5 名誉のためなら命もいらぬ、切り込み隊長フレイザード 

 

 無生物に禁断の魔法を使って命を込める術――それを魔法使い達は禁呪法の一つに定め、使わぬように自らを戒めてきたという。
 フレイザードは、ハドラーが禁呪法で生み出したエネルギー岩石生命体だ。

 氷の体と炎の体を合わせ持つように、冷静な判断力と炎のような激情を持った恐るべき戦士だ。

 いわばハドラーの分身、あるいは子供のような存在だが、フレイザードはバーンへの忠誠心はまだしもハドラーへの忠誠心はきわめて薄い。……ある意味、すごい失敗作である。
 後にマトリフが説明したように、禁呪法で生まれた生き物は作り主の精神状況によって性格が決まる。
 フレイザードは性格が歪んでいる頃のハドラーの精神にもろに影響を受けて、名誉と勝利に固執するあまりどんな残酷な手を使うことも辞さない奴だ。

 作り主が死ぬか、核(コア)の部分を破壊されることがなければ不死身に近い体を持つ存在のフレイザードは、手柄を求めてしゃにむに敵へと向かっていく姿勢から魔王軍の切り込み隊長と呼ばれている。

 炎と氷の魔法を得意とし、なまじな攻撃魔法のエネルギーなら吸い取る能力を持ち、得意技は同時に5つのメラゾーマを打ち出す五指爆炎弾(フィンガー・フレア・ボムズ)

 また、全身岩の体を利用しての体を無数の岩に変えての体当たり戦法、弾丸爆花散を得意とし、魔法攻撃、物理攻撃の両方に強さと耐性を持っている。

 傲慢な性格でいつもゲタゲタ笑っている奴だが、いざとなると捨て身で勝利を得ようとする執着心は敵ながら見事だ。
 勝つことや手柄への執念は恐らくハドラー以上だろう。

 彼には、それしか自分の存在意義がないと思っているのだから。
 ハドラーに生み出されてから、ダイ達と出会うまでわずか一年しか生きていないフレイザードは、自分の人格に歴史がないことに強いコンプレックスを持っていた。

 おそらくは、ハドラー自身の持っていた焦りの感情などが増幅されたのだろうが……。 また、フレイザードは勝利を得て手柄を得る時だけは、心が満たされると自分で発言している。

 ――つまり言い換えれば、フレイザードの心は普段から満たされることがなかった……むやみに勝利を求めたのはその反動に違いない。だが、フレイザード本人も自分がなにを求め、なにに焦っていたか自覚していなかったらしい。

 勝利のみを求める心の貧しさをマァムに同情された時、フレイザードはムキになって言い返し、マァムの同情を跳ね除けた。

 敵とはいえフレイザードの身を心配して止めるマァムの忠告も聞かず、味方と思っていたミストバーンに利用され、ダイの力を計るためだけに死んだ彼の最後はあまりにも悲惨だ。

 最後の最後までチャンスを求めながら、ミストバーンに情け容赦なく踏み躙られて死んだ彼に同情し、ポップが墓ぐらい作ってやろうかと言ったことを彼が知ったらどう思っただろうか。

 ……もちろん、性格の歪みまくったフレイザードのこと、素直に感謝するとも思えないが、彼も後に急成長を見せたハドラーの分身である。
 心の持ちよう一つで、マァムやポップのみせた優しさに応じることができたものを――。
 どんな長生きなものにも及ばない素晴らしい手柄が欲しいと思い続けたフレイザード君だが、気の毒なことに彼は死んだ時を境に、魔王軍の連中からきっぱりと忘れ去られてしまっている。

 回想シーンにすら、登場しないお粗末さだ。
 暴魔のメダルをバーンから直々授けられたという名誉など、彼等にとっては過ぎてしまえばそれこそどうでもいいことなのだろう。

 その代わり、皮肉にもフレイザードのことを思いだしているのは、敵として戦ったポップだ。
 フレイザードの使った魔法を使ってみようとしたり、マトリフに禁呪法を聞く際に彼を思い出したり……それを彼が知ることがあれば、果たしてどう感じるだろうか――。

 

6に進む
4に戻る
三章目次に戻る
解析目次に戻る

inserted by FC2 system