25 またも奇跡が! なぜに今更ラーハルト!

 彼の死も、筆者は嘆いたものである。
 ダイとバランとの戦いの最中、ヒュンケルと戦って死んでいった、魔族と人間のハーフ青年。

 人間を激しく憎みながらも、それでもなお正々堂々とした心を失わず、強い忠義心をもった男。

 だが――コミックスにして10巻で没したキャラクターが、30巻で復帰してこられた日にゃあ、もう喜んでいいのか怒っていいのか、分からんばい!

 しかし、彼の生還はヒムよりはまだ筋が通っている。
 ダイとの死闘後、バランは自分の部下達の死亡現場に行き、復活を祈って己の血を分け与えた。

 ポップもそうだったが、竜の騎士の血には蘇生を促す効力がある。
 だが、誰でも生き返れるわけでなく、強い精神力を持つ者のみが復活できる。
 死後、時間が経ち過ぎたせいか効き目が悪く、ラーハルトが目覚めたのは数日前――。

 バランが自分に宛てて書いた手紙が、彼の心を決めさせた。
 すでにバランは死を意識しており、自分の死後、できるならダイを助けてやってほしいと遺言している。

 ラーハルトの人間への憎しみを知りながら、それでもあえて頼んだのは、実の息子であるダイへの想いとともに……育ての親としてラーハルトをも息子と想い、彼の未来を想いやってのことだろう。

 バラン自身がそうだったように、心の底では人間に惹かれながらも幻滅のあまり憎しみをぶつける生き方は、あまりにも不幸な生き方だ。

 バランはすでに、人間の良さを見直した時は引き返せなかったが、まだ若いラーハルトならば十分に生き方を変えられる。
 そう思って、バランは遺書を託したのだろう。

 その遺書がラーハルトの心を大きく動かしたのは間違いはないだろうが、ダイの味方……すなわち人間を守る戦いに参加する決断を選べたのは、ヒュンケルの存在もあったからだろう。

 自分を死に追いやったとはいえ、人間を見直すきっかけをくれたヒュンケルやポップがダイの味方だというのも、彼を人間に近付けさせる一因だったはず。

 ダイからなんの命令も受けていないのに、ヒュンケルの、そしてポップの命を救ったのがその証拠だ。

 しかし、傲慢に見える口の利き様と、素直に本心をいえない性格が災いしてか、一行への馴染み度はあまりいいとは言えない。

 自身も似た性格なだけに、ヒュンケルには彼が理解できるしそれなりに気があっているようだが、いきなり見知らぬ味方が参上した事実にダイはかなり戸惑っていた。

 しかも、突然に自分の配下になると言われ、絶対の忠誠を捧げると言われたんじゃ、目をぱちくりさせるのも無理はない。

 よくよく考えれば、ダイは記憶喪失の間もその後もラーハルトに一度も会わなかったのだから、初対面の相手だ。
 驚きも大きかっただろう。

 それでもポップやヒュンケルから話だけは聞いていたようだし、父親の話を聞いて、気を許したらしい。
 部下としてではなく、仲間として認め、受け入れた。

 そして、ダイが受け入れたことで、一行も彼を仲間と認めたようだ。
 戦士として高い力量に加え感情を切り捨てて考えられる冷静さ、戦いに関する目の確かさは、メンバー内でも1、2を争う強力メンバーではあるが……欠点も少なくはない。

 まず、第一の欠点はチームワークの無さ。
 急造メンバーだから仕方がないとはいえ、自分の力のみを信用し、行動するやり方では高度な作戦を必要とするチームプレーはとても取れない。

 潔いと言えば聞こえはいいが、かなわない相手と知ればあっさりととどめを望む性急さ……諦めがやけに早いのも、大きな欠点だろう。

 だが、欠点を抱え込んではいるものの、鮮烈なまでの印象を残す彼の強さは否定できない。
 闘いに加わった期間は短いものの、ダイ達にとっては心強い仲間の一人には違いない。

 

 

26に進む
24に戻る
三章目次に戻る
解析目次に戻る

inserted by FC2 system