9 おっさん同士の奇妙な友情 ジャンクとロン

  

 魔界の名工とまで言われ、大魔王バーンでさえその腕を欲したという超一流の剣士ロン・ベルク。

 かつてベンガーナの王宮鍛治屋だったのに、今はランカークス村で小さな武器屋をやっているジャンク。

 どう見ても接点のなさそうなこの二人が友達だというから、世の中分からないものである。どんなきっかけで知り合いになったのかは定かではないが、ポップがその事を知らなかったのだから、彼が家出した後――過去一年間のことには違いない。

 ロン・ベルクは人間嫌いの上魔族だから、並の人間なら恐れて近付こうともしないものだが、ジャンクはいっこうにそんなことは気にしないらしい。

 ロン・ベルクもジャンクのそんなところが気にいったのか、頼まれれば武器作りも引き受けている。自由を欲してバーンに逆らった過去を持つロン・ベルクには、ベンガーナの大臣を殴って王宮鍛治屋の地位を棒に振ったジャンクが他人とは思えなかったらしい。

 変わりもの同士、気が合ったというべきなのか……。
 世の中には酔狂な男達がいるものである。

 しかし、気があってはいてもしょせんは魔族と人間、ロン・ベルクが村にくると目立つせいか、ジャンクが森の奥にいるロン・ベルクを尋ねていくという付き合い方をしているらしい。時々、ロン・ベルクの家にスティーヌまで訪れているところを見ると、家族ぐるみの隣人付き合いをしているようだ。

 今では気楽に、ロン、ジャンクと呼び会う仲で、いい飲み仲間だ。
 なんといっても、酒の瓶をそのまま一本ずつ持ちぐい呑みしているんだから、ロン・ベルクは相当に酒に強そうだ。

 ロン・ベルクの方が遥かに年上で剣造りの腕も、剣の腕も優れているが、ロン・ベルクは長い寿命を持つ魔族の密度の薄い人生よりも、人間の短いながらも充実した一生を尊重しており、ジャンクの人生経験を自分のそれよりも重視しているようだ。

 ダイの剣を作るときは、自らジャンクに手伝ってくれと頼んでいるから、ジャンクの鍛冶の腕前にも信頼を置いているのだろう。

 ロン・ベルク自身は過去のことをまるで語っていないのに、ジャンクは割とロン・ベルクに家庭の事情などを話したようだ。しかし、ジャンクは自分の過去を息子のポップの前で暴露されて、照れてむくれていたところを見ると、口を滑らせただけかもしれない。

 家出をした息子のことをどの程度話していたのか話さなかったのか分からないが、ぶっきらぼうなロン・ベルクがポップにわざわざそんな話をしたところを見ると、やっぱり『ジャンクの息子』には興味があったようだ。

 後にロン・ベルクがダイ以外の一行全員分の武器を作ったり、対バーン戦でダイ達の味方についたのも、ダイの潜在能力に惚れ込んだだけではなく、ジャンクの息子――ポップの存在があったからかもしれない。

 ジャンクはポップのことを心配はしても、素直にそれを表現するような男ではないが、勘のいいロン・ベルクには簡単にその本心が見通せるはず。
 それに、ジャンクの妻スティーヌは、ポップを心配する優しい母親だ。

 二人の思いを受けとめて、人間側の味方に立ったことも十分考えられる。
 ――しかし、武器以外には興味のない頑固職人のこと、本当は自分の作った武器の真価を間近で観戦したいだけかもしれないが。

 どういう理由にせよ、戦いが終わりダイの剣の真価を見届けて満足すれば、ロン・ベルクがそれを自慢し酒を酌み交わす相手は、おそらくジャンクだろう。

 ダイの剣のこと、ポップのこと……そんな話を酒の肴にしてとことん飲み会う日などを、見てみたかったものである。


  
  

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