12 顔よし、性格よし、実力ありのラーハルト

 竜騎衆最後の一人にして最強のメンバーなのが、陸を司る陸戦騎ラーハルト。
 彼はなんと、人間と魔族との混血児で22歳。

 他の二人とは段違いに強く、またバランへの忠誠度や人間への憎しみも彼等の比ではない。
 バランからも信頼されていて、バランは自分の過去を彼に打ち明けてさえいる。

 冷静沈着だが内面に激しい物を秘めているところといい、暗い過去を背負っているところといい、ヒュンケルによく似ている。
 似ているのはそれだけではなく、彼と同じロン・ベルクの作った鎧の魔槍をまとって戦うところも同じだ。

 魔族であった父を早く亡くし人間である母と二人で暮らしていたが、彼が7歳の時ハドラーが世界を征服しようとしたことで、彼の運命は大きく変わった。

 魔族の血を引く彼を恐れ、人間達が彼を、そして彼の母までも迫害したことで、ラーハルトの心は深い傷を負ってしまった。
 なまじ自分も半分人間の血が混じっているだけに、かえって人間への憎しみを感じずにはいられなかったらしい。

 人間を蔑み嫌悪感を隠そうともしないラーハルトだが、ガルダンディーのように人間に無意味に攻撃をかけるような真似はしない。

 なかなかの武人で、腕の未熟なものが相手なら苦しめることなくすみやかに命を絶ってやるのが彼の主義のようだ。
 敵とはいえラーハルトは正々堂々とした人物で、ヒュンケルとの戦いの時も卑怯な手を使うこと無く、一騎打ちを果たした。

 彼はポップには何の手出しもせずヒュンケルと戦ったのだが、彼の強さは当時のヒュンケルを明らかに上回っていた。
 しかも使いはしなかったが、呪文が不得手と本人が言っていた。

 実際に魔法を使っているシーンは原作中なかったが、後の展開を考えると瞬間移動呪文を使えるとしか思えない。
 つまり、彼は剣も魔法も使える魔法戦士という事になる。

 竜騎衆は魔王軍の者としては比較的仲間意識の強い方だが、ラーハルトはガルダンディーやボラボーンの死に際して、たいして感情を動かした様子がない。

 ことにボラボーンに卑劣さに怒りを感じ、自らの手で彼を殺したところを見れば、ラーハルトは3人の中では仲間外れ的な存在だったのかもしれない。

 なんせガルダンディーとボラボーンは種族は違うが獣人だが、ラーハルトはしょせんは人間との混血児、人間をゴミ同然に思っている二人とは深いところで亀裂があったのかもしれない。

 そうでなくても残酷なガルダンディーや卑劣なボラボーンとは、性格の面でも合いそうにないし……。

 一人孤高を守っている感のあるラーハルトが感情をむき出しにしたのは、バランとソアラの悲恋にヒュンケルが同情心を見せた時。
 おまえなどになにが分かると逆上した彼を見れば、彼の性格形成の根底が分かると言うもの。

  つまりラーハルトは自分やバランの受けた悲しみを、理解してくれる者を求めていたのだ。
 それも、恐らくは人間にその理解者を求めていたのだろう。

 身勝手な人間に腹を立て、絶望し、憎む――そんな感情を持つのは、それだけ期待を持ち、信頼を抱いて、愛していたからにすぎない。

 だいたいどうでもいいと思っているものに対しては、善かれ悪しかれ、そんなに強い想いを抱くものではない。
 思い入れのある種族だからこそ、愛憎も深まるというもの。

 本人がどこまで意識していたのかは分からないが、ラーハルト自身、自分の憎しみを覆して売れる人間を求めていたに違いない。

 かつて見た人間の醜さを打ち消してくれるような、人間の素晴らしさを見せてくれる人間を――そうでもなければ死の間際とはいえ、敵として戦ったばかりのヒュンケルやポップを助けようとは思わないはずだ。

 最後に自分の悲しみを理解してくれて、ラーハルトの遺志を継ぐことを誓ったヒュンケルに鎧を譲り渡し、彼は満足して静かに息を引き取った――。
 ……ああ、本当に惜しい敵ばかりが死んでいくなあ。

  

 

13に進む
11に戻る
三章目次に戻る
解析目次に戻る

inserted by FC2 system