H.8.9.9 (月)No41 『最後の願い』

 

 神の涙を一片も残さずに消し去ろうとするバーンの手によって、ゴメちゃんは砕け散った……!!
 ゴメちゃんの名を叫び、伸ばしたダイの手に水滴の様なかけらが落ちる――その瞬間に、ダイは不思議な変化を感じる。

 気が付くと、ダイは懐かしいデルムリン島を遥か上空から見下ろしていた。
 戸惑うダイに話しかけるのは、手のひらに握り込んだ水滴……それは小さなゴメちゃんへと変わる。
 ポップから聞いたことがあるとはいえ、ダイがゴメちゃんの声を聞くのは初めてだった。


 ここはダイの意識の中――二人の心の中だけで、時間は止まっている。
 しかし、こんな不思議を目の前にしても、ダイにはまだ、ゴメちゃんが神の作ったアイテムだとは信じられない。

 だが、ゴメちゃん自身が自分は神の涙だという。
 今になって、彼にはようやく自分自身のことが分かったのだ。さすがにショックを受けるダイだが、自分が悪いわけでもないのに謝るゴメちゃんを見て、すぐに立ち直った。
 ゴメちゃんの正体が何でも、友達なのは変わらないのだから――。

 それを聞き、喜ぶゴメちゃん。
 ダイが自分の思った通りの子で良かった……ダイの願いが聞けて、良かった、と。
 ダイは覚えていないが、神の涙がデルムリン島に落ちて、出会ったのが幼いダイだったのだ。

 もともと、神の涙に心があるのは悪しき願いを叶えないように判断するためだが、ゴメちゃんという姿と心に変えたのはダイの願いゆえにだった。
 思い出してというゴメちゃんの誘いに、ダイはゴメちゃんと過ごしたデルムリン島での日々を思い出す。

 冒険を夢見て、海を見ていた日々……いつも、ゴメちゃんはダイと共にいた。
 幼い頃――一人で遊んでいたダイは、しげみの奥に光る涙型のものを見つけた。それこそが神の涙だが、小さなダイはそれが何なのか分からず、生き物と思い込んだ。

「……コワがらなくていいよ。おいで。
 ぼくのトモダチになってよ……!!」

 何の衒いもなく伸ばされたダイの手の中で、神の涙は小さなスライムへと姿を変えた。 トモダチがほしいと願った小さな少年のために、無限とも思える力を秘めた神の涙は、その身を無力なスライムに変えて、少年の側にとどまった。
 ダイのために、ずっと――。

 だが、じきに別れの時が来る。
 死ぬわけではないが、砕けた神の涙はまず十年以上元には戻れないし、もうダイやポップ、そしてみんなのことも忘れてしまう。
 それが残念だと涙するゴメちゃんだが、自分のしたことを後悔する気はない。

 無意識にみんなの願いを叶え続け、身体も縮んでしまったが、本当に楽しかったから。 デルムリン島での日々も、レオナとの冒険も、島を出てポップやマァム達と過ごした日々も――本当に楽しかったから……。

 どんどん身体が小さくなり、消えようとしているゴメちゃんは最後に願いはないかと聞く。
 ダイやみんなのために、力を使ってあげたいのだ。

 今、一番にダイが願うのは、心を一つにすること。
 ほんのわずかでも、メルルとポップの様に世界中の人々が心を一つにしたら、もしかしたら――そう訴えるダイに、ゴメちゃんはできるだけやってみるといって、フワリと宙に浮かぶ。

 小さくなって消えていくゴメちゃんに、ダイは涙ながらにその名を呼んだ。
   そして、ダイは現実に戻る。
 一瞬の夢から覚め、床に転げたダイをバーンは冷たく見下ろす。

 爆発まで一分足らずだと言ってのけるバーンだが、ダイ達の心を打ちのめしたのは、小さな友達の消滅だった……。
 だが、失意のダイの耳に、立てよと励ます声が響く。

 それは、北の果て、オーザムにいる偽勇者達の声だった。ダイの願いは、叶えられたのだ――!!

 


《タイムスリップな感想》

 うぅうう〜っ、感動でござるぅうっ!!
 ゴメちゃんって……、ゴメちゃんって、なんて健気…っ。しかし、これで今までの疑問やら謎がよーく分かったぞ。

 今回、一押しのシーンは小さなダイがゴメちゃんに友達になってと、頼むシーン。なんか記憶喪失の時のセリフを彷彿とさせて、微笑ましかったなぁv
 それに、回想シーンがコピーではなく全て書き下ろしだったのが、なんとも嬉しいところ!

 それにしても……まさか、ここで出てくるとは思わなかった偽勇者(笑)
 あいつらが役に立つ日がこようとは、正直夢にも思わなかったや。 
 
 

次へ続く
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