13 誇り高い竜の騎士、バラン 

 人間、魔族、そして竜――かつて、この3つの種族がこの世を治めていた。
 そして、その種族同志で覇権を巡って争われた戦いに疎ましさを感じた神々に考えた……この世を粛正するものが必要だと。

 竜の神、魔族の神、人間の神は、相談の上一つの結論を出した。
 竜の戦闘力、魔族の魔力、人間の心を持ち合わせた究極の戦士を生みだし、その者に世界のバランスを保たせる役割を与えたのだ。

 いずれかの種族が野心を抱き、世界を我が物にしようとした時に現れ、それを滅ぼし天罰を与えることこそ、竜の騎士の宿命だ。

 本来この世にただ一人しか生まれず、聖母竜によって生み落とされ、そして寿命をついえる時も聖母竜の迎えを受けると言われている竜の騎士は、その一生を戦いで送る運命を持つと言われている 長くなってしまったが、これが竜の騎士の伝説だ。

 しかし竜の騎士については、魔族で寿命が長いザボエラでさえろくに知らなかったところを見ると、長い年月のうちに廃れてしまった伝説なのかもしれない。

 聖母竜が生み落とす竜の騎士を神の子と崇めて育てる役目をおった人間達さえも、ろくにその話を知らず、わずかな人口しかいないテランの人々がかろうじて知っているぐらいだと言うから、かなりマイナーな種族としかいいようがない。

 しかも人間達に伝わる伝説は、かなり元の話とは違ってしまっている。
 一応、神の使いと言い伝えられているものの、救世主とも、破壊者とも言われているぐらいだ。

 寿命が短い人間では、太古の神々から受け継いだ正式な伝承を残すのは不可能なのかもしれない。

 しかも竜の騎士は絶対の強さを誇るため、単身で戦いを挑むため、時と場合によっては、人間達は竜の騎士が死闘を繰り広げたことにすら気付かないこともある。

 現にバランは、15年前ハドラーとアバンが戦っていた頃、魔界で冥竜王ウェルザーと死闘を演じたが、人間達はそんなことはさっぱり知らない。

 魔族と違って外見はまったく人間と変わりがないし、普段は人間と区別がつかない上、一代限りの種族だからそう有名になるはずがない、と言ってしまえばそれまでだが。

 しかし現在の真の竜の騎士であるバランは、自分の使命や竜の騎士という立場に誇りを感じているようだ。
 そして、その誇りに裏打ちされるように、彼は強い。

 大魔王バーンにさえ対抗できうるほどの力を持っているだけでなく、戦士としての心構えや戦いの駆け引きなど、どれをとっても一級品。さすがは戦うためだけに生まれた竜の騎士だ。

 魔王軍最強の戦士といわれるだけの力を、彼は十分に持っている。
 彼の剣は真魔剛竜剣といい、オリハルコン製で神から与えられたといわれる強力な力を秘めたもの――さすがに武器さえもたいしたものだ。

 しかもあまり使わないが攻撃魔法、回復魔法を共に使えるというから、まさにオールマイティな強さを持つ戦士だ。

 竜の騎士の強さの秘密は、竜闘気(ドラゴニックオーラ)と呼ばれる独特の闘気。
 額に竜の紋章が浮かぶ時、全身が鋼鉄以上に強化されあらゆる呪文を跳ね返す上、攻撃力もアップされる。
 攻防一体の力を秘めた、恐るべき底力を発揮するのだ。

 しかも竜の騎士には真の姿とも言うべき、竜魔人の戦闘形態がある。
 戦闘形態は人間の姿から大きく変わり、翼を供えた魔族に近い姿となり、血の色も人間の赤から魔族の青い血の色に変わる。

 変わるのは外見だけではない。
 精神面にも大きく影響を受け、人間の心や理性が薄れて殺戮の魔獣と化し、力をセーブすることもできず、目の前の敵を全滅すること以外考えなくなってしまうのだ。

 人間の血の方が濃いダイには竜魔人になる力はないが、ない方が幸せと言うものかもしれない。
 あまりにも強大すぎる力は、その持ち主にとっても災いになり兼ねないものだから……。 

 

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