3  腕に覚えのある二人 ヒュンケルとクロコダイン

 魔王軍の一員であったにも関わらず人間の素晴らしさに目覚め、魔王軍を裏切った軍団長――共通の過去があるヒュンケルとクロコダインは、種族や年齢を越えて固い友情を築き上げている。

 もともと同じ軍団長だったとは言え、魔王軍にいた頃は彼等は互いにお互いの力を認め合い、ある意味で尊敬の念すら抱いてはいたものの、特に親しくしていたわけではない。

 だいたい初期の魔王軍は個人個人は強くとも、横の繋がりは非常に薄かったのだ。
 顔見知りだ、という以上の観念を抱くはずもない。

 だが、クロコダインは魔王軍時代からある程度はヒュンケルを意識していたのではと思う節がある。同じく魔王軍を見限った二人だが、先に人間の素晴らしさに心を動かしたのはクロコダインの方。クロコダインは傷付いた身体を押して魔王軍を脱走し、ヒュンケルと戦っていたダイ達を助けている。

 互いに違う立場にたっての再会の時、ヒュンケルは人間の味方になったクロコダインを軽蔑するような発言さえしているが、クロコダインはヒュンケルを説得しようとしているのが面白いところ。

 ヒュンケルがアバンの使徒であることを知っていたのか、クロコダインはダイ達の敵とは言え、その時のヒュンケルを倒そうとは思っていない。

 人間の素晴らしさを訴え、当時のヒュンケル自身気付かないでいた本心を言い立てている。一応、クロコダインは魔王軍時代からヒュンケルのことを知っていたのだから、ヒュンケルの過去を知っていてもおかしくはないが、そこから現在のヒュンケルの心情を察し、説得しようとするのは、やはり彼に対する思い入れがあったからだろう。

 当時悪に傾いていたとはいえヒュンケルは武人の志を持つ立派な剣士、そのまま魔道を迷わせるにはあまりに惜しい存在だ。

 それに、怪物であるクロコダインでさえ感じた人間の素晴らしさをもつダイ達に、同じく人間であるヒュンケルが気付かないはずはないという信念もあったようだ。

 クロコダインの必死の説得はその時のヒュンケルを動揺させたものの、完全に説得することはできなかった。

 だが、マァムの優しさに触れて心を開いたヒュンケルは、溶岩に飲まれそうなヒュンケルを救ってくれたクロコダインに、友情を抱くようになる。自分の過去に拘りを持つヒュンケルにとって、過去の拘りを捨てて思うままに生きるクロコダインは、新たな道を開いてくれた仲間だ。

 人間の良さを確信しながらも、魔王軍に身を売ったことを悔いる気持ちを持ったヒュンケルと、怪物である自分が人間と混じれないことを知っているクロコダインは、なんとなくみんなから離れていることが多い。

 まだまだ子供っぽいダイやポップと違って、彼等はしゃぐよりも見守る役目の方が性にあっている感じだし、元魔王軍と言う立場を生かして密かな探索を引き受けたりもする。

 武人として主君のために戦うことを誇りとする心をもったヒュンケルとクロコダインは、高い実力にも拘らず、どちらかと言えば地味なサポート役に徹しているが、それで十分満足しているようだ。

 特にヒュンケルはその念が強い。
 ダイ達を守り、その目的のためには命すら惜しまないのは、過去の罪を清算したいという意識ゆえかも知れない。

 魔王軍に囚われ、ミストバーンの提案の件でやや亀裂が入ったかに見えたヒュンケルとクロコダインだが、いざ土壇場ともなればヒュンケルはクロコダインに自分を信じてくれることだけを望み、クロコダインはどこまでもヒュンケルを信じ抜いた。

 二人揃って寡黙で無骨者同士だが、なに、男の友情にゃ言葉はいらない。
 互いに信じ合う心さえあれば、それで十分というもの。

 燻し銀のごとく、控え目ながらいい味を出しているこのコンビ、個人的にも大いに気にいっています♪

  


  
  

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