6 槍に託した想い ヒュンケルとラーハルト |
たった一度、しかも敵同士として相見えただけなのに、その後の人生が大きく変わるほどの影響を受け、一日足りともその人のことが忘れられなくなる――そんな、一目惚れにも似た友情も存在するものだ。 そんなドラマチックな設定で出会ったのが、ヒュンケルとラーハルトだ。 バランに仕え、彼のために、そして彼の息子であるダイのために勇者一行を全滅させようとするラーハルトと、ダイや仲間達を庇おうとするヒュンケルの意思がぶつかり合い、戦いとなったのも当然のことだろう。 しかし、人間を憎むバランの過去を聞いたヒュンケルがバランに同情し、彼に人間の良さを伝えようとしたことから、彼等の戦いはただ相手を倒すための戦いではなく、互いの真実が正しいのだと証明する戦いになった。 人間への憎しみから、人間の力すべてを否定しようとするラーハルトと、想いの強さにより実力以上の力を出せる人間の底力を見せようとしたヒュンケル……その二人の戦いは、結局ヒュンケルが勝利を収めた。 ヒュンケルの強さに人間の想いの強さを感じ取り、敵であるラーハルトの死にさえ同情する人間達を見て、ラーハルトははじめて心を開き、ヒュンケルに形見として槍を残した。 そして、皮肉なことにラーハルトとヒュンケルの友情は、ラーハルトが死んでから始まったのだ。 なにせ剣では達人の域までの腕があったのにそれを未練もなく捨てて、槍での修行を一からやり直したほどだ。 持っていた剣を無くしたせいでもあるが、ヒュンケルにしてみても現在の最終的な敵であるバーンから貰った武器より、友の形見を使った方が精神的にも気分良く戦えるだろう。 ヒュンケルはラーハルトを思い出す時は、敵としてではなく、友として思い出している。人間を憎む心の裏に人間への期待を秘めていたラーハルトは、ヒュンケルにとっては単なる敵ではない。 ある意味では、ラーハルトはヒュンケルにもっとも近い存在だった。 おそらくはラーハルトも味わったに違いない共通の想いが、ヒュンケルの心をラーハルトに近付けるのだろう。 死んだ相手に対する友情は確かにヒュンケルの一方通行で、独り善がりなものと言えばそれまでだが、それが悪いとは言い切れない。ヒュンケルはラーハルトへの想いだけに縛られているわけではないし、その義務に苦しんでいるわけでもない。彼はただ、ラーハルトがし残したこと、やり遂げられなかったことを、彼に代わってやろうとしているだけなのだから。 ――しかし、その後ラーハルトが復活したため、この二人の友人関係は一方通行ではなくなったものの、そこで物語が終わったのが残念である。
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