7 飽きた玩具は、壊してしまえ!

 

 さて、魔王軍にはダイ達に比べて冷静な性格の持ち主が多いが、ミストバーンは中でも群を抜いている。

 冷静沈着で不言実行タイプ――役に立たないと思えば、仲間であるはずのフレイザードをあっさり殺してしまう非情な性格の持ち主だ。

 まるっきり感情などなさそうな奴だが彼の行動をこまかく見てみると、意外な一面がちらほら顔を出している。
 例えば、ミストバーンはヒュンケルの命の恩人であり、師匠でもある。

 アバンへ復讐をしようとして失敗し川に転落したヒュンケルを助けたのが、どういう気紛れだったのか分からないがミストバーンだった。
 彼はヒュンケルに剣技を教え、一流の戦士へと育て上げている。

 自分を裏切って正義に目覚めたことに激怒し、一度ヒュンケルを殺そうとした割には、その後魔王軍の捕虜となったヒュンケルに、再度、自分の配下にならないかと誘いをかけたことがある。

 そして、戦士として目覚め、強さを追及するハドラーに友情めいた感情すら見せている。 キルバーンとも奇妙な友情関係にあるようだし、バーンに対しての忠誠度は並のものではない。

 冷酷なのか、それとも仮面の下には情け深い感情が眠っているのか……ミストバーンは正体を掴みにくい、複雑な性格の持ち主だ。

 どうもミストバーンは相手に興味がもてるかもてないかで対する態度が全然違う、好き嫌いの激しいタイプのようだ。

 ミストバーンの興味の対象には、おもしろい共通点が二つある。
 一つは、バーンが気に入っている相手だと言うこと。

 ヒュンケルにせよハドラーにせよ、バーンが大いに気にいって配下に加えた者達だ。偶然か、それともミストバーンが無意識に――あるいは意識的に――バーンの意を受けているのか……なかなか興味深い事実だ。

 もう一つは、完全なものを望んでいること。
 限りない強さと強靭な精神力に裏打ちされた究極の戦士――ミストバーンの理想とするものはこれらしい。

 ハドラーに友情めいた行動を取るようになったのも、ハドラーが強さを求めて生まれ変わった時からだし、ミストバーンの気にいっているヒュンケルは、正義の使徒になる前の、悪に囚われ人間や自分そのものを憎んでいた頃の彼だ。

 正義の使徒となったヒュンケルを、ミストバーンはいつになく感情を露わにして、容赦なく攻撃し、殺そうとした。

 それは裏切ったこと自体を怒っているというよりは、善悪が中途半端になり不完全な存在になったヒュンケルを自分の手で始末したいという思いが強いように見えた。

 壊れた玩具を修理することも取っておくこともせず、いきなり壊してしまおうとするミストバーン――彼の完璧主義はこんなところからうかがえる。

 しかし、完璧を追及し過ぎるものは、些細なミスでつまずくとなかなかそこから立ち直りにくくなるもの。
 そのいい例が、対鬼岩城。

 鬼岩城を壊されたことに動揺し、自分の失敗に逆上したあげく禁じられた封印を解いてまでダイ達を抹殺しようとしたこともある。

 鬼岩城が壊されたぐらいはバーンには大したことではないが、バーンでさえミストバーンの本当の力は危険だと考え、バーンの許可がない限り心の姿を見せてはいけないことになっていたのだが……。

 ロン・ベルクと会った時も意外と動揺していたし、ミストバーンは精神面からの揺さぶりのには弱いのかもしれない。
 実力と共に性格的にも謎の多いミストバーン――いずれ、彼の過去を知りたいもんである。

  

 

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