23 奇跡のリターン! プロモーション・ヒム!

 

 ヒムの迎えた、盛りあがりもへったくれもないあっけない死。
  確かに、筆者はそれを嘆いた。

 が――、ダイ達の最後の戦場であるバーンパレス編も盛り上がるだけ盛り上がり、読者もヒムの存在を忘れかけた頃……唐突に、奴は戻ってきたっ!

 人間でいえば心臓に当たる核の部分を思いっきりぶっとばされ、すでに地上から数百メートルも離れたバーンパレスから落下して地面に激突したにも関わらず――死んでも死に切れないという執念を背負ったヒムは、その一念から生還した!

 本来、作り手が死亡すると同時に死を迎えるはずの分身体は、その執念によって一個の生命体へと変化したのだ!
 ……無茶にも程のある話である(笑)

 まあ、日本の将棋と同じく、外国のチェスでも相手の陣地まで達した兵士駒は昇格し、レベルアップするというルールがあるそうだから、一応納得できなくはない。

 しかし、それはそれとしてせっかく九死に一生を得て生き返ったのなら、真っ先にすべきことが自分を負かした相手への再挑戦ってのはどーかと思うのだが。

 しかも、ハドラーの騎士道精神を受け継いだヒムは、ヒュンケルへの恨みから戦いを挑んだわけではなかった。

 生命体ならではの闘気の力を新たに身に付けた自分が、彼を越えたかどうか確かめたい一心で、正々堂々と挑んできたのだ。

 ヒュンケルにしてみても、武者修行の最中にこんな手強い敵が挑戦してきたのなら、喜んだかもしれない。
 が、ヒュンケルはその時、バーンを倒すためにダイ達を先に進ませ、後ろから攻めてくる敵を殲滅している最中だった。

 大事な兄弟弟子らを守るために、再起不能は時間の問題と診断された身体を鞭打って必死に闘っている時に、そんなもんを挑まれるとは、とことん迷惑な話だ。
 だが――ヒュンケルは、ヒムと真っ向から闘った。

 それはヒムの真っ直ぐな精神に打たれたから。
 なんの得にもならないのに、彼と勝負をつけるため、ヒュンケルは全力で戦った。
 共に一撃必殺の威力を秘めた、拳と拳をぶつけあう戦いはヒュンケルが勝利を収めた。
 負けたヒムはとどめを望むが、ヒュンケルはヒムに生きろと命じた。
 以前、マァムやダイ達がそうしてくれたように、戦う理由のない敵に手を差し延べ、救おうとしたのだ。

 その心に打たれ、ヒムは、ヒュンケルの代わりに勇者一行のために戦う決意をする。
 元々、ハドラー親衛隊の中では一番人間味の強かったヒムは、最初からダイ達に敵意を持っていたわけではない。

 ダイ一行と戦う理由は主君であるハドラーの望みにすぎないし、強い相手と戦いたいという闘争心こそが、敵対した最大の理由なのだ。

 一応は魔族とはいえハドラー以外には別に思いいれがなかったヒムは、魔界に太陽をもたらす計画にも興味がない。

 魔族に味方するよりも気に入った連中――ダイ達を助けたいという気持ちの方が、はるかに強いようだ。

 ヒムが勇者一行に加わってからバーンと戦うまでの時間はごく短いはずなのだが、彼はあっさりと一行に馴染み、チウの率いる獣王遊撃隊のメンバーにまでなっている。

 実力的にはヒュンケルと肉薄するほど強いのだが、その割にはメンバー最弱のチウ君に言い様にあしらわれているのが、彼のおもしろいところ。

 シリアスな戦いも、ギャグな掛け合いも両方を達者にこなせるヒムは、ヒュンケルに代わって最後までダイやポップの盾となって戦い抜き、自分の仲間を守るような熱心さで一行を守ろうとした。

 失った仲間を悼む気持ちを持っているヒムは、ハドラー達が認めた好手敵をいつの間にか自分の仲間と見なしたのだろう。

 ところでヒムはプロモーション後から、つんつるりんだった頭がいきなりロン毛に変化したキャラクターだ。

 それと同時に、人間味や印象が強くなったんだから――やはり、男にとっては髪の毛はかなり大事なもののようである(笑)

 

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