5 ヒュンケル 戦いにかけては天才的! 闘志を胸に秘めた使徒 

 

 5人の中で唯一、悪に身を染めた過去を持つヒュンケルは、闘志の使徒。
 戦いにかけてはダイ以上のセンスを持ち合わせた彼は、仲間のために命を捨てることも厭わない、驚くべき戦士だ。

 戦士ゆえ魔法は一切使えないが闘気も操ることができ、ロン・ベルクの鎧を身にまとっているせいで攻撃魔法を防ぐことのできるヒュンケルは、総合的な戦力ではもっとも頼りになる男。

 また荒々しく派手な戦いっぷりに似合わず、薬草を持ち歩くなどこまめなところに気を配れる神経も持ち、戦いの中でさえ人の心を思いやってさり気ない後押しをしてやることができる。

 孤独を愛する性格ゆえか修行は一人で行うことが多く、みんなから一歩引いたところにいる印象の強いヒュンケルの成長は、実は後退型。

 悪に身を染めていたヒュンケルは正義の心に目覚めたせいで、復讐心を源にしていた実力を減少させてしまった。

 さらに得意だった剣を捨て、武器を故人の形見の槍に変えてしまったため、また、一から修行をやり直している。
 そのせいではっきりと実力は落ちてしまったのだが、元々の力が強かったため本人もそれを自覚するまでずいぶん時間がかかった。

 だが、ヒュンケルはそれでもなお正義と槍に固執し、最終的には暗黒戦士だった時以上の力を身につけていく。

 複雑な過去を持つせいか洞察力も鋭く、また、剣での駆け引きや戦術にかけては5人の中でもずば抜けていて、見る目も鋭い。
 弱点は、マァムと同じく攻撃魔法がまるで使えない点。

 それに過去に暗黒に身を売ったことが、強いコンプレックスとして残っているようだ。 また、洞察力自体は鋭くてもそれを表現するのが不得手な点や、相手に伝える方法が力ずくになりやすいのも、問題だ。

 人との付き合いに関しては不器用なところのあるヒュンケルは、戦力よりもむしろ人間味を取り戻すことに力を注いだ方がいいのかもしれない。

 

≪☆歪んだ復讐心! 意外と思いこみの激しい性格≫

 ヒュンケルの成長のきっかけとなったものは、憎しみ――。
 アバンを憎むことから強くなりたいと願い、また、その誤解が解けた後も彼には戦うしか道は残されていなかった……。

 幼い頃に誤解があったとは言え、憎しみにこだわり続け歪んだ心を持っていたヒュンケルは、マァムに、そしてクロコダインにそれを指摘されるまでそのことに気付かなかった。と言うより、気付きたくはなかったのだろう。

 内心、アバンの優しさに惹かれていたことも、人間すべてを憎むのがただの逆恨みにすぎないことも理解はしていたに違いない。
 だが、感情がそれを拒んでいた。

 しかし、後にミストバーンが指摘したように、憎しみと正義の善悪両方の相反した心を持っていたからこそ、ヒュンケルは不死身の強さを誇り魔王軍の軍団長を任せられたのだ。
 そんなヒュンケルが、再び正義に目覚めたきっかけはダイとの出会い――。
 ダイと戦い、マァムの優しさに救われたことによって、ヒュンケルは長い間心に押し込めていた正義や人間らしさに心を動かされる。

 

≪☆罪の償いは、遥かに遠い! 命に執着しないワケ≫

 正義に目覚めたヒュンケルは、自分の罪の大きさに死さえ望む。だが、クロコダインやレオナの助言で、ダイ達に力を貸すことでそれを償おうと考え直す。

 自らも認めているように、罪の意識に追われるあまり命を簡単に投げ出すように戦い、生死ぎりぎりまで自分を追い詰めてしまうことも少なくない。
 そうすることで少しでも償おうとするヒュンケルには、自分の命が軽く見えているのだろう。

 だが、仲間のために命をかける捨て身な戦いの中で、ヒュンケルはグランドクロスなど、光の闘気技を身につけるようになっていく。

 

≪☆魔槍に誓った友情! 友の想いを果たすために≫

 みんなにとって、大きな意味を持つ対バラン戦――。
 ヒュンケルもそこで、自分の考えの転機となる戦いを迎える。

 バランに忠誠を誓い、バランの憎しみや悲しみを理解するラーハルトに出会ったことで、ヒュンケルは自分やダイだけでなく、バランをも救いたいという心を持つようになる。

 敵でありながらヒュンケルやポップを助けて死に、ヒュンケルに鎧を残していったラーハルトの遺志をくみとり、それ以降は槍で戦うようになる。

 自分と同じ過去を持つ者に同情し、その考えを変えさせようとする気持ち……かつてマァムにしてもらったことを人に与える気になったのは、ヒュンケルにとっても初めての経験だった。

 結局、その時は説得できなかったが、後にヒュンケルは命懸けでバランを説得し、バランとダイを協力させるのに成功する。

 

≪☆光の師、闇の師…闇と光の宿命!≫

 ヒュンケルが自分の成長が後退しているのをミストバーンに指摘されたのは、対鬼岩城戦。

 光と闇の闘気を併用することで強くなっていた過去のヒュンケルに比べ、中途半端に光の闘気に頼るようになった今の彼は弱くなったと指摘されショックを受ける。
 だが、彼を信じ、正義の力だけで戦ってほしいと願うマァムの言葉に励まされ、ヒュンケルは正義の戦士にしか使えぬ『空』の技に目覚める。

 だが、光と闇の闘気はどこまでもヒュンケルにつきまとう宿命らしい。
 後に、対バーン戦の後クロコダインと共に捕らえられたヒュンケルは、ミストバーンからもう一度配下に加わって自分の暗黒闘気を受け入れるのならば生命だけは助けてやると保証される。

 常に命を粗末にしてきたヒュンケルだが、戦いの前にエイミにいわれた言葉が心に残り、どんなに危険な賭でもいいから生き延びることに執着を見せる。

 ミストバーンの提案を受け入れたようにみせかけてヒュンケルは暗黒闘気を取り入れ、自分の中の光の闘気を競わせることによって、両方の闘気エネルギーを高めた。

 そして、暗黒闘気を光の闘気の中に封じ込めることによって、飛躍的なパワーアップを果たしたのだ!

 死中に活を見出だしより強くなったヒュンケル――5人の中で兄貴分にあたる彼は、最終戦を前にして最善の強さを身に付けた。

 

 ……さて、ヒュンケルの成長に関して言えるのは、とんでもなく変則的だと言うこと。 強さが際だっているためと大人びた印象が強いため成長している感じはしないのだが、ヒュンケルは実力的にも精神的にも変化の大きなキャラクターだ。

 後退したり飛躍的なパワーアップを見せたりと一定しない成長は、やはり彼が一時悪に荷担していたのが原因だ。しかし悪に荷担していたからこそ、これだけ強くなったのも事実なのだが……。

 ダイの精神的な成長を支えたのがポップであるように、ヒュンケルの精神的な成長にはマァムとクロコダインの影響が大きい。しかし、物語終盤ではエイミの存在も彼の中では無視できない大きさになってきたようだし、今後の精神的な成長が期待される。
 
 

6に進む
4に戻る
二章目次に戻る
解析目次に戻る

inserted by FC2 system