11  絶対混ざりたくない組み合わせ キルバーンとミストバーン

 
  

 『ダイの大冒険』でコンビを組んだもの、正式に一行に加わったもの、ひょんななりゆきから手を組んだ組み合わせは数あれど、その中でもっともうさん臭くどうして一緒にいるのか理解に苦しむのがこの二人だ。

 陽気でおしゃべりな殺し屋キルバーンに、寡黙なミストバーン。
 初登場時は、互いに知己の関係だと知り六団長やハドラーまで驚いていたから、以前は一緒にいることの方が珍しかったようだ。

 ところがダイ一行の活躍が目立ち出した頃から、キルバーンとミストバーンは二人一組のように行動するようになってきた。共にバーンの身近に位置する腹心であり、キル、ミストと気軽に呼び合う仲なのだが、外見も性格も正反対。

 黒ずくめのピエロ姿に身を包み、楽天的な意見が目立つキルバーンと、なにもない虚空の身体を白い長衣で覆い隠した、慎重な意見を述べるミストバーン。

 正体を隠しているという共通点はあるものの、キルバーンは別にバーンの命令や封印であんな姿をしているわけではない。
 あの格好は完全に本人の趣味であり、意思だろう。

 その点、ミストバーンが正体を封じているのは紛れもなくバーンの命令だし、封印もバーンの手から直々に下されたものだ。同じようにバーンの両翼を支える腹心とは言え、彼らは目的も忠誠心もまるで違う。
 しかし、共通しているのは、いざとなれば互いを抹殺してでも目的を遂げるだろうと思わせる冷酷さがある点だ。

 ミストバーンが鬼岩城の件で逆上し、怒りのあまり自分の正体をばらしそうになった時、ミストバーンを止めにきたのはキルバーンだった。

 あの時はミストバーンが引いたから良いようなものの、そうでなければキルバーンはこれ幸いとばかりに実力行使にでそうな雰囲気があった。

 ミストバーンがキルバーンに危害を加えようとするシーンはないが、情けをかけたハドラーすらバーンのために切り捨てた彼が、キルバーンを優遇するとも思えない。キルバーン発言では彼とミストバーンは親友らしいが、こんな二人を親友と認めるのはずいぶん無理があるぞっ!
 とはいっても、二人の気があっているのを認めないわけにはいかない。

 パプニカを鬼岩城で襲わせた直後、キルバーンがポップをおびき寄せるためにわざと瞬間移動呪文のスピードを抑えながら撤退した際、ミストバーンは説明を受けた様子もないのにそれに協力し、ポップを追い詰めるのにも一役買っている。

 ハドラー対バーン戦の時、親衛騎団を二人がかりで押さえた時も、特に相談した様子もない。以心伝心と言うものか、キルバーンとミストバーン、そしてバーンはなんの打ち合わせもしなくとも、互いに協力しあいながら戦うことができる ダイ達にとっては気が重くなるような事実だが、事実だから仕方がない。

 しかし、気が合うのも、バーンを頂点とした仮初めの主従関係を築いているからこそ。
 バーンへの忠誠を基本において行動しているからこそ、乱れることのない連係プレーが可能になる。

 そのバランスを取っているのは、実はバーンではなくキルバーンの存在だ。
 密接な忠誠関係を保っているバーンとミストバーンは、ある意味で一心同体とも言える程にお互いを補完しあっている。だが、心の奥底に裏切りを秘めながらも表面上はバーンに従うキルバーンは、機を見ればバランスを崩してでも本来の目的を遂げるつもりがあるだろう。――それこそが、彼の真の使命なのだから。

 バーンも、ミストバーンもそれを承知の上でキルバーンと付き合っているわけであり……ますます、友情が芽生えているとは考えにくい。

 微妙なバランスの元に偽りの友情を築き、互いに互いを見張り合う関係――。
 まあ、もしかすると偽りとは言え長年の付き合いではあるし、それなりに友情を持ち合っている……という可能性もあるにはあるが、どう考えてもその確率は低いだろう。

 その証拠に、物語最後ら辺でアバンへの執着心から独走行動を見せたキルバーンを、ミストバーンは止めなかった。

 それをミストバーンのキルバーンへの信頼の証と捕らえるのも可能だが、どちらかというとバーンを常に重視するミストバーンならではの切り捨てのように思える。
 そして、この友情の薄さが、実はバーンの敗北原因となっている。

 皮肉なことにバーン、ミストバーン、キルバーンの奇妙な三角関係は、戦力のバランスとしてすごくいい。

 全能の力を持つがゆえに慢心しがちなバーンだが、忠誠心の固まりのようなミストバーンと、裏切りを秘めたキルバーンが側につくことで、慎重さと冷静さを保てる。
 もし、三人が共闘を組んだのだとしたら、ダイ達に勝ち目がなかっただろう。

 そう思えば、二人の間に真の友情がなくて良かったのかもしれない――いや、この章の基本概念からすると、それはそれで困るのであるが……。
 

  

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