダイに、マァムのおかげだと教えるポップ。
 目を開けたダイは、ハッとしたように戦うマァムを見つめる。

 両腕を顔の前に交差させ、一転してガードを固めたザムザに対し、マァムは猛攻を重ねていた。パンチや蹴りを重ねてガードを緩ませ、こじ開けた隙間に閃華裂光拳を打ち込む。

 ダイはマァムの戦いを見て、あんな戦い方もあるのかと感心する。が、立ち上がろうとして、苦しそうに蹲るダイ。
 ダイを心配し、慌ててチウに道具を出すように頼むポップ。

 思い出したように手をポンと打ち、感謝しろと恩着せがましくいいながら服をごそごそ探って出した物は――。

ポップ「そりゃ……毒消し草」

 続いて出したのは、毒草。必死で道具をアレコレ出しまくるチウだが、薬草が出てこない。いつも、薬草五個は持ち歩いているはずなのに、見つからないことに焦るチウ。
 ポップのしかめっ面は、どんどんひどくなるばかりだ。

 そこで、チウはハッと思い出す。
 この間、モーモンに襲われた時、全部使ってしまったことを。
 そんな雑魚相手に薬草5つも使いきるんじゃねえ、と、思わずツッコむポップ。





 その間も続いていた戦いの中、ザムザはまたもマァムに吹っ飛ばされ、ひっくり返っていた。頭を抱えて蹲るザムザに、マァムは止めとばかりに拳を光らせて殴りかかる。

 しかし、マァムが向かってくるのを手の隙間から確認したザムザは、口からシュッと液状の物を飛ばす。鉄砲魚のように鋭く、狙い澄ました液体はマァムの拳に貼り付き、光は消滅した。

 戸惑い、手に目をやったマァムに、ザムザはもう一発同じ液体を放つ。それはマァムのもう片方の手に貼り付いた。
 まるでボクシンググローブのように、緑色の粘液がマァムの両腕を覆ってしまう。

 攻撃を中止し地面に降り立ったマァムは、両手をすり合わせて粘液を取ろうとするが、粘り着くそれは全くとれる気配がない。

マァム(しまった!)

 焦るマァムに、ザムザは笑いながら近づいてくる。
 まだまだ自分の頭は冴えていると、ザムザはご満悦だ。
 マァムの攻撃は、二種類に分かれている。光っている手と、そうでない攻撃――マァムの技が全身で使えるわけではないと気づいたザムザは、マァムの手を封じた。

 必死に粘液を取ろうとするマァムだが、ザムザはそれを無駄だと切って捨てる。
 特殊な皮膜粘液であり、ちょっとやそっとでは取れないと断言するザムザを、悔しそうににらみ返すマァム。

 ザムザの拳が、唸りを上げてマァムに襲いかかる。
 それを後方に飛んで躱すマァムだが、手を使えないため、その動きには先程までの華麗なほどの躍動感はない。





 マァムの危機を、ダイもポップも感じ取っていた。
 動揺するチウに、ポップは何か無いのかと焦ったように怒鳴りつける。自分でもダイでもいいから、体力を回復できるものをだせと言いつのるポップ。

 再び道具をアレコレ出すチウは、小さなどんぐり……『涙のどんぐり』を見つけて目を輝かせる。
 一瞬、すごいアイテムなのかと期待するポップだが、効能は雀の涙ほどの体力回復。

 がっくりして、「だめだ、そんなんじゃ……」と、その場に突っ伏すポップ。が、ダイはそれでいいと、身を起こす。





 さっきまでと違い、ザムザがマァムを圧倒するようになった戦い。
 ザムザの攻撃を躱そうとしても躱しきれず、徐々に攻撃が当たるようになっていた。
 必殺技を封じたザムザは、勝利を確信していた。





 マァムの危機を見て、思わず彼女の名を叫ぶポップ。
 一方、ダイは自分を覇者の剣の所に連れて行ってくれるよう、チウに頼む。






ザムザ「くたばれ小娘!」

 空中に投げ出されたマァムを、ザムザの巨体から繰り出される蹴りがまともに捉え、コロッセオの壁に叩きつけた。壁に一度当たってから地べたに落下したマァムを見て、ポップは必死に呼ぶ。

