2 ダイ 竜の騎士の血を引く勇者! 太陽のような、希望の戦士

  

 ダイは伝説と言われ、神の使いとも言われた竜の騎士と人間との間に生まれたたった一人の混血児。
 本名はディーノ。アルキード王国の旧い言葉で『強き竜』と言う意味だ。

 長い竜の騎士の歴史の中でも前例のない形で生を受けたダイの出生の秘密を、アバンが知っての上で育てていたのかどうかは分からない。
 だけど、アバンがダイに見出だしたのは、なによりその心の純粋さだった。

 怪物でも敵でも同様に自然体に接することのできる、純真な心――5つの力のうち一つだけはっきりと分からなかった力こそが、ダイの力の源であり原点なのだ。

 ダイはその素直な性格の通り、心も技も気持ちいいぐらいスクスクと真っ直ぐ伸びていく直線型の成長をしている。

 また、勇者というだけあって、全体のバランスも悪くない。
 竜闘気が使えるのが強みで、攻撃、防御ともに秀でているが、弱点は魔法力の偏りと心理戦での駆け引きの甘さ……これに尽きるっ。

 普通の勇者は攻撃魔法よりもむしろ防御、補助を多く覚えるもんだが、ダイは回復魔法さえ使えない。
 たいしたレベルではない攻撃魔法と、移動魔法しか使えないんだから困ったもの。

 また、ダイはどうも相手の力や行動を分析するのは苦手らしく、持ち前のカンのよさでただ漠然と『なんだか今までの敵と違う気がする…』とか『なんとなく分かるよ…』と、感覚で敵の心理を感じ取ってしまう。

 ……まぁ、それも一つの方法だからいいとか悪いとか言っても始まらないが、こんな風に感性に重点を置いてしまうと狡猾な作戦を立てて攻撃してくる相手に対応しにくくなるのも確か。

 それに、常に全力で戦う真面目さが、戦闘時の力配分の未熟さに繋がっている。
 しかしダイの最大の長所が、どたんばでの一撃とその研ぎ澄まされた闘争本能にあるのも確かなこと。

 長所をあわせ、欠点を補うためにこそ仲間は存在するのだから、別に構うまい。その欠点を補う力を持った仲間はちゃんといるのだから……。

 


≪☆カッコイイから勇者になりたい! …最初はこんなもんだった≫

 さて、デルムリン島から怪物と友達の男の子として登場したダイ君――スタート時は決して強くもなければ、立派な志を持っていたわけでもなかった。

 なにせ『勇者の方がカッコいいから』という程度で勇者に憧れていた少年だ、剣も最初はちっとも強くなくて偽勇者のでろりんにコテンパンにやられてしまっている。
 怪物達の力を借りて、やっと勝った(?)ような有様だった。

 ここで注目したいのがダイが最初から持っていた力が竜の騎士の力ではなく、怪物と友達になる力だったことだ。
 アバンの目はやはり正しかったと言うべきだろう。

 

≪☆友達を守りたい! 努力より、本能がつおいっ≫

 しかし、そのうちダイは、怪物と友達と言うだけでは解決できない事件に巻き込まれる。レオナと二人で地下の洞窟に落とされ、毒で苦しむ彼女を助けたいと一心に願ったダイは今まで気付かなかった自分の秘めたる力……竜の騎士の力に目覚めたのだ!

 額に竜の紋章が浮かぶとき、ダイのパワーは数倍にも膨れ上がる。
 そして、この力がダイの主戦力になる。
 何年も修行していたはずの魔法や後にアバンに習った剣よりも、怒りの力によってほぼ無意識のうちに繰り出される竜の紋章のパワーは、ダイの第一の切り札になった。

 パプニカお家騒動、対ハドラー戦、対クロコダイン戦はいずれもダイの秘めたる力によって、逆転勝ちしている。

 もちろんダイもまったく修行をしていなかったわけではないが、ダイの場合は実戦を重ねれば重ねるほど強くなるタイプだし、それに生半可な修行よりも竜の紋章のパワーの方が凄かったのも事実。

 しかし本能だけで動いているだけあって、この頃のダイはこの力をコントロールしきっておらず、本人に言わせると『わけがわかんなくなっちゃって、思いどおりに戦えなかった』そうだ。

 

≪☆竜の力の目覚め!! より、高くを目指したい!≫

 『怒り』による力ではなく、自分自身の力を使った戦い――対ヒュンケル戦はダイにとっては心情的な意味での戦いにくさが先に立って、竜の紋章のパワーがまったく使えなかった。

 似たような境遇の、しかも兄弟子が相手……ポップのサポートで戦いに挑んだもののヒュンケルに破れ無意識状態になったダイは、剣と魔法を組み合わせて攻撃する魔法剣を編み出した!

 そして、その自信がダイに竜の騎士の力を使うだけでなく、自分の力で技を会得する強さを身に付けさせた!

