10 友情と、裏切りと ミストバーンとハドラー

  

 大魔王バーン率いる魔王軍の指令ハドラーと、バーンの代理人といわれるミストバーン。同じ魔王軍のメンバーとはいえ、その頃のハドラーとミストバーンの仲が好かったとは、お世辞にも言えない。

 なんせ、ミストバーンは名目上はハドラーの部下とは言え、実際にはバーンの側近であり、ハドラーよりもバーンに近い存在だ。

 穿って考えるのなら、ハドラーの見張りをするためにいるような得体の知れない存在だったのだ。ハドラーにとってはまさに目の上の瘤、気の抜けない油断のできない存在だったと言ってもいい。またミストバーンの方も、かつての魔王とはいえ小心者のハドラーを駒のように思い、その生死すら問題にしていなかった。

 バーンの役に立つのなら存在してもいいが、そうでなければいなくてもいいと言った程度の認識しか持っていなかった。
 ――世間では、こんな状態が『友情関係』とは言わないぞっ、絶対。

 ハドラーとミストバーンが友情めいた感情を抱くようになったのは、ハドラーが超魔生物に生まれ変わる決意をした後のこと。

 魔族の身体も長い寿命も捨て去って、最強の戦士へ生まれ変わろうとするハドラーの心意気が、ミストバーンの心を動かしたのだ。だからこそミストバーンはハドラーが動けないでいる間、自分に代わって戦ってほしいという願いを聞き届けた。その礼にハドラーは、ダイとポップvsキルバーンとミストバーン戦の際に現れ、彼を助けている。

 寿命が残り少ないハドラーはその分感情が豊かになり、ミストバーンの行動の奥底に感じられる友情に感謝し、礼を述べている。
 そして沈黙したままのミストバーンは、決してそれを否定はしていない。

 共に感情をあまり露わにせず利己主義に走りがちな魔族のこと、おおげさな台詞のやり取りはないものの、それでもなんとなく二人の間に友情めいた感情が生まれたのは間違いがない。

 しかし、そんな気持ちは長くは続かなかった。
 結局のところ、ハドラーはバーンにとっては単なる駒に過ぎず、そして、バーンに絶対の忠誠を誓うミストバーンは結局はそれに習う道を取った。

 内心ではハドラーの生存を望みながらも、ミストバーンは自らの手でハドラーにとどめを刺そうとしたシーンは印象的だった。

 バーンの真意を聞きショックを受けたハドラーは、ミストバーンもまた、自分を駒の一つと考えたのかと問うが、ミストバーンの答えはあまりにも冷静な返答だった。

 バーンの言葉こそがすべてに優先する――ミストバーンにとって一番大切なものは、己の感情や男同士の友情よりも、バーンの存在だ。

 心を寄せた者に裏切られるのはいかに魔族といえども辛いようで、ハドラーにはかなりショックだったようだ。だが、ハドラーはバーン、ミストバーンの二重の裏切りからも立ち直り、彼等の前に敵として立ちはだかり、真っ向からバーンに勝負を仕かけた。

 結局、その勝負は途中で横槍が入り、決着の付かないまま離れ離れになり、ハドラーとミストバーンが顔を合わせたのも、それが最後となってしまったのだが――。

 しかし、ミストバーンはハドラーを見限って裏切ったわけではない。
 後にザボエラがハドラーをけなすのを聞いて、いつになくムキになってザボエラを責めていたことからも、彼にまだ想い入れがあることが分かる。

 ミストバーンが地上でロン・ベルクと戦っている間に、ハドラーはダイと決闘を行い、過酷な死を迎えた。

 その後、ミストバーンも死を迎えたので、ハドラーの死に対してミストバーンがどんな感情を見せたかは定かでないまま終わったのが少しばかり残念だ。


  

 

11に進む
9に戻る
四章目次1に戻る
解析目次に戻る

inserted by FC2 system