 が、倒れたマァムはピクリとも動かない。
 荒い息をつきながら、ザムザはそんなマァムをじっと観察する。しかし、少しの間を置いてから、マァムは苦しそうながらも起き上がった。

 ロモス王はマァムに逃げるように呼びかける。
 ポップはダイに期待をかけ、手があるのなら早くしてくれと願いながら、彼の方を見やる。
 ダイはコロッセオの観客席を、チウに背負われて運ばれている最中だった。

 完全に脱力しているダイを運ぶのに、チウは苦労していた。
 悪いと思いながらも、ダイは階段を上る体力すら今は温存したかった。ダイはマァムの戦いを見て、自分の戦い方に無駄が多かったことを悟っていた。
 力を全開にしたまま戦っていたため、すぐに力尽きてしまった。

 だが、マァムの光る拳のように、インパクトの一瞬だけ力を込めればそれでいい。一握りの力でも、攻撃の瞬間に全てを爆発させればザムザに勝てるとダイは言い切った。





 コロッセオでは、マァムがふらつきながらも立ち上がろうとしていた。ダメージが大きいのか、壁にもたれかかりながら立とうとするマァム。
 が、ザムザの右手がマァムの胴を鷲掴み、空中に高々と持ち上げた。もがこうとするマァムだが、強く握りしめられ、苦痛の悲鳴を上げる。

 マァムの光る技に興味を持ちつつも、危険人物は殺すに限ると手に力を込めるザムザ。
 苦痛にのけぞるマァムは、ダイとチウが覇者の剣の方へ向かっているのを目撃する。

 ダイが何かをしようとしていると気づいたマァムは、ザムザの気を引くために自分を握りつぶそうとする手に向かってがむしゃらに攻撃をしかける。だが、それは当然、たいしたダメージにはならない。

 そんなマァムの必死さを、ザムザはモルモットの悪あがきだと嘲笑い、ゴミ同然の命だと軽視する。
 しかし、マァムはそれに対して猛然と反論する。

 命にゴミ同然のものなどない、と。
 それが分からないあんたこそゴミだと強く言い切るマァムの言葉に、ザムザは動揺する。
 その言葉を契機に、彼は思い出していた――。





 父、ザボエラに道具扱いされ、役に立つ存在になれと叱責された過去。
 父親の前にまるで配下のように跪き、反論することすら許されずにザムザは父の顔色を窺っていた。

 役に立たない道具はゴミだと、嘲笑うザボエラ。
 それを聞きながら、ザムザは震える拳を必死に握りしめる。ザムザの顔には、逃げ場のない場所へと追い詰められたような、そんな切迫した表情がまざまざと浮かんでいた――。





 過去の思い出を振り切るように、超魔ザムザは一度目を閉じて自分はゴミじゃないと叫ぶ。
 力も頭脳も最高であり、今なら六団長でも務まるといいながら、激昂したザムザは吠え立てる。

ザムザ「オレをバカにするなぁ!」

 八つ当たりのように腕に力が込められたため、苦痛に絶叫するマァム。
 そんなマァムを心配するポップとチウ。
 そして、やっと覇者の剣に辿り着いたダイは、剣にすがってようやく立っている状態ながら、すずめのどんぐりを要求する。

 それを噛んで飲み込んだダイの身体が一瞬白い光に包まれ、ダイの目つきが変わる。少しだけど力が戻った気がするというダイの表情にも、本来の明るさが戻った。

 覇者の剣の柄を両手で握り、踏ん張るダイ。
 台座にしっかりと埋め込まれた剣を、ダイは強引に引き抜く。その様子に、とうとうザムザが気がついた。
 ザムザの手に握られたままのマァムは、もうぐったりしかけている。

 そのタイミングで、ひょこっとポップの側に現れたのはゴースト君だった。

ゴースト「メラだ」
 
 戸惑うポップに、メラを撃つようにと重ねて言うゴースト君。メラ一発ぐらいの魔法力はあっても、それでは効き目がないと分かっているから煮え切らないポップに、ゴースト君はマァムに撃つようにと急かす。

