15 父親思いのファザコン息子、ザムザ

 ロモス王に取り入り武術大会を開くことを提案した謎の男、ザムザ――彼の正体は、魔族。
 なんとザボエラの一人息子で、妖魔士団の幹部、自称妖魔学士である。

 武術大会の決勝進出者をさらうため、人間のふりをしていたザムザの目的は、超魔生物の研究にある。

 武術大会で姿を見せるまではちらりとも姿を見せなかったザムザは、基本的に研究がお役目で、表立った活躍はしていない。
 外見は確かにザボエラに似ているが、彼よりはずっと背も高く、若い。

 ……若いと言っても魔族のこと、年齢は182歳なのだが。
 最初、変身呪文かなにかで人間に化けていたが、耳や肌の色を隠しただけの変化で、顔や背格好は本体のままだ。

 どーせ化けるんなら、もっとかっこいい姿に化ければよさそうなもんだが、そうしなかったのは自分の外見が気にいっているのか、自信があるのか。
 どっちにしろ、美的感覚が少々おかしいようだ。

 自ら超魔生物の実験体第一号となり、この研究に全身全霊を注ぎ込んでいるザムザは、ダイが自分の目の前に飛び込んできたことにすら喜んでいる。

 それは戦いを好んでのことではなく、超魔生物の理想である竜の騎士と、自分の研究の成果である超魔生物の力を比べてみたいと思ったがゆえである。
 実際、ザムザは戦いよりもデータ収集の方に興味が傾いているようだ。

 ダイの力を知りたがっていたのはもちろん、本来は魔法使い系の職業のせいか、ポップが魔法を使った時はその破壊力の収束率や連発性など、カルトな分野に驚いていた。
 ……戦いの時に自分の趣味を出しているようでは、戦士とはいえんぞっ、ホントに。

 当時、超魔生物の完成度は90%程度で、変身すれば魔法も使えなくなる不完全なものだったが、それでもそのパワーとスピードは圧倒的で、ザムザ自身はろくな体術や技がないのに体力だけでダイを圧倒していた。

 言っては悪いが、ザムザは戦略的に優れていたとはお世辞にも言えない。
 むしろ、マニュアルやシミュレーションだけで実戦を知っているつもりになって得意がっている優等生的な甘さが見え隠れする。

 ダイやバランのことを知っていた割には、ポップやマァムのことは名前すら覚えていなかったところからも、彼のエリート意識が伺える。

 ザボエラならダイの実力を封じようとした上、ポップやマァムがダイの手助けをしないように、なんらかの手を打つだろうが(きっと、とんでもなく卑怯な方法に決まっている!)親には及ばないところが二代目のボンボンって感じだ。

 超魔生物の力を過信して、相手の攻撃を躱しもせず受け止めていたのも問題。
 本人は自分の頭の冴えを自慢していたが、いくら相手の弱点を見抜けてもザムザの攻撃は大雑把で詰めが甘い。

 ダイが目的ならば、ダイに勝った時点で引き上げれば良かったのに、生意気なポップやチウ、それにマァムを殺そうとしたのが失敗の元だ。

 しかも相手を追い込みながらも、挑戦者が変わればとどめを刺すのを忘れそちらを相手しているのでは、戦いの初歩すらできていない。

 まあ、戦いに関しては素人でも、ザムザはもともと妖魔学士――学者に必要な向学心と、謎を追究せずにはいられない探求心は持ち合わせていた。

 人間をごみ呼ばわりし実験材料ぐらいにしか思っていなかったが、魔族にしては珍しく、親を慕う気持ちを持っていた。

 しかし、親と言ってもあのザボエラ、いい親とは口が裂けても言えず実の息子が死んでも何も思わないような奴だが、ザムザはそうと理解していながらそれでも父を慕っていた。 死の間際最後の力を振り絞って、父親のために自分の研究データを送ったぐらいだ。

 人を人とも思わない最低の男だったが、父親の愛を最後まで求めて、灰すら残さず塵となって消えたザムザ。
 彼を見取ったダイ達の心に残ったのは、彼に対する怒りではなく同情に限りなく近い寂しさ――。

 父親のためになったと信じ、自分の人生が無駄ではないと満足していったザムザが、なぜか気の毒でならない……。

 

 

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