  対フレイザード戦でアバンストラッシュを完成させ、戦うためでなく、人を……レオナを救うために魔法を唱えることを覚え、ダイは力を着実に延ばしていく。

 苦手だったはずの魔法も自ら覚えたいとマトリフにせがむほど強くなることに熱心になっていったのは、やはり戦闘のために生まれた竜の騎士の血の成せる技なのかもしれない。

 ……そして、その力の強さゆえに、ダイは傷付くことになる。
 ベンガーナのデパートを襲ったドラゴンやヒドラを倒した力の凄まじさに、回りの人間達から怖がられたダイは初めて自分の異質さに気がつき、自分の正体について悩むようになる。

 人間でなければ人間の仲間に入れないのだとしたら、自分はどうすればいいのか。ポップやレオナに嫌われたくない……そう思ったダイは、一人で竜の神殿を訪れ――そこで魔王軍超竜群団長……父バランと再会する。

 

≪☆宿命の親子! 父を越えるために…≫

 自分の元に戻り、人間を滅ぼす一員となれ――そう告げるバランにダイは強く反発する。あくまでダイを信じ、仲間と言い切るポップの言葉に力を得てダイは父親と真っ向から対決するが、バランのダイに対する執着心は強くダイは記憶を奪われてしまう。

 白紙の状態に戻ったダイは仲間のことも忘れてバランに言われるままついていこうとするが、それを引き止めたのはポップだった。
 バランに自己犠牲呪文をかけてまでダイを引き止めようとしたポップ……その死のショックでダイはすべてを思いだし、人間として、勇者ダイとしてバランと戦う。

 人知を越えた戦いの結果、ダイは竜の紋章の力を自分の意思で操れるようになった。
 しかも、今まで額に発動していた印が拳に移動し、より攻撃力が増した存在になったのだ。

 父親との生死を賭けた戦い――勝利したもののダイは、人への憎しみに凝り固まったバランの考えを変えることはできなかった。

 この戦い以降、ダイは二つの想いを強く意識することになる。
 一つは、仲間を二度と死なせないと言う想い。
 もう一つは……バランに勝ちたいと言う強い意思。

 バランを倒すのではなく、ブラスに育てられアバンの教えを受けた自分の方が正しいのだと、それを伝えるためにダイは父を越えたいと真剣に考えるようになる。

 自分の分身とも言える存在の剣を手に入れ、次々と現れる敵を相手に成長していくダイ……だが、いつか戦うはずだったバランと、奇妙な縁から対バーン戦へ向けて手を汲むことになる。

 超魔生物と化したハドラーとの戦い……それが、バランとの最後の別れになってしまった。
 ダイを庇い眠らせてハドラーとの対決に望んだバランは、大魔王バーンの悪辣な企みにより破れ、ダイを守って死んでいく。

 その死にショックを受けながらもダイは死の間際に初めて彼を『父さん』と呼び、その心を受け継いでバーンとの戦いに望む。
 だが、バーンの強さは圧倒的だった。

 無残な惨敗。
 そして剣まで折ってしまい、呆然とするダイを聖母竜が連れていく。
 竜の騎士の命の終わりに現れる聖母竜はバーンには自分でさえかなわないことを教え、ダイに永遠の眠りを与えようとする。

  だが、それを止め、ダイを生かしてくれと頼んだのはほかならぬバランだった。ダイを信じ、生き返らせてくれたバラン……だが、地上で目覚めたダイにはもう戦う気力もなければみんなからよせられる期待に応えることもできず、一人逃げ出してしまった……!

 

≪☆そして、真の勇者に…≫

 無意識にテランに……バランと初めて会った国に逃げてきて泣いていたダイに声をかけたのは、ポップだった。

 逃げたダイを責めるでなく、そして無理に戦いを薦めるのでもなく、それでもダイにもう一度立ち上がる勇気をくれたのはポップだった。

 対バラン戦の時と同じように、『勇者』だからとか『竜の騎士』だからではなく、ただのダイを信じているポップだ。
 そしてダイは勇者の自覚を胸にみんなの元に帰り、バーンとの最終決戦に挑んだ。

 ……さて、こうしてダイの成長の記録を振り返ってみるとダイの強さの成長が実に素直に、すくすくと伸びているのが分かる。友達を助けたいと思うからこそ強くなり、挫折し、立ち直る。

 ダイの成長は典型的な主人公の伸び方で、また、父親との対決が憎しみからの対立ではないことが興味深い。

 男の子はいつか父親を越えるもの……ダイの場合は考えがまるっきり違っていたが、それだけに父親に素直に従わずに自分の意志を貫こうとして戦った段階で、ある意味ではもう父離れをし父を越えていたと言ってもいいだろう。

 その他、精神的なつまづきの際、ポップの助けが大きいことが目につく。
 最初から一緒にいて気心の知れた友達なだけに、ポップの存在はダイにとって欠かせないもの――ダイにとっては、ポップはまさに人間の象徴のような存在だったのかもしれない。
 
 

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