 そう言われてマァムを見返したポップは、彼の意図に気づき、マァムの名を叫びながらメラを放つ。

 ポップの声を聞いたマァムは、力を振り絞って両腕を上に上げる。伸ばしきった彼女の手にメラの炎が当たり、粘液を溶かした。

ザムザ「しまった!」

 手が自由になった途端、マァムは両手を組んで高々と振り上げる。すでに光の宿った両の拳が、ザムザの手に同時に叩きつけられた。 
 閃華裂光拳が炸裂し、ザムザの右手にヒビが入る。

 自らが生み出した爆風に吹き飛ばされるマァムだが、彼女はしっかりと着地する。
 そして、その隙を最大のチャンスと捉えたダイがアバンストラッシュの構えを取り、紋章の力を発動させた。

 一瞬に自分の全ての力を込めて、ダイは高所から一気に飛び降り、その勢いのままザムザに斬りかかる。
 マァムの閃華裂光拳で片腕を失ったザムザは、まともにアバンストラッシュを喰らった。

 着地と同時にダイの手から紋章が消え、力尽きたダイは再び剣を杖代わりにする。
 
ダイ「どうだっ!?」

 振り返ったダイの目に映るのは、じっと佇むザムザの後ろ姿。
 振り抜いたザムザの目は、まだ険しさを失ってはいない。それに怯むロモス王や決勝メンバー達。
 
 ダイも満身創痍で、立ったいるだけでもやっとの様子だ。
 そんな中で、マァムだけが確信を持って言い切った。

マァム「勝った……!」

 マァムの言葉がきっかけだったかのように、ザムザのハサミを失った左手からヒビが入り、それが心臓まで達した途端、身体を爆発させるような光となった。血を撒き散らして倒れるザムザ。

 超魔生物である自分がゴミみたいな連中に倒されたのが信じられないとばかりにザムザは叫ぶが、すでに勝負は決していた。
 ザムザは地面に仰向けに倒れ込む。

 その直後、ダイは剣にすがったまま地面に膝を突く。
 夕闇が広がり始めた空の下、ロモスの人々の快哉が響き渡る。誰もが勇者の勝利を喜び、感激していたのだ。

 そんな中、ザムザの巨大化したからだが見る見るうちに縮み、本来の魔族としての身体へと戻っていく。
 生まれたままの姿で仰向けに横たわるザムザだが、無傷とは言えなかった。ダメージも露わな彼は、なぜ自分が負けたのかと自問自答を繰り返す。

 超魔生物としての肉体を持ち、負ける要素など無かったはずの自分がなぜ負けたのか……。
 ザムザのその問いかけに応じたのは、ポップだった。

ポップ「……さあね。ネズミにでも聞いてみるんだな……追い詰められたネズミによ」

 そう言いながらチウを指さすポップ。
 チウはキョトンとしているが、ザムザはその言葉から正解に辿り着き、満足したような笑みを浮かべる。
 負ける要素は、敵をゴミと侮った自分の中にあったのだと自覚したのだ。
 そんなザムザを、じっと見つめるマァムや、ロモスの人々。

 ポップはまだ蹲っているダイの側に行き、助け起こす。勝利を喜ぶ二人だが、ダイが手にしていた覇者の剣がボロボロに朽ちているのを見て、驚く二人。
 
 伝説の剣でもダイの力に耐えられなかったのかとポップは驚くが、ロモス王はそれを否定する。
 覇者の剣は以前ダイに授けた覇者の冠と同じ、オリハルコン製。オリハルコンは永久不滅の金属とされていると力説するロモス王。

 なら、なぜ壊れたのかと問おうとしたポップに、ザムザが笑いながら声をかける。
 その覇者の剣は偽物であり、本物はすでにハドラーに献上済みだと暴露するザムザ。

 ザムザは震える手で自分の額につけたサークレットの飾りをちぎり取り、空へと放り投げる。

ザムザ「届け、我が父の下へ!」

 魔法力の篭もったそれは、ルーラに似た軌跡を残して飛んでいった。
 何をしたと問い詰めるポップに対し、ザムザはあれが超魔生物のデータやザムザの知識の全てがこめられていること、あれさえあればザボエラが自分の研究を引き継いで完成してくれると、どこか得意そうに話す。
 だが、そう放すザムザの身体を、浸食するように灰色の染みが覆っていく。

