14 親バカなのか、自分勝手なのか…今いち分からん一徹親父

 

 バランは登場がかなり早い割には、ダイ達の前に姿を現したのはけっこう遅めだ。
 それもそのはず、ハドラーがダイがバランの息子だと気付き、二人を合わせないように画策していたからだ。

 バランがダイの正体に気付けば、必ず自分の配下に加えるだろうと見抜いて――。
 現にバランはダイに会いにいった時から、彼を連れ戻そうとしている。

 一応説得しているものの、ダイが素直に従わないと見た途端力ずくで物事を運ぼうとし、ダイの記憶を奪い、ダイの仲間を皆殺ししてでも息子を取り返そうとしたとんでもない親父だ。

 しかし、人間への憎しみやダイに対する並々ならぬ執着心の裏には、バランが過去に受けた人間への憎しみと愛が隠されている。

 ラーハルトが明かした事実だが、バランはその昔、瀕死の重傷を負ったところをソアラに助けられ、彼女と恋に落ちた。

 だが、ソアラはアルキード王国の姫――バランの出世を妬んだ人間達に城を追い出された後も、当時のバランは自分をおいやった人間達を恨まず、これも運命と諦めて愛するソアラに別れを告げてさえいる。

 親を持たない竜の騎士だが彼等は人間に育てられるものだし、心は人間の神が与えたもの。

 精神は人間に近く、バランも冥竜王ウェルザーと戦った時は3つの種族を守るためというより人間を守るため、という意識が一番強かったらしい。


 竜の騎士は子供の頃は並の人間と対して変わらないが、成人後力を発揮すれば人間からその力をうとまれることになる。
 ――と、バラン自身が語っていたが、諦めの早さから見て実際にその経験を味わったのかもしれない。

 しかし、ソアラに子供ができたことを喜び、二人は駆け落ちしたがアルキード王国の追っ手に追い詰められてしまい、バランは自分の命と引き替えにソアラと息子の命乞いをする。

 この頃までは、バランは人間を信じていた。
 だからこそ、迫害されることも容認していたのだ。

 だが、処刑されかけたバランを庇ってソアラが死に、ソアラの死を父親である王が『おろかな死』と罵ったことで、バランの中のそれまでの価値観がすっかり崩壊してしまった。
 怒りに任せて一瞬でアルキード王国を消し去ってしまい、失意のどん底にいるバランにバーンが誘いをかけて自分の配下に加えたのだ。
 バランの考えが180度変わって人間全てを滅ぼす方向に向いてしまったのも、バーンの説得術のせいかもしれない。

 しかし、あくまで自分に逆らい、人間の味方をするダイと戦い、人間の心の強さを思い知ったことで、バランは変わっていく。
 人間の心を取り戻し、ダイの考えを尊重するようになる。

 自分の罪を悔い、ダイの手にかかって打たれることを望むようになり、ダイからも、魔王軍からも去ってしまう。

 だが、バーンの差し向けたキルバーンから、バーンの真の目的が魔界を浮上させることにあると聞き、バランの考えはまた、大きく変わることになる。

 人間どころか地上すべてを滅ぼそうとするバーンに怒りを感じ、バーン敵対の方向へと動きだしたのだ。

 ダイも打倒バーンを目指して戦っているのだから、そこで手を組めばいいようなものだが、たった一人で闘い抜くことに誇りを感じるバランが素直に和平を申し入れるはずもないし、ダイ達から持ちかけたとしても受け入れるはずもない。

 バランはよく言えば意志が固いのだか、悪く言えばただの頑固者で、自分が正しいと信じるあまり勝手な行動を取りがちだ。

 バーンとの戦いで、ダイの先に大魔宮に乗り込むことでバーンにダメージを与え、そんな自己完結したやり方で息子への援護をしようとしたバランを止めたのは、ダイとバランのことをラーハルトに託されたヒュンケルだった。

 言葉ではバランが納得しないからと命懸けで決闘を挑み、脇から攻撃を仕掛けてきた敵から、身をもってバランを庇ったヒュンケルの誠意に心を動かされ、バランは『一時休戦』という形で、ダイとタッグを組んで大魔宮に乗り込んだ。

 親子揃っての戦いは、これが最初で最後。
 なぜなら対ハドラー戦の際、バーンの仕かけた悪辣な罠により、バランはダイを自分の命と引き換えにして庇い、そのために命を落としてしまったのだから……。

 息子であるダイを庇い、自分が竜魔人になる姿をダイに見せたくなかったがゆえに、わざとダイを魔法で眠らせた親心が胸に染み入る。

 そのためダイは幸いにも父の最後の死闘や、自分を救おうとして傷付く父親の姿を見ることがなかった。
 ダイは眠らされたことを憤り不満を感じていたが、おそらく見ない方が彼にとって良かったに違いない。

 しかし、ゴメちゃんの力のおかげ(?)か、死に際にダイに今まで伝え切れなかった想いを伝えることができた彼は、人間の心をもったまま死ぬことができた。

 そして、聖母竜の迎えを受け永遠の眠りにつこうとしたダイに直接話しかけ、強く生きるように言い残して、自分は聖母竜と共に天に還った姿が印象的だ。

 殺戮に明け暮れる竜の騎士として生を受けながら愛する女性を得て、その人との間に子供を儲け、人として死んでいったバラン。
 数奇な運命をまっとうした彼の遺志は、確かに息子へと受け継がれた。

 聖母竜から生まれたバランの死により、真の竜の騎士の歴史は幕を下ろしてしまったが、人の血が半分混じったダイがその後を受け継ぎ、新たなる竜の騎士の伝説を作っていくだろう――。

 

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