5  宿命の親子 ダイとバラン

 

 最後の竜の騎士と、人間と竜の騎士の間に初めて生まれた混血児――ダイとバランの関係はあまりにも運命的だ。

 人間の女性を愛し、よりによって人間にその女性を殺されたことによって絶望し、人間を見限ったバラン。その彼の息子こそが、人間に味方する勇者ダイだというから皮肉な話だ。

 事実を知ったバランが息子を取り戻そうとしたことから、ダイとバランの確執が始まった。

 息子であるディーノ……ダイの本名にひたすら執着する割には、バランは最初はダイの人格や考えにはまるで興味を持たなかった。
 それは、自分の言うことを聞かないダイの記憶を消したことからでも分かる。

 また、親なら子をどうしてもいい、という発言までしている。
 かなり歪んだ親子の観念をもっているようだが、それも仕方がないのかもしれない。もともと竜の騎士には親子の概念がない上に、育ての親との繋がりも薄そうなバランのことだから無理もないが……。
 バランにとって、ディーノはソアラの分身のような存在だったらしい。

 ソアラを失った悲しみがあまりにも深いがゆえにディーノにその想いをそのまま託し、彼を取り戻すことによって、ソアラの思い出を――自分の一番幸せだった時を取り戻そうとしていたのかもしれない。

 ただ、子供の意思をまったく無視して自分に従わせようとするやり方に、ダイが逆らうのも当然である。

 事情を打ち明け、愛情を持って接したとしても素直に従い兼ねる乱暴な主義に、力ずくで従わせようとするのがそもそもの間違いだ。もともとダイは自分の実の親に対してさほど関心を抱いてはいなかったし、ポップやレオナに嫌われないよう自分も人間でいたいと思っていた程度にすぎない。

 育ての親ブラスに懐き、現状になんの不満も感じていないダイは、本当の親を求める気持ちがそもそも欠けているのだ。まるっきり記憶に無く、自分に勝手な意思を押し付けてくる親よりも、志を共にする仲間を優先するのは当たり前のことだ。

 さすがは親子と言うべきかダイもバランも自分の意思は決して譲らず、真っ向から対立してしまった。
 そんな二人が和解する鍵となったのは、ポップとヒュンケルの捨て身の協力がある。命をかけてダイを援護したポップの存在は、人間を見限ったはずのバランの心を揺り動かした。

 バランがポップを蘇生させたのは、ダイのためという意識があったのかもしれない。
 竜の騎士を信じた人間を失う辛さは、バランが一番良く知っているはずだ。

 ダイにそんな悲しみを味わわせたくないという想いがどこかにあったはず――ポップが生き返ったおかげでダイはバランに対するわだかまりを持つことなく、バランを恨む気持ちも持たずにすんだ。ポップは二人を仲直りさせる意思など少しもなかったが、ヒュンケルははっきりとバランとダイを和解させる意思を持ち、バランに決闘を仕掛けてまで説得し、共闘を組ませることに成功した。

 この、共に戦ったことがダイとバランを和解させたといってもいい。
 人は、親とか子だからという血の繋がり故にそう振る舞うのではなく、共に過ごす時間の中で絆を育み、成長していくものだ。

 親は成長していく子供を育てながら、初めて親の自覚を持つものだ。
 親に育てられたこともなく、また、親として子供を育てたことのないバランに、親らしい振る舞いを要求するのが無理と言うものだ。

 バランが親らしい気持ちに目覚めたのは、ダイと力を合わせて戦った対ハドラー戦――息子を庇いたいという気持ちを強くもったことで人間の心を取り戻した。
 息子を庇い、瀕死の状態となったバランの心に触れ、ダイは初めて素直に彼を父と認め、父さんと呼びかけた。ダイとバランは、バランの死という犠牲を経過してようやく和解できたわけだが、それが少し遅すぎたのが残念だ。

 だが、完全に間に合わなかったわけではない――バランの意思はダイに引き継がれ、彼はそれを抱いて生きていくのだから……。


  
  

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