 ポップは、ザボエラはそんなことをしても感謝などしないと言い切った。
 それを聞いだザムザは、一瞬反応を見せるも、口調は穏やかだった。
 すでに肌色の部分がないほどに灰色に浸食され、更にはさらに黒い染みに覆われつつある中、ザムザは父親であるザボエラについて語る。

 彼が決して感謝などしないこと、周囲を道具としか見ていないこと、自分が死んでも涙1つ流さないこと――ザムザは、それら全てを分かっていた。

ザムザ「だが、あんな父でも、オレの父であることに変わりは無い……」

 ザムザの言葉に、目を大きく見張るダイ。
 全身が炭化したように黒く染まり、あちこちから煙を上げだしたザムザを見て、マァムが駆け寄ってきた。
 屈み込み、軽く手を触れるも、それだけの動作でザムザの肩はボロッと崩れてしまった。

 驚くマァムに、ザムザはこれが超魔生物となった者の定めだと言う。
 敗れ去った時は、灰すら残さず消滅する……神が与えた命に手を加えた天罰かもしれないと語るザムザだが、その表情も、口調も、どこか吹っ切ったようなすがすがしさがあった。

 すでに全身が黒く染まり、崩壊の予兆である黒煙も色濃く立ち上る。ついに、足首がボロリと崩れた。それを機に、崩壊の音が次々に響き出す。

 じっとザムザを見つめるマァムに、彼は同情など要らないと言い切った。
 ザムザは、満足していた。
 つかの間とはいえ最強の肉体を有したことも、ダイ達との戦いにも。

 いつか、完全なる超魔生物がおまえ達を倒しにくる。そのためにも、自分の戦いは無駄ではなかった――そう言い残し、ザムザは目を閉じる。
 黒煙と共に灰が一層強く散らばり……その煙が薄れたときには、もう、ザムザはいなかった。

 灰となり完全に消滅してしまったザムザを前に、ポップは呟く。

ポップ「こいつ……親父に褒めてもらいたかったんだろうな……」

マァム「表面上はどうあれ、きっと心の底では父親の愛を求めていたんだわ……」

 ザムザに同情的な、ポップとマァム。
 そこに、ダイが一歩、近づいてきた。

ダイ「分かる……おれ、なんとなく分かるよ」

 ザムザの残滓とも言える煙が薄れていく中、夕日が美しく輝く。その中で、朽ちかけながら地面に突き立てられた剣もまた、かすかな煙を上げていた――。 
 






 その頃――。
 不気味な岩山の中に、ザボエラの歓喜の笑いが響き渡る。どこか狂喜じみた笑いを上げるザボエラの目の前にあるのが、ザムザが送ったサークレットの飾りだった。

 彼は息子の人生が200年足らずと短かったが、有意義だったとご満悦だ。ザムザの成果により、魔王軍最大最強の魔神が生まれると浮かれるザボエラの背後には、繭上の水槽のようなものに、たくさんの管に繋がれて目を閉じているハドラーの姿があった――。


《感想》
 
 今回の感想はなんと言っても、これ!

『パンチラ大炸裂回!』

 ええ〜……パンチラを見せない方向性を選んだからこその、武闘着の下は一切ベタで押し切る作戦としての黒ストかと思っていたのですが、違ったみたいでした。
 黒ストの上にアンダースコート、もしくはブルマをはいていることにしたみたいですね。だから、見せまくっても問題は無い、と。
 
 ……だからって、原作にも無かった股間大アップパンチラまでやらかすとは思いもしませんでしたが(笑) え、え? きわどいカット、多すぎませんか……? なんか、いきなりやりたい放題にやっとりますね。

 原作とは全く違うアングルからのマァムの格闘シーン、すでにパンチラに対する配慮は微塵も見受けられませんがっ!?
 ……それにしても、黒パンスト、異常なまでに丈夫ですね。何をやっても破けないし、伝線すらしない(笑)

 それはそれとして、原作ではモノローグだった「蹴りはフェイント」という言葉が、アニメではしっかりと喋っていました。口に出したら、フェイントの意味がないのでは……と、突っ込むのは野暮でしょうか(笑)

 嬉しかったのが、ザムザ攻撃後のマァムの回避行動。
 両手、両足をピンと伸ばしたタンブリングは体操選手の床運動のような華麗さでした♪ 

 原作では空中をクルッと回転して降り立った、という描写がされているのですが、アニメでは動きがさらに細かく描写されています。まあ、マァムの華麗なタンブリングの横を、勇者ダイ君はずずざざーっと滑ってポップ達の所まで転がっているのですが。

 ポップが嬉しさのあまりか、チウの肩を抱くシーンはいいですね。原作ではないシーンなのですが、二人とも嬉しそうな顔をしていて微笑ましいです。
 ついでに、マァムが「ふぅー」と息を吐くシーン、カンフー映画で攻撃の前後に武術家が見せる息吹って感じで、雰囲気が出ていました。これも原作にない改変です。

 マァムがダイの方を確認せず、ザムザに注意を払っているのもいい感じですね。回復を優先しがちだった僧侶戦士の時と違い、自分が前線を受け持つ戦士だという自覚が生まれたように感じられます。

 ダイの身体についていた粘液、微妙にとろみがついてへばりつくという、いやんな感じに変化していました! さらっとした感じだったので胃液タイプかと思っていたのですが、血液のように空気に触れると凝固するタイプの液体だったのかも。

 ダイのダメージについて語るポップのセリフがカットされまくっていたのは、ちょっと寂しいところ。
 武術大会メンバーも、原作より人数が増えているとは言え、さすがに全員までは描ききれなかったみたいですね。

 原作では、兵士に肩を借りている狩人のヒルト、ゴメスだけですが、アニメでは、兵士に肩を借りている狩人のヒルト、自力で歩いているスタングルにラーバ、唯一のセリフ付きとして兵士に肩を借りているゴメスの4人が登場しています。

 ……って、フォブスターが一番ひ弱そうだと思うのですが、助けてやらんのか(笑) 騎士バロリアも、鎧が重そうだから見捨てられた……?(笑)
 いやいや、ゴースト君は自力で移動しているだろうから、彼がこの二人を助けたと信じたいです。

 マァムのアクションシーン、緩急がついていていいですね。
 一瞬でザムザの間近まで移動し、蹴りを食らわしたかと思うと、身を翻して距離を取るというヒットアウェイ戦法がお見事。離れ際、逆さまになってゆっくりを落ちていくマァムのアップのカットが、すごく印象的でした。

 ブロキーナ老師の回想シーンを、ここに持ってくるとは。
 のんびりユーモラスで、どこまでもお人好しな語り口調がなんかいいですね。彼と毒舌マトリフのやり取りが、今から楽しみです。

 説明の時、岩を崩して絵を出現させたのは爆笑しました。老師っ、なにを無駄に凝りまくった仕掛けを用意してるんですかっ!? 
 岩の上から降りるシーンもアニメの改変ですが、終始見下ろす位置にいた原作より、弟子に近づいて話すアニメの演出の方が気に入りました。

 マホイミの説明、ほぼ抜かさずに丁寧に説明しているのには感心しました。アニメだと情緒的なシーンや台詞はちょいちょい端折るのに、技や魔法の説明は詳細に語りますね。

 それはいいとして、回想の回想シーンに登場するリカントに拳を打ち込む少年戦士、なんだか幼いヒュンケルに見えてなりませんでした(笑)

 ブロキーナの「わしってしぶい?」の台詞の後、原作ではチウは困ったような顔をして「え……ええ……」と言っていたのに対して、アニメでは思いっきり派手にコケていました。
 チウをとことんギャグメーカーとして利用するスタイル、好きです♪

 原作では無言のまま背中を見せていたマァムが、目を伏せて俯きながらも一筋の冷や汗を流し「ぅぅん……」と、口ごもるように唸ったシーンが追加されていたのも嬉しい限り。
 真面目だから目上のブロキーナ老師にはツッコめないけど、このふざけた態度はどうかと思うと不満をわずかに覗かせる表現がいいですね。

 マァムのネリチャギ、すごいっ。あんな高さのあるネリチャギは初めて見ましたよっ。しかも、その後、目を狙った水平撃ちとは、なんと容赦ない!
 ザムザを倒した後、マァムの仁王立ちの後ろ姿が披露されるシーン、いいですねえ。思えば、マァムの真正面からの後ろ姿は初めて見た気がします。
 そこから振り返る、毅然とした表情が萌えまくりですっ!
 
 ザムザのガード戦法、これも原作にはない改変ですがいいですね。
 倒れた時にザムザがマァムの攻撃の差に気がつき、確認するために守りを固めて様子見をしている展開になっています。

 ポップがチウに道具を出すように頼むシーン、やたらと焦っている感じなのがよかったです。原作では怒鳴っている風でしたが、アニメでは心配と焦りが強い感じですね。

 チウ君の道具を出すシーン、ポップとのやり取りが実に軽妙で笑っちゃいました。チウ君のテーマソングに合わせ、探している間は尻尾がピコピコ震えていて、何かを探し当てるとピンと伸びる、という描写が細かくて可愛いですね!

 そして、ポップ、一目で草の区別がつく辺り、道具類にもそこそこ詳しそうです。
 チウの秘蔵の道具、心なしか原作よりも増えているような……(笑)

 原作ではチウが戦った相手は軍隊アリ5匹だったのですが、アニメではモーモン4匹(画面内に移っていた最大数)に変更になっていました。
 一見可愛い外見ながら、口を開けた時のエグい顔の差が受けたんでしょうか?

 ポップがチウにツッコむシーン、ベリッと回想シーンを破って顔を出す、という漫画的表現なのが面白かったです。
 ツッコまれたチウが、ヒゲをしおしおにしてしょんぼりしている顔も可愛かったですし。

 マァムの手を覆ったねっとりとした粘液……半透明の緑色で中の肉体が透けて見える上に、音が妙にねちゃねちゃしていて……あ、あのぉー、これ、薄い同人誌などでよく見たことのある感じのモノに似てるんですが(笑)

 拳だからいいような物の、これが全身にと思うと――ひたすらあやしく見えてくる気がします。そういやダイに貼り付いていた粘液も、色が緑だからまだマシだったけど、あれが白かったりしたら色々とヤバかったような気が……いやいや、邪な目で見ちゃうからいけないんですよね、うん!
 
 では、食欲な目で!
 マァムがもっちゃもっちゃと両手をこねくり回している図、昔懐かしの水飴を思い出しました。練るほどに白くもったりとするんですが、正直、あまり混ぜない方が好みでしたっけ。

 と、どうでもいい思い出はともかくとして、ザムザの説明は思いきった改変がされていました。
 攻撃が二種類、という言い回しは原作では無かったけれど分かりやすくていいですね。

 涙のどんぐりを見つけたチウ、尻尾を嬉しそうに振っていました! アニメでは、尻尾の感情表現が豊かになっている気がします。

 マァムを蹴り飛ばした後、片足で立っているザムザが妙に可愛く見えました♪ あれだけの巨体なのに一本足で軽々立てるってことは、相当に体幹もいいみたいですね。

 ロモス王が必死にマァムに逃げろと言うシーン、彼の人の良さが存分に出ていますが……それでも言いたい。
『いや、あんたが逃げろよ』と(笑)

 ザボエラの回想、色合いの不気味さが非常に似合っていました。目玉から入る演出もよかったですし♪
 原作の目玉の切り抜きのような絵柄を上手く活かしているなぁと感心しました。

 ダイが剣を抜くシーン、かっこよかった!
 アーサー王伝説以来、勇者が台座に埋め込まれた剣を抜きのは定番ですね。

 そして、今回のゴースト君は原作のイメージ通りのふっくらシーツ仕様のまるっとした感じでよかったです。すね丸出しのおっさん像じゃなくなって、本当によかった……!
 
 メラを撃つ時のポップ、まず、相手の意図を考え、それに気づいてハッとし、キリッと表情を引き締めるという表情の変化があったのが嬉しかったです。

 台詞の改変も、いいですね。

アニメポップ「マァムーッ! メラ! それで粘液を!」
原作ポップ「マァム、メラが行ったぞ――っ! そいつでその粘液を溶かすんだぁ!」

 戦闘中は省略する方が雰囲気が出ると思います。

 しかし、閃華裂光拳炸裂直後、マァムが吹き飛ばされつつも無事に着地するシーン……スカート部分が思いっきりめくれ、青パンが丸見えになったマァムのお尻の大アップシーンが一瞬とは言えバッチリあったのですが(笑) スローにして停止にして、やっと見えるような瞬く間でしたけど。

 いや、なぜよりによってその角度にセレクトしたのか……は、分かるような気がしますが(笑) 無難に上半身の動きを描いていたも良さそうなモノなのに、あえて後ろからの角度でお尻や太股のラインまでしっかりと描き込んでいる辺りに、スタッフさんの拘りを感じました。

 ダイのアバンストラッシュシーン、動きの速さと溜めが最高でした。
 攻撃の後、仲間達の顔のアップに加え、音を消して真っ白な世界の中でまるで時間が止まったようなスローモーションな動きを見せることで、原作のカラーページを見事に再現していましたね!

 あ、スローにしたせいか、ロモス王と決勝メンバーの出番は省略されていましたが(笑)

 攻撃されたザムザが、今までにないほど大きく口を開いて叫んでいましたが、顔の大きさ以上に口を大きく開けるという極端なデフォルメをかけているにも拘わらず、シリアスな雰囲気が崩れない辺り、ザムザのデザインの確かさを感じました。

 トサッとダイが静かに着地するシーンから、マァムが勝利を確信する台詞を言うまでの流れの、渋いこと!
 時代劇やカウボーイの決闘のように、一瞬、どちらが勝ったか分からないと迷わせてから、敗者がドウッと倒れる演出風ですね。

 ポップの、「追い詰められたネズミ〜」の台詞がしっかりと入っていたのは嬉しい限り♪ そして、ポップの言葉を聞いて、考えるように目を彷徨わせてから、正解に辿り着いて満足した笑みを浮かべるザムザの表情変化も気に入っています。

 ザムザは決して性格的に褒められた敵ではないですが、真面目に正解を模索する精神を持っていると言う点で、ザボエラと一線を引いているなと感じます。

 ザムザの声優さんの演技も相まって、超魔生物化した時のはっちゃけ具合よりも、淡々とした研究家肌な理性家の方が彼の本質だという印象を受けました。

 ザムザの死亡シーン、色合いの変化がお見事。
 最初はダメージ描写が原作に比べて少なすぎると思ったし、マッパかいと思ったものの、じわじわと灰色から黒へと変化させ、最終的には霧散させる演出は実によかったです。

 原作の精密なまでの掛け線による影の描写惚れ惚れしますし、大いに気に入っているのですが、あそこまで手の込んだ絵をアニメで再現するのは困難でしょうしねえ。

 ザムザの最後の言葉の際、それを聞いているのはポップとマァムで、ダイは画面に描かれていないのですが、アニメではザムザが「いつか、完全なる超魔生物がおまえ達を倒しに来る」と語る時、どこか悲しげな顔をしたダイのカットが入るという改変がありました!

 原作では「おまえ達を倒す」と語っているのですが、アニメではハドラーがダイ達の所へ来ると確信している感じですね。
 そして、それを聞いているのがハドラーと対戦するダイなのが、非常に印象的です。

 ザムザ死亡シーンのポップとマァム、それにダイの台詞も情感たっぷりで実に良かったです。原作でもこの回は夕日が美しく描かれていましたが、アニメだと夕焼けの色鮮やかさがことさら見事ですね。

 そして、そんなにも美しい夕焼けからザボエラのアジトへの変化が、明暗差が激しすぎです(笑)
 原作では、ザボエラのいるアジト内から始まるのですが、アニメではザボエラが潜んでいる小島っぽいシルエットを見せていましたね。

 ところで、来週は総集編!
 個人的にはあまり総集編は好きではないのですが、誰を贔屓する感じでの構成になっているのか、見るのが楽しみです